「ねぇ、本当に今日はこっちで良かったの?」
翌日、無事に体調が良くなった一花も合流しての五日目。
この日は本来のスケジュールなら海水浴なのだけど、俺たちはウミカジテラスという場所に来ていた。
「いいんですよ。一花はまだ大事を取った方がいいでしょうし、みんなで決めたことなんですから」
「一花は気にしすぎなのよ」
「つーか、別に一花に気を遣っただけでここに来た訳じゃないぞ?」
「え? そうなの?」
風太郎の言葉は一花を気遣った言葉ではなく、ここに来る目的はしっかりと俺達にはあった。
何故ならまだやり残している課題を俺達はクリアしていないから。
「記念品探し。まだ決めてないだろ?」
「あ、そうだった。確かに海水浴どころじゃなかったよ」
その為に今日はのんびりと海水浴という訳にもいかない。
明日の午前中には飛行機に乗るから残されたのは今日だけ。
その為、予定を変更した訳だ。
ここには色々なお店があるから、何かしら見つけられるはず。
「よーし、なら気合い入れて探そう!」
昨日まで体調を崩していたとは思えないくらい元気ある姿に俺はホッとしつつ、記念品探しへと歩き出す。
「良かったな。一花が元気になって」
「あぁ、今日もあれだったらさすがに一花もアレだろうから良かった」
前を歩く五つ子とらいはちゃんを眺めつつ、俺の視線は楽しそうな一花に自然と向く。
一方で風太郎は四葉を見ているのがわかった。
優しい眼差し、風太郎がこんな眼差しを向ける日が来るなんてな。
「ん?」
そんな事を思いながら何気なく動かした視線の先に俺はある店の物に興味を引いた。
「誠司?」
「悪い。ちょっとここ覗く」
「ん? おう」
そうして風太郎も俺に付き合って店へと入り、商品を見て回る。すると風太郎と俺は互いに見合わせ笑う。
「誠司、良いかもしれないな」
「だな。よし、一花達にも聞いてみるぞ」
俺達は店を出て一花達の姿を探す。
「お、いたいた」
「セージ君、おかえり。ん? その表情だと何か見つけた?」
「上杉さんも自信ありげな表情です」
「ふふ、とりあえず見てもらった方が良い。お前ら、こっちだ!」
「わーい! 楽しみです!」
風太郎も記念品には自信があるようでさっきの店へと案内する。
「相当自信あるみたいだね」
「俺としては悪くないとは思ってる」
「それは楽しみ」
俺と一花は少し遅れて俺達が気に入った店へと向かった。
一花達もその記念品を気に入り、無事にそれを購入しあとの時間はのんびりと俺達は過ごす事になった訳だが。
「どこ行く?」
「そうですね」
「あっちに気になったお店あったのよね」
どうせ意見はまとまらないのは目に見えている。
「なら、ここでも自由行動にするか」
風太郎もさすがにもう慣れた展開とばかりに提案すると俺含めてみんなが頷いた。
「あ、あの、上杉さん。一緒に行きたいところがあるんですけど」
いち早く動いたのは四葉。
そんな四葉の行動に二乃と三玖はどうするのかと俺は見ていると二人の表情は穏やかでそっとその場をあとにする。
「あの様子だと四葉への課題もクリアできそうだね」
俺の視線の先を見て一花も二乃達と同じ穏やかな表情で四葉と風太郎へと視線を向ける。
「課題って。勝手にあいつらが決めた事だけどな。んで、一花は行きたいところあるか?」
「うーん、特にはないかな。こうして外に出歩けるだけで結構満足しちゃってる。あ、でもここフォトスポットも有名なんだよ。セージ君が気に入るところもあるかも」
「なら、案内してくれ」
あまり活躍していないカメラを手に一花に頼むと「お姉さんに任せて」といつもの調子で俺を案内してくれた。
「確かに、映えポイントだな」
「セージ君にはあまり興味ない所かもね」
明らかに狙った場所。俺としてはあまり惹かれるところはないが。
「一花、そこ立って」
「え、あ、うん」
一花がいたらまた違う。
俺がカメラを向けると一花は慣れた感じでポーズを決める。それも一枚撮り終えるごとにだ。
この辺の呼吸の合わせ方は半年間、俺が一花と練習してきた積み重ねの代物だ。
「どんな感じ?」
「ほら」
撮り終わると一花は駆けよってきて撮った物を覗き込む。
「どうだ?」
「うん、良い感じ。けど、セージ君も一緒に」
「あれって、中野一花じゃね?」
「やっぱそうだよね。なにかの撮影かな?」
そんな会話に俺達は固まる。だが、すぐにその場を離れる。
とりあえず、人通りが少ない所に入り、様子を伺う。
追いかけてくる人はいないみたいだ。
「ごめん」
そう言って一花はカバンから変装用の眼鏡を取り出しすぐにそれを掛ける。
「いや、これまで気付かれなかったから俺も油断してた」
むしろこれまで変装無しで気付かれてなかったのは奇跡だった。
いや、気付いてても声をあげてなかった可能性もあるが。
「あ、一花達いたよ」
その声に振り返ると三玖がいた。
そして続いて五月や二乃、らいはちゃんも。
「大丈夫ですか?」
「さっき、中野一花を見掛けたって会話聞いて探してたのよ」
「一花さん、やっぱり有名人なんですね」
