家庭教師と友人A   作:灯火円

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「挨拶といえば、社長さんに時間がある日を聞いておいてくれ」

「え?」

 

 しっかりと体を動かした俺達の腹はすっかり空腹。

 となると食事だ。駅の方に戻りつつ、道すがら良い店がないか探していた俺は同じように店を探していた一花にお願いする。

 

「社長さん自ら見つけた女優、それも急成長を遂げて事務所の看板にもなりつつある。きちんと報告はするべきだろ」

 

 まさに女優への階段を一花は急激に上り始めている今、社長さんからしたら俺は不安要素になるだろう。

 反対される可能性ももちろんある。というかそっちの方が高いと思う。

 

「それなら私の方から社長に」

「いいや、きちんと俺も同席するべきだ。それが誠意だ。もちろん、反対されても諦めないからな」

「……本当、律儀。でも、ありがとう」

 

 そうして俺達は歩きながら店を探すとこじんまりしているけれど、賑わいを感じる洋食店を見つけ入ることにした。

 平日ということもあってランチセットがおすすめらしい。

 確かにサラダにメイン、パンかライスか選べてドリンクもついている。周りの客もランチセットを頼んでいるのが多いが、通常メニューも人気な様子。

 一花はおすすめというランチセット、俺は腹の減り具合的にもっとガッツリなものとハンバーグのセットを頼んだ。

 

「そういや、昨日はありがとうな」

「昨日って」

 

 料理が運ばれてくるまでの間、他愛のない話をしつつ俺は昨日のことについて一花に礼を述べるが、一花は首を傾げる。

 

「ほら、俺、あのおっさん殴ろうとしたろ? それ、止めてくれたこと」

「あー」

 

 殴ってたら停学、ならまだ軽いが退学の可能性もあった。

 

「あんな人のせいでセージ君への誕生日プレゼントをダメにされたくなかったもん」

「……誕生日プレゼントか」

 

 一花を引き止めるために言った無茶苦茶な願いは逆に俺を引き止めてくれるものになった訳か。

 

「一緒に、卒業しようね」

 

 俺の右手にそっと一花の左手が重なる。その手に俺は指を絡ませる。

 

「あぁ。そのためにも一花も勉強しっかりな」

「今は恋人との初デート中だよ? 家庭教師モードやめて」

「悪い悪い」

 

 そうこうしているうちに俺達が頼んだものが運ばれてきて俺は恋人との食事を楽しむ事に。

 

 

「適当に入ったけど当たりだったな」

「うん。五月ちゃんに教えてあげよう」

 

 腹も満たされて俺達は店を出る。

 この後決まっている予定は夜に俺の家で母さんと話す予定くらい。

 少し遅めにランチだったが、まだまだ時間はある。

 

「一花、他に行きたい所あるか?」

「うーん、特にはないかな? セージ君は?」

「俺もこれといってだな。って、悪い。こういう時、色々計画しておくべきだったよな」

 

 初デートなら尚更しっかり計画練っておくべきだった。

 

「気にしないで。私が急にお願いしたんだもん。それにセージ君と一緒なだけで楽しいよ?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどさ」

 

 やっぱ、初デートにしてはあまりにもお粗末な気がする。

 

「なら、初デートの記念に何かお揃いのものが欲しいな」

 

 そう提案してきた一花。

 俺を気遣ってくれたのがわかり、本当情けない。

 

「わかった。んじゃ、色々と見て回るか」

「うん」

 

 そうして俺達は店を見て回ることに。

 

 

「これとか」

「服はハードル高くないか?」

「えー」

 

 一花は服とか提案してきたが、さすがにちょっと俺には無理。

 

「てか、さすがに誰からも見てわかるのは」

 

 売れ出しの女優に恋人発覚なんてスキャンダルはまずいだろうからな。

 

「……なら、ピアスとかどうかな? ほら、セージ君も開けてるのにつけてないの勿体ないし」

 

 一花は俺の左の耳を指す。

 

「ピアスか」

 

 それなら確かにぱっと見は気付かれにくいかもな。

 

「よし、ピアスにするか」

「私としては指輪とかでも良いんだよ?」

「ゆっ!?」

 

 初デートでいきなりペアリングってどうなんだ?

