家庭教師と友人A   作:灯火円

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「部屋もすごいな」

「あぁ、二人でもかなり広いぞ」

 

 夕食を終えてようやく滞在中の部屋へと俺と風太郎は踏み入れるが、男二人でもまだまだ余裕がある広さの部屋。

 そして窓からの眺めも良い。

 

「んじゃ、俺はらいは達の所に行ってくる」

 

 夕食後、らいはちゃんが自分達の部屋でお話がしたいと風太郎を誘った。

 なんとなくらいはちゃんの気遣いが見える。

 

「おう、何ならそのままそっちで寝てもいいぞ」

「な、何言ってやがる! そんなことするか」

 

 そう言って風太郎は部屋を出た。

 

「さて、とりあえずこいつだな」

 

 カバンからカメラを出す。

 まだ今日は数枚しか撮れていない写真達を見直そうとカメラを手にベッドに腰掛ける。

 

「やっぱ、空が青いな」

 

 同じ日本だけど、沖縄の空の色はやけに鮮やかに見える。

 思わず空の写真を何枚も撮っていた。

 

 コンコン。

 

「ん?」

 

 ノックする音に俺は一度カメラを置く。

 風太郎、なんか忘れてったか?

 そう思って俺は部屋の扉を開ける。

 

「はい」

「やっほー。来ちゃった」

 

 扉の前には風太郎ではなく一花がいた。

 

「一花、どうした?」

「もう、私がセージ君の部屋に来るのに理由がいる? 付き合ってるのに」

「あー、それもそうだな」

 

 それなら俺が一花の所に行くべきだったか?

 でも二乃がいるしな。俺が行ったら行ったで邪険に扱うのが目に見えている。

 

「丁度、風太郎は四葉達の所に行ってるから中入れよ」

「実はそれを知ってて来ました。それじゃ、お邪魔しまーす」

 

 一花を招き入れ、とりあえず一花をベッドに座らせる。

 

「なに? 写真見てたの?」

「まぁな。あまり今日は撮ってないけど」

 

 一花の視線が俺のカメラへと向けられ、俺は一花の隣に座り一花にも今日の写真達を見せる。

 

「今日はほとんど移動だったもんね」

「それでも、移動中のみんなの写真は撮れたからな」

 

 特に那覇空港からホテルまでは風太郎のテンションの高さもあってだいぶ面白いのがいくつか。

 

「観光地にあるあのパネルを全力で楽しんでるのはちょっと恥ずかしかったけど」

「そんな風太郎にしっかり付き合ってくれる四葉がいて助かる」

「セージ君、またフータロー君の保護者になってる」

「そういう一花だって四葉の保護者だったぞ」

「私は四葉のお姉ちゃんだからね」

 

 風太郎と四葉の写真を眺めつつ俺達はそんな会話をしていくが、写真を見終わると変な沈黙が生まれた。

 一花と二人きりなんてそれこそ慣れてるはずなのに、旅行という環境がいつも通りがわからなくなっている。

 

「あー、そうだ。二乃に何か言われなかったか?」

「どうして?」

 

 俺はそんな沈黙に堪えきれず適当に話題を出す。

 

「いや、二乃の事だ。嫌味のひとつでも言ってきそうだなって」

「はは、大丈夫だよ。普段、セージ君に小言多めなのは二乃なりに心配してるから」

「姉妹大好きだからな。中野姉妹の次女は」

 

 二乃とは変わらずの関係。それでも向けられる鋭い視線と言葉は以前のような敵対心はないのは俺もわかっている。

 

「二乃だけじゃなくて、みんなが私たちのお付き合いを応援してくれてる」

「だな。そこは有り難いことだ」

 

 俺に好意を抱いて告白してくれた五月含め、姉妹達は俺と一花の事を応援してくれているのは伝わってる。そして風太郎と四葉に対してもだ。

 

「それじゃ、この話はここまで。それよりね。ちょっと聞きたい事があるんだ」

「ん?」

「えっと、そのー……」

 

 聞きたい事があると言うが一花にしてはハッキリしない態度。

 

「セ、セージ君は明日が楽しみすぎて眠れなくなってたりしないかなーって」

「俺は風太郎かよ。今日は移動だけだったけど、飛行機やらで結構疲れてるからすぐ眠れると思うぞ」

「あはは、だよね」

 

 聞きたいことってそんな事か?

