家庭教師と友人A   作:灯火円

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20-6 五月side

 学園祭最終日、顔も知らない父親が本当に私たちにとって必要なのか。

 それを確認する為にあの人と対峙し、結果はあの人は私たちに愛はなかった。

 そんな人を私たちは父親なんて認めない、そしてあの人の罪を許すことは今後もない。

 これで私たちと父親の問題は一区切りしたと。

 けれど、長尾君とあの人とのやり取りに私は頭が追いつかなかった。

 いいえ、私だけじゃない他の姉妹達も。

 だから彼の異変にすぐ気付くことが出来なかった。

 

「セージ君!」

 

 でも、ただひとり。一花だけは真っ先に倒れる長尾君に駆け寄ると地面に体がぶつかる前に彼の体を支えた。

 

「な、長尾さん!」

「どうしたのよ?!」

「セージ、もしかして怪我でも」

「診せてみなさい」

 

 それに続いてようやく私たちも駆け寄るとお父さんが長尾君の様子を診る。

 

「怪我はない。おそらく」

 

 お父さんは長尾君のお母さんの方へと視線を向けるとそれで何か伝わった様子。

 

「病院じゃなくて大丈夫なら保健室のベッドを借りていい?」

「あ、なら俺が誠司を運びます。一花、代わる」

「うん、フータロー君。お願い」

 

 彼のお母さんの言葉に上杉君がすかさず一花から長尾君を背負うとお母さんとお父さんと一緒に学校の保健室へと向かった。

 私たちは一緒に行っても迷惑だと考えその場に残ったけれど、本当はみんな一緒に行きたかったというのはみんなの表情を見ればわかる。

 

「マルオがいる。心配すんな」

「嬢ちゃん達もあんなやつ相手したんだ。少し休みな」

 

 上杉君のお父さんと下田さんに言われ、私たちは空いている自分達の教室へと戻った。

 

 

「長尾さん、大丈夫かな」

「セージ、林間学校の時は風邪だったけど今度のは違うよね?」

 

 去年の林間学校でも倒れた事は知っている。

 その時は明確に風邪だとわかる症状があった。でも、今日の長尾君は体調が悪いようには見えなかった。

 

「お父さんが少し休めば大丈夫って言ってたから多分大丈夫だよ」

「一花、あんた。随分と落ち着いてるわね。一番に取り乱すかと思ったのにすぐに状況飲み込んでるみたいだったし」

 

 まだ私も含め動揺がある中、一花は比較的落ち着いていた。

 

「一花は長尾君が倒れた理由に心辺りがあるみたいですね」

「……セージ君、いつものアレだって意識失う前にそう言ってたから」

「いつものアレって?」

 

 三玖だけじゃなく姉妹の誰もが何の事かわからなかった。

 だけど、一花はそれを理解しているようで。

 

「セージ君、お父さんの事とか思い出すとね。取り乱しちゃう時があるんだ」

「それって、本当に長尾さんのお父さんは」

 

 あの人が語った長尾君のお父さんの話を私はどこか信じ切ってはいなかった。

 それはあの人の言葉はどれも軽く聞こえたから。

 だけど、周囲の大人達の反応と彼自身の反応を思い返せばわかること。

 

「うん。あの人の言った通り、亡くなってる」

「睡眠薬って……言ってたわよね」

「……それも、本当」

 

 一花は一瞬、躊躇ったのは二乃の事を思ってだというのがわかった。

 そう、私たちが出会って間もないあの日、上杉君が私たちの家庭教師だと知ったあの時。

 二乃が上杉君に睡眠薬を飲ませ、それを見て長尾君が怒って上杉君を連れて帰ってしまった。

 思えば、彼があんなに怒ったのを見たのはさっきあの人と対峙した時と睡眠薬のあれくらい。

 けれど、それは当然の反応。

 自分の父親が亡くなった原因の物を友人に使われて冷静になれるはずがない。

 

「っ……そう」

 

 二乃は下唇を噛み、それ以上何か聞くことはなかった。

 

