それはそれとしてあの五人の写真見る限り、やっぱりあの子だよな。
五年前、京都で出会った彼女。風太郎も姉妹も気付いていない様子。
だが、あの五人の中の誰かなのかは俺もわからない。
姉妹達に聞けばすぐにわかるんだろうけど。
【俺はさ。医者になって六花の病気治すんだ。だから、めちゃくちゃ勉強してる。医者になるにはたくさん勉強しなきゃいけないからな】
【すごい。もう、なりたいものあるんだ。きっと君ならなれるよ!】
「……幻滅されるよな」
「そうですよ。上杉君には幻滅です」
「!」
声にハッとして顔を上げると五月がふくれっ面でいた。
「ただ馬鹿なだけなんだ。事実かもしれませんがハッキリ言うなんて」
「事実なんだから良いだろう」
「私は長尾君と話しているんです。あなたとではありません」
五月に勉強を教える為に放課後誘って図書室に来ていた。
家庭教師の依頼は五人を卒業させる事、現状風太郎を避けている五月は俺が担当している。
風太郎と顔を会わせたくない為、一花や四葉、三玖がいる机から少し離れた場所で教えていたのだが、また風太郎はやらかした様子。
少しは距離詰めたかと思ったらこれだもんな。
さらに二乃とも何かあったようで風太郎の頬は紅葉が咲いていた。
「風太郎、しばらくこっちに首突っ込むな。勉強に集中できない」
「誠司、お前まで」
「中間試験が近い。時間が惜しいだろう」
「ぐっ……そうだな」
試験は一週間後、正直厳しい所だ。
やる気を出してくれてるのは救いだが放課後だけじゃ時間は足らないだろう。
やる気のない二乃の問題が解決してないのが一番の問題ではあるが、今は二乃を説得する時間すらも惜しいのが現状だ。
「長尾君、ここは」
「あー、そこはだな」
そう、時間が惜しい。
だから、今は余計な悩みに頭を悩ませている暇はないんだ。
そうして下校時間ギリギリまで俺達は勉強し昇降口を出る。
「あー、疲れた!」
「一刻も早く帰りたい……」
試験前という事もあってか俺達以外にもギリギリまで学校に残って勉強している生徒達がぞろぞろと下校していく。
部活も試験前は休みで普段は下校時間になってもグラウンドは賑やかだがこの期間は静かだ。
「さっき誠司も言ってたが、時間が足りない。週末でどこまで詰められるか」
「だな」
さっきも言ったが時間が足りない。
自分なら食事中や寝る時間を削るパターンもあるが、正直この姉妹にそれをさせたくない。
そうなると放課後と週末で出来るだけ効率よく勉強できる方法を。
「ふぅ」
「ぐあああ!」
左耳に温かい息が掛かり俺は思わず声を上げてその左耳を抑える。そしてその原因へと視線を向ける。
「一花、お前な」
「そんなに根詰めなくて良いんじゃない? 中間試験で退学になるわけじゃないじゃん」
俺が抗議しようとする前に一花は俺にそう言ってきた。
「そりゃそうだが」
「私たちも頑張るからさっ。じっくり付き合ってよ」
こんな風に言われるって事は態度に出てたか?
言われてみれば条件は卒業させる事、最終的なゴールはここな訳だからそこから逆算するべきだったよな。
どうやら焦っていて本来のゴール地点を忘れていたな。
少し頭が落ち着いたからか今後の方針が明確になってきた。
「風太郎、今回は基礎を徹底的に固めよう。何事も基礎が大事だしな」
「そうだな」
風太郎も納得してくれたしこれで今回の中間試験での目的ははっきりした。
「あ、ご褒美くれるんだったらもっと頑張れるけどね」
「あ、駅前のフルーツパフェがいいです!」
「私は抹茶パフェ」
「そうですね。私は」
いつの間にかパフェを食べに行く流れへとなっている。
一刻も早く帰りたいとか言ってたはずなんだが?
「上杉さん! 長尾さん! 早くしないと置いてっちゃいますよ」
夕暮れの太陽を背に俺と風太郎の方を振り返る四人の姿は綺麗で俺は手元にカメラがない事を悔やんだ。
やっぱりこの姉妹は良い画になるんだよな。
「ん?」
そんな事を考えていたらポケットが震える。出して画面を見るとバイト先からだ。
試験前は学業優先だからと休みにしてくれているんだが。
「はい」
『すまない。長尾くん。急なんだが今からと明日と出てもらえるか?』
話しを聞くとパートさんのお子さんが熱を出してしまって急遽早退する事に。
代わりを見つけようとしたが、急な事ですぐに連絡が取れなく仕方なく最後に俺の所に電話してきたらしい。
「あー、わかりました」
平日とはいえ金曜はそれなりに混むからな。土曜なんて平日の少し落ち着いた雰囲気からガラリと変わるから一人いないだけでかなり大変だろう。
『試験前なのにすまない。ピークさえしのげれば良いから』
今日の家庭教師はもう終わってる。
そんな焦って結果を出さなくていいと決めたばかりだし、明日は風太郎に頼んで俺は途中から家庭教師すればいいか。
俺自身の勉強も必死になってやらなくても良いし。
「仕方ないですよ。それじゃ、今から向かいますね」
そうして俺は電話を切る。
「バイトか?」
「あぁ、人手が足りないらしい」
「誠司だから心配はないが、大丈夫か? 家庭教師を頼んだ俺が言うのもアレだが、本当はお前だって自分の勉強時間が必要だろ。だって誠司は」
「中間試験はあくまで中間地点。最後にゴールにたどり着ければいいからな。それにもう俺は昔ほどじゃないんだ」
「誠司」
「んじゃ、また連絡する」
そうして俺はバイト先へと向かう。
まさかその間に中間試験がゴール地点へと変わるとは俺は思いも知らなかった。