「上杉さん! 私結婚しました! ご祝儀ください!」
「え」
「おめでとー」
「じゃあ、次、私の番」
「なんで、仲良くボードゲームしてるんだ?」
俺はバイト先から急いで中野家に来た。
店長から昨日と今日のお詫びとしてもらったケーキを片手に家庭教師に来たわけで。
そして目の前にはボードゲームを広げて人生の道のりを歩んでいる風太郎と一花、三玖と四葉の四人。
「あ、セージ君。バイトお疲れ」
「お疲れ。セージ」
「長尾さんも参加します? 四葉、代わりますよ」
「いや、いいよ。ところで風太郎、勉強でお前に聞きたい事があったんだ」
「……ちょっとタイム」
俺はそう言って風太郎を呼び出し、少し離れた場所へと移動し教科書を広げる。
「俺達にゲームをしている余裕はもう無くなった」
「わかってる。一応、午前中は勉強してたんだ」
昨夜、バイトから上がって風太郎からメールが入っている事に気付いた。
中を確認するとそこにはこの中間試験で家庭教師としての俺達の成果を確認すると依頼主である中野家の親父さんから電話があったと。
そしてそれは中間試験で誰か一人でも赤点取ったら家庭教師を辞めるという事だった。
もちろん風太郎も卒業までという条件だった事を話したが、この程度の条件を達成できなければ今後も無理だろうとハードルを設けさせられたという。
つまり、長距離から短距離へと変わった。
風太郎はこの週末みっちり勉強させる為に中野家にお邪魔した訳で。俺ももちろん加勢しに来たのだが現状はこれだ。
「フータロー? セージ?」
そこに三玖が俺達の様子を伺いに来たようだ。
出来れば姉妹達にはこの件については話さない方がいいと俺達は決めた。
変にプレッシャーを与えて悪い方向に転ぶ可能性もあるからだ。
「なんか、いつもより焦ってる……私たちそんなに危ない?」
と決めたはずなんだが、どうやら態度に出ていたらしい。
「実は……いっ」
俺は風太郎の横っ腹に肘鉄を加える。
「……それなら私から提案があるんだけど」
「あ?」
一花が手を上げて何か言いたいことがあるらしい。
「あー!!」
だが、その提案の前に乱入者が。
「なんだー。勉強サボって遊んでるじゃない」
「に」
「私もやる。あんた代わりなさいよ」
一番どうにかしなきゃならない二乃がゲームならばと参加しに降りてきた。
「実は?」
「いや、なんでもない!」
風太郎も二乃の前で話すのはまずいと考えたようでさっきの言葉の続きを飲みこみ何もない素振りを見せる。
「お金少なっ! あ、あんたも交ざる?」
そう言って二乃の視線の先には五月がいた。
「五月、昨日は」
風太郎はなにやら五月に話しがあるのか声を掛けるのだが。
「私はこれから自習があるので失礼します」
「お、おい」
なんかまた風太郎やらかした気配。
勘弁してくれよ。
ま、五月は俺が見るからどうにかなるだろう。
俺は五月の方へと行き、いつものように声を掛ける。
「んじゃ、俺と一緒に」
「大丈夫です。一人でやれますから」
「え?」
まさかの反応で俺は自室へと戻る五月を引き止める事が出来なかった。
「ほら、あんた達も今日のカテキョーは終わったんでしょ? 帰った帰った」
「あ、あぁ」
「待て待て。俺は来たばかりだ」
風太郎も流されるまま帰ろうとすんなよ。
俺はせめてもう少しだけでも勉強をさせるように誘導させるが、正直すでに風太郎が勉強を見たうえで俺が来たからと言うのはかなり無理ある。
「待って。二乃」
俺らを返そうと玄関に押しやる二乃を制止させたのは一花だった。
「フータロー君もセージ君も約束違うじゃん」
「は?」
約束ってなんだ?
ご褒美でパフェって話しか?
いや、それは中間試験終わってからだろ。
「今日は泊まり込みで勉強教えてくれるって話しでしょ?」
二乃の叫び声が部屋中に響き渡る。その間、俺と風太郎は互いに顔を見合わせるのだった。
そしてそんな約束を互いに交わした気配がない事を察して一花を見ると英語の教科書を持って笑っていた。
とりあえず、風呂に入ってからまた勉強再開という事になり先に姉妹達が入り、その後に俺と風太郎が入る事に。
現在風太郎と俺の野郎二人組が入浴中。
さすが家が広いだけあって風呂場も広いな中野家。
「とりあえず、時間は確保できたな」
「あ、あぁ」
「んで? 五月と何があった? それも今回は俺も絡んでるみたいだが?」
先に体を洗い終えた風太郎は湯船に。俺は髪を洗いながら風太郎に聞きたい事を聞く。
五月のあの態度、昨日までは俺と一緒に勉強する事に何も抵抗がなかった。
そして俺はあれから五月には会っていない。そうなると五月の態度が変わった原因が考えられるのは腐れ縁のこいつだけだ。
「それは」
それは昨日、俺がバイトへと向かった後。
中野家の親父さんの電話を受けたのは五月で、俺がいないため風太郎に繋いだらしい。
その際に風太郎は例の話しを聞かされた訳だが、その電話の後に風太郎は五月に自分にも教わるように改めて言ったらしい。
だが、おそらく風太郎の言い方が気に障ったのだろう。五月を怒らせ、そして五月もまた風太郎にとって家庭教師は金の為でしか無いのか?と聞いたらしい。
それは風太郎にとって金が大事な事ではあるが。
風太郎との間にまた亀裂が入ったのはそれでわかった。
だが、そこで俺への態度が変わる理由は見当たらない。
「それで、俺についても何か言ったろ?」
「……」
「風太郎」
黙っている風太郎に俺はシャワーを掛ける。
「言うって。あいつが、長尾君にじっくり見てもらうからって」
「ま、実際俺は五月を見るつもりだったけど?」
そのつもりで来たのに断られてさらに家庭教師下ろされる可能性が近づいた。
「売り言葉に買い言葉というか。勢いで言ってしまったんだ。誠司だって本当は自分の勉強しなきゃならないんだって。だからあまりあいつの勉強する時間を奪うなって」
「余計な事言いやがって」
「反省してる」
五月のあの態度の理由は理解した。
俺に迷惑が掛かると思っての行動なんだろうけど。
「俺が以前ほど勉強に固執してないのは知っているだろ?」
「それは」
今の俺は風太郎みたく全教科満点を狙っている意欲はそこまでない。
「俺もよくわからなくなってるんだ。本当は何になりたいのか」
以前は確かな目標があってそのために勉強をしていた。
でも、今の俺には明確なものはない。
「誠司」
「上杉君、長尾君。五月です」
「え?」
まさかここでご本人様登場は予想外で俺も風太郎も顔を見合わせた。
「二人から私に話したいことがあると一花に言われたのですが何かご用でしょうか?」
「え、俺が?……誠司か?」
「いや、俺も」
二人してそんな覚えは無い。
先ほどに続いてとなると一花がまた気を回したという事か。
「そうですか。それでは」
「風太郎」
何がどうなっているのかわからないが、せっかく向こうが話しを聞きに来