家庭教師と友人A   作:灯火円

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「えっと、今日からお世話になります。改めてよろしくね。セージ君」

「お、おう」

 

 一花を招き入れ、とりあえず一花の荷物の整理が終わるまで俺はカメラに意識を集中させる。

 今日は色々と回って結構写真も撮れた。

 しかし、こう見ていくと俺も変わったな。

 前までは風景写真ばかりだったのに今は人物の写真と半々くらいの比率だ。

 

「よし、荷物の整理終わり」

「ん?」

 

 そうこうしているうちに一花の方も終わった様子。

 すでになんか荷物が散乱している気がするが、必要な物かもしれないから今はまだ何も言わないでおこう。

 

「えっと、とりあえずベッドメイキングでもしようかな? 私、長期撮影でホテル暮らしにも慣れてるからね」

「あー。それはホテルの人がやってくれてるから大丈夫そうだぞ?」

 

 連泊だけど、その日ごとにしっかり整えてくれているようで俺が帰ってきた時にはすでに整っていた。

 

「き、着替え手伝ってあげよっか? 部屋着の方が過ごしやすいもんね」

「な、何言ってんだよ。着替えくらいできるって」

「あははー、そりゃそうだよね」

 

 なんだ?

 いつものお姉さんモードか?

 

「それじゃ、逆に私の着替えを手伝ったりなんてことは……しないよね」

「わかってるなら言うなって」

 

 急に冷静になってるし。

 

「そ、そうだ! それじゃ、お風呂一緒に入る?」

「は?!」

 

 かと思えばまたとんでもない事を。

 

「今ならなんと特別にお姉さんが背中を流してあげちゃうサービス付き」

「一花」

「え、もしかして本当にご所望?!」

 

 んなわけあるか。

 

「ちょっと、ラウンジ行かないか?」

「へ?」

「いや、ここのラウンジからの夜景が綺麗だって二乃言ってたろ。まだ寝るには早いしどうかなって」

「あ、うん」

 

 というか、部屋だとどう過ごせばいいかわからなくて誘ったんだけどな。

 まだラウンジの方が人の目もあって逆に落ち着きそうだし。

 そうして俺達はラウンジのある階へと向かう。

 

「二名なんですけど」

「はい。そちらは中野様でしょうか?」

「え、あ、はい」

「姉妹の方も来ていますが、お席はお近くの方がよろしいでしょうか?」

「姉妹?」

 

 ウェイターがそっとその人物達の方に視線を向け、俺らも確認するとそこには四葉と風太郎がいた。

 これには俺も一花も正直驚きつつ、そのウェイターの申し出を断り二人と離れた場所の席に案内してもらった。

 

「まさか四葉とフータロー君が来てるとはね」

「らいはちゃんがいないところを見るに気を遣われたか」

「ははは」

 

 風太郎と四葉、らいはちゃんで同じ部屋のはずなのに二人だけでラウンジ。

 そもそもまだ小学生のらいはちゃんをここに連れてくるにはさすがにまだ早いもんな。

 俺達でさえ、まだ早いと思うほど大人な空気が流れている。

 

「とりあえず、乾杯でいいのかな?」

「だな」

 

 ノンアルのカクテルで俺達は乾杯する。

 

「てか、一花達ってここのホテル何度か使ってるのか? さっきもわざわざ確認しに来てくれたし」

「あー、多分お父さんだよ。よく使ってるホテルって聞いたしそれで気を利かせてくれたんじゃないかな」

 

 そういう事か。

 ホテルの部屋も多分先生の顔もあって用意してくれたのかもな。

 

「なるほど。やっぱ先生ってすごいんだな」

「ふふ、セージ君ってお父さんの事すっごい尊敬してるよね」

「そりゃ、六花の事ですっごい世話になったからな。ま、だからこそ一花達の父親だと知った時の衝撃が……はぁ」

 

 あの時は本当に先生に失礼な事を言った。

 いや、先生も先生で一花達をあまりにも放置というか先生なりに距離を測ってたとしてもあれはない。

 

「セージ君、あの頃は医者になろうとしてたもんね。そういえば、どうしてカメラの方に? あくまでも趣味みたいなもんだって言ってたのに」

 

 確かに。去年の今頃はまだそう思ってなかったからな。

 俺がカメラの道へと進むきっかけは。

 

「一花達だぞ」

「へ?」

「五つ子があまりにも絵になっててな。最初は花火大会。そっから林間学校、あと一花はクリスマスイブ。風景だけで良いと思ってたんだけどな。毛利さんにカメラ教えたり、一番決定打は修学旅行だ」

「え、あの時?」

 

 一花からしたら苦い思い出だろうな。

 

