家庭教師と友人A   作:灯火円

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「遅い」

「風太郎、男と女じゃ準備に掛かる時間が違うだろうが」

 

 ホテルに戻った俺たちはさっさと準備を終えてビーチに。

 しばらく男二人で海を眺めつつ待っていると風太郎がぼそっとそう溢した。

 

「長尾君の言うとおりですよ。せっかちなのは嫌われますよ?」

「うおっ! いつの間に」

 

 振り返ると水着に着替えたらいはちゃん含め姉妹達も全員集合。

 

「お待たせ。セージ君」

「いや、大丈夫だ。待っている間はこいつで海撮ってたしな」

 

 海、それも沖縄の海はより透明度というか地元の海とは比べものにならない魅力があってすでに何枚も写真に収めていた。

 

「そっか。海もいいけど、こっちの景色も見て欲しいかな。ほら、水着どうかな? ちゃんと似合ってる?」

「ん? あぁ……似合ってるし、その、可愛いな」

 

 水着姿は一度見たことはあるが、今回はまたそれとは違う水着でこれはこれで似合っている。

 てか、改めて見るとやっぱり綺麗な体だ。

 

「あーあ、あっちは私らのことなんて忘れちゃって」

「セージと一花はまた私たちの存在忘れてる」

 

 あからさまに聞こえるように話す会話に俺は我に返る。

 

「忘れてないっての! 二乃達も水着似合ってるぞ」

「あんたからは別に感想求めてないわよ。フー君、水着どう?」

「え、あー、良いんじゃ無いか?」

 

 本当、二乃は風太郎以外の男の言葉には興味ないな。

 てか、また風太郎への攻撃を再開したか。

 となると四葉はどうするかな。

 俺は四葉へと視線を向ける。

 

「えっと、そろそろ泳がない?」

「四葉の言う通りですね。せっかく海に来たのですから」

 

 さっきまでは流されるままだった四葉だったけど、なんか頑張ってる気配。

 こりゃ、お姉さんのフォローのおかげか?

 

「泳ぐのもいいけど、アクティビティもここ充実してるんだ。まずはそっちとかどう?」

「あ! 一花に賛成! ここって色々できるんだよね。バナナボートとかパラセーリングとか。上杉さんと長尾さんは何か希望ありますか?」

「俺は何でも良いけど」

「俺も風太郎とおな……」

「バナナボート!」

「ん?」

 

 元気よく手を上げて意見を出したのは一花。

 なんかその言動が子供っぽくそれはそれで可愛いと思ってしまう俺がいる。

 

「まずはバナナボートがいいな。セージ君はどう?」

「ん? あぁ、面白そうだな」

「だよね!」

「私、バナナボートなんて初めて! 船に引っ張ってもらうんだよね?」

「そうですよ! らいはちゃん。スピード感あって楽しいと思いますよ!」

 

 四葉はそう言ってまさに今、バナナボートをやっている方を指差す。

 風太郎や他の姉妹達も反対の気配はないし、何よりらいはちゃんも乗りたそうだというのが決まり手。

 

「それじゃ、申し込みに行こう!」

 

 一花はそう言って真っ先に歩いて行く。

 さっきまではなんかぼーっとしてたけど、今は逆にハキハキしてるからさっきのは本当に考え事してただけなのかもしれない。

 

「バナナボート、団体用と二人用があるようですね。どうしましょうか」

 

 五月がプランを見せてくれてそれを見る。団体用なら一応八人全員で行けそうだな。

 

「はーい! 私、セージ君と二人で乗りたい!」

「え」

 

 一花はそう言うと俺の方へと体を寄せる。

 

「セージ君も私と一緒が良いよね?」

「あ、あぁ。そうだな」

 

 おそらく率先して俺と二人で乗る事で風太郎と四葉にも二人乗りへと自然に誘導するって感じか。

 

「素直でよろしい。というわけで、私はセージ君と二人で乗るね」

「ま、好きにすればいいんじゃない?」

「うん」

「一花達がそうなら、四葉と上杉君も二人乗りということですね」

 

 五月、ナイスアシストだ。

 そんな五月のアシストを二乃も三玖も邪魔する気配はなさそう。

 

「え、あー、上杉さんが良いなら」

「あ、俺はもちろん構わない」

 

 うんうん、悪くない流れだ。

 

「お許しも出たし。行こう。セージ君!」

「ちょ、引っ張るなって」

 

 俺は一花に引っ張られながら早速二人乗りのバナナボートの予約を済ませる。

 そしてバナナボートに乗って船である程度のところまで向かう。

 

「楽しみだね。セージ君。どれくらいスピード出るのかな?」

 

 俺の前に一花が座っているが、一花は俺の方を向きながら準備が整うのをワクワクしながら待っているのがわかる。

 

「結構なスピードには見えたけどな」

「セージ君はこういう系は得意?」

 

 一花は少し不安そうに俺に聞いてきた。

 

「苦手ではないな」

「そっか。苦手だったら悪い事したかなって思ったんだけど」

「それだったらハッキリ言う。かっこ悪いけどな」

 

 男としては怖がる姿はあまり見られたくないのはあるから、俺自身、この手のやつが苦手じゃなくてよかった。

 

「別にかっこ悪いとか思わないけどな。だって、どんな姿でも君のこと好きだし」

「っ」

 

 優しい微笑みを俺に向ける一花に俺は思わず照れて顔をそむける。

 実際、結構情けない姿は一花に見られてるのは事実ではある。

 そういう自分の弱いところを見せられるからこそ俺は一花に恋したのかもしれない。

 だが、それはそれとして面と向かって言われるとやっぱりハズい。

 

「あ、くるよ」

「お、おう」

 

 一花の言葉に前を向くとゆっくりと動き始める。

 だが、徐々に加速していく。

 

「結構速いな?!」

「あはは、セージ君慌てすぎ!」

「いや、見てた時になんとなく想像してたけど、実際は!」

「楽しいね!」

 

 でも驚いたのは最初だけ、慣れるとその疾走感と時々浮くような感覚が癖になる。

 

「ね、絶叫系とかってさ。叫びたくなるよね?」

「ん? あー、だな」

 

 これは絶叫系という部類になるかはわからないが、それに近い感覚はある。

 すると一花が大きく息を吸うのがわかった。

 

「セージくーん!! 大好き!!」

「な?! 一花! おまえ!」

 

 叫ぶとしてもなんつー事を。

 

「セージくーん! 愛してるよー!!」

「何言ってんだ!! こんな所で叫ぶ内容考えろ!!」

 

 出演する作品が世に出る度に知名度が上がっている女優だってのに。

 俺としては嬉しい言葉だけど、それは状況によるわけで俺は一花に物申す。

 

「えー、本当のことを言ってるだけだもーん!」

「だとしても、周りに」

「大丈夫だよ。浜辺から離れてるから誰にも聞こえないって」

 

 確かに結構距離はあるし、バナナボートを使用するからか遊泳客はもちろんいない。

 引っ張っている船の人にもこの距離なら聞こえはしないとは思うが。

 だとしても一花のこのテンションは色々おかしくなってないか?

 旅先だからハイになっているにしても。

 

「ほらほら、セージ君も」

「俺もかよ」

「はーやーくー! こんな時しか叫べないよ? あ、それとも普段から叫んでも問題ないなら」

「だあ! わかったよ!」

 

 この際だ。これも一花との思い出作りと割り切ってやる。

 

「一花が!! 大好きだー!!!」

「私も大好きー!! 世界で一番、大好きー!!」

 

 端から見ればバカップルでしかない。

 それでも一花が満足している事に俺自身も悪くないと思ってしまうのは惚れた弱みというやつだろう。

 そして俺たちはバナナボートを堪能し終えて浜へ戻る。

 

「楽しかったね!」

「楽しかったんだけど、なんか色々と削られた」

 

 あの後も散々叫んで戻ってきた時には我に返って羞恥心でやられていた。

 

「誠司、大丈夫か? もしかしてバナナボートって結構」

 

 戻ってきた俺の様子に風太郎はバナナボートにビビってる様子。

 

「ま、楽しんでこい。ほら、四葉が待ってるぞ」

「うっえすぎさーん!」

「あ、あぁ」

 

 風太郎と四葉を見送り俺はとりあえず、ひと休みと座り込む。

 

「セージ君、実は怖かった?」

 

 座り込んでいる俺の隣にピタリと座った一花は俺の顔を伺うように覗き込む。

 

「怖かったのは俺の馬鹿みたいなテンションだ。俺もあんな真似するとは」

「なにそれ。私は嬉しかったよ? あんなにたくさん好きって言ってくれて」

「普段の時でも言ってるつもりなんだけどな」

 

 もしかしたらそれだけじゃ一花は不安なのか?

 

「あー、別にそれが物足りないって訳じゃないよ。なんていうか、今はたくさん聞きたいって気持ちの方が強いってだけ。それに、私も……言いたいし」

「っ」

 

 あー、なんで一花はこうサラッとそういうのを言うかな。

 別にそれが嫌というわけじゃなくむしろ嬉しい。

 

「照れてる」

「言うな。てか、一花もだろうが、顔紅いぞ」

「え? そう?」

 

 本人自覚なしかよ。頬とか紅いっての。

 

 その後、全員がバナナボートを体験するとそれからは各々やりたい事をする事になった。

 俺はというといつものようにカメラを持って歩き回っていた。

 

「おーい、こっち向け」

「五月さん、三玖さん。誠司くんが撮ってくれるって」

「なら、らいはちゃん真ん中に」

「それじゃ、お願いします」

 

 海でぷかぷか浮いている三人をカメラに収める。

 さて、四葉と風太郎は。

 二人の写真もしっかり撮ってやらないと思って俺は海岸を見渡すが二人の姿は見つけられず。

 どこ行ったんだ?

 

「長尾さーん!」

「ん?」

 

 四葉の声にその声を探すと少し離れた場所、それも空からその声が聞こえた。

 

「パラセーリングか。て、風太郎もいつの間に」

 

 さっきのバナナボートと同じく引っ張る勢いを利用してパラシュートで空に上がるアクティビティに四葉と風太郎はいつの間にか申し込んでいた様子。

 なんだかんだしっかり二人で楽しめているようで何よりだ。

 

「おう! しっかり撮ってやるぞ!」

 

 俺はカメラをそちらに向けると四葉は片手をあげて手を振るが風太郎は強ばった様子の表情のまま写真に収められた。

 俺は一度、日陰になっているパラソルの下に行き、写真を確認する。

 

「ねぇ、セージ君。私たちも他のアクティビティやる?」

「ん?」

 

 一花がアクティビティの一覧が載っているパンフレット片手に俺の所へとやってきた。

 

「このシーカヤックなんていいかも。海の上でゆっくり散策できるんだって。あ、二人乗りあるよ」

「これってあれだよな。自分達で漕ぐやつだよな」

「うん。二人で息を合わせての共同作業。私たちにピッタリじゃないかな?」

 

 言い方。いや、わざとなんだろうけど。

 

「はぁ、フー君達とは違ってあんたらは旅行中ずっと二人で仲良しのようで」

 

 そこに休憩しに二乃も日陰へと座り込む。

 

「そうかなー? これくらい普通じゃない? ほら、フータロー君達が奥手過ぎるだけ」

「まぁ、風太郎と四葉と比べられたらそう見えるだろ」

 

 でも、これまで俺達もそんな恋人らしいデートはしてきていない。

 だから俺自身もかなりこの旅行で一花と一緒だなとは自覚はしている。

 

「そうだ! あれも乗ってみたかったんだよね。ジェットスキー。セージ君の後ろに乗せてよ」 

 

 そういや、ちらほらジェットスキー乗ってる人達を見掛けるな。

 

「いや、そもそも運転できねえから」

「なんで? セージ君もバイクの免許持ってるんでしょ?」

「え? あんたも持ってるの?」

 

 そういや、一花には話してたっけ。

 確か車の免許の話しになった時に俺や風太郎はバイクの免許あるから学科試験は免除されるってことを話題に出してそこで一花も俺が免許を持っている事を知ったんだっけな。

 

「風太郎が取るって聞いて俺も持ってて損はないかなって思ってな。て、バイクの免許あってもジェットスキーは別なんだよ。一花」

「そうなんだ。水上バイクっていうし、バイクの免許で大丈夫だと思ってた」

「あのなぁ……」

「ジェットスキーはダメか。じゃ、やっぱりカヤックかな。シュノーケリングも出来るみたいだけど、二人っきりで楽しめるのはカヤックだよね」

 

 二人っきりにやけにこだわるな。

 いや、二人の思い出作りをしたいとは言ってたけど、姉妹達と来ているわけで。

 普段の一花なら姉妹達の様子も気にして立ち回るんだけど、いや、四葉のことでだいぶ気を回してはいるけど。

 なんだかいつもと違う気がする。

 

「ちょっと」

 

 二乃が珍しく俺の方へと近寄ってきた。

 

「今日の一花、ちょっとおかしくない?」

「二乃もそう思うか?」

 

 姉妹である二乃もそう感じているとなるとやっぱり変だよな?

 俺はしっかり確認しようと一花を見る。

 

「ん? どうしたの? そんな熱い視線むけて。そんなに見つめられるとさすがに照れちゃう」

「すでにもう紅いって……ん?」

 

 そういや、一花ずっと顔紅くないか?

 

「一花」

 

 俺は一花の方へとグッと近づく。

 

「ちょ、セージ君。さすがに急だよ。お姉さんだって心の準備が」

 

 そんな一花の言葉に今は反応している暇はない。

 俺は一花の額に手を当てる。

 

「へ?」

「一花、お前……熱いぞ」

「ウソ?!」

 

 二乃も確認するように一花の額に触れる。

 

「確かに熱いわね」

「ええ? そうかな? きっと炎天下の所にいたからだよ。大丈夫」

「一花」

 

 俺は一花の名前を呼び、目をジッと見つめる。

 それだけできっと一花なら俺が言いたいことがわかるから。

 

「……ごめん。なら、ちょっとホテルに戻って体温測ってみる」

「あぁ。二乃、悪いが念のため更衣室まで一花に連れ添ってくれ。着替え終わったら俺がホテルまでついていくから」

 

 さすがに更衣室まで俺は入れないからな。

 

「わかったわ。行くわよ。一花」

「一人でも大丈夫なんだけどな」

「今のあんたの言葉は信用出来ないから」

 

 そうして一花を二乃に頼み、俺は近くにいた五月達に事情を説明し先に一花と一緒にホテルに戻ることにした。

 

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