家庭教師と友人A   作:灯火円

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 五年後

 

「悪いな。五月に付き合ってもらって」

 

 俺は路肩に停めた車内で隣の席に座る五月に礼を言う。

 学生の頃は勉強の時にしていた眼鏡は今だと常時変わらずに彼女は付けている。

 

「仕方ないよ。四葉はもちろん、二乃と三玖はお店あるし時間あるの私くらいだから。あ、あれかな」

 

 そう言って五月は車から出る。俺は車内で待機して様子を伺う。

 

「帰ってきたわ。日本」

 

 様々な人が出入りするなか、顔が隠れるくらいの帽子とサングラスをした女性がスーツケースを引きながら出てきた。

 

「旅行、行ってただけでしょ」

「五月ちゃん、お迎えありがとう!」

「わっ! 有名人なんだから、こっそりこっそり」

 

 サングラスを外して駆け寄ってきたのは今や日本の代表する女優の一人であり、俺の恋人である一花だ。

 俺も運転席から出るとサングラスを外した一花と視線を交わす。

 

「おかえり」

「ただいま。わざわざセージ君が迎えに来てくれるなんて寂しかった?」

「そうですよ。ほら、荷物貸せ」

 

 俺は一花の荷物を受け取りトランクへと積み込む。

 

「もう、反応薄いな。離ればなれだった彼女だよ?」

「あのなぁ。何年離ればなれだと思ってんだよ」

 

 今更過ぎるだろと思いつつ俺はトランクを閉めて運転席へと戻る。

 

「ほら、後ろ乗れ」

「そろそろ私だってやめたいんだけど?」

 

 そう言って一花は五月と共に後部座席へと乗り込む。

 

「そんな待たせねえから」

「へ」

「長尾君」

 

 シートベルトをし、さっきまでの余裕の顔が崩れたのをルームミラーで確認した俺はそのまま車を発進させた。

 

「ね、セージ君。さっきの」

「んで? 仕事どうだった?」

 

 一花は運転席を覗き込むようにして俺に聞いてくるが、俺はさっきの言葉についてはあれ以上語る気はないと態度で示すと一花も悟った様子で大人しく身を引いた。

 

「まだイントネーションだけが不安かな」

「一花、イント↓ネー↑ション→」

 

 一花の発音を指摘する五月。

 すっかり先生だな。

 

「あちゃー、厳しいなー」

「一応、先生だからね」

「立派になったもんだ」

 

 教えてもらう立場だった五月が今じゃすっかり教師だもんな。

 そうして旅先での話を一花から聞いたり、五月の最近お気に入りのお店の話を聞きながら車を走らせ目的地の風太郎の実家に到着した。

 と言っても用があるのは一階で構えているお店の方。

 

「いらっしゃーってあんた達か」

「一花、セージも久しぶり」

「うんうん。二人共元気そうでよかった」

「しかし、しっかりとした店になったもんだ」

 

 俺の記憶じゃ、ここはずっと締め切っていた場所だったけど今じゃオシャレなカフェだ。

 

「お店も大繁盛のようで」

「へー、流石アメリカかぶれはジョークが上手ね」

「食べてくでしょ? 今、用意するから」

「やった!」

「あ、俺はすぐ出るから」

 

 三玖の言葉に喜ぶ五月の隣で俺は申し訳ないがそれを断る。

 

「珈琲飲める時間ある?」

「あぁ、それくらいは」

 

 珈琲飲むくらいの時間ならまだありそうだし、カウンターに座る。

 

「セージ君も食べていけば良いのに」

「ふん、一花こそアメリカのあんな気取ったカフェに行ってて口に合うかしら」

 

 そういや、あっち行ってる時は俺にこんな店があったとか色々と送ってきたな。

 その一つに旅先でずっと通っていたカフェがあった。 

 

「あれ? 私が行ったこと教えたっけ?」

「二乃、いつも一花のインスタ見張ってるから」

「それは! 万が一、こいつが写り込んでないかのチェックよ」

 

 三玖から渡された珈琲を飲もうとしたら俺に鋭い視線を向ける二乃。

 その視線も久しぶりだな。

 

「その辺は俺も気をつけてるから。今日だって五月に頼んで一緒に来てもらったし」

 

 職業柄、SNSの更新も重要視されているからか一花はよく写真をあげている。

 もちろん女優さん仲間同士の時もあるが、俺との時の物も少しはある。

 それでも匂わせないように注意を払ってるし、今日だって俺と二人きりはまずいと思って五月にもお願いしたわけだ。

 

「どっちにしろ。心配してくれてありがとうな」

「それならお礼にこのお店も紹介」

「待って」

 

 一花がスマホを取り出すとそれを止めたのは二人分のサンドイッチを作って運んできた三玖。

 

「一花の人気にあやかればお客さんも絶対増える。とっても嬉しいけど、今はまだ遠慮しとく」

 

 今じゃ有名人。

 かつて俺や風太郎、二乃がバイトしていたあのケーキ屋も一花が出ていた映画の収録地だと知られファンが今でも通ってたりするらしい。

 そして向かいのパン屋も何故かその恩恵を受けてるとか。

 とにかく、それだけ影響力を持っているのに三玖はそれに頼る事はしない様子。

 

「最近は常連さんも増えてきたんだ。こんな設備の整った場所を貸してくれたお父さんのためにも……もう少しだけ私たちの力だけでやってみたい」

 

 ここの店は元は風太郎の母親が料理店を出そうとしていた場所。

 でも、開店直前に母親が亡くなってずっとシャッターが下ろされたままだった。

 そんな場所を勇也さんが二人に貸して今に至る。

 そうこうしている間に主役が到着したようで店の扉が開く。

 

「どーも、皆さんお集まりで」

 

 変わらずトレードマークの目立つリボンをし汗だくの四葉。

 

「なんで汗だくなのよ」

「なんだかじっとしてられなくてうちから自転車で走ってきたんだ」

「走ってきたって……自宅から!?」

 

 二乃の驚きも当然だよな。

 ここから四葉達の自宅って。

 

「元気だねー。ここからあのマンションって意外と遠いもんね」

「え?」

「ん?」

 

 一花の発言に俺は首を傾げていると一花以外の視線が俺に向けられた。

 

「セージ、一花に話してないの?」

「いや、そっちこそ一花に話してないのかよ。俺はてっきり四葉から聞いてると思って」

「ちょっと、なに? どういう事? セージ君」

 

 俺の腕を掴んで説明を求める一花。

 俺はチラリと四葉の方を見てから一花に説明する。

 

「四葉、今は風太郎と一緒に東京で暮らしてるんだよ」

「!」

 

 一花の視線も四葉に向くと四葉の頬が紅くなる。

 

「へー、一緒にね。一緒だって。セージ君」

 

 一花は何か催促するかのように俺に視線を戻し、そう言ってくる。

 

「あー、俺はそろそろ行くわ。会場でな」

 

 俺は残りの珈琲を飲み干し、一花の腕からすり抜けて店の扉へと向かう。

 

「あ、逃げた」

「さっきも言ったろ。そんな待たせねえから大人しく待ってろ」

「!」

 

 そう言い逃げして俺は店を出て車に乗り込んだ。

 姉妹の前で言わせんなよな。

 とりあえず、あまり姉妹だけの時間を奪いたくなく俺は俺で実家へと一度戻ることに。

 

 

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