「お待たせしました」
「いや、俺も少し前に着いたところだ」
学校が終わり、俺も五月もバイトがあってお互いバイトが終わった後に会う約束をした。
そして俺と五月はあの池のある公園へと場所を変えた。
時間も時間なだけあってほとんど人は居ない。
そしていつかのベンチの前で五月は足を止めた。
「長尾君」
足を止めた五月と同じく俺も足を止めると真っ直ぐな五月の視線が俺に向けられた。
「あなたが好きです」
今日は寒くて、場所によって雪が降っているらしい。
けど、五月の告白に俺の体温が上がる。
「私は男女の関係に怖がっていました。それが素敵なものなんて思えなかったんです。でも、誰かを好きになる一途さを間近に見て、そして私にも誰かを特別に思う気持ちがある事に気付きました」
五月はずっと俺から視線を外すことはない。
俺もその視線と気持ちに真正面から受け止める。
「それがあなたです。長尾誠司君、私はあなたが好きです」
「……ありがとう。けど、ごめん」
俺は頭を下げた。
風太郎がどんな気持ちで答えを出したのか今ならわかる。
こんなに胸が苦しいんだな。
「俺は一花が好きだ。だから、五月の気持ちに応えられない」
一年間、家庭教師として積み重ねた時間は家庭教師と生徒という距離感ではなくなっていた。
だからこそ余計に彼女の告白を断るのが辛い。
「もし、私が先に告白してたら……結果は変わってた?」
その問いに俺は頭を上げ、首を振った。
そして俺から真っ直ぐな視線を五月に向ける。
「五月が先に告白してきても俺は一花を選ぶ。俺は、一花じゃなきゃダメだし、何より俺も一花を支えたいと思ってる」
俺が弱ってダメになりそうな時にいつも俺を支えてくれた。
最初は偶然かもしれない。でも、いつしか俺は無意識に一花に助けを求めていた。
そして俺も一花の支えになりたいと思ってる。
そう、たとえ五月が一花より先に俺に気持ちを打ち明けてくれてもきっと俺は今と同じく断るだろう。
「だから、ごめん。それとありがとう。俺を好きになってくれて。俺と出会ってくれて」
「なんで、お礼を……言うんですか」
「なんでって。そりゃ、好きって思ってくれたのもそうだし、俺が家庭教師をやるきっかけは五月だったから」
五月と風太郎、その出会いが最悪だったからこそ俺は仲介役として間に入って、気付けば家庭教師。
一花と出会わせてくれたのは四葉。
けど、五つ子の家庭教師のきっかけは五月。
「それに、俺にとって五人の中で最初の生徒は五月だったからな」
「っ……私も、長尾君に、出会えてよかった」
「あぁ」
涙を流す五月にハンカチを渡すことも考えたけれど、きっとその優しさも今の五月には辛くなるだけかもしれないと俺は拳を握り、ただ見ている事しか出来なかった。
「話は、終わりです。長尾君、ありがとう。話を聞いてくれて」
「……わかった」
時間も時間で送る事も考えたが、それもまた余計な気遣いだとわかっているから俺は静かに五月に背を向けてその場を離れる。
そして公園の入り口に近づき、ある人物を見掛ける。
「悪いけど、この先にいる末っ子を迎えに行ってくれないか? 四葉」
立っていたのは四葉。
「頼む」
「はい」
そして四葉は五月がいる方へと走っていったのを見送り、俺は帰り道を歩いて行く。
その途中でスマホを取り出し、電話を掛ける。
『終わったんだね』
「あぁ、てか、一花知ってたろ。五月の気持ち」
電話の相手は今日もロケ地近くのホテルに泊っている一花。
俺は五月から話があると言われ、一花にその事を伝えてはいた。
しかし、一花から返ってきたのは一言『セージ君が思った事そのまま伝えて』それだけだった。
『私も気付いたのは学園祭の時だから』
「そうなのか?」
『というか、五月ちゃん自身も多分自分の気持ちにその時気付いたんだと思う。ほら、私がセージ君へのメモを五月ちゃんにお願いしたじゃない?』
そういや、一花本人じゃなくて五月から受け取ったよな。
『私がセージ君に告白した事を五月ちゃんに伝えた時、五月ちゃんの反応見てもしかしてって思ったんだ』
「んで、今日話があるって聞いて察した訳だ。四葉を寄越したのも一花だろ?」
あんなタイミング良く四葉がいたのは一花が絡んでいると俺は考えていた。
『セージ君が五月ちゃん選んだ場合の時は四葉に謝らないとって思ってたんだけど』
「俺は五月が一花よりも先に告白してきても断ってた」
『セージ君』
俺は先ほど五月に伝えた言葉を一花にも伝える。
「俺は一花以外考えられないから、四葉を寄越したのは正解だ」
振った男がいつまでもあそこに居るわけにはいかないしな。
『……本当は少し不安だった』
「今は? 不安か?」
『ううん』
本当は今すぐあって顔を見て大丈夫だって言ってやりたい。
でも、今日はもうそれは難しい。だから。
「一花、好きだ」
『セージ君……私も好き』
今日も月は綺麗に浮かんでいる。