「あー、ごめんね。みんなにまた心配掛けちゃったね」
「良いわよ。それにこういう事態も想定して事前にこうなったら姉妹で出来るだけ集まるって話でしょ」
どうやら、すでに対策は考えていたらしい。
二乃の言う通り、俺と二人きりで見掛けられるよりか姉妹達と一緒の方が家族旅行だと思われて下手に声掛けられないかもしれない。
「セージと一花には悪いけど、ここからは」
「構わないって。一花の事が優先だ」
「うん、仕方ないよね」
そうしてそれからは風太郎と四葉を除いた六人で行動しつつ、観光を楽しんだ。
風太郎達と合流すると何だか二人に甘い空気が流れていたのはきっと気のせいではない。
というか、あいつらわかりやすすぎ。
そしてホテルに戻り、夕食を済ませると明日帰る為の荷造りをするのだけど。
「あー、片付いた」
「ごめんね。手伝わせちゃって」
「数日でしっかり部屋を散らかして」
俺の荷造りは早々に終えたけど、一花の方が一苦労だった。
「これでも気をつけてはいたんだけどね」
「ま、実際の一花の部屋に比べたらマシだけどな」
「でしょ?」
「胸張るところじゃないっての」
とりあえず、片付いた荷物を部屋の隅に置く。
「あ、そうだ。この部屋からの眺めも今夜でお別れだし、じっくり見ておかない?」
そう言って一花は部屋のカーテンを開ける。
「それもそうだな。高い部屋だから夜景も綺麗だしな。ただ、街の明かりで星があまり見えないのは残念だけど」
「……星か」
一花の隣で俺は窓から見える夜景にカメラを向ける。
そんな俺の横で一花何か考えている様子。
「ねぇ、セージ君って。私が初恋なんだよね?」
「っ……いきなりなんだよ」
俺は思わず構えていたカメラを下ろして一花を見ると一花も自分が初恋の相手だと言ったもんだからか顔が紅い。
「うーんと再確認?みたいな」
「なんだそれ……まぁ、初恋だとは思う。けど、言ったと思うけど、初恋の相手だと知らないまま俺は一花を……その、いつの間にか好きになったからな。つまり、二度、恋をしたって感じだ」
自分で言っていてめちゃくちゃ恥ずかしくて俺は外に視線を向ける。
「てか、そういう一花はどうなんだよ? いつから俺の事」
好きだとは言われたけど、それがいつからだったのか俺も知らない。
一花の場合、最初から俺への距離感おかしかったし。
「うーん、あの時にはもう好きだったのかもって瞬間はあるよ」
「いつだよ?」
「……君と始めて夜を過ごした時」
「は?!」
いや、変な意味じゃないってのはわかってるんだが、思わず反応してしまった。
「思えば、あの一夜の出来事から私の心は君に惹かれてたのかも……なんてね」
女優スキル全開、けど、わざとらしく演技だってのがわかる言い回しの一花に俺は冷静になる。
「またそうやって俺をからかいやがって」
「あはは、でも、セージ君と過ごす夜は特別な事が多いと思うんだ」
振り返れば確かに。
俺達が初めて出会った時、花火大会、林間学校。
俺がダメになった時に一花と話したのも夜。
キスだって。告白した時も夜だったな。
「でもね。二人でこうやって過ごす夜が特別から、いつか当たり前になる日が来るのかな」
「一花?」
俺は思わず一花を見ると夜景に向いていた一花の視線も俺へと向けられた。
その目を俺はよく知っている。一花が何か強い決意をしている時に見せるもの。
「私ね。東京に行くつもりなんだ。女優として、もっと大きくなるために」
「東京……そうか」
驚くことはなかった。
一花ならそうするだろうと俺もどこかで思っていたから。
「今すぐにってわけじゃないんだけど。絶対に行くって決めてるから」
「……わかった。俺も応援する」
「セージ君なら、そう言ってくれるって思ってた。君はいつだって私の背中を押してくれるから」
一花はそう言うけど、俺は背中を押したとは思っていない。
いつだって一花の中で答えはもう決まっていて、俺はただそれを応援しているだけだから。
「あとね。もう一つだけ聞いてくれる?」
「ん?」
どうやらまだ一花は何か決意しているものがある様子。
少しまた間を置いたあと、一花の口が開く。
「その時は、君と一緒に暮らしていいよね?」
「あ」
もしかして旅行中、変な感じになっていたのは熱だけじゃなくてこの事もあったんじゃ。
「たく……一花」
「ん? え」
俺は一花を引き寄せ、返事の代わりとでも言うようにキスをした。
数秒のあと、俺はゆっくりと離すと一花は俺の胸に顔を埋める。
「いきなりすぎ」
「なら、また一花にひと言断った方がいいか?」
「うーん、それは違うかな」
そう言って照れて俺の胸にぐりぐりと頭を押しつける一花の髪をそっと撫でる。
「とにかくだ。一足先にあっちで待ってる」
「……うん。絶対、そっち行くから」
すると一花の顔が上がり視線がぶつかると一花がそっと背伸びするのがわかり、俺もそれに応えるように少し顔を下に向けると一花の方から俺へと唇を重ねてきた。
そうして沖縄の最後の夜、俺達は少し先の未来の話をした。