家庭教師と友人A   作:灯火円

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第25話 4日目~最終日
25-1


「一花の様子はどうですか?」

 

 翌日、一花の様子を見に四葉達が部屋を訪れた。

 

「昨日とは変わらず、意識はハッキリしてるんだけどな」

「大丈夫だよ。熱が高いわけじゃないしさ」

 

 ベッドの一花の頬はまだ紅く、熱も昨日と変わらず微熱。

 それでも外出はやめようと今朝、一花と話したばかり。

 

「それでも心配だよ!」

「ありがとう。四葉。今朝もお父さんに診てもらったから大丈夫だよ」

「う、来たのか」

 

 少しタイミングが違ってたら鉢合わせになってたよな。

 風太郎としてはそんなタイミングで会いたくないだろうから鉢合わせなくてよかった。

 

「それなら良いけど」

「パパが言うなら大丈夫だとは思うけど」

 

 三玖と二乃はそう言うけど、顔はまだ心配している顔だ。

 

「疲れが出ちゃっただけだから……みんなには黙ってたけど、ここのところ、お仕事をギリギリまで詰め込んじゃってたんだよね」

 

 よくよく考えれば現在売れっ子の一花がまとまった休みを取るなんて難しい。

 その為に一花は無理なスケジュールを頑張ってこなしてきたんだろう。

 そういう頑張ってる姿を隠す性格なのを俺も知ってたはずなんだけどなと撮影の合間に勉強していた一花の姿を俺は思い出していた。

 

「一週間のお休みをもらうのも大変でさ。いやぁ、売れっ子はつらいです」

 

 なんて一花はいつもの感じで話し、みんなに負担を掛けてないように話す。

 もちろんそんな一花の気遣いもこの場にいるみんなが気付いている。

 

「みんなが責任感じることないからね? 私ができると思ってやった結果なんだから」

「中野先生も今日ゆっくりすれば元気になるって言ってたからもう一日、お忙しかった大女優さまを休ませる」

 

 俺はポンっと一花の頭に手を置き改めて今日の一花のスケジュールを伝える。

 

「セージ君の言う通り。私はゆっくり休ませてもらうからみんなは予定通り観光してきて」

「……は?」

 

 その一花の言葉にあからさまな不満の声をあげたのは二乃だった。

 

「は?じゃなくて。ガンガラーの谷とかおきなわワールドとかみんな楽しみにしてたじゃん。あ、フータロー君はお父さんにビシっと決めてきてね。ほらほら、時間がもったいないから早く行っておいで」

「フー君はともかくとして。行くわけないでしょ」

「え?」

「一花を置いていけるわけない」

 

 三玖は首を振ると他の姉妹達も同意と言わんばかりに頷く。

 

「でもさ、倒れちゃったのは私の責任だし。ちゃんと自己管理できてたらこんなことにはならなかったんだよ?」

「あんたが悪いなんて誰も思ってないわ」

 

 二乃の言う通り。誰も一花が悪いなんて思っていない。

 でも、一花は一花で申し訳ないという表情を見せていた。

 

「これは私が悪いよ。だから気にしないで。せっかく沖縄まで来たんだからみんなで楽しんでおいでよ」

「ううん。一緒にいる」

 

 四葉は膝をつき、一花の傍を離れない構え。

 でも、四葉としては風太郎の事も心配だろう。

 

「一花の失敗も、一緒に行けない寂しさも……こういう時だって五等分ですよ」

 

 俺にも妹はいたけど、こういうのは五つ子だからこそなのかもなと思いつつ、一花が困っているのがわかった。

 姉妹達の心配も一花の気持ちもわかる。

 なら、俺に出来るのは。

 

「一花は俺に任せろ。てか、旅行中はずっと俺が近くにいたのに気付いてやれなかった俺の責任でもある」

「責任なんて言いだしたらみんな同じ」

 

 三玖の言う事も確かにその通りではある。

 ならば、俺のとっておきのカードを出すしかない。

 

「俺は一花の彼氏だ。彼氏らしい事させてくれ」

「はぁ……あんたのそういう所、ずるいわよね」

 

 二乃は降参といった様子でため息を吐くとその隣の三玖も似たような表情をし俺を見る。

 

「……わかった。セージに任せる」

「長尾さんが診てくれるなら安心ですしね」

「そうですね」

 

