家庭教師と友人A   作:灯火円

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「指輪の交換をすっ飛ばす結婚式は初めてだったぞ」

「うっ」

 

 結婚式の方が終わり、披露宴開始までの時間俺は新郎である風太郎の方へと顔を出していた。

 

「それもだが、親族の姉妹達がいなかったのは何でだ?」

「誠司も知らないのか? 一花から何か聞いてると思ったんだが」

 

 結婚式は指輪の交換をすっ飛ばすというこれまで仕事や友人の結婚式で何度か参列してきたが初めての光景だった。

 そしてそんな一生語られる結婚式の場に一花達姉妹の姿はなかったのは俺も気になってはいた。

 せっかく姉妹揃った写真撮ろうと思ってたのに。

 俺は首に提げているカメラの手に取り、今日撮った写真を見るが姉妹達の姿はまだない。

 

「新郎様、新婦様がお呼びですのでお越し下さい」

「だとよ。お待ちの新婦様の所に行ってこい」

「あぁ。あ、すみません。新婦の姉妹は見掛けませんでしたか?」

 

 スタッフさんに風太郎がそう聞くと姉妹は早くから来ているとの事。

 

「早く来ているのに姿を見せない。なーんか嫌な予感」

 

 風太郎を見送りつつもこんな行動を取っている姉妹達に何か企んでいる気配を俺は感じていた。

 そしてそれはまさに的中する。

 

「誠司、あいつらがお前を呼んでる」

「何があった?」

 

 戻ってきた風太郎の表情を見れば何かあったことくらいはわかる。

 

「それは言えん。だが、誠司なら難しくない問題だ」

「はぁ、たく、こんな日まで」

 

 そうして俺は風太郎に案内され新婦の控室の前まで来た。

 

「おい。来たぞ」

 

 俺はノックをすると中から「どうぞ」と四葉の返事を聞いて中に入る。

 

「お前ら」

 

 目の前には先ほど結婚式でウェディングドレスを着た四葉。

 そしてまったく同じ格好をしている姉妹達がいた。

 

「五つ子ゲーム、ファイナルだよ。愛があれば見分けられるよね」

「……はぁ。最後の課題ってのはわかった」

 

 一花達が式に現れなかった理由はこれを仕込む為だというのはすぐに理解した。

 五つ子ゲーム、つまり見分けろって事だろう。

 それは別にいいさ。

 だけどな。

 

「ウェディングドレス着てやるんじゃない! 特に! まだ結婚式挙げてない四人!」

「はは、フータロー君と似た反応」

「ま、フータロー君の先生だもんね」

「ちなみにフータロー君は見事四葉を当てたよ」

「セージ君は私を当てられる?」

「大丈夫だよね? セージ君なら」

 

 呼び方も口調も一花に合わせて徹底してきたな。

 その光景にあの春休みを思い出す。

 

「わかったよ。付き合ってやる……んじゃ」

 

 俺は迷うことなく彼女を指さす。

 

「二乃」

「っ、あんたもそのスタイルな訳ね」

「あ?」

 

 そう言って二乃はまとめていた髪を解いていつもの髪型へと戻す。

 

「結局、ずっと俺に厳しいままだよな。でも、それは姉妹への愛情だってわかってるから俺もお前を嫌いになりきれない」

「あんたに好かれたくもないわよ」

「そうかよ」

 

 鋭い視線、でもそこにはもう敵意はない。

 姉妹の中でも姉妹が大好きでまっすぐな次女。

 

「で、三玖」

「うん」

「俺が今まで教えてきた中で一番の成長を見せてくれた。そして時にはそんな三玖に俺も勇気をもらってた。ありがとうな。三玖」

「お礼を言うのは私。ありがとう。セージ」

 

 誰よりも自分の気持ちを言葉を口にするのが下手だった彼女はもう居ない。

 今では頼れる三女だ。

 

「次は……五月」

「やっぱり、長尾君には簡単だったかな」

 

 いつもの星の髪飾りを付ける五月。

 

「思い返すとなんつーか、俺のトラウマをピンポイントでやられたな」

「そ、それは! ごめんなさい。なんというか、私も狙ったわけじゃなくてですね」

 

 六花の件や父さんの件のきっかけは五月の言葉からが多かった気がする。

 

「口調、戻ってるぞ」

「あ、うー」

「悪い悪い。からかいすぎたな。でもさ、悪い事ばかりじゃなかった」

「長尾君……あなたのおかげで憧れを諦めずにすみました」

「最後に決めたのは五月の意志だろ」

 

 母親であろうとしその事で悩みもしたが、今じゃその憧れた母親と同じ職で頑張る五女。

 

 そして俺は次の彼女に視線を移し、まずはため息を漏らす。

 

「主役の席だってのにこんなゲーム許可すんなよな。四葉」

「あはは」

 

 それも愛を確かめるためだろうけど。

 

「前に話したろ。俺達は似たもの同士だって」

「そんな話しもしましたね」

「互いに大好きな人に幻滅されたくないって怖がってた」

「ですね。でも、もう大丈夫ですよね? 長尾さん」

 

 そこは自分は大丈夫です。だろうが。

 相変わらず自分より他人だな。

 

「四葉もだろ?」

「はい!」

 

 誰にでも誰かの為に頑張れる優しい四女。

 そんな力強い返事に俺は彼女に頭を下げた。

 

「風太郎を頼むな」

「……長尾さん、任されました」

「やっぱ、セージって」

「フー君の」

「保護者ですよね」

 

 聞こえてるぞ。

 けど、もう認めるさ。

 俺にとって風太郎は最初の生徒だからな。保護者面にもなる。

 

「はい、んじゃ全問正解」

「ちょっと! フータロー君よりも雑だよ!」

 

 残った花嫁は被っていたウィッグを取って俺の腕を強く掴んだ。

 俺の彼女であるイタズラ心を持つ長女だ。

 

「あのな。そもそも俺は五つ子の中で最初に見分けられたのは一花だ。間違えるはずないだろうが」

「っ」

「それに出会って六年、いや京都組はもっとか。とにかく! これだけの年数付き合ってれば全員見分けられるっての。こういう所、本当変わらないよな」

 

 出会ったばかりの頃から今日までの日々が俺の脳裏に浮かんでいく。

 

「仲介役、そっから家庭教師。教えてた立場だけどさ、俺もまた気付かされる事もあった」

 

 めでたい席の場だからなのか俺も普段口にしないような言葉を言っている。

 でも、こういう場だからこそかもな。

 

「出会えて良かったよ。この出会いは俺の一生の財産だ」

 

 案の定というか姉妹は固まっている。

 かと思えば姉妹揃って笑い出した。

 

「やっぱり、セージはフータローの先生」

「ここまで流れ一緒だともう笑うしかないわよ」

 

 どうやら先に五つ子ゲームをした風太郎も似たような事を言ったようだ。

 それはそれで色々と恥ずかしいな。

 

「でも、それは私たちも一緒」

「うん。風太郎と長尾さんに会えた事は私たちにとっても自慢です」

「ありがとう。セージ君。私と、私たちと出会ってくれて」

 

 その一花の言葉に姉妹達は俺にさっきとは違い優しい微笑みを向ける。

 

「よし、写真撮るぞ! 風太郎! 入ってこい!」

「うお」

 

 俺は扉を開け、外で待機している風太郎を引き入れる。

 

「とりあえず姉妹だけと風太郎も入れたのと」

 

 五つ子の花嫁姿なんて撮るしかねぇだろ。あとは本日の主役二人を真ん中に。

 

「セージ君、まさか自分は入らない訳ないよね?」

 

 俺がカメラを構えながら考えていると一花が俺の肩を叩きジーッと見てきた。

 

「一花、俺は一応怒ってるからな」

「え」

「仕事ならまだ俺も納得した。けどな、自分の結婚式より前にそれも妹の結婚式で着るなっての」

「えー、前に一度着てるでしょ?」

「あ、確かに。でも、あれは試着だったろ」

 

 以前、デート中にブライダルフェアに行ったことがあってそこで一花はウェディングドレスの試着をしてたっけ。

 

「とにかくだ。次は俺たちの時だ。今以上に綺麗なドレスを着させる」

「……セージ君」

「そこ、いちゃつくんじゃないわよ」

「うるせ。ほら、とにかくまずは五つ子だけで行くぞ」

 

 このくらいでいちゃついてるなんて可愛いもんだろうが。

 そうしてようやく五つ子揃った写真を撮る事が出来た。

 

 そこから披露宴はつつがなく進み、無事に教え子二人の結婚式を見届けた。

 

「次は長尾の番だぞ」

「だね」

「君達は色々と大変そうだけどね」

「でも、長尾君の事だからしっかり考えてるんでしょ?」

 

 全部のスケジュールが終えて、俺は久しぶりに会った前田夫妻と武田、そして毛利さんと話しているとそんな事を言われた。

 

「言われなくても俺もそろそろ覚悟を決めてる」

 

 本当は五年前から覚悟は持っていた。けれど、気持ちだけだった。

 でも、今は気持ちだけじゃない。それをしっかりと示すだけのものを五年掛けて俺も作ってきたから。

 

「んじゃ、俺らはそろそろ行くわ」

「長尾、またね」

「僕もこの辺で」

「次、会える時楽しみにしてるね」

 

 そうして四人と別れて俺は一花の元へと向かう。

 会場のロビーの一角で仲良く姉妹と座って何かを見てる。

 

「何してんだ?」

 

 見ているものを覗いてみるとタブレットには世界地図。

 今更、地理の勉強って訳じゃないよな?

 

「今日はありがとうな」

「ん? おー、主役のお二人さんお疲れ」

 

 丁度、風太郎と四葉も私服に着替えロビーに降りてきた。

 

「何してんだ? お前ら」

「あー、俺もそれ今聞いたんだよ」

 

 やっぱり風太郎も姉妹が何をしているのか気になる様子で覗き込む。

 

「何って決まってるわ。式が終わればやることはひとつ……新婚旅行よ!」

「は?」

 

 風太郎の反応はもっともだ。

 

「いや、二乃。それは当人達はそうだけど……まさか」

「ま、待て! ついてくるつもりか?!」

 

 その問いに当然という言葉が返ってきた。そしてその行き先を決めている最中だったらしい。

 

「こいつら、めちゃくちゃだ」

「風太郎、今更だ」

「あはは、いいじゃん。皆、一緒の方がもっと楽しいよ。ね?」

「……」

 

 四葉の言葉となると風太郎も拒否するのを悩んでいる様子。

 風太郎、そこは断って良いんだぞ。

 しかし、寛容な嫁さん持つと大変だな。

 

「あ、セージ君。他人事みたいな顔してるけど、人数に入ってるからね」

「は?」

「私たちの旅行も兼ねてるから。ほら、前にまとまった休み取れるって話したでしょ」

 

 そういやそんな話し出たな。

 だから俺もそれに合わせて休み取ろうとは思ってたけど。

 てか、その時に俺は色々とこう。

 

「それなら行きたいとこ指差そ」

 

 そんなことを考えている間に四葉の提案で五つ子が同時に行きたい場所を指差すことになった。

 てか、この光景どっかで。

 

 

 

 

 

「長尾君」

「ん」

 

 呼んでいる声が聞こえる。

 

「もう、仕方ないな。セージ君、起きて」

「……んあ?」

 

 愛おしい人の声に目を開けると一番に視界に入ったのは一花、けど幼さがある。

 そしてその後ろには姉妹四人、四人の顔も幼い。

 

「誠司にしては珍しいな」

「……新婚旅行の話しはどうなった?」

「へ?!」

 

 俺の顔を覗き込んでいた一花の顔が一気に紅くなった。

 

「は? 結婚もしてないのにもう新婚旅行の話し? 頭がお花畑のようね」

「一花、セージともう結婚したの?」

「し、してないから! もう、セージ君寝ぼけてるね」

 

 俺はソファーから起き上がり周囲を見渡す。

 いつもの中野家のマンションだ。

 てことは、さっきのは夢?

 

「ほら、いつまで寝ぼけてないでさっさと決めるわよ」

「あ?」

「卒業旅行。フータローとセージが提案してくれたんでしょ」

 

 あー、そういや、これからそれぞれ違う進路行くから最後にどっか旅行しようって風太郎と決めたんだっけ。

 

「とりあえず、五人で指差ししよっか」

「俺と誠司の意見はないのか?」

 

 あれ? さっきも四葉がそう提案してたな。

 

「そ、そうだね。てか、もうセージ君が変な事言うから話しそれちゃったじゃん」

「え、あー、悪い」

「じゃあ、せーのでいきますよ」

「待て、五月。どうせ結果は」

 

 ん? てか、五人それぞれ指差しても。

 

「せーのっ」

 

 五本の指が差した場所。

 五つ子だっていうのにこの姉妹は。

 

「誠司」

「風太郎」

 

 俺と風太郎の視線が交わる。

 きっと俺も風太郎と同じ表情をしている。

 

「五つ子って」

「五つ子ってのは」

「めんどくせー」

「めんどうだな」

 




一応、原作本編の部分はこれで完結です。
ただ、もう少し続きます。今後はゲーム等の話で展開していきます。
もう少しお付き合いいただければ幸いです。
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