23-1
翌日、朝食会場に行くとすでに姉妹とらいはちゃんが勢揃い。
俺達男性陣が最後だった。
「一花は寝坊しなかったか」
「もう、大丈夫って昨日も言ったでしょ」
「てか、聞いてよ。一花のやつ私より早く起きてたのよ」
その二乃の言葉に朝食ビュッフェの焼きたてパンが思わず手から落ちた。
「台風、来てないよな?」
俺は外の天気を伺う。昨日と同じ綺麗な青空が広がっている。
「旅行中の天気はずっと快晴だよ。もう、セージ君も二乃と同じ反応する」
「いや、二乃と誠司の反応にもなる。あの一花だぞ?」
「えっと、一花さんは寝起き悪いんですか?」
そういや、まだらいはちゃんには一花の残念なところは知られてなかったな。
かつてのクラスメイト達も一花になんか幻想を抱いてたのを俺は思い出す。
「常に誰かに起こしてもらわないとダメなレベルよ」
「撮影でホテル暮らしの時は四葉がモーニングコールしてるくらい」
「それも結構大変なんだよね」
「しかし、そんな一花が一人で起きるなんて。やはり何か起こるのでは」
姉妹誰一人からもフォローされないほど、一花の寝起きの悪さは姉妹や俺と風太郎の間では周知の事実。
「みんなしてひどい。私だってそろそろ自立しなきゃって思ってるんだから」
「その心がけは偉いと思うぞ」
「でしょ?」
そんな賑やかな朝食を食べ終えて沖縄で一番の有名処ともいえる場所へと俺達は向かった。
「あっ! この門、本で見たことある!」
「これが守礼門ですね」
らいはちゃんも見たことがあると興奮気味なその門の名前を五月がさっと教える。
「そうそう。やっぱりまずはここだよね。沖縄に来たーって感じがするよ」
一花の言う通り、これを見るとまさに沖縄と言える。
俺は早速守礼門を一枚カメラに収める。
「ここが首里城の入り口なわけ?」
「そうだな。首里城の大手門に当たるものだし、そう思っても差し支えないだろ」
二乃の問いに風太郎が頷きながら説明すると大手門という言葉にらいはちゃんは首を傾げる。
「日本のお城の正門みたいなもの」
「さすがだな。三玖。じゃあ、守礼の意味はわかるか?」
「む……そっちはわかんない」
「守る門だから、誰も通さない門!みたいな意味?」
一花は字面だけでその意味を答えると俺の方を向く。俺に正解かどうか聞いているのがわかる。
「うーん、守礼という言葉自体は礼節を重んじるとかだからな」
「誠司の言うとおりだ。つまり、この守礼門は琉球という国は礼節を」
「え、えっとー」
「お兄ちゃんの話を聞いてると授業を受けてるような気分になるよ」
風太郎の解説に苦笑いを浮かべる四葉の横でらいはちゃんは率直な意見を風太郎に向ける。
「フータロー、家庭教師気分が抜けてない」
「せっかくの旅行なんだから難しい話は禁止で。いいわね。フー君」
「いやいや、こういう知識を得るのも旅の花だろ」
三玖やニ乃から不満だ出る中、一人だけ風太郎の話を楽しそうに聞いていた人物が一人。
「難しい話は苦手ですけど、私は上杉さんらしくて好きですよ!」
「ふっ。ふふ」
「え? 五月なんで笑ってるの?」
五月が笑っている理由がわからず首を傾げる四葉。
四葉以外はそれが惚気であるのを理解している。
しかし、家庭教師始めたばかりの時もそうだったけど、四葉って基本的に肯定的なんだよな。
そのおかげで風太郎も最後まで家庭教師をやり遂げられた部分が大きいだろう。
「ほ、ほら先へ進むぞ!」
その風太郎は照れくさくなったのか足早に先へと進む。
俺は色々と写真に撮りたいというのもあって必然と一番後ろを歩く事になるのだが、らいはちゃんと手を繋いではしゃいでいる四葉。
その二人の後ろをぴたりとついている風太郎。
そんな風太郎は四葉の方をチラチラと見ている。
「わっかりやすいなー」
「ん? 何が?」
五月達と先に歩いていた一花が足を止めて俺を待っていた。
「風太郎だよ」
そう言って視線を風太郎に向けると一花も俺の言葉の意味を理解した様子。
「初々しいね」
「まぁな」
手を繋ぎたいけど、きっかけがないと難しい感じが正に付き合いたてって感じ。
いや、付き合いたてとは言い難いか。もう数ヶ月は経ってるわけだし。
「そういうセージ君はそういう気持ちはないのかな?」
一花は俺の顔を覗き込むようにしてみる。