 そういうのってもっとこう。

 

「指輪はもうちょい待ってくれ。なんつーか、覚悟とか俺の心構えとか出来てからで頼む」

「心構えって……え、ちょ」

 

 今度は一花が動揺している。俺、なんか変なこと。

 覚悟、心構え、指輪。

 この三つが並べて浮かぶのはプロポーズという単語。

 

「あ! ちが! いや、違うって訳じゃなくて! とにかく、指輪はまだ待っててくれ!」

「う、うん」

 

 二人して顔を真っ赤になりながら、ピアスを求めて俺達は店を移動する。

 店に着いて、とりあえずお互い見て回って気になったものを手にしようという話になり俺は店内を回ってみる。

 

「あ」

 

 目に止まったのはシンプルなスタッドタイプで黄色の石がはめ込まれているもの。

 俺はそれを手に取る。

 

「セージ君って、黄色好きなの?」

 

 いつの間にか俺の横に来て覗き込む一花がいた。

 

「え? 違うってなんつーか一花は黄色のイメージというか」

「そういえばこれも黄色だよね?」

 

 今日は俺が以前贈ったピアスをしていて一花はそれに触れる。

 

「活発的なイメージ?」

「うーん、それもあるけど。月……かな」

「月?」

「優しく包み込んでくれる」

 

 そう思うのは俺が弱っている時や俺と一花の間に何かあった時、いつも月があった気がするから。

 

「それならセージ君も月だよ。いつも私が悩んで苦しい時に優しく照らしてくれる月明かり」

「……よくそんな言葉」

「それはセージ君もでしょ。よし、これにしよう」

 

 一花はそれを手に取った。

 

「おい、一花はそれでいいのかよ。他に」

「これが良いの。私とセージ君の色」

 

 値段なんてそれこそ学生が買えるような値段。

 もっと高くて良い物の方が良いんじゃないかと思ったけれど、嬉しそうな彼女の笑顔を見たらあまり深く考えなくてもいいのかもしれない。

 そしてそれを買って俺達はすぐに互いの耳につける。

 

「うわ、久しぶりすぎて違和感」

 

 いつぶりだ?

 高校入ってからは付けた覚えないから三年とか。

 

「はは、でも似合ってるよ」

「一花もな」

 

 そうして俺達は初デートの記念を身に着けた頃には外は夕方。

 

「そろそろ俺の家、行くか。飯作ってる間に母さんも帰ってくるだろ」

「あ、うん」

 

 夕飯も外で食おうと考えてたけど、一花が母さんと話すならうちで飯食った方が色々とスムーズだろう。

 そして俺達は家へと向かうが。

 

「あ、その前に寄っていい?」

 

 途中で一花が指さしたのはケーキ屋。

 一花のリクエストに応えて中に入り、一花は俺に母さんの苦手な食べ物がないか聞いてきた。

 それで俺は何となく察した。

 店に入ってしまった手前、手ぶらで出るわけにはいかないから俺は諦めて一花の動向を見守って商品を受け取って外に出る。

 

「別に気を使わなくていいんだぞ」

「そういう訳にはいかないの」

「あれ? 誠司」

「ん? げ」

 

 名前を呼ばれてその声の方を向くと一昨日再会したばかりの竹林がいた。

 

「なんで」

「なんでって私だって地元ここだし。むしろ今まで会わなかった方が不思議だったくらい」

 

 それもそうか。

 しかし、よりにもよってこのタイミングじゃなくていいだろ。

 

「セージ君」

「あ」

 

 一花が俺の裾をちょんと引っ張る。

 学園祭では会ってないもんな。むしろ会わなくて良かったと思ってたのに。

 

「あれ? もしかして五つ子ちゃんのひとり?」

 

 案の定、竹林の興味は一花へと移った。

 

「あ、いきなりごめんなさい。私は誠司とは小学校の同級生なの」

「竹林だ。学園祭にも来ててその時に二乃達と顔会わせたんだよ。ちなみに小学校の頃に俺と一緒に風太郎に勉強教えてたりする」

 

 あの時の事を思い出すと余計な事を言うんじゃないかと俺は先に竹林との関係を説明しておく。

 

「そうなんだ」

「……ふーん、この子だね?」

 

 竹林はじっくりと一花の顔を見ていたかと思えば俺に確かめるように視線を向ける。

 

「誠司を変えてくれた子」

「え?」

「……そうだよ」

 

 俺は観念するしかない。

 一方で一花は状況に追いつけていない。

 

「そっか……て、見たことあるんだよね。どこだっけ」

「そりゃ、五つ子だからそう思え」

「そうだよ。CMの子。たしか、中野一花ちゃん」

「げ」

「あ」

 

 そういや、今日の一花は一切変装していない。

 むしろ今まで気付かれてなかったのが奇跡か。

 

「あー、騒いじゃまずいよね。プライベートだし」

「そうしてくれると頼む」

「ごめんね」

 