「ほら、誕生日プレゼントに風太郎と俺でアルバム贈ったろ。ま、俺は結局あまり撮れてなかったんだけどさ。それでも俺達のアルバムに一花達は喜んでくれて。それで悪くないなって思ったんだ」

 

 誰かの思い出を残すことができる。

 それが嬉しいと思ったんだ。

 そして仕事としてやってみたいと思って夏休みから北条さんのところで本格的に教わろうと東京へ。

 

「けど、一番のきっかけは……」

 

 俺は目の前にいる一花をジッと見る。

 

「え? 私? 何か言ったっけ? ただ私はセージ君の写真好きだなって」

「それがシンプルに効いたんだよ。俺、結構単純だからさ」

 

 京都の時だってそうだ。

 それまでそんなに興味を持っていなかったカメラに一花のひと言で気になり始めた。

 そして数年後にもまたその彼女の言葉に俺は背中押されたんだ。

 

「セージ君、そういうところあるよね。形から入ってみたり」

「どうせ単純だよ。俺は」

「拗ねない拗ねない。そういう所も好きだよ」

「そりゃ、どうも」

 

 少しむず痒い気持ちになりつついつもの一花とのやり取りに安心する。

 

「あ、四葉達戻るみたい」

 

 一花の言葉に身を潜めつつそちらを見ると随分と楽しげにラウンジを去る二人が見えた。

 

「俺らもこれ飲み終わったら戻るか」

「だね」

 

 そして俺達は風太郎達から少し遅れて部屋に戻り。お互い風呂に入りそのまま就寝となった。

 ラウンジでいつもの感じに戻ったと思ったが、現実は甘くはない。

 

 

「……」

 

 隣のベッドでは一花が寝ている。

 そう考えるとまた緊張が生まれ寝付けない自分がいた。

 一緒の部屋で寝るなんて林間学校の時もあったが、その時は風太郎や他の姉妹達いたからな。

 そもそもあの頃と俺達の関係性は変わったから比べても仕方ないんだけど。

 なんか飲むか。外に自販機あったよな。

 俺はベッドから出る。

 

「ん……セージ君?」

「あ」

「どこ行くの? 私に隠れて夜遊び?」

 

 一花がベッドから起き上がり、俺の方を見ているのが暗い部屋でもわかった。

 

「違うって。ちょっと飲み物をな。悪い。起こしたか」

「ううん、平気。そもそも起きてたんだ。疲れてるはずなのに、なんだか上手く眠れなくて」

「俺と同じか」

「あはは。あ、飲み物なら私が買ってきたお茶とか冷蔵庫にあるよ。まだ開けてないからそれ飲んでもいいよ」

「そうか? んじゃ、もらう」

 

 俺は部屋に備え付けてある冷蔵庫を開けると水とお茶、珈琲もあった。

 

「一花も飲むか?」

「うん。それじゃ、お水」

「わかった。俺はお茶もらう」

「どうぞ」

 

 俺は水とお茶のペットボトルを持って水をベッドに腰掛けている一花に渡し、俺も自分のベッドに腰掛ける。

 

「ここが家だったら蜂蜜入りのホットミルクでも出してあげるんだけどな。眠れない時の定番だもん」

「うちはココアだったな」

「そうなんだ。ま、今はないけど眠くなるまでお話しよっか」

「だな」

 

 体に水分を取り込み俺達はまたベッドに横になる。さっきまでは顔が見えなかったけど、今は互いに顔を見合わせる形。

 

「しかし、四葉達の為にこうも大胆に部屋割り変えるとはな」

「あー、四葉達の為もあるんだけどね。その、セージ君と一緒にいたいって私のワガママでもあるんだ」

「!」

「付き合うようになってからお互いそれなりに忙しかったでしょ? そりゃ、勉強見てくれる為に会ってはいたけどデートらしいデートもあまり出来てなかったし」

 

 学園祭後も一花との勉強会と俺のカメラの練習として会えてはいたけど、それはあくまで家庭教師と生徒、モデルとカメラマンの関係。

 デートも一花の仕事と俺の受験で多くはしてきていない。

 

「だからさ。せめて、この旅行中くらいは出来るだけ傍にいられるようにみんなにお願いしたんだ」

 

 考えてみればこの旅行が終わったら俺は上京する。

 これまで以上に一花と会う機会は減る。

 そう考えたら一花の行動はワガママなんかじゃない。

 

「ダメだな。俺は」

「セージ君?」

 

 俺はそっと一花の髪を撫でて笑いかける。

 

「一花、たくさん思い出作ろうな」

「……うん。くしゅんっ!」

「大丈夫か?」

 

 沖縄は暑くも寒くもないが、油断はできないからな。

 

「うん、大丈夫」

「寝不足で体調悪くしてもあれだからな。そろそろ寝るか」

「だね」

 

 さっきよりもだいぶ緊張も解け、俺はようやく眠りにつくことができた。

 

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