「朝一番に行かなくても良いじゃないか?」
「いや、一刻も早く取り戻さなければならん」
翌日の早朝、登校前に俺は風太郎と共に中野家のマンションに来ていた。
「お前、まだあの写真入れてたの?」
「うっ……誠司はどうなんだ?」
「ま、俺もだけどさ。別に見られて困るもんじゃない。少し面倒だけど」
風太郎が必死になる理由。それは生徒手帳に写真を一枚入れているからだ。
小学校の修学旅行先の京都で撮ったある女の子とのツーショット写真。
何故そんな写真を入れているかというと風太郎が変わるきっかけとなった大事な人との写真で生徒手帳に入れるようになったのは俺の影響もある。
俺がある写真を生徒手帳に忍ばせているのを知った風太郎がマネしてそれは今も続いている。
「とりあえず、三玖には連絡入れて了承得ている」
「はいはい」
そうして俺達は朝の太陽が眩しい時間にお邪魔する。
「悪いな。朝早くに」
「ううん」
「あ、上杉さんと長尾さん。どうしたんですか?」
出迎えてくれた三玖に一言詫びて家に入ると四葉も起きていた。
「二乃に渡した俺と誠司の生徒手帳を取りに来た」
「二乃はまだ起きてきてない」
「なら、起こしてくる」
三玖の言葉に迷いもなく二乃の部屋へと入っていった風太郎。
「おい、風太郎。聞いちゃいない……良いのか?」
「別にいい」
俺は三玖に視線を送り聞くが彼女は特に気にしていない様子。
なんかズレてるんだよな。けど絶対面倒くさい事になるぞ。
そして案の定、数分後。
「信じられない!!」
リビングで二乃の声が響く。そして二乃の前には正座させられている風太郎。
「こんな朝早くから乙女の部屋に無断で入るなんて!」
「私が許可した」
「あんたに何の権利があるのよ! それにあんたもどうして」
二乃の鋭い視線が俺に向く。
「俺は一応良いのか?と三玖に聞いたぞ」
「それでも止めなさいよ!!」
完全にとばっちりが俺にも向けられている。
「またこの男は……長尾君も来てたんですか?」
そんな騒ぎで起きてきたのか五月が降りてきた。
「悪いな。朝早くから。こいつがどうしてもってな」
そう言って俺は風太郎に謝れという視線を送る。
どう見ても寝ている女性の部屋に入り込んだのはアウトだからな。
「……俺が悪かった。一刻も早く生徒手帳を返してほしかっただけなんだ」
「やけに素直ね。何かこれに隠してるんじゃないの?」
二乃は風太郎の生徒手帳を眺め何かあるのではと疑う。
そりゃ朝早く来た理由がわざわざ生徒手帳を取りにだもんな。何かあると考える方が妥当だ。
「朝から賑やかだね」
「一花」
「おっはー。セージ君、フータロー君」
最後に起きてきたと思いきやすでに制服に着替え身支度をすませていた一花がいた。
「二乃、昨日言ってたもの。ここに置いておくね」
そう言ってテーブルにある物を一花は置いた。
それはピアスを開ける機器だ。
「一人で出来る?」
「出来るって言ってるでしょ。バカにしないで」
そういや、一花はピアスしてるが他の姉妹はしてないな。
「初めてなら誰かにやってもらった方がいいぞ」
「だから一人で出来るわよ。あんたまで何よ」
そんな俺と二乃の会話の間に風太郎は生徒手帳へと手を伸す。
しかし、あと少しのところで二乃は風太郎の行動に気付いて生徒手帳を自分の方へと引いた。
「え?」
「……返して欲しかったら付いてきなさい」
そう言われたら風太郎もそうするしかなく、二乃と共に部屋と行ってしまった。
「まったく、慌ただしいですね」
「悪いな」
「あ、長尾君は彼の付き添いですから被害者では?」
五月の言うとおりではあるが、やはり朝から他人様の家に訪れるのは非常識だと思う。
「いつもと違った賑やかさで四葉は楽しいですけどね」
「うん」
三玖は別の意味で嬉しいだろうな。
二乃と風太郎が戻ってくる間に一花を除いた姉妹は自室へ戻って制服に着替えに行った。
「二乃、ピアス開けるのか?」
「うん、開けたいから買ってきてって頼まれたの」
すでに身支度を終えた一花に先ほどの事を聞く。
高校生とかだと興味持つ年頃だもんな。高校生になってピアス開けた知り合いは何人もいる。
「初めてだと一人でやる時、大変だけどな」
自分で開けるのは恐いからと頼まれた事もある。
そういや、二乃はピアッサー持って行ったな。自分では恐いから風太郎に開けてもらおうとしてるのか?
「そういえば、セージ君も開けてるよね」
そう言って一花は自分の左耳へと触れる。
「よく気付いたな」
一花の言う通り、俺の片耳にはピアスはつけてないが開いている。
「隣の席だしね。最初はちょっと意外って思ったんだけど、お母さんと話して納得しちゃった。あ、悪い意味じゃないよ」
「実際俺がピアス開けてもオシャレに興味持つ年頃か程度の認識だったからな」
若気の至りというか昔の俺の衝動的行動によって開けた。
今、つけてないのは面倒になっただけ。
「あれ? まだ上杉さんと二乃は戻ってないんですか?」
「そもそも二人っきりで大丈夫なのでしょうか?」
「!」
制服に着替えた四葉達の方が先に戻ってきた。
五月の言葉にそれまで落ち着いていた三玖がソワソワし始めている。
すると二乃の部屋の扉が開き出てきたのは二乃だけ。
「フータローと何してたの?」
「なんでもいいでしょ」
三玖の問位に詳しくは説明せず二乃はそのまま一花にピアッサーを返した。
「もういいの?」
「よく考えたら焦る必要はなかったわ。おあずけね。遅くとも。花嫁衣装を着るまであければいいわ」
結局、ピアスは開けずか。
てか、花嫁衣装の時につけておきたいのか?
「この写真見て見て」
すると二乃はテーブルに何かを広げた。どうやらアルバムのよう。
そして突然姉妹の思い出語りが始まる。
「セージ君も見る? ほら、この間は私がセージ君の写真見せてもらったし」
「なんでこいつに」
「二乃うるさい」
「長尾さん、これは私たち六年生の頃です」
「確か、京都の修学旅行の時ですね」
「ほー、京都か。俺も修学旅行は」
お言葉に甘えて俺も姉妹のアルバムを拝見しようとのぞき込む。
京都らしい写真の中、俺は一枚の写真に釘付けになる。
「これ」
そこには姉妹揃って写っている写真。ただ、今とは違い全員がロングヘアで白いワンピースを着て誰が誰なのかまったくわからない。
それよりも俺はこの少女を見た事があった。
何故ならこの少女が写った写真を持っている人物がこの姉妹の他にもいるから。そしてその人物はその写真の為にわざわざ朝早くからここに来た。
「そういえば、あんたの生徒手帳も返さなきゃ。ほら」
「あ、あぁ」
考え事をしているからか俺は二乃から渡された生徒手帳を上手く受け取れず、その広げられているアルバムの上へと落ちた。
それも手帳が開いた状態で。
「しま」
「なに? この子だれ?」
いち早く反応し拾ったのは俺に生徒手帳を渡そうとした人物。
その一声で姉妹の視線は自分達の思い出の写真から俺の生徒手帳へと移った。
「女の子」
「かわいい」
「お人形さんみたい!」
「良い笑顔で写ってますね」
自分達の写真以上に盛り上がる姉妹達。
これはどうするかなと考えているとガチャと上の階の扉が開いた。
「おい、返してやれ」
そこに遅れて風太郎が戻ってきた。状況を理解したのか険しい表情をしている。
「生徒手帳に写真入れるの流行ってるわけ?」
「誠司に返せ。二乃」
「風太郎」
二乃へと詰め寄ろうとする風太郎の間に俺は慌てて入る。
「な、なによ。あ、初恋の女の子の写真ってやつ?」
「二乃、返せ」
「っ」
風太郎の雰囲気に二乃は固まる。他の姉妹達もその空気に息を飲んでいるのがわかる。
いつぞやの睡眠薬の件に似た雰囲気。あれは俺のせいだが。
「あー、いや、風太郎良いって。言ったろ? 別に見られて困るもんじゃないって」
「誠司」
「残念ながら初恋の女の子という甘酸っぱい思い出の写真じゃない」
俺は少し、本当に少し。彼女達が違和感のない間を開ける。
その僅かな時間で俺は自分を落ち着かせる。
「俺の妹だ」
うん、大丈夫。
きちんといつも通りだ。
「なら、早く言いなさいよ。てか、あんたに妹いたのね」
そう言って二乃は俺に生徒手帳を返した。
俺はそれを受け取り久しぶりにその写真を眺める。
「花火大会の時、連れてきたら良かったのに。らいはちゃんもいましたし」
「あー、それは無理だ」
「なに? あんたの所は兄妹仲悪い訳?」
「えー、でも長尾さんは写真こうして持ち歩いてるくらいですよ?」
「他の用事あった?」
「ま、年頃の子だとお兄ちゃんより友達だよね」
話すつもりはなかったけど、これも何かの縁だろうな。
「おい、お前ら」
俺はまた風太郎を制止させる。
「亡くなってるんだ。四年前に」
色々と浮き彫りになっていく主人公周り。