 竹林もその辺は弁えてくれているようで助かる。

 

「って、あまり時間取っちゃうと二人にも悪いね。デートみたいだし」

「なんでわかっ」

「セージ君っ」

 

 俺の言葉に一花が制止させようとしたが、時すでに遅し。

 

「冗談のつもりだったんだけど」

 

 ニヤニヤと俺を見る竹林に俺はもう白旗をあげるしかなかった。

 

「……あぁ、そうだよ。一花は俺の彼女」

「セ、セージ君」

 

 俺は一花の手を握って竹林にハッキリ伝える。

 そんな俺の行動に驚く一花ではあったけど、握った手をしっかり握り返してくれた。

 すると竹林は一花の方へとまた視線を向ける。

 

「誠司をよろしくお願いします」

「えっと」

「お前の口から言わんでいい」

 

 お前は俺の保護者か。

 

「はは、それじゃね。誠司、一花ちゃん」

「あ、うん」

「はぁ」

 

 竹林の姿が見えなくなって俺はどっと疲れたからかため息が出た。

 だからあいつと一花を会わせたくなかった。

 一花との関係も話す事になったのは予想外。というか俺が墓穴掘っただけなんだけど。

 その辺に関しては俺と一花の関係は黙ってくれるとは思うから心配はしてないが。

 

「セージ君が珍しくタジタジだったね」

「学園祭の時は風太郎が犠牲になってたんだ。ま、それもこれも俺らを心配してだろうけど」

「そうなの?」

「あいつ、小学校の頃は学級委員やっててな。お節介が体に染みついてたんだ。特に風太郎は小学校の頃はガキ大将だったし、俺に関しては中学の時の噂を耳にしてたみたいだから」

 

 だからって二乃達の前で嗾けるような行動は理解不能だけどな。

 

「言っておくけど、俺は竹林に同級生以上の感情はないからな。むしろ風太郎の方だ」

「フータロー君? え? どういうこと?」

 

 一花は興味津々と目を輝かせる。

 てか、俺余計な事言ったな。

 風太郎、すまん。

 

「あいつの初恋相手が竹林なんだよ」

「えー!? そうなの? ね、もう少し詳しく」

 

 一花のテンションが一気に上がった。

 大人びているとか言われてるけど、これだもんな。

 

「風太郎のいない場でこれ以上話すつもりはない。ほら、行くぞ」

 

 俺は歩き出す。ふと繋いだままの手をどうするか迷ったが、人通りは少ないしそのまま握ったまま。

 

「ちぇー。あ、フータロー君で思い出したんだけどさ。さっきの話聞く限り、四葉が好きってきちんと告白してなくない?」

「へ?」

 

 俺はその言葉に風太郎から聞いた話をもう一度思い出す。

 四葉が待っている保健室に行った。四葉は遅れてきた。そして逃げられてなんとか見つけて、四葉から好きと伝えられて。

 聞く限り確かに好きだ告白したという話は出てこない。

 

「……でも、保健室に行ったって事はそういう事だろ」

 

 それが告白みたいなもんだと思うけど。

 

「言葉にしてもらいたいもんなんだよ。ほら、私みたいなひねくれ者もいる訳だし」

「あー、それは説得力ある話だ。けど、風太郎もここで諦めるやつじゃない。どうにかするさ」

「……もっとお節介焼くのかなと思ったんだけど」

「風太郎の気持ちは固まってる。あとは四葉次第だ」

 

 でも、あれほど自分の想いを隠そうとしていた四葉が風太郎に想いを打ち明けた。

 つまり、もう自分を隠す事をやめたって事だろう。

 ただ、わからないのはやらなきゃいけないって事がなんなのか。

 

「四葉の事は案外、一花達の方がどうにかしてやれるかもしれない。ずっと一緒にいた五つ子なら」

「私の方は……どうだろう。今だって四葉の事より自分の事で浮かれてる。そんな私が」

 

 一花の視線が下がっていく。

 ひねくれ者がまた顔を出したか。

 

「はぁ……それでいいんだよ」

「え」

 

 一花の手を握る力を強める。

 

「初デート、浮かれないやつなんているか。それとも楽しく、なかったか?」

 

 下がった一花の視線が上がり、俺に向けられる。

 

「楽しくないわけ、ないよ」

「なら、浮かれてろよ」

「セージ君も浮かれてる?」

「……昨日からずっと浮かれっぱなしだ」

 

 恥ずかしいと思いつつも一花にしっかりと伝えると一花の表情が花のようにパッと咲く。

 

「ありがと」

 




主人公もそれなりに年相応。
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