 とっておきのカードは効果抜群。

 うし、姉妹達の説得も完了とあとは。

 俺は風太郎へと視線を向ける。

 

「風太郎。しっかり決めてこいよ」

「あ、あぁ」

 

 今からすでに緊張しているけど。

 だが、決めるときは決めるやつだと信じている。

 

「みんな、心配かけてごめんね」

「謝る前に、体をちゃんと休めなさい。長尾の言う事を聞いて安静してるのよ?」

「うん、いってらっしゃい。フータロー君も頑張って」

「あぁ、一花はしっかり治せよ」

 

 そうして俺たちはみんなを見送り。少し騒がしかった部屋はまた静寂を取り戻した。

 

 

「欲しいものはあるか?」

 

 俺は一花が眠るすぐ横に椅子を持ってきて座ると一花に尋ねる。

 

「今は大丈夫」

「欲しくなったら言えよ」

「ありがと」

「と、あんま話しかけたら眠れないか」

 

 昨日よりは調子は良さそうだけど、まだ休んでなきゃいけないだろうからあまり話かけるのもダメだな。

 

「そんなことない。それよりセージ君、ごめん。せっかく沖縄まで」

「謝る事じゃない。それに、俺がしたくてしてる」

 

 これは一花を気遣ってとかじゃなくて俺の本心。

 

「……恋人だから?」

「……あぁ」

 

 一花の問いに俺は少し間を置いて頷いた。

 

「ふふ」

「笑うところか?」

 

 俺は少し照れくさくなり顔を少し窓へと向ける。

 

「ううん、嬉しくて思わずね。あ、でも、この状況で喜んじゃいけないよね。自己管理できてなかったんだから」

 

 視線を一花に戻すと落ち込んでいるのが目に見えていた。

 

「それは頑張りの結果だって」

「そうだとしても。反省はちゃんとしないと。地元と沖縄じゃ気候も違うし、体のバランスが崩れてもおかしくない。そういう事も考えられてなかった」

 

 確かにこの時期に海に入れる沖縄とじゃだいぶ気候は違う。

 けど、現地に着かないとわからない事があるのは俺だって同じだ。

 

「ただでさえ慣れない環境なのに。君と同室になって浮かれちゃって」

「浮かれてって」

 

 なるほど、妙なテンションはそれもあってか。

 

「いつも以上に生活リズム崩して無理に早起きしたりした。そういうのがよくなかったんだ」

 

 昨日の早起きもやっぱり無理してたか。そのうえ、ジョギングまでしたからな。

 

「昨日、変だって言われてたけどホントに変だったんだね。ずっとフワフワしててセージ君のことしか見えなくなってて」

「一花にしてはわがままだったよな」

 

 確かに。昨日は特にアレだった。

 なにかと俺と二人っきりになりたがってたし。

 嫌だったわけじゃないが、なんか一花らしくないなとは俺も感じていた。

 

「私、本当は結構わがままだよ? 」

「そうなのか?」

 

 俺はあまりそんな風に感じた事ないけど。

 

「花火大会とか修学旅行に退学しようとした時とか」

「いや、わがままか? 一花がやりたいことの為だろ? 修学旅行は俺が原因でもあるし」

 

 俺にとってはわがままでもなんでもないように思えるけど。

 

「けど、今回は結構わがままだったかもな」

「はぁ……今、思えば割と早い段階で体調がおかしくなり始めてたんだろうなぁ」

 

 熱に浮かされるとは言うが、一花はまさにその言葉通りだったのかもしれない。

 

「つまり、ずっと迷惑をかけてたってことだよね」

「迷惑なんかじゃないっての」

 

 朝から何度も見た一花の申し訳なさそうな表情に俺は一花の頭を撫でる。

 

「それでも反省しなくちゃ。もっと早く気がつければここまで悪くなる前に止まれたと思うし」

「はぁ、自分に厳しいのは良いけど、しっかり反省してるんだからいいだろう」

「だとしてもね……あーあ、情けないなぁ。なんか泣けてくるよ」

 

 その言葉通り、一花の声が少し震えているのがわかる。

 俺はそっと一花の前髪に触れる。

 

「昨日も言ったろ。頑張った結果。ちょっと頑張りすぎたけど、そのおかげで俺は一花と一週間沖縄で一緒にいられるんだ。俺は嬉しい」

 

 すると一花は俺の方へと寄りかかってきた。

 

「……ありがと。本当にセージ君は優しいなぁ」

「普通だろ」

 

 照れくさくなり、一花の前髪を指先で遊ぶと一花の表情が緩む。

 

「くすぐったいよ……ねぇ、今からでもみんなと一緒に観光しに」

 

 まだそんな事を言うのかと俺は呆れる。

 

「一花って、俺の言葉をきちんと聞いてないことあるよな」

「なにさ」

「俺は、一花と一緒にいられるのが嬉しいって少し前に言ったぞ」

「あ」

 

 外に行けなくても俺にとってこうして一花と長い時間一緒にいられるだけでも満足できる。

 ただでさえ、一花が忙しい身だからな。

 

「それに、俺が体調悪い人を目の前にして放っておけると思うか? ましてや恋人だぞ? だから、一花が元気になるまで傍にいる」

「うん……ありがと」

 

 けど、本当にそれだけしか俺にやる事はないんだよな。

 何か他にしてやれる事があればいいんだが。

 ふと俺はある事を思い出す。

 

「一花、手を出してくれ」

「え、こう?」

 

 布団から出された一花の手を俺は握る。

 

「へ? きゅ、急にどうしのさ。手なんか」

「中野家秘伝、良くなるおまじない。だろ?」

「あ……ふふ、今度はしっかり握ってくれるんだね」

 

 きっと一花は林間学校の事を思い出したんだろう。

 あの時は照れくさくって俺は指を握るだけしか出来なかったからな。

 

「嫌なら離すけど?」

「いじわる。嫌なわけないよ。これなら、すぐ良くなっちゃいそう」

 

 一花の手が俺の手をギュッと握る。

 俺はその握られた手に早く治れと気持ちだけでも送っていく。

 

「ずっとこうして……手を握っていてくれる?」

「あぁ」

 

 俺は少し強く手を握る。

 

「昔は、姉妹の誰かがこうしてくれてたけど、今は同じ事を君がしてくれてる。それが嬉しいんだ」

「なら、その役目はもう俺だけの役目だな。これから先、一花の傍にいるのは俺だ」

 

 と、自分で言っておきながら恥ずかしい事を言っている自覚もあってめちゃくちゃ熱い。

 

「顔、紅いよ」

「わかってる」

「でも、私も熱、上がっちゃいそう。あ、けど、それでセージ君がいつでも来てくれるなら体調崩すのも」

「そんな事言うと手を離すぞ」

 

 俺が大袈裟に手を離そうとするとそれを許さないと言わんばかりに俺の手をさらに強く握る一花。

 

「うぅ、冗談だって。本当はあまり体調崩すところセージ君には見てもらいたくないし」

 

 それはきっと俺を思っての言葉。

 俺がどうしても六花の事を思い出してしんどくなると一花は思っているから。

 

「そりゃ、元気であるのが一番だけどさ。別にそういう所、見せてもいいって。俺もそういう所、一花に見せるだろうし。そういうの全部含めて一緒にいたい」

「……もう、本当にこれ以上、熱上がらせないでよ」

 

 いつものお姉さんの余裕はすっかり消えてしまって終始照れている一花はなかなか貴重だ。

 

「とにかく、早起きとか生活改善は良い事だけど。急に全部やろうとするなよ。体を慣らしていけ」

「はーい。それじゃ、まだしばらくは自堕落な生活続けるかな。それまで私のお世話よろしくね」

「そこまで世話するとは言ってない」

「ちぇー、ダメか」

 

 軽口も言えるようになってきてるし、体調は少しずつ良くなっている気配を感じる。

 

「わかりました。慣れない事は少しずつ頑張って体調管理には気をつけまーす」

「それでよし」

「ふぅ……フータロー君、大丈夫かな? 四葉との交際、しっかり認めてもらえれば良いけど」

「あいつはやる時はやるやつだ。てか、他人の心配より自分のこと優先」

 

 こういう所はしっかり長女だよな。

 

「はーい」

 

 そんな会話をしつつ、一花は次第に眠りへとついた。

 俺はその間、手を離すことは無かった。

 

 

 

 

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