 どうも引っかかる。

 

「一花、それが聞きたいことか?」

「え? あ、うん。眠れないならお姉さんの添い寝でもと思ってね」

 

 添い寝って。

 それだと俺の理性が色々と試されるんだよな。

 少し前から俺と二人きりでもちょっと昼寝という状況でもあの脱ぎ癖が出るようになった訳だし。

 

「風太郎にそんな状況見られたくないんだが」

「ん? それだと見られなかったら良いのかな?」

「あのな」

「誠司、悪い。開けてくれ」

 

 すると扉の方から風太郎の声が聞こえた。

 どうやら四葉達との会話を終えて戻ってきたらしい。

 

「ん、一花来てたのか。あー、悪い。なら、俺はもう少し」

 

 そして部屋に一花がいる事に気付き、さすがの風太郎も察するようになったらしくまた部屋を出て行こうとする。

 

「あー、いいから。私もそろそろ退散しようと思ってたし。あ、でもフータロー君が四葉と一緒に寝る口実作りって事なら」

「べ、べつに俺は」

「一花、あんまからかってやるな」

「あははは、いやいや、初々しくてね。んじゃ、そろそろ本当に戻ろうかな」

 

 そうして一花は自分の部屋へと戻ろうとするのを俺は見送るため扉まで一緒についていく。

 

「寝坊すんなよ」

「もう、さすがの私も旅行中はそんな事ないから。それに、二乃がいるし」

「結局、目覚まし頼りか」

 

 そんないつもの会話をしつつ、一花の手が俺の手へと伸びる。

 

「楽しい旅行にしようね」

「あぁ」

 

 その言葉に頷き、俺は一花の手を握り返しながら空いているもう片方の手で一花の髪を撫でる。

 そしてゆっくりと手を離す。

 

「んじゃ、おやすみ」

「うん、おやすみセージ君。あ、フータロー君もおやすみ!」

 

 そうして一花は自分の部屋へと戻っていった。

 ただ、俺は少し一花の様子が気になった。

 聞きたい事ってのは本当にアレだけなのか。

 一花の場合俺の反応を楽しむためっていうのは否定出来ないけど。

 

「な、なぁ。誠司、お前に聞きたい事がある」

「ん?」

 

 そんな事を考えていると風太郎もまた俺に聞きたい事があると。

 それも風太郎の感じからかなり真剣な話しの気配。

 

「誠司から見て、俺と四葉はどう見える。率直な感想を聞かせてくれ」

「どうって。付き合ってる二人」

「それは恋人同士に見えるってことか?」

 

 そう言われると俺はすぐに頷けないところはあった。

 

「……正直に言って良いのか?」

「あぁ」

「恋人ってよりかは仲良い友達とかだな」

「やっぱりそうなのか」

 

 風太郎はわかりやすく落ち込みベッドへと倒れ込んだ。

 

「別にそういうカップルもいるだろ。付き合い方なんてそれぞれだろうしな」

「らいはと同じ事言うんだな」

 

 らいはちゃん、君は本当に小学生かい?

 人生二週目だったりするんじゃ。

 

「俺としては誠司達みたくだな」

「俺達みたいって。別に俺達だって」

「……自覚ないのか?」

「は?」

「さっきも俺から見たらだいぶ恋人らしいやり取りだった」

 

 さっきって。

 俺は風太郎が言う少し前の一花とのやり取りを思い浮かべる。

 手を繋ぎ、頭を撫でる。

 いや、恋人らしいって言われたらそうだけど。

 改めて言われて俺は今になって恥ずかしくなってきた。

 

「あ、あのくらいは普通だろ。風太郎達だって手くらいは繋いだことあるだろ」

「それは、そうだが……なぁ、それならその……キスはしたのか?!」

「は、はぁ?!」

 

 風太郎が伏せていた体を起こしたかと思えば突然の質問に俺は声が裏返る。

 なんだこの修学旅行の定番みたいな会話。

 

「いや、誠司達のことだ。すでにしてるか」

「勝手に解決すんなよ。てか、そういう風太郎はどうなんだよ」

「キス自体は……ある。だが、付き合ってからはまだ」

「ん?」

 

 それはつまり付き合う前にはキスをすませてあるという事か?

 

「なんだよ。未経験って訳じゃないなら」

「俺からはまだなんだよ! これまでのだっていつもあいつらが勝手に」

 

 あいつら?

 待て。俺はてっきり四葉とはすでに済ませていると思ったんだが。

 

「まさか、二乃や三玖」

「あ」

 

 風太郎はしまったとばかりの表情を見せた。

 さっきの話だとあっちからみたいだし、まだ四葉と付き合う前なら許されるか。

 

「その話は追求しないでおく。けど、難しく考えることないだろ。二人きりになってそれなりに良い雰囲気になれば自然とそうなる」

「誠司はそうだったのか」

「うっ……とにかく! どうせ旅行中なんていくらでも機会作れるだろ。頑張れ。んじゃ、俺は先にシャワー浴びるからな」

 

 俺はこれ以上会話を続けない為にもバスルームへと向かった。

 

「はぁ、まさか風太郎とこんな話をすることになるなんてな」

 

 数年前ならこんな会話なんてあり得ないと思ってただろう。

 それだけ風太郎も変わった証拠ではあるのだが。

 

「そっちの方も先生なんてやらないからな」

 

 俺だってむしろ教わりたいくらいだっての。

 そうして卒業旅行の一日目を終えた。

 

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