家庭教師と友人A   作:灯火円

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 そうして作戦会議が終わり、朝食を取ったあと。

 俺達は今日の観光地である海洋博公園に来ていた。

 海洋博公園、見所はやっぱり美ら海水族館、その名物でもある巨大な水槽の前に俺達はいた。

 

「すげぇな」

「写真で見た事あるが本当にデカい」

 

 俺と風太郎もその大きさに圧倒されていた。

 

「あ、ジンベエザメがこっち来た」

「うわぁ、すごい迫力!」

「圧巻ですね」

 

 三玖の言葉に三玖の視線の方を見るとジンベエザメの大きな体が。そして近づいてきたジンベエザメの迫力に一花は驚いて五月の腕に抱きついていた。

 

「この大きさはもう水槽じゃなくて海だよ!」

「確かに大きいけど、さすがに海は言い過ぎでしょ」

 

 四葉は大きな水槽を前に手を広げてその大きさを表現するとその横でニ乃は現実的なツッコミを入れていた。

 

「けど、その気持ちもわからなくはないけどな。こんな大きな水槽見た事なかったし四葉の気持ちもわかる」

「ですよね。上杉さん」

 

 昨日のラウンジで少しは距離を恋人らしくなってればと俺は四葉と風太郎のやり取りを横目で見守る。

 出来れば今朝の作戦は実行しないまま終われば良いと思ってるからな。

 

「この中にお魚何匹くらいいるんだろ?」

「よーし、数えてみましょう! 上杉さんもやりましょう!」

 

 らいはちゃんの疑問に四葉は全力で応えようと風太郎にも声をかける。

 

「いや、いくらなんでも無謀だろ」

 

 風太郎らしい返事ではあるが悪くないスタートでは?

 このままらいはちゃん含め三人で回れば。

 

「ねえ、フー君。他にも見どころは多いのよ」

 

 なんてそう簡単に行かないか。

 早速二乃が仕掛けてきた様子。

 

「熱帯魚の水槽もあるのよ。フー君、そっち行ってみましょう」

「ん?」

「フータロー、あっちに深海魚の展示あった」

「え」

 

 三玖まで参戦してきた。

 本当に容赦ないな。

 んで、四葉は。

 俺は視線を四葉へと移す。

 

「あ」

 

 戸惑った様子の四葉。突然の二乃も三玖の積極的な行動。

 さすがに気にするか。

 

「風太郎、どうすんだ?」

 

 俺はそれとなりにアシストする。

 

「いや、俺はどこでも」

 

 おいおい、そこは彼女優先しろよな。

 そんな風太郎に思わずため息がもれる。

 

「なら、熱帯魚行きましょう。フー君、ほら」

「待って二乃。フータローはまだどこ行くか決めてない」

 

 そうしてバチバチの二人。

 やっぱ二人本気だろ。

 一方四葉は二人の勢いにすっかり追いつけていない。

 すると一花が四葉の元へそっと近寄る。

 

「四葉、いいの? このままだと二人に先を超されちゃうよ」

「別に競争しているわけじゃないし。二乃や三玖に行きたいところがあるならそれで良いと思うよ」

 

 四葉の良い所であり、悪い所が出ている。

 自分よりも他人を優先してしまうのは素敵だとは思うが、さすがにこれはな。

 

「じゃあさ、四葉も提案したらフータロー君は誰を選ぶんだろうね?」

 

 そんな四葉の為に一花はちょっと踏み込む。

 

「ちょ、ちょっと待って一花! なんか違う話になってない?」

「そう? それほど違ってはないと思うけどな」

「だって、上杉さんは……」

 

 けど、そのおかげで四葉の意識も少し変わったか?

 

「フータロー君は、なに?」

 

 そして一花はさらに追い打ちを掛ける。

 

「私と……私と、あうううう」

 

 だが、どうやら色々と四葉のキャパがオーバーした様子でピタッと固まってしまった。

 

「一花、やり過ぎです!」

「あちゃあ、しまった」

「いい線まではいったとは思うが、攻めすぎだ」

 

 俺は軽く一花の頭を小突く。

 

「だって」

「おい、なんか見に行きたい所バラバラだから自由行動でいいか?」

 

 二乃と三玖に挟まれタジタジな風太郎からそう案が出された。

 

「あー、そうだな。またここで合流ってことにするか」

「よし、なら俺はあっちに行く」

 

 そう言って風太郎はそそくさとその場を離れた。

 

「あいつ、逃げたな」

「はぁ、前途多難だね」

「上手くいくのでしょうか」

 

 見守り組の俺達全員不安を抱きため息が漏れる。

 せめて四葉を連れて行けよな。

 そして自由行動となり、二乃と三玖は風太郎を追い。残されたらいはちゃんを四葉と五月が一緒に回ると行ってしまった。

 

「ところで、セージ君は行きたい場所あるの?」

 

 俺はというと一花と行動するわけだが、先に一花が俺に聞いてきた。

 

「ん? 気になってたのはこの大水槽だからな。特には」

 

 美ら海水族館の目玉の大水槽を見られただけでも俺は結構満足してるし、むしろまだ少し大水槽を眺めていたいくらい。

 けど、一花が行きたいところがあるならそれに合わせようと考えている。

 

「だったら、お姉さんが事前にリサーチしておいたとっておきの場所があるから、そこに行かない?」

「ほう、んじゃお姉さんについていきますか」

 

 そして一花に先導される形で俺はついていくと、一花は水族館に併設されているカフェへ。

 案内された席は丁度あの大水槽の前の席だった。

 

「やったね。こんな良い席に座れるなんて。私たち持ってるかも?」

「丁度、目の前だもんな。確かに一花の言う通りこれはとっておきだな」

「でっしょー? 調べた時、ここに座れたら最高だなって思ったんだけど、ホントにラッキーだよ」

 

 それから飲み物をそれぞれ頼み、物が来るまで大水槽を眺めている。

 魚の種類が豊富な事もあって飽きることはない。

 俺はカメラを構え、水槽の魚達を撮っていく。

 

「うーん」

「なに? あまり納得したの撮れてない?」

「まぁな。今まで水族館で写真撮ったことなかったからな」

 

 室内、それも薄暗いから上手く撮れる設定探すのに少し掛かりそうだな。

 て、カメラに夢中になりすぎてもダメだよな。

 首里城の事を思いだし俺は一度カメラを置き、水槽へと視線を向けるとヌッとなにかが現れた。

 

「うお」

「はは、驚きすぎだよ。マンタが通り過ぎただけだよ」

「いや、急に現れたら驚くだろ。てか、よく見たらマンタに似たやつもいるな?」

 

 魚に詳しいわけじゃないが、なんとなく違う種類なのはわかる。

 

「ん? 言われてみればそうだね。ちょっとスマホで調べてみる」

 

 一花はスッとスマホを取り出して調べる。

 

「ええっと、マンタは海の上のほうを泳いでプランクトンを食べるんだって。逆にエイは海底で貝とか食べてるみたい。外見でも見分けられるみたいだよ。ほら、比べた画像」

「どれどれ?」

 

 俺は少し体を乗り出し一花のスマホを覗き込む。

 

「あ」

「ん?」

 

 一花の声に視線をあげるとすぐそこに一花の顔があった。

 それこそ少し近づけばキスできる距離。

 

「っ! 悪い」

 

 キスしたい欲がない訳じゃないが、さすがにこの場所はダメだと俺はすぐに距離を離す。

 

「ううん、大丈夫。今更だけど、こういうの……私たち、付き合ってるんだなって感じだね」

「なんつーか。そろそろ慣れて良いはずなんだけどな。まだ照れくさいところあるな」

 

 むしろ恋人になる前の方が照れずに出来てた事もある。

 それは意識してなかったからこそなのかもだけど。

 

「ふふ、私も同じ。でも、このいつまでも慣れない感じも好きだよ。というか、いつまでも慣れない気がする。私のセージ君への気持ちは、いつまでも……」

「一花……」

 

 俺の体温がグッと高くなるのがわかる。

 きっと顔もめちゃくちゃ紅くなってる。

 

「なんて。ごめん。急に恥ずかしい事言い出しちゃった」

 

 恥ずかしいのは一花の方も同じで頬を赤らめている。

 

「お待たせしました」

 

 すると頼んでいた物が丁度運ばれ、俺たちの前に置かれる。

 

「ご注文は以上でお揃いですね。それでは、ごゆっくりお過ごし下さい」

「ありがとうございまーす」

「ありがとうございます」

 

 俺はアイスコーヒー、一花はカフェラテを頼んだけど一花のカフェラテには魚が浮かんでいた。

 

「ラテアートか」

 

 魚といっても本物の魚ではもちろんない。

 

「種類はわかんないけど、ちっちゃいお魚がいっぱいで可愛い。こういうおもてなしって嬉しくなっちゃうよね」

 

 魚というところが水族館の中にあるカフェらしい。

 

「そうだ。写真撮っとこ。あとでアップしたいし」

 

 そう言って一花は自分のスマホを取り出す。

 

「俺が撮ろうか?」

「ん?」

「SNSにあげるんだろ? なら、一花も写ってた方が良いんじゃないか?」

 

 一花がSNSを使っている事は修学旅行の時に知った。

 それから一花からそのアカウントを教えてもらったが、女優ということもあって仕事でのオフショットもあれば日常の何気ない物もアップしている。

 顔を売るためもあるだろうから一花も写った物の方が良いかと思って俺はそう提案したわけだ。

 

「うーん、いいよ。プライベートだし、こういう所に行きましたってのがわかるくらいで」

「そうなのか?」

「私の場合はね。人によっては自分も写したのアップする人もいるけど」

 

 そう言われてみれば仕事以外だと思われるやつには一花は顔を出してなかったかもしれない。

 

「それに面倒な人もいるからね。自撮りとかじゃないと誰が撮ったんだーとか」

「あー、なるほどな」

 

 もし俺が撮ったやつをあげたら騒ぐ奴はいそうだ。

 姉妹と来ましたって言えばいいが、それでも疑う人間はいるだろうからな。

 

「そういうことならわかった。てっきり、芸能関係の人はみんなそうしているんだと思ってた」

「ふーん、セージ君もやっぱりそういうの見てるんだ?」

 

 一花は写真を撮る手を止めて俺を見る。

 

「見てるつーか。北条さんの手伝いで知り合ったモデルさんとかのは一応チェックはしてる」

 

 モデルがどういう人か知る為の情報収集も大事だと北条さんに言われて俺も人並みにはそういうのを覗いている。

 

「あ、だからアカウントあったんだ。教えた時持っていて少し意外だったんだよね」

「ほぼ見る専用だけどな」

「前々から思ってたけど。それ。もったいないと思うんだよね。セージ君、写真撮るのにアップしてないんだもん」

 

 そう、俺のアカウントには未だに一つも写真とかは投稿はされていない。

 

「セージ君の写真、素敵なのに」

 

 あぁ、本当俺は単純だ。

 一花の言葉で少しはSNSにあげてもいいと思っている自分がいる。

 

「……考えとく」

「本当? やったね。そしたら一番にいいねするね。あ、でも、二人だけの思い出のやつはアップしないで二人だけのグルチャの方に送って欲しいかな」

「心配しなくても一花が写っているのはあげないって。そんなの見つかったら大変だろ」

「はぁ」

「なんだよ」

 

 一花はそういう心配があるからそう言ったのだと思ったけど、反応からするに違うらしい。

 

「君との思い出は他の人に見られたくないの。君と……私だけのモノにしたいから」

「っ」

「て、面倒くさい彼女だった?」

 

 どこか不安そうに俺を見て一花は聞いてくる。

 

「面倒くさいのは知ってるし、そういうの含め俺は好きになったんだ」

「っ……セージ君ってそういう大事な事はハッキリ言ってくれるよね」

 

 一花も照れたのか前髪をいじって視線を俺から水槽へとチラリと移す。

 

「どっかの誰かさんはどうも疑り深いみたいだからな。てか、結構恥ずかしいんだからな」

「えー、そういう風には見えないけど……あ、顔紅い」

「うっせ」

 

 ようやく引いたと思ったのにまた俺の体温は上がってしまった。

 そんな話をしつつ俺たちは水族館を楽しんだ。

 

 

「て、話し込んでたら風太郎が戻ってきたな」

「だね。私たちも行こうか」

 

 気付けば大水槽の前に風太郎が立っていた。

 会計を済ませて大水槽の方へと俺たちも向かうのだが、二乃と三玖も合流していた。

 そして風太郎は二人に挟まれてまた困惑している様子。

 

「おいおい、あのまま四葉と合流しないままかよ」

「さすがにお姉さんもここまでだと心配しちゃうな」

 

 四葉がいない事で二乃と三玖はかなり積極的になっていて二人は風太郎とどこかへと行こうとしていた。

 

「さすがに助けてやるか」

「あ、セージ君待って」

「ん?」

 

 見かねた俺が間に入ろうとしたが一花に止められた。すると風太郎の腕を取る四葉がいた。

 

「よ、四葉?!」

 

 風太郎もまさかの四葉の行動に驚きつつその顔は紅い。そしてその当人も顔を紅くしている。

 

「……あれ? あ、あの。ええっと……これは」

 

 本人も自分の行動に驚いている様子。

 それはそれで良い傾向だと思いながら俺は一花と足を止めて様子を伺う。 

 

「す、すみま」

「別にそのままでいいぞ」

「え?」

 

 腕を離そうとする四葉にそう言って引き止める風太郎。

 うんうん、えらいぞ。風太郎。

 

「お兄ちゃんと四葉さん、良い感じみたいだね」

「四葉がいきなり走り出した時は何事かと思いましたが」

 

 そこにらいはちゃんや五月も合流。

 俺たち同様にすぐに風太郎達の元には行かず様子を伺う。

 

「でも……その」

「変じゃないだろ。俺たちはその……付き合っているんだぞ」

 

 風太郎のその言葉に俺と一花は顔を見合わせて笑い合う。

 

「そう、なんですけど。でも、みんなもいますから、やっぱり……」

「俺は……別に構わないぞ」

 

 本当に風太郎か?と思うほど、風太郎は今とてつもなく彼氏らしい言動を取っている。

 

「まぁ、あれだ。お前が嫌じゃなければだけどな?」

「えっと……嫌では……ないです」

 

 さて、そろそろ合流しても良い頃合いかな。

 俺はちらりと一花に視線も向けると一花も同じようだった様子。

 

「やっほー。お待たせ」

「これでみんな集合したか」

「あ、えっと、そ、そうですね!」

 

 俺たちの登場で四葉はバッと風太郎から離れてしまった。

 さすがに大勢いる前じゃ無理か。

 俺だってみんなの前では一花とくっついたりしないもんな。

 

「そうだ! 記念品探しにミュージアムショップに行きましょう! いい記念品あればいいんですけど」

 

 四葉は率先して言い出すとショップの方へと向かう。それが恥ずかしさを誤魔化すための動きなのは誰が見てもわかること。

 

「あらら、良い雰囲気だと思ったんだけどな」

「一花、あれでも四葉からすれば頑張った方だろ」

 

 するとさっきまで風太郎に迫っていた二人が俺たちの方へ。

 

「そうね。少しは良い方向に四葉も動き始めたから良しとしましょう」

「うん、まさかあそこで四葉が来るとは思わなかった」

 

 四葉の成長を見守りつつ俺たちもショップの方へと向かう。

 

「ふぅ……」

 

 ふと、一花が少し震えているように見えた。

 

「一花、もしかして寒いのか?」

「え、あ、うん。ちょっとね。ほら、カフェ冷房きいてたから。でも、しばらくすれば大丈夫」

 

 そういや、さっきも温かい物頼んでたな。

 

「それならいいけどさ」

 

 気になりつつも俺たちは記念品探しへと向かう。

 

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