「えっと、気にすんなよ。別に地雷ってわけじゃないからさ」
あの後、案の定その場の空気が凍った。それからすぐに姉妹達全員から謝罪を受けたが、謝られる事じゃない。
そしてどこか重い空気の中、俺達は登校時間を迎えた。
通学路でも変わらない空気に俺はたまらず言葉を掛ける。
「ごめんなさい。長尾君、私が最初に花火大会に妹さん連れてきたらなんて」
「いや、どっちにしろ他の誰かが色々聞いてきただろ。それに俺もお母さんの事聞いたわけだし」
「ですが」
「はい、この話は終わり。てか、忘れてないよな? もうすぐアレが」
俺は話題を変えようとあと今後に控えている事について触れる。
「あー、林間学校だ」
「楽しみ」
「あ、知っていますか? 林間学校のキャンプファイヤーで」
一花の言葉に三玖や四葉が反応する。そしてそんな三人に風太郎もまた反応するのだが、風太郎の反応は三人とは対称的。
「試験は眼中にないってか? 頼もしいな」
「うわ、上杉さんが鬼の目に」
「あー、でたでた。勉強バカ」
「二乃! 五月! いい加減お前らは勉強会に参加しろ!」
「嫌よ!」
「あなたにだけは教わりません」
そう言って二乃と五月は先に行ってしまった。そして気付けばいつもの騒がしさに戻って俺は小さく息を吐いた。
「二乃も五月ちゃんも頑固だね」
「……ありがとうな」
「え」
俺は前を歩く一花の隣に行き礼を言うと彼女は二乃達に向けた視線を俺へと移した。
「話題、変えてくれてさ」
「え、あー」
「……まさか、本気で中間試験の事忘れてた訳じゃ」
「忘れてない。忘れてない。大丈夫」
結構周り見えて空気読めるんだよな。 けど、一瞬でも一花に感謝したのは間違いだったか?
「ね、もう一回写真見せて?」
「ん? 別にいいけど」
もう見られてしまったし俺は躊躇う事なく生徒手帳を出して一花に渡す。
「写真、折り曲げるの抵抗ないの?」
L版の写真だと折り曲げないと生徒手帳には入らない為、そうしているのだが一花は写真が可哀想と言って取り出した。
「おい、出す」
「あれ? 隣にいるのって」
妹が写っている方を出していたから折り曲げていた隠れてた面には二乃や他の姉妹は気付かなくて安心していたんだけどな。
折り曲げていた面を見て一花は足を止め、俺を凝視する。
「お察しの通り、俺だよ」
「……眼鏡掛けてる」
妹の隣には眼鏡を掛けてまるで某推理マンガの探偵のように顎に手を添えて立っている少年が一人。
紛れもなくそれは俺なのだけど、俺が眼鏡掛けた姿なんか見た事ないからそりゃ驚くよな。
「目、悪いんだ?」
「……いや、それは伊達眼鏡。別に目は悪くない」
「え?」
どうしてと言いたげに俺を見ている一花。
俺はさっさと前を歩く風太郎に合流しようと思ったが、ここで下手に誤魔化せばまた面倒そうだ。
「……眼鏡掛ければ、頭良くなるって思ってたんだよ」
「……ぷ」
少しの間のあとに聞こえたのは一花から漏れた声。
「あー、存分に笑えばいいさ! バカな子供だと!」
「そんな事は思ってないって。ただ、かわいいなーって」
慰めのつもりなのか俺の背中を叩いてそういう彼女。
「痛い子供なだけだろ」
「小学生ならかわいいって。はい、ありがとう」
一花はそう言ってもう一度写真を生徒手帳に戻すと俺に返した。
「そういえば、妹ちゃんの名前は?」
「あー、六花。雪が降る日に生まれてさ。雪の結晶の別称の六つの花から取って六花」
気付けばいつもの会話の延長線のように妹の事を聞いてきた一花。
妹の事を知ると腫れ物のように扱う人達がいる中で新鮮だ。
彼女も身近な人を亡くしているから変に気遣われるのが逆効果になる事も知っているのかもしれない。
「六花ちゃんか。かわいいね」
「あぁ、きっと成長したらもっと可愛くなってた」
「妹溺愛しているのはフータロー君だけじゃなかったか」
「なんだよ。それなら一花もだろ」
そうして俺達は顔を見合わせると自然と頬を緩ませた。
こうして六花の事を家族や風太郎以外に話せたのはいつぶりだろう。
それが妙に俺は嬉しかった。