4-1
「や、おっはー」
翌日、俺はいつもと変わらない時間にいつもの通学路を歩いていた。
ただ、いつもと違うのは今日から冬服な事と有名コーヒーチェーンの飲み物を片手に一花がいた事だけ。
「よう」
「あれ? 冬服へのコメントなし?」
「それ聞くために待ってたのか? 教室で良いだろう」
彼女もまた今日から冬服、夏服の軽装さが少し減ってブレザーを羽織っている。
「一緒に登校しようと思って」
「……クラスのやつらに何言われるか」
「えー、普通にそこで会ったでいいじゃん」
女優ならもう少し自分の評判ってものを理解しておいてくれよ。
転入生という枠が外れても結構人気なんだぞ。
それに今だって通行人がちらほら一花を見ている。
「ま、教室じゃ話せないから待ってたんだ」
「……仕事のことか?」
思いつくとしたらそれしかない。
「うん。あの後、みんなに私の仕事のこと打ち明けたんだ。みんなビックリしてたな」
「そりゃそうだ」
「でも、スッキリした!」
その笑顔に俺の表情も緩む。
「風太郎は嫌な顔してたけどな」
帰り道に風太郎は一花が女優の方で勉強を疎かにしないかと心配事を口にしていた。
「大丈夫。留年しない程度には勉強頑張る。私も放課後参加するから。あ、でも仕事の都合でハッキリしない時もあるから……はい」
ポケットからスマホ出すと俺に差し出した。
意図がわからず俺はそのスマホをじーっと見つめる。
「連絡先! 交換しよってこと!」
「あー」
「もう、なんでこういう所は察し悪いかな」
「用件言わずにスマホだけ出されてもわからん。ま、交換については同意見だ。昨日の事もあるしな」
俺はスマホを取り出し連絡先を交換した。
「意外な組み合わせ……でも、ないのか?」
声に反応してそちらを向くと風太郎がいた。
「フータロー君、おっはー」
「風太郎。丁度良い。お前も交換しておけ」
「は? 交換?」
「だねー。家庭教師的には必要だよね。あ、他の子達のも必要だよね」
「あ? どういうことだ?」
「とりあえず学校向かいながら説明してやる」
そうして風太郎にも事情を説明し残りの姉妹達のは放課後に聞く事にした。
ちなみに一緒のクラスなんだから五月には休み時間にでも聞いておけと風太郎に言ったが、渋い顔をしていた。
「連絡先交換! 大賛成です!」
そして放課後、図書室で三玖と四葉、さらに一花も加わっての勉強会。
勉強を始める前に今朝の件を三玖と四葉に話すと四葉は大きく頷いた。
「その前にこれ終わらせちゃいますね」
そんな四葉の前には折り紙が広げられている。
「一応、聞くがなにやってんだ?」
「千羽鶴です! 友達の友達が入院したらしくて」
「勉強しろ!!」
と言いつつも風太郎は半分よこせと手伝い始めた。
何だかんだこういう所が風太郎の良い所だよな。
「俺も手伝おう。てか、友達の友達って四葉関係ないんじゃ」
「でも、頼まれちゃいましたから」
「お、中野いいところにいた。このノートをみんなの机に配っておいてくれ」
「はーい」
通りかかった教師の頼み事にも嫌な顔をせず引き受ける。
この間もそうだけど、四葉は断るという事を知っているのだろうか。
「んで? 風太郎は五月のアドレスをゲットできたのか?」
「ぐっ」
今朝、風太郎へと出した課題の確認をするが予想通りというか俺も期待はしてなかったけどさ。
「はぁ」
「いや、無理だろ! 教室でそんな事いきなり聞けるか?」
「まぁ、気持ちはわかる」
俺はちらりと一花を見る。
俺も教室で一花の連絡先を聞けと言われたら正直俺にも難しい。
唯一、風太郎よりそこまで険悪な関係でない事と席が隣同士な事でハードルは下げられるが風太郎と同じ条件なら俺も難しい。
今朝だって一緒に教室入ると鋭い視線が俺に向けられたからな。
「とりあえず、三玖。教えてくれ」
「うん」
俺はスマホを出すと三玖もスマホを出してスムーズに交換。
「ほら、風太郎も」
「あ、あぁ。そういや足は平気か?」
「も、もう痛くない」
風太郎の問いに三玖は少し照れた様子で答える。
「これでよし。五月と二乃は今度で良いだろ」
「おい、風太郎。逃げるな」
「その二人ならさっき見ましたよ。今のうちに聞きに行きましょう」
四葉は頼まれたノートを持って風太郎を二人の所まで案内してくれる様子。
「いや、なんでお前も行くんだよ!」
「早くしないと帰っちゃいますよ」
「お前、勉強する気ないだろ!」
「んじゃ、風太郎。俺の分もついでに聞いてきてくれ。えっとメモするもの。あ、これでいいか」
俺はカバンに入っている生徒手帳を風太郎に渡す。
「誠司は来ないのか? お前がいた方が五月と話しやすいんだが」
「いや、だって。俺まで行ったら二人教えられないだろ。それに四葉いるんだからどうにかなるだろ」
家庭教師二人揃って生徒を放っておく訳にもいかない為、俺は残って二人を見る方を選んだ。
「確かにその通りだが」
「上杉さん! 行きますよ!」
「……わかった」
「いってらー」
そうして風太郎と四葉を送り出し、俺も家庭教師をやるかと生徒二人の方を見る。
「よかったね」
「うん」
一花の言葉にスマホを見つめ嬉しそうに頷く三玖がいた。
なるほど。好きな人の連絡先は知りたいものだよな。
けど、そのきっかけを三玖から切り出すのは難しいって事で一花がってところか。
「お姉さんも大概お節介焼きだよな」
「そりゃ、可愛い妹の為だし」
とりあえず、今日から参加の一花から教えようと俺は彼女の隣に座る。
「つまり、俺はうまいこと使われた訳だ」
「そんな事ないって。連絡先知っておいた方が良いのは本当でしょ?」
「ま、妹の為に何かしてやりたい気持ちはわかる」
「あれ? もしかしてセージ君って」
「おら、雑談してると勉強する時間減る。まずは得意そうな数学から手をつけるぞ。風太郎の小テストで数学は良さそうだったからな」
と言ってもどんぐりの背比べみたいなもんだけど、それでも得意なものから手をつけさせれば多少やる気も出るだろう。
「うわ、ちょっとくらいお喋りも許さない感じ?」
「セージも結構スパルタ」
「正式に家庭教師に就任したからな。ほら、三玖達と比べて出遅れてるんだからさっさと始めるぞ。三玖、わからなかったらすぐ聞いてくれ」
「うん」
とりあえず一花はこの間の小テストでダメだった所からやっていくか。
俺は教科書で該当するページを開く。すると俺の二の腕が突っつかれる感覚に視線を向けると俺を見上げる一花がいた。
「先生、優しくしてね」
「……芝居の練習なら家でやれ。てか、やる気ないなら」
「ごめんごめん。ちょっとふざけすぎたね。よろしくお願いします。先生」
今度は本気で取りかかるようでシャーペンを持つ一花。
「たく。それじゃ、始めるぞ」
そうして俺達は勉強を始める。
それから時計の針がまもなく一周しそうという時間が経ったのだがまだ帰ってこない二人。
「遅いな」
「フータロー君、またあの二人に誤解されるような事してるんじゃ」
「否定できない」
過去の行いから俺も強く否定できない。
「……ちょっと様子見てくるわ。たしか学食とか言ってたよな。二人はそのまま続けてくれ。行き違いになるかもしれない」
俺は二人には勉強を続けてもらい図書室を出て学食へと向かう。
「あ、長尾君」
「げ、今度はあんた」
その途中で五月と二乃に遭遇、だけど風太郎達の姿は見えない。
「風太郎と四葉来なかったか?」
「来ましたよ。アドレス教えて欲しいとらいはちゃんを人質に取って」
「は?」
身内人質に取らないと交換出来ないってどういう事だ?
いや、それはもうどうでもいい。様子からして無事に聞き出せたみたいだしな。
「その後、風太郎達どこ行ったか知らないか?」
「あー、なんか四葉がバスケ部の人に呼び出されて部室練の方に向かったわね。あいつもそれ追いかけていった」
「そうか。ありがとうな」
バスケ部か。
また頼まれ事なんじゃ。
不安を抱え俺はとりあえず部室練の方へと向かった。
「バスケ部はたしか……て、風太郎」
「誠司、しっ」
壁に寄りかかりあぐらをかいてる腐れ縁は俺に向け静かにとジェスチャーする。
「バスケ部の皆さんが大変なのは重々承知の上ですが」
「ん?」
突き当たりから四葉の声が聞こえる。
確かここ曲がったらバスケ部の部室だったよな。
「放課後は大切な約束があるんです。もちろん、試合の助っ人ならいつでも」
「そっか。なら仕方ないね。せっかくの才能がもったいない気がするけどね」
話しを聞いてるとバスケ部は四葉を勧誘してそれを断ったって感じか。
なんだよ。断るって事も出来るんじゃないか。
今まで頼まれたら断れない彼女の姿しか知らなかったからきちんと断るという事も出来る事に少し安心した。
「才能がない私を応援してくれる人達がいるんです」
どうやら断る理由に風太郎が関与しているようだ。
その言葉に風太郎は照れくさいのか頭をかいていた。
問題なさそうだし、俺は戻るかな。
「風太郎、先に戻ってる」
「あ、あぁ」
そうして先に俺は戻り遅れて二人が戻ってきて五人での勉強会を再開。
その日を終えたのだが。
「あ、二乃と五月の連絡先」
家に帰って俺は風太郎に二人の連絡先を聞くのを忘れた事を思い出す。
そして風太郎に連絡すると風太郎も二乃に書いてもらおうと渡した生徒手帳を受け取るのを忘れた事に気付いたのだった。