家庭教師と友人A   作:灯火円

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「平熱より高いな。体もふらついてたろ」

「……うん」

 

 ホテルに戻り、体温を測ってみるとそれなりに熱があった。

 それに戻る途中で一花の体はふらついていたのも俺は見逃さなかった。

 

「病院」

「それは大丈夫。一晩寝れば良くなるよ」

 

 ベッドに寝かせた一花は首を振ってそう俺に言う。

 

「でもな」

「セージ君の心配もよくわかってる。でも、あまり大袈裟にしたくないんだ。せっかくの卒業旅行を壊したくない。って、もう遅いけど」

 

 俺がこの手の事に敏感なのを理解しつつも一花はせっかくの旅行を台無しにしたくないという想いの方が強い様子。

 本当なら病院でしっかり見てもらうべきなのは俺もわかってる。

 だけど、一花の気持ちもわからなくはない為悩んでしまう。

 

「はぁ……」

 

 コンコン

 

「ん?」

 

 部屋をノックする音、風太郎達かと思い俺は扉へと向かい開けるとそこにいたのは予想外の人。

 

「先生!」

「やぁ」

 

 そこにいたのは中野先生だった。

 何故、中野先生がいるのかわからないが俺はとりあえず部屋に通すと一花もまさかの人物にベッドから飛び起きそうになっていた。

 

「たまたま学会があってね。丁度、今チェックインしたら娘が体調崩したとホテルの人から聞いたのでね」

「あー、ごめんなさい」

「とりあえず、診ようか」

 

 そのひと言で中野先生は医者としての顔つきへと変わる。

 俺は少し離れた場所で診察を待つことにした。

 

「長尾君、もうこっちに来て問題ない」

「あ、はい」

 

 その言葉に俺は一花の元へと戻る。

 

「風邪の症状ではない。一花君の話を聞くかぎり過労と睡眠不足だろう」

「過労と睡眠不足」

「あー……」

 

 そういや、今朝も昨日も一花は早起きだったな。

 そして一花も心辺りはある様子。

 

「とにかく、ゆっくり体を休めることだ。熱も次第に下がるだろう」

「ありがとう。お父さん」

「食事はホテルの人に持ってくるように頼んでおこう。長尾君、あとはお願いしていいかな?」

「あ、はい! もちろんです!」

 

 先生はそう言うと椅子から立ち上がる。

 

「一花君、しっかり休めば最終日までには回復するはずだ」

「うん」

 

 そうして部屋を出て行く中野先生を俺は見送る為、一緒に部屋を出てエレベーターが来るのを待つ。その間、俺は先生に頭を下げた。

 

「先生、すみませんでした」

「謝罪される理由はないが?」

「だって、旅行中に大事な娘さんを」

 

 体調を崩す状態まで俺は気付いてやれてなかった。

 それが申し訳ないと同時に気付けなかった自分に憤りを感じていた。

 

「……一花君は旅行を楽しみにしていた。それでずいぶんと仕事も頑張っていたようでね。頑張ったあの子を褒めてやってくれ。きっと君からの言葉が一番効果的だろう」

「俺の、言葉」

 

 そうこうしているとエレベーターが到着した。

 

「何があったら連絡をしてくれ」

「あ。はい」

 

 そうしてエレベーターに乗った先生を俺は見送り部屋へと戻った。

 

 

「まさか、お父さんが来てるなんて」

「学会とは言ってたけどな」

 

 それならそれで事前に言ってくれたらいいのに。

 

「どうだろう? お父さんの事だからな」

「おいおい、いくら中野先生でも」

 

 まさか娘達を心配してわざわざ沖縄まで?

 いや、そんな。

 

「セージ君はまだまだお父さんの事わかってないね。とりあえず。四葉達に教えておいた方が良いかな」

「あ、俺がやっておくから一花は寝てろ」

 

 起き上がろうとする一花を寝かせて俺が代わりに連絡を入れる。

 とりあえず、心配しているであろうニ乃に連絡入れておくか。

 

「はぁ……お父さんにも迷惑掛けちゃったな」

「子供が親にそんな事考えるなよ。言ってたぞ。一花がこの旅行の為に仕事頑張ってたって」

 

 一花は俺の言葉にそっと視線をそらした。

 俺はいつものように一花の髪を撫でる。

 

「よく頑張った」

「っ……でも、旅行中に」

 

 一花の声が震えている。

 飄々としているようで責任感はしっかり持っている。

 台無しにしたと思ってるんだろうな。

 

「一日くらいゆっくりする日があってもいいだろ。むしろこれまで飛ばしすぎたくらいだぞ」

「……ありがと」

 

 そうして一花はそれからしばらくして眠りについた。

 それから少しして風太郎達が訪れた。

 あまり、大人数なのもあれだからと俺と風太郎は姉妹達に任せて俺は一度部屋を出て飲み物とかを買いにいくことに。

 

「それで、あいつらの親父さんが来てるって」

「あぁ、さっき会って一花を診てもらった」

 

 中野先生の話を聞いた様子の風太郎は俺に確認するように聞いてきた。

 そして俺の答えに青ざめる。

 

「マジか」

「学会って話だけど……」

 

 一花はそう思ってない様子だったな。

 一花の言う通りなら娘達を心配して来た訳だが。

 

「彼氏彼女って関係って知ってもらっててもまだ完璧に信頼されてないのかもな」

「知ってもらって……誠司、あの人に一花と付き合ってる事話したのか?!」

「うお、そんな驚く事か? て、まさか」

 

 風太郎の反応に俺はひとつ風太郎に確認する。

 

「風太郎、四葉と付き合ってる事は中野先生には話したのか?」

「……いや」

 

 マズいか?と焦った表情へと変わっていく風太郎。

 

「てか、誠司はいつ話したんだ?!」

「いつって、付き合ったその日に」

「……そういうもんなのか?」

「いや、俺はほら、昔から付き合いあったし、その……隠し事みたいなの嫌だったからさ。その日のうちに電話で。一花にも驚かれた」

 

 やっぱ、俺がおかしいのか?

 いや、でもどうせいつかは話すなら早い方がいいんじゃ。

 それに面識がない人ならともかく俺の場合は昔からの知り合いで家庭教師として雇われてた立場だったから。

 

「俺はもう少し四葉と関係が深くなったら話そうと思ってたんだが」

「それはそれで良いと思うけど。てか、先生も気付くんじゃないか? 二人が付き合ってるって」

 

 以前は過度な干渉はせず、というかあまりにも干渉しなさすぎて姉妹達が喧嘩している事すら知らなかった人だけど。

 最近は家に帰って一花達と一緒に食事するようになったみたいだし、何よりあの四葉だ。

 気付かれているとは思う。

 

「……そうか」

 

 風太郎は何か考えている様子。

 俺はその間に水やら必要そうなものを買う。

 そして買い終えて風太郎の元へと戻ると風太郎も丁度思考を終わらせた様子。

 

「誠司」

「ん?」

「俺もあの人に四葉と付き合ってる事を報告する!」

 

 先生が来ていると聞いてビビっていた風太郎はいなく、今は覚悟を決めた表情へと変わっていた。

 

「よく言った。けど、四葉にはしっかり話しとけよ。俺みたいに一人先走ったらあとで色々言われるぞ」

「わかってる。四葉だけじゃなくあいつらにも話すつもりだ」

「んじゃ、戻るか」

「あぁ」

 

 そうして俺たちは部屋へと戻る。

 

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