家庭教師と友人A   作:灯火円

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 それから数時間後、一花が目を覚ます。

 

「ふー、ひと眠りしたらかなり良くなったよ。もう起きても大丈夫そう」

 

 一花の言う通り、だいぶ顔色も良い。

 だけど、油断は禁物。

 

「まずは熱計るぞ。ベッドからはまだ出るな」

「はーい」

 

 俺は飲み物と体温計を一花に渡した。

 その際に握っていた手は離れ、俺は少しだけ寂しさを感じたのをテーブルに置いていたスマホに手を伸して誤魔化す。

 

「ん? 丁度、風太郎から連絡だ」

「あ、私の方には五月ちゃんから」

 

 俺たちはそれぞれ内容に目を通す。そして互いに顔を見合わせた後、笑い合った。

 

「どうやら、報告すんだようだな」

「だね。あ、今度は四葉からだ。えっと、お父さんにきちんと言ったよ。だって」

「てか、風太郎ひとりでって話じゃなかったのか?」

 

 俺達が報告を受けたのはは風太郎本人、四葉はまぁわかるが五月までってなると。

 

「大人しくしてるわけないからね。うちの子達」

「だろうな」

 

 結局、心配で見に行ったってところだろ。

 あの五つ子が大人しく観光するわけない。

 

「あ、また五月ちゃんから。四葉、頑張ってました。だって」

「ん? 風太郎じゃなくて四葉?」

「うーん、これはあとでじっくり聞かないとだね」

 

 そうこうしていると体温計がピピっとなる。

 一花はそれを見ると満面な笑みと体温計を俺に向けた。

 

「熱は下がったか」

 

 とりあえず、ひと安心だな。

 俺は風太郎の返信に一花の事も一緒に報告することに。

 

「あ、今度は二乃だ。えっと、こっちの事は心配しないで。長尾に甘えてなさい」

「あいつ」

 

 普段は俺に厳しいけど、こういう所あるよな。

 

「十分甘えさせてもらったけど」

 

 すると一花は手を俺に差し出した。

 どうやらまだ甘えたりない様子。

 俺は拒むことなく、差し出された手を握る。

 

「へへ、あ、三玖からだ。写真送ってきてくれた」

 

 一花のスマホを覗くと風太郎と四葉を撮った写真がそこにあった。

 

「一花が起きてるって知った途端、みんなして送り始めたな」

「報告ってのもあるけど、多分一緒に行けなかった私が寂しくないようにって。嬉しいことも五等分だから」

「……そっか」

 

 悲しい事も楽しい事も五人一緒。

 それは彼女達にとって足枷になっているかもしれないと思った時期もあった。

 でも、足枷になんて絶対にならないと今なら思える。

 

「……みんなさ。本当に良い子なんだ。私、みんなと姉妹で本当によかった。みんながいてくれてよかった」

「そうだな」

「みんながいてくれて、セージ君も傍にいてくれて……こんなの、なんだか怖くなるよ」

 

 俺が告白した時にも見せた一花の不安がまたこうして顔を出す。

 俺はベッドへと座り、一花の傍へと行くと握っていた手を引き、一花を抱き寄せた。

 

「え」

「知ってるか? ハグって幸福度が高まるって。俺は幸せだ。一花は?」

「……うん。私も幸せ」

 

 そう言って一花は俺の背中へと両手を回した。

 

「だから、不安になる必要なんてない」

「うん……ありがとう。セージ君」

 

 それからしばらく俺たちは抱き合う。

 多分、これからも一花はこうした不安を抱くだろう。

 その根本的な理由を俺はあえて聞きはしない。

 だけど、決めた事がある。

 不安を抱く度に俺が一花にその分、幸せを感じさせてやろうって。

 

「ほら、もうちょい寝てろ」

「えー」

  

 ゆっくりと体を離すと明らかに不満そうに声を上げる一花。

 

「明日も部屋で過ごしたいか?」

「それはそれで悪くないかも」

「一花」

「冗談。うん、もう少し寝るね。手、繋いでてくれる?」

 