「ん? あー、悪い。ほったらかしにしたつもりはないんだが」
すぐに意図を理解した俺はカメラから手を離した。
カメラに夢中で一花に嫌な気持ちをさせたか。
「ううん。私も君の写真好きだからね。でも、セージ君の隣を歩きたいなって。ダメかな?」
首を傾げて俺にそう聞いてくる一花。
「ダメなわけあるか。てか、俺も落ち着いたら一花と話しながら歩こうと思ってたんだけど、悪かったな」
ここらかはカメラより一花だと俺は一花の隣へ歩み寄ると一花は満足そうに笑った。
「四葉さん、今のドラマのワンシーンみたいだった!」
「ニヤニヤさせてくれますね」
らいはちゃんと四葉がなにやら盛り上がっているのがわかる。
「ニヤニヤさせてもらうなら風太郎にさせてもらえ」
「へ」
「な」
その俺の一言に風太郎も四葉も顔を紅くして逆に距離を詰めずにいた。
そんな二人に俺も姉妹達もため息を漏らすのだった。
そして階段を上がりきるとそこには本殿が構えていた。
一般的な日本の城とはまた作りも文化も違うからか新鮮だ。
「お城って言われて思い浮かぶイメージとはかなり違うわね」
「えぇ、文化の違いを感じます」
「そもそも、日本の城にも色々なものがあるぞ。時代劇で出てくるいわゆる」
風太郎としては親切として説明しているのだろうけど、授業をしている空気に二乃が鋭い視線を向ける。
「うっ」
「ほら、せっかくこんな綺麗な建物の前にいるんだ。写真撮るぞ。風太郎、四葉と並べ」
「え?!」
「な、長尾さん?!」
こうでもしないと隣に行かなさそうだからな。
それにせっかくの旅行だ。
「はいはい。四葉もフータロー君も並ぶ並ぶ」
「お、おい」
「い、一花ぁ」
一花に押されてようやく二人が隣同士に並ぶ。
「んじゃ、撮るぞ……て、二人とも表情かたい!」
「んな事言われてもな」
「そ、そうですよ」
こういう時、北条さんなら上手くやれるんだよな。
その辺のスキルはまだまだ俺にはないものだ。
そもそも、これまでのモデルが一花だったからな。表情作りにほとんど困った事なかった事に今更気付く。
やっぱり女優なんだなと改めて思いつつこれもまた旅の思い出だとそのままの二人を写真に残した。
「つ、次は長尾さんと一花の番!」
「そ、そうだ! 俺が撮ってやるから並べ」
「そうきたか」
俺としては撮られるのは苦手なんだよな。
「それも良いけど、私はみんなでも撮りたいな。この旅行はみんなでの思い出作りだし」
俺の事を察した一花からの助け船。
やっぱりよくわかってくれている。
「あ、もちろん。セージ君とも撮るからよろしく」
と思ったが、結局退路は塞がれたか。
俺は一気にテンションが下がる。
「そんなに嫌?」
「あー、いや、一花の言う通り。思い出作りだもんな。うし、風太郎頼むぞ」
俺は風太郎にカメラを渡す。
伊達にカメラマンの息子じゃないからな。
「任せろ。って、誠司。表情が固いぞ。一花を見習え」
「このっ」
仕返しとばかりに指摘する風太郎だが、俺は反論する事も出来ずぎこちなく笑うしかなかった。
それから全員での写真も撮り、首里城を一通り見て終わり一度各々自由行動となった。
姉妹達は中にあるショップをらいはちゃんを連れて見て回ると言う。
俺と風太郎は外で少し休憩することに。
「土産か。店長に前田と武田……いや、あの二人は渡す機会がないか」
「へー、風太郎が家族以外にお土産とは」
以前ならそういう相手もいなかっただろうに。
「あいつら五つ子に会って変わったからな。最初の最悪の出会いをした頃はこんな風に卒業旅行するなんて夢にも思わなかった」
「だな」
「思い出か……」
「ん? なんか考え事か?」
四葉の事でまた頭を悩ませてるかと風太郎の様子を伺っていると急に風太郎は立ち上がった。
「沖縄旅行の記念に八人で共通の何か買わないか?」
「突然どうした?」
「いや、思い出作りにな。もちろん、誠司の写真も思い出を振り返るのに適している。だが、その、なんだ」
つまり、風太郎は思い出作りにお揃いの何かがあった方がより思い出になるのではという事か。
「……ま、写真とは別に持っていると良いかもな」
「だよな! けど、お揃いはやっぱり恥ずかしいか」
「発案者が恥ずかしがるな。ま、この後は国際通りだからな。お土産探すのには適した場所だ。そこで探してみよう」
「あぁ!」