家庭教師と友人A   作:灯火円

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第21話 五等分の花嫁
21-1


「……騙したな?」

「ごめん。セージ君」

 

 休日、一花も撮影もないから出掛けようと二度目のデートのつもりで俺は一花を待っていたのだが、現れたのは四葉を除いた姉妹達。

 

「わ、私は一応止めたんですよ?」

「わかってる。五月の言葉で止まるようなやつではないからな」

 

 五月とはあの告白から数日、俺と五月は前と変わらずの距離感でいる。

 翌日はさすがにぎこちなかったけれど、受験という最大の山場のおかげかそっちに舵を切った様子。

 

「なによ?」

「デートに尾行なんて趣味悪いっての」

 

 相変わらず鋭い視線を向ける二乃だが、俺は正論をぶつける。

 現在、俺達は四葉と風太郎のデートに尾行中。

 

「セージだって気になるでしょ? 風太郎が上手くやるかどうか」

「俺はあいつの保護者か?」

 

 その問いに一花も含め全員が「今更?」とでもいうような視線を俺に向ける。

 

「フータロー達、ファミレス入るみたいだよ」

「私たちも行くわよ」

「少し早いですがお昼ですもんね。私たちもご飯にしましょう」

 

 そう言って風太郎達に続いて入っていく二乃達。

 

「ここは付き合ってあげて」

「ま、これでも一花と出掛けられているわけだしな」

 

 俺は諦めて一花と共に二乃達のあとに続いて店内に入る。

 店内はそこまで混んでいなくて風太郎達は窓際の席、俺達五人は風太郎達が見える席に座った。

 

「さぁ、好きなものを好きなだけ頼んでいいぞ。俺のおごりだ」

「わーい」

 

 そんな風太郎と四葉の会話が聞こえる。

 

「なんでデートの行き先がファミレスなのよ」

 

 真っ先に不満を漏らしたのは二乃。

 

「初々しくていいと思う」

「フータロー君にしては頑張った方だよ」

「ご飯もおいしいです」

 

 三玖と一花はフォローの言葉を入れる中で五月は席に着いてすぐに頼んでいた物が到着し食べている。

 俺も注文したポテトを摘まみながら風太郎達の様子を伺う。

 

「あ、クーポン使ってる」

 

 二乃のやつ、そこまでチェックするのかよ。

 

「ダメなの?」

「デートでクーポンとかNGでしょ」

 

 三玖の問いに全力で否定する二乃だが、風太郎に向けていた視線が対面の俺に向けられた。

 

「あんたもまさかクーポンとか使ったんじゃないわよね」

「矛先俺かよ」

「私たちは洋食屋さんに入ったから。ほら、五月ちゃんに教えたお店」

「あー、あそこなんですね。写真見せてもらいましたが、確かに美味しそうでした」

 

 隣に座る一花とその対面に座る五月は変わらずの関係に俺は少し安心しつつ、二乃に勝ち誇った視線を向ける。

 

「ムカつくわね」

「てか、クーポンくらい良いだろう。倹約家って事だろう」

「それをデートの時に見せるのはどうかって話よ」

「そうかよ」

 

 二乃の将来の彼氏は大変そうだな。

 

「四葉、そんな奴はさっさと捨てて私にその席、譲りなさい。フー君、面倒くさいことしてないでさっさと告って付き合っちゃいなさい」

 

 どっちも本音だろうけど、忙しいな。

 

「ですが、上杉君の気持ちもわかります。先日、二乃と一緒にバッティングしてしまい、四葉の覚悟聞いてしまっただけに容易に踏み出すことは出来ないのでしょう」

「けど、四葉の気持ちを聞いたから風太郎も覚悟決めたんだ。今日誘ったのだって今度こそきちんと伝える為だろう」

「お互いにそれがわかっているからぎこちないんだよねー」

 

 一花の言葉通り、二人を見るといつも通りではないのは見ていてわかる。

 特に四葉は全体的にぎこちなさが見える。

 そんな二人を見守りつつ、次の場所へ。

 

「デートに図書館って」

「フータローらしいとは思うけど」

 

 さすがに二乃の苛立ちも少しはわかるところではある。

 それでも風太郎なりに何か考えてここを選んだと思うんだが。

 

「何かお探しですか?」

「いや、えーっと」

 

 棚をひとつ挟んで俺達は二人の会話を盗み聞き中。

 

「進学が現実味を帯びてきて……なんか、目標とか、夢とか見えてきたんじゃねーかと思ってな。そこんとこどうなんだ?」

 

 そういえば、姉妹の進路についてまだ聞いてないのは四葉と二乃だったな。

 大学は体育会系に行くとなるとそういう道なのか?

 

「私は、やっぱり誰かのサポートをして支えることが自分に合っていると思います。諦めから始めたことでしたが、今ではそれも誇れることだと気付いたんです」

「そうか。お前らしいな」

 

 四葉のお節介や人助け、それは最初こそは理由は違ったのかもしれないけれど。

 それがいつしか本当にやりたい事へと変わっていったって事か。

 

「いえ、そう思えたのは上杉さんがそうだったから」

「そう……なのか」

「そうです!」

 

 風太郎が四葉に影響されたように四葉も風太郎に影響された。

 お似合いな二人だよ。

 

「あー、ムズムズする!」

「まぁまぁ」

 

 ほのぼのと俺が二人を見守っている一方、二乃はそんな二人にやきもきしている様子。

 そしてそれを五月や三玖が落ち着かせる。

 

「それでも具体的な目標があった方がいいんじゃないか? ほら、小さい頃はあっただろ? 夢とか」

「むー……あったといえばあったけど、だけどあれは」

 

 そもそも小さい頃の夢が今の夢とは限らないと思うけど。

 

「もう、忘れちゃいました! あははは」

 

 忘れたと言っているけど、これは忘れてない反応だよな。

 

「四葉の小さい頃の夢って」

「一花、知ってるのか?」

 

 俺はそっと一花に聞いてみる。

 

「うーん、女の子なら誰もが夢見る夢、かな」

「誰もが? 女の子の定番ってやつか……一花もそうなのか?」

「え? まぁ、そうだね」

 

 そう言った一花はどこか照れている。

 

「うーん」

 

 俺はふと六花の事を思い出す。

 そういえば、七夕とかお願い事する時に将来の話とかしてたな。

 

「思い出したらちゃんと言えよ。あいつはあったって言ってたぞ」

 

 その間にも風太郎と四葉の会話は続いている。

 

「二乃の昔の夢」

「あ、なんでしたっけ?」

 

 六花は確かあれだな。結構ころころ変わってたんだよな。

 大好きだったアニメのキャラクターからアイドルとか。

 

「日本一のケーキ屋さん」

「そんな具体的には言ってないわよ!」

 

 あぁ、ケーキ屋さんも言ってたな。

 て、二乃のやつ勢いで出て行ったな?

 案の定、二乃の姿にポカンとする風太郎と四葉。

 

「う、上杉君。気にせずに先に進んでください!」

「五月?! それに、誠司達も」

 

 二乃だけでなく、姉妹勢揃いのうえに俺までいるもんな。

 

「悪いな。二人共」

 

 さすがに俺は手を合わせて風太郎と四葉に謝罪する。

 

「お邪魔するつもりはなかったんです。どうか、お気にせずに……あ、ですが」

 

 五月は最後に真剣な眼差しを風太郎に向ける。

 何か重要なアドバイスでもするのか?

 

「初デートでクーポンやスマホを見たりは気にした方がいいかと」

 

 クーポンの事は許してやれよ。

 

「あー、風太郎。お前なりに頑張った結果だ。学んでいけばいい。それはそれとして」

 

 俺は風太郎の背中を叩く。

 

「ぐあっ」

「どんな形でもいい。しっかり伝えろ」

「……あぁ」

 

 そして先に図書館を出て行く風太郎と四葉を俺達は見送る。

 

「さて、バレた以上もう尾行はいいだろう」

「まさか自分からボロを出すなんて」

「でも、間違いじゃないでしょ? 二乃の夢はお店持つこと」

「それは」

 

 俺達は少し遅れて図書館を出る。

 三玖の言葉に二乃も強く否定しないところ見るにまだ子供の頃の夢は継続していると思われる。

 つまり、これで姉妹の将来はそれなりにわかった訳だ。

 ただ、四葉のはまだ明確にはあれだけど本人がやりたいと思う方向は定まっているみたいだし。これで風太郎の目標も達成か。

 それはそれとして。

 

「女の子の定番」

「セージ君、まだ考えてたの?」

 

 尾行は途中で打ち切り、中野家マンションまでの帰り道。俺は先ほどの女の子の定番の夢について考えていた。

 

「いや、六花もさ。将来の夢色々あったなって思い出してて」

「へー、どんなの?」

 

 一花は興味あるのか俺の顔を覗き込むように聞いてきた。

 

「アニメのキャラクターとかその時大好きだったアイドルとか……あ」

「ん?」

 

 ふと、入院生活が長く続き自分の体の具合も六花が気づき始めた頃、それまで弱音なんて吐くことなかった六花がもらした時の事を思いだした。

 

【なんでおうちに帰っちゃダメなの?】

【わたしもみんなと学校行きたい】

 

 俺もまだ子供でうまく言葉が見つからなかった。

 だから俺は自分が医者になって六花の病気治してやるとそう六花に言った。

 その話に少しだけ元気を取り戻した六花に俺は将来の事を聞いてみた。

 昔に聞いたアイドルとかだと思っていたけど出てきた答えにそんなのでいいのかと思ったんだった。

 

「そう、確か」

「お嫁さんです」

「ん?」

 

 とある公園の前を通ると聞こえてきたのは四葉の声。

 ふと公園を見るとブランコに四葉と風太郎。それもブランコのひとつは壊れている。

 そして四葉は風太郎へと手を伸すと風太郎は照れくさそうにその手を握った。

 

「あっちもようやくだね」

「だな」

 

 ふと、そんな光景を見たからなのか俺は一花の手を握ると一花も握り返してくれた。

 そうしてそれぞれの関係が少し変化した。

 でも、変わらないところはもちろんあって。

 

 

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