 差し出された手を俺は握る。

 

「ゆっくり寝てろ」

「うん」

 

 そしてもう少しだけ一花を寝かせる。

 そのことを姉妹達に伝えると先ほどまで鳴り響いていた通知音は止まった。

 

 

 

「んー! もう元気いっぱい!」

 

 目を覚ました一花の顔色は良い。

 熱も下がったしベッドから出ても良さそうだから許可を出すと一花は軽く体を伸す。

 

「ありがとう。セージ君」

「大した事してないけどな」

「そんなことないよ。ずっと手を握ってくれたからこんなにすぐ良くなったんだよ」

「それは中野家秘伝のおまじないのおかげってことだ」

「ふふ、そうだね」

 

 今度、俺が体調崩した時にもやってもらうか。

 

「けど、もう少し安静にしとけよ。して欲しいことあるか?」

「うーん、何か食べたいかな。体調良くなって食欲が戻ってきたみたい」

「そういや、もうすぐ昼か」

 

 動いていないとはいえ俺も腹が減った。

 ホテルのレストランも考えたが、病み上がりだしな。

 

「なんか買ってくるか。食べたい物とかあるか?」

「うーん、思いつかないからセージ君に任せる」

「わかった。適当に買ってくる。なんかあったら連絡しろよ」

「はーい。セージ君がどんなの選んでくるか楽しみ」

「ハードル上げてくるな。んじゃ、行ってくる」

 

 俺はスマホと財布を手に部屋を出る。

 

「病み上がりだし、やっぱ消化良い物が良いよな。ん?」

 

 スマホが震えて確認するとまた風太郎からだ。

 

「四葉達が一花を心配しているから国際通りで食べ物何か買ってホテルに戻る。誠司達も食ってないなら一緒に……」

 

 そのまま観光してくればいいのに。

 けど、一花の事で観光どころじゃないか。

 

「てなると俺が行かなくていいか」

 

 俺は風太郎達に昼飯の調達をお願いするように返信して今さっき閉めたドアをまた開ける。

 

「ただいま。一花、飯の事だけど」

「へ?」

「え」

 

 俺の目の前にはシャツを脱ごうとしている一花がいた。

 そして綺麗なお腹が見える。

 

「えええええ!? ちょ、ちょ、なんで戻ってくるのさ!?」

「な、なんでってここは俺の部屋でもあって、じゃなくて! すまん!」

 

 俺は急いで後ろを向く。

 

「とりあえずバスルーム行って!」

「わ、わかった!」

 

 俺は言われるがままバスルームへと駆け込んだ。

 

「はあああぁ……まさか着替えてるとは」

 

 いや、これは事故だ。

 一花だって俺がすぐに帰ってくるとは思ってなかったから着替えてたわけだし。

 てか、あいつ。普段は茶化すくせしていざそういう状況になると慌てるよな。

 出会ったばかりの頃、裸で寝ている一花を初めて目の前にした時にからかった仕返しにやり返した時も慌ててたし。

 

「セージ君、もう出てきてもいいよ」

「あ、おう」

 

 だけど、とにかくまずは謝罪だよな。

 俺はバスルームを出て一花の前に行くとすぐさま頭を下げた。

 

「悪かった! まさか着替えてるとは思ってなくて」

「だ、大丈夫。そんなに必死に頭下げなくて良いから。それに恋人だし……ね。こういう事で騒いでるのも変じゃない?」

「それは……まぁ」

 

 今後を考えたらこれくらいで大騒ぎしていたらこの先が。

 て、そんな事を今は考えるな!

 

 コンコン

 

「え?」

「あ、もう戻ってきたか」

「どういう事?」

 

 そういえば、まだ一花に話してなかったな。

 

「風太郎達、飯買って戻ってくるってさっき連絡入ってな」

 

 そして俺は部屋の扉を開けると国際通りで仕入れてきた数々を手にした風太郎達がいた。

 

「そのまま観光してれば良かったのに」

「やはり、一花の事が心配で」

「それに沖縄ならここでも楽しめるよ!」

「え?」

 

 四葉は持っていた袋を一花に見せる。

 

「今日は予定を変更して部屋でゆっくり沖縄グルメを堪能する」

「色々買ってきたわよ。あ、食欲なくても食べられそうなのは買ってきたわ。フルーツとかもあるし」

 

 三玖とニ乃がテーブルをベッドの近くにまで持ってきて買ってきたものを並べ始めた。

 確かに。総菜からご飯物。デザートのスイーツに新鮮そうなフルーツもある。

 

「ううん! むしろめっちゃお腹空いてる! 景気づけにガッツリ食べちゃうから」

「病み上がりだからガッツリはやめろ。でも、俺も腹が減った」

 

 目の前の料理に俺の腹は急激に空腹を訴え始めた。

 

「なら、早速食べるか」

「だね。食べながらフータロー君達がどうやってお父さんを説得したか聞かせてよ」

「う」

 

 風太郎は明らかに目線を上へと逸らす。

 どうやら風太郎的には決められなかった様子だな。

 そうして沖縄グルメを堪能しつつ、俺たちは風太郎と中野先生の事を聞かせてもらう事に。

 予想通りというか、四葉が風太郎と先生の前に出て風太郎が好きだとハッキリと告げた事で無事に報告は済んだという。

 

「四葉、エラい!」

「一花、苦しいよー」

 

 一花は四葉を抱きしめて頭を撫でてる横で風太郎はどこか複雑な表情。

 

「けど、しっかり報告は出来たんだから良いだろ」

「これで少しは良好な関係になれば良いんだが」

 

 交際認めてくれたって事はそれなりに風太郎を認めてるとは思うんだけど、先生は不器用だからな。

 

「そういえば、四葉さん。かき氷買ってたよね?」

「あー! そうでした!」

「あはは、もう水になっちゃってるんじゃない?」

「やめた方が良いって言ったのに」

「うー、三玖、もっと強く止めてよ」

 

 案の定、四葉の手には溶けて甘い飲み物となったものがあった。

 

「せめて凍らせたフルーツにすればよかったのでは?」

「へー、そんなのも売ってるんだ。沖縄ってフルーツが豊富だもんね」

「パイナップルなら買ってあるわよ。食べる?」

「食べる食べる」

 

 そうしてわちゃわちゃと話しながら昼飯を食べる光景に俺はしばらく出番のなかったカメラを向ける。

 沖縄らしい海の景色ではないけれど、これはこれで綺麗な一枚だ。

 昼食後、しばらくみんなでお喋りをしていたが、一花のことを考えまた部屋には俺と一花だけに。

 そして夕方頃、先生が部屋へとやってきた。

 

「もう、大丈夫そうだ。明日また出歩いても問題ないだろう」

「やった」

 

 先生からのお許しも出て俺も安心するが油断はいけない。

 

「けど、あんまはしゃぐなよ」

「長尾君の言う通り。激しい運動は控えるように」

「はーい」

 

 けど、明日はまた沖縄を回れそうで良かったと俺も表情が緩む。

 

「それじゃ、私は夜の便で帰るから君達はゆっくり楽しみなさい」

 

 昨日来てもう帰るのか。

 先生も大変だな。

 

「ありがとう。お父さん」

「先生、ホテルとか色々ありがとうございます」

「娘を心配するのは親の務めだ。長尾君、見送りは結構だ。一花君の傍にいてあげなさい」

 

 そう言って先生は部屋をあとにした。

 

「先生、本当に忙しいよな。学会で昨日来て今日にはもう帰るって」

「あー、五月ちゃんが江端さんに確認したら。学会なんて予定なかったらしいよ」

「え」

 

 つまり、先生はマジで娘達が心配でわざわざ沖縄まで来たって事か。

 

「先生、本当に不器用だな」

「だね。昔は放任主義とか思ってたけど。でも、今ならお父さんがしっかり私たちを見てくれてるってわかる」

「……そっか」

 

 関係が変わったのは俺と一花だけでなく、先生達の間にも変化は確実にあった。

 それも良い方向に。

 

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