「でも、本当の事はそれだけだよ。セージ君のお父さんはあの人とは違う。皆だってそう言ってくれたでしょ」

 

 あの人は長尾君のお父さんを父親失格だと言った。

 でも、私はそう思わなかった。だって、父親をヒーローだと語った長尾君はそう思っていなかったから。

 

「一花は、全部聞いてたの?」

「全部かどうかはわからない。でも、お父さんが亡くなってた事は教えてもらってた」

 

 四葉の問いにそう答えた一花の言葉に私は胸のあたりがズキッとしたように思えた。

 

「とにかく、学園祭最終日だよ。みんなはクラスでのお仕事とかあると思うしそっちに集中しよう。セージ君、自分のせいでみんなが学園祭楽しめなかったって聞けば気にするだろうし。目が覚めたらお母さんが連絡くれるって」

「……一花の言う通り、今日は男子も女子も協力してパンケーキ屋をやってるからこれまで以上にまとめ役が必要」

「なんで私を見るのよ。男子と女子の仲を取り持ったのは三玖でしょ」

「そうだね。今は長尾さんの分まで頑張ろう!」

「四葉は大人しくしてる約束ですよ」

「あ、うん」

 

 そうして私たちは長尾君の事が気になりつつも最終日を過ごす。

 ただ、長尾君が倒れた事をクラスのみんなに伝えなければならず、伝えると自分達がこれまで意地張って長尾君に迷惑掛けた心労のせいだと勘違いされてしまった。

 けれど、本当の理由も話せないのでそういう事にしたまま気付けば太陽が傾き始めた頃。

 一花からメッセージが届いた。

 長尾君が目を覚ましたらしく丁度シフトではなかった私は保健室へと向かう。

 その途中、一花が待っていた。

 

「五月ちゃんにちょっと頼み事していい?」

「何でしょう?」

 

 すると一花は一枚の紙を出した。

 

「これをセージ君に渡して。フータロー君と一緒。後夜祭が終わったタイミングで選んだ答えの人の所に」

 

 学園祭初日に上杉君から答えを出すと言われた。

 そして私たちは後夜祭が終わった時、それぞれ別の教室で彼を待つということになっている。

 だけど、長尾君にも同じことをするという事は。

 

「え、待って下さい。それって」

「少し前にね。セージ君に告白したの。それでセージ君も今日、答えを出してくれるって言ってくれて」

「一花が……長尾君を」

 

 知らない間に二人がそんな事になっているなんて。

 

「っ」

 

 まただ。

 胸がズキッとする感覚に私は思わず胸を抑える。

 

「……五月ちゃん? ごめん。変な事頼んじゃったね。嫌なら」

「い、いいえ! 少し、驚いただけです」

 

 そう、これはきっと驚いたから。

 上杉君と二乃や三玖達の時と同じ。

 私は一花からのメモを受け取る。

 

「……なら、お願い」

「一花は、長尾君の様子見に行かないのですか?」

「私もちょっと気持ちの整理したいからね。今はちょっと会えないかな」

「……そうですか」

「よろしくね」

 

 そうして一花は行ってしまった。

 一花から頼まれ事と共に渡されたメモを手にしながら私は保健室へと向かう。

 その間、考える事は一花が長尾君に告白した事。

 よくよく思い返せば一花はずっと長尾君を見ていた。

 彼の異変にも誰よりも気付いていた。

 

「長尾君は……」

 

 どんな答えを出すのだろう。

 

「っ……今は長尾君の様子です。そして」

 

 謝らないと。

 長尾君に辛い思いをさせたのは私のせいだから。

 私はいつも彼を困らせてばかりだ。

 

 

「謝罪はすんなよ」

 

 けれど、彼は私に謝らせてはくれなくてむしろお礼を言ってきた。

 迷惑ばかり掛けたはずなのに。逆に救われたと言ってくれた。

 その言葉に逆に私が救われた。

 そして保健室を出て、私は一花の頼まれ事を伝えようとポケットにしまっていたメモを取り出す。

 でも、何故か躊躇う自分がいた。

 躊躇う理由なんてないはず。

 私は深く息を吐き、前を歩く長尾君を呼びメモを渡す。

 それが一花からの物と上杉君が後夜祭あとに選んだ人の場所へ行く事を伝えるとすぐに自分も同じ立場だと彼は理解した。

 

