「はー、式も終わったし、ついに卒業しちゃったんだね。私たち」
「なにをしみじみしているのかしら? あんたはまだ証書をもらえてないじゃない」
桜が満開、まさに門出に相応しい光景の中、卒業式を俺達は迎えた。
「絶対に合格するから大丈夫だもーん。ね? セージ君?」
ひとり、まだ卒業証書の入った筒を持っていない一花は俺にそう言ってきた。
「ま、このまま体調崩さずいけばな。と、それより! 一花、卒業式になにやってんだよ」
「えっと……私自身も驚いていると言いますか」
卒業は確定していないが、一花も式には参加した。
今じゃすっかり有名人な一花の卒業式参列に後輩や保護者達はざわついたが、学校側が事前に配慮してくれたからなのかあまり騒ぎにはならなかった。
問題はその一花自身。
「居眠りはまだいい。問題はあんな場所で脱ぎ癖発動すんな」
そう、この有名人は卒業式で居眠り、さらに例の脱ぎ癖をするという。
それにいち早く気付いた四葉達がどうにか阻止したが、一歩間違えたら大スクープ。
卒業といっても社会的に卒業の危機だった。
「家だけの癖だったろ」
「うーん、なんか四葉の手を握ってたらね。どうも安心できる環境だとそうなるみたいで。ほら、セージ君と一緒の時にも」
「ばか!」
俺は慌てて一花の口元を手で塞ぐが時すでに遅し。
「えっと。それは長尾君と二人の時にも一花はやるようになったと」
「つまり、セージと一緒の時も家感覚」
「言っとくけど、何もしてないからな。休憩がてらに昼寝させようと思ってだな。そしたら脱ぎ始めたから俺は部屋出て一花が起きるまで外で待機してたからな」
無理矢理起こすことも考えたが、疲れている一花を起こすのが忍びなく俺が取った行動はそれしかなかった。
「え、あんたその状況で何もしてないわけ」
「二乃、どうせ俺が手を出したところで同じように軽蔑した視線向けるだろうが」
「わかってるじゃない」
「手を出す……あわわ」
「誠司、その辺でやめてくれ」
色々とまだまだ四葉には早い話だったのか当事者以上に顔を紅くしている四葉の為に風太郎が止めに入った。
正直助かった。
「とにかくだ。卒業試験の件は誠司の言うとおり問題はないだろ」
「でも、一花、ますます忙しくなってるし。心配」
三玖の言う通り、一応卒業試験の日は空けているがその日以外は結構スケジュールがみっちり入っている。
「確かに。頼むぜ。卒業旅行が待ってるんだ」
「わかってるって。体調管理も女優の大事なお仕事だからね」
風太郎の言葉に拳を作って答える一花。
この調子なら大丈夫そうか。
「本当に卒業できたんですねー。やっと実感が湧いてきました。これも上杉さんと長尾さんのおかげです! ありがとうございました!」
「ありがと。フータロー、セージ」
「本当に、この学校に来て……フー君と長尾にも会えて、良かった」
四葉からの感謝の言葉から三玖、二乃と俺達二人に感謝の言葉が告げられる。
二乃に関しては涙まで浮かべている。
俺はその言葉と共に彼女達とこの学校で出会った時から今までを思い出す。
「おいおい、今生の別れみたいなことを言うなよ」
「風太郎の言う通りだ」
「ええ、これは別れではなく始まりですね。新しい場所へと巣立っていくのですから」
俺と風太郎は東京だけど、繋がりが消えるわけじゃない。
「巣立ちの前には卒業旅行! 楽しみだなぁ」
進路が決まり、卒業し四葉はすっかり浮かれモード。
「おう! プランはお前らが作ってくれるんだろ? 俺を満足させてくれる物なのかお手並み拝見だ」
卒業旅行、発案者ではあるがそのプランは中野姉妹に任せているため、俺達二人は当日まで詳細は知らない。
「さては、めちゃくちゃ楽しみにしてますね? 気持ちはわかりますよ」
「任せなさい。終わった頃には大満足してるはずよ」
「うん、ちょっと自信ある」
「ほほう、言ったな? 自らハードルあげるとは良い度胸だ」
「風太郎、課題ってわけじゃないだろ」
「そうそう。それに別に、フータロー君を満足させるとかそんな趣旨じゃないよね?」
「まったくです。上杉君らしいですが」
四葉もだが、風太郎もだいぶ浮かれているな。
この辺、似たもの同士だよな。
「おーい、風太郎! 記念写真撮っておくぞ!」
「誠司、勇也が撮ってくれるってさ。一花ちゃん達も。あ、マルオも来なさい!」
「まったく、そんなに騒がなくても聞こえている」
少し離れた場所で俺達の保護者達が俺達を待っている。
「よし、行くか」
「だな」
風太郎の一言で俺達は保護者達の元へと向かうのだが、チラリと一花を見た際、一花の両手がグッと握られたのが見えた。
俺達の手には卒業証書。だけど、一花の手にはまだそれはない。
俺は周りを見渡す。他の卒業生や見送る後輩達はそれぞれの事でこっちに見向きもしていない。
「一花」
「ん? え」
俺は一花の手を握る。
学校内でも俺と一花が付き合っている事を知っているのは限られている。
そもそも一花はずっと学校に来ていなかったから俺達がそんな関係になっているなんて思いもしていないだろう。
それでも大勢いる場では恋人らしいことは避けてきた。
だから俺の行動に一花は驚くのも無理はない。
「セージ君」
「大丈夫だ。絶対卒業できる。だから、心配すんな」
「……ずるいなぁ。君は」
そう言いつつも一花は俺の手を握り返す。その表情は子供みたいな笑顔だった。
そして卒業写真、そこには満開の五つ子の笑顔と少しぎこちない男二人の笑顔が収められた。
そんな卒業式から数日後。
俺は卒業した学校の門の前にいた。
そして校舎から制服姿の彼女が見えた。
彼女も俺の姿を確認すると駆け足でこっちに向かってくる。
段々と近寄ってくるが、足を止める気配がない。
「お、おい」
「やったよ!」
そのスピードのまま彼女は俺へと飛び込んできた。
俺は慌てて彼女の体を受け止める。
「おい! こんな所で抱きつくなっての!」
「大丈夫だよ。人いないし」
「はぁ、とにかく。おめでとう。一花」
「うん。これも先生のおかげだよ。ありがとう」
こうして、無事全員の卒業が決まり気兼ねなく俺達は卒業旅行へと行けるのだった。