 本当に一花は長尾君に告白したのですね。

 

 一花が長尾君が好きになる理由を考えてみると納得しかないと同時に自分が長尾君のそういう所に惹かれている事に気付いてしまった。

 でも、これは恋とかそういうのじゃきっと違う。

 そんなはず。

 

「……私もそうなんですよ?」

 

 夕陽が差し込む廊下で私は彼に伝える。

 

「私が自分の気持ちに自信が持てたのも。長尾君の言葉があったから」

「俺の言葉じゃなくても五月は気付いたと思うぞ」

「ううん」

 

 私は深く息を吐いた後、長尾君を真っ直ぐ見る。

 

「私の理想の教師像はお母さんのままだけど」

「ん?」

「長尾君も私の理想なんだよ」

 

 そう、これはきっと憧れの気持ち。

 恋とは違う。

 

「……そうか。てか、そのしゃべり方」

「えっと、母脱却ということで! 変でしょうか? って、戻っちゃいます!」

「はは、零奈の時は出来てたのにな」

「うぅ!」

 

 憧れの気持ちのはずなのに。

 

 長尾君と一花が恋人同士になったと聞いて素直に祝福できない自分がいた。

 

「やっば、寝坊しちゃった」

「一花、おはようございます」

 

 翌日、学園祭の振り替えでお休み。一花もまた撮影もなく姉妹全員が久しぶりに一緒のお休みのはずなのに朝から全員揃ってはいない。

そしていつもならもう少し遅く起きてくる一花も慌ただしく起きてきたかと思えば出掛けるようで。

 

「あれ? 四葉とかは?」

「さぁ、四葉は随分早くに出掛けたみたいで二乃や三玖も少し前に出掛けていきました」

「そっか。あ、私も出掛けるね」

「……長尾君とですか?」

「……うん。休み合う日なかなかなさそうだからね」

 

 

 

「セージ君とお付き合いする事になりました」

 

 昨日は珍しくお父さんも交えての夕食。

 その夕食後に一花は長尾君とお付き合いする事になったと私たちに告げた。

 

「あいつに気があるのはわかってたけど、いつの間に。あんたそういうところあるわよね。ま、おめでと」

「良かったね。一花」

 

 二乃は驚きはしたけど、一花が長尾君を好きだった事は知っていた様子。

 三玖は特に驚いた様子がないという事は全部知っていたみたい。

 

「おめでとう。一花」

「ありがとう。ね、四葉」

「あー、私ちょっと疲れちゃったからもう寝るね」

 

 四葉はそう言って自室へと駆け足で行ってしまった。

 その姿に姉妹全員が何か思う所はあった。

 四葉もまた上杉君と結ばれたはず。だけど、四葉からその事について昨日は結局何も語られていなかった。

 

 

 

「四葉とちょっと話したかったけど」

「一花、時間は大丈夫ですか?」

 

 先ほど寝坊と言ってたところを見るに遅れているのではと思って一花に尋ねると一花はバタバタと支度をし始める。

 その様子を横目に私は参考書と向き合う。

 

「よし」

 

 最後にピアスをつけてようやく準備を終えた一花。

 

「五月ちゃん。それじゃ、いってくるね」

「……いってらっしゃい」

 

 何故か一花の顔を見て言えない。

 いつもなら出来る事が出来ていない自分がいた。

 

「五月ちゃん、どんな想いでも私は五月ちゃんの気持ちを尊重するよ。だから……遠慮しないでね」

「え」

 

 その言葉に顔を上げて一花を見ると一花はもう行ってしまっていた。

 

「……」

 

 持っていたペンを置き、私はテーブルに顔を伏せた。

 きっと一花は私の気持ちに気付いている。

 きちんと祝わう事が出来ない私の気持ちに。

 そして同時に私自身ですらわからなかったこの気持ちの正体に私よりも一花はわかっている。

 

 

 

「あれ? まだ誰も帰ってきてないの?」

「四葉と三玖はさっき連絡あって電車止まって帰れないそうです。一花は……」

 

 帰ってきた二乃に四葉と三玖が帰れない事を伝え、一花は長尾君のところで夕飯を食べてくる事を伝えようとしたけれど、私は言葉を詰まらせる。

 

「……四葉にもイライラするけど。五月、あんたも見ていてそうだわ」

 

 向かい側に座ると二乃は私にそう言う。

 

「ま、あんたの場合は自分でもわかってなかったみたいだし。それに私には関係ない事だから別にいいけど」

 

 そう言って二乃はキッチンの方へと行く。

 

「今日のメニュー思い浮かばないわね。五月、あんたが今食べたいものを言いなさい」

「……カレーライス」

「はいはい。夕飯二人だけだしお肉多めにしてあげる」

 

 不器用な二乃の優しさを感じつつ、私はこの気持ちの行き場所を考える。

 そして出した答えは。

 

「そりゃ、男を好きだから嫉妬してんだろ」

 

 私はあくまでもドラマの話という前提で下田さんに話していた。

 自分ひとりで考えても答えはでなくて私は誰かの助言を求めた。

 

「その子と男の子はあくまでも友人関係で」

「友人から恋愛対象になるなんて鉄板中の鉄板だろ」

「彼にはすでに想い人が」

「そこから略奪すんのがいいんじゃねーか。友人を裏切る背徳感と同時に沸き上がる愛情ってな!」

 

 私は別に背徳感を味わいたい訳ではないのに。

 けれど、恋愛対象。その言葉を否定できなかった。

 一花が長尾君に告白したと聞いて初めて自分が長尾君に向けている感情が家庭教師と生徒、友人以上のものだった事に気付いた。

 この気持ちは秘めたままにすべきなのに。

 

「……四葉はこういう気持ちだったんですね」

 

 伝えるべきだと背中を押してきた自分の行動の無責任さを今になって痛感する。

 そんな四葉は未だに上杉君とお付き合いしていない。

 気持ちは伝えたらしいけれど、四葉はその前に何かやらなきゃいけない事があると一花から聞いた。

 そしてある日の昼休み、偶然会った上杉君と長尾君と一緒に昼食を取る事に。

 その際に私は上杉君と長尾君にお祝いのケーキをご馳走する事にした。

 大丈夫。私は長尾君と一花の事をお祝いする事が出来ている。

 そう、自分に言い聞かせて。

 ただ、そこに四葉と二乃と居合わせ五人で机を並べる事に。

 その際。なんとも言えない空気となり私は二乃を連れて学食をあとにした。

 

「離しなさいって!」

 

 二乃を掴んでいた手は振り払われた。

 

「邪魔しないでよ」

「二乃」

「そもそもあんたはお節介してる立場じゃないでしょうが。自分だってあいつの事を踏ん切りついてないくせに」

「そんな事! 私はきちんと」

「なら、言えたわけ? おめでとうって。二人の顔を見て直接」

「っ」

 

 お祝いのケーキは送った。けれど、その言葉は私は言えなかった。

 そして二乃は行ってしまい、しばらく立ち尽くす自分がいた。

 

「と、とにかく今は二乃と四葉の事です」

 

 このままでは姉妹がバラバラになってしまう。

 それは絶対にダメだから。

 そうして二乃を探していると上杉君と会い、二人で薄暗い教室に入るとネズミに驚き上杉君を押し倒す形になってしまった。

 

「誰かいるのか?」

 

 さらにそこに長尾君。

 この状況は色々と誤解を生んでしまう。彼にこちらに来ないでと伝えるが彼はこっちに来てしまった。

 状況はさらに変化し、二乃と四葉もこの教室に私たちは慌てて身を隠す。

 隣にいる長尾君の息づかいに私の鼓動は早くなる。

 そうこうしている間に二乃と四葉の会話は私たちの耳にも届く。聞いてはいけないと思いつつもどうしようもない状況に息を潜めるしかない。

 

「これは……私と上杉さんだけの話じゃないと思ってるんだ」

 

 四葉が上杉君との関係を踏み出せない理由。

 

「二乃と上杉さんのこれまでの関係を……三玖や一花、五月に長尾さんと上杉さんがこれまで過ごした日々を無視なんて私にはできない」

 

 四葉は相変わらずですね。

 

「私なりの覚悟を持って伝えに来たんだ。私の願いは上杉さんとの関係を認めてもらうこと」

「だからそれは」

「ただ、それは今じゃなくていい」

「!」

「数ヶ月、数年、どれだけ時間がかかるかわからないけど……私が上杉さんをどれだけ好きなのか。この想いの強さを」

 

 四葉の想いの強さ。

 私は知っている。

 どれだけ想い続け、悩み、そして秘めていた事を。

 

「見てて欲しい。きっと負けてないから」

「そうね。たとえ今のあんたに謝られたり説得されたとしても私は納得できないでしょうね。それをわかった上で、あんたは茨の道を進むつもりなのね」

「私は上杉さんを好きなのと同じくらい姉妹の皆が好きだから」

「っ」

 

 上杉君はその言葉に動揺しているのを横目に私は想いを告げる事がどういう事なのか考えていた。

 

「あんたはまだ私を競い合う相手として見てくれるのかしら」

 

 競ってもいいのだろうか。

 私も姉妹と。

 競ってバラバラになってしまうのでは。

 

「勿論だよ。私たちはずっとお互いを意識しながら生きていくんだ。時には仲間、時には敵……そんな」

「ライバル……よね」

 

 仲良く。それは私が抱いていたお母さんの為の姉妹の形。

 でも、競ってもいいのかもしれない。

 

「昨日のことがなければ大人しく祝ってあげようと思ってたのに……あんたがそのつもりなら私は言うわ。往生際が悪いかもしれないけど私のフー君への気持ちは収まる気がしないの」

 

 二乃らしいな。

 けど、その二乃らしい気持ちに私も感化されている。

 

「ここで勝負は終わってない。少し後ろであんた達の行く末を見ててあげる。ほんの少しでも隙なんて見せたら私が俺を奪ってやるんだから」

「……うん」

 

 男女の関係に私は嫌悪感をずっと抱いていた。

 それはお母さんを悲しませるものだったから。

 けれど、これまで姉妹達の恋の形を色々と見てきた。そしてお父さんが一途にお母さんと私たちを見ていてくれた事を知った。

 そして、自分にも恋する気持ちがあった事に気付いた。

 遅すぎたと思った。気付くのが遅かった私は関係を乱してはいけない。

 そう思ってこの気持ちを忘れようと思っていた。

 でも、勝負してもいいんだ。

 そう、私たち五つ子はそうやってこれからも意識していくのだから。

 

「……そっか」

「ん?」

 

【五月ちゃん、どんな想いでも私は五月ちゃんの気持ちを尊重するよ。だから、遠慮しないでね】

 

 一花は最初から私もライバルと思ってくれてたんだね。

 なら、私も戦おう。

 

「長尾君」

「ん?」

「今日、少し時間を貰えませんか?」

 

 

 

 

「長尾君、あなたが好きです」

 

 その想いを告げたのは何かと彼と印象的な思い出のあるあの公園。

 そして告げた気持ちに彼が出した答えは予想通りのもの。

 

「もし、私が先に告白してたら……結果は変わってた?」

 

 僅かでも可能性があったんじゃないかと私はそんな質問を彼にしていた。

 けど、彼は迷う事無く首を振った。

 

「五月が先に告白してきても俺は一花を選ぶ。俺は、一花じゃなきゃダメだし、何より俺も一花を支えたいと思ってる」

 

 わかってた。

 誰よりも一花は長尾君を見ていてそして私の知らない彼を知っている。

 そして長尾君もそんな姿を一花に見せてしまうほど二人の距離は確実に近づいていた。

 

「だから、ごめん。それとありがとう。俺を好きになってくれて。俺と出会ってくれて」

 

 あぁ、彼はこんな時でもそんな言葉を。

 

「なんで、お礼を……言うんですか」

「なんでって。そりゃ、好きって思ってくれたのもそうだし、俺が家庭教師をやるきっかけは五月だったから」

 

 きっかけって。

 きっかけは上杉君だと思うんだけどな。

 

「それに、俺にとって五人の中で最初の生徒は五月だったからな」

「っ」

 

 最初。

 他の人からしたらきっと何でも無い言葉だけど、私にとっては嬉しくてついに堪えていた涙が溢れだし頬を伝う。

 

「私も、長尾君に、出会えてよかった」

「あぁ」

 

 これで終わり。

 私は無理矢理笑顔を作る。

 

「話は、終わりです。長尾君、ありがとう。話を聞いてくれて」

 

 そして彼は何か言いたそうだったけれど、何も言わず私の傍から離れていった。

 

「うっ……うう」

 

 近くにあったベンチに座り、私は抑えきれない感情を吐き出す。

 するとぼやける視界にスッとハンカチが見えた。

 

「……四葉」

「えっと、ジョギングしてたら見掛けちゃって」

 

 視線を合わせずにそう言う四葉がウソをついていることはわかったけれど、私は何も言わず四葉に抱きついた。

 

「頑張ったね。五月」

「う、うううう!」

 

 そっと頭を撫でてくれる四葉にやっぱり四葉も私のお姉ちゃんなのだと実感する。

 

「す、すみません」

「いいよ。気にしないで」

 

 そして落ち着いた頃、私は四葉に謝った。

 でも、謝罪の意味は二つあった。

 

「私、四葉の気持ちを何もわかっていませんでした。気持ちは伝えるべきだと簡単に言って。四葉がどういう気持ちでいたのかも考えず」

 

 自分がその立場になってようやくわかった。

 四葉に向けてきた言葉はあまりにも無責任な他人からの言葉。

 

「ううん。五月が謝ることじゃないよ。それに、結局私はこの気持ちを隠し通せなかった。上杉さんの前でウソをつけなかったからね。五月の言葉は間違ってなかったんだよ」

 

 ウソ。

 私も自分の心にウソをつこうとした。

 

「私も、結局ウソはつけなかった」

「五月、ウソとか下手だもんね」

 

 にししといつもの四葉の笑顔に私はその頬を軽く引っ張る。

 

「むー、四葉に言われたくない」

 

 そして私たちは顔を見合わせ笑い合ったあと、私たちは家へと歩き出す。

 

「ウソつけないから言っておくけど、私がここに来たのは一花からのお願いなんだ」

 

 帰り道、四葉はそう私に話してくれた。

 

「なんとなく、そうじゃないかなって思ってました」

 

 ジョギングって言う格好ではない四葉を見ればわかる。

 それに今日ここで彼と会う約束を知っているのは私と彼だけ。長尾君が四葉を寄越した可能性もあったけど、長尾君の事だから私と話すことを一花に伝えただろうし。

 私も一花にあとできちんと伝えようと思っていた。

 

「あ、バレてたんだ。一花ってさ。ガキ大将だけど。面倒見も良いから」

「ガキ大将って、いつの話をしているんですか」

 

 そういえば、昔は独り占めするような子だったな。一花は。

 でも、それと同時にお姉ちゃんらしく私たちを引っ張っていたし私には特にお姉ちゃんであったように思えるのは長女と末っ子だからなのか。

 

「私にとってやっぱり一花は頼れるお姉ちゃんだな」

「だよね」

 

 あと少し。もう少しだけ待ってて。

 そしたら今度こそ言えるから。

 でも、まだ少しだけ。

 私はスマホの待ち受け画面を見る。

 夏に彼の誕生日をお祝いする時に撮った写真達を並べて加工した物があった。

 そして、その中の一枚には夕暮れを眺める彼の横顔があった。

 

 

 

 




話を書いていく過程で中野姉妹について色々考える訳ですが、五月が一番難しかったです。
おそらく原作で何度も読み直したのは五月の心情変化の部分。
正直今でも五月わかってない部分ありますので自分の解釈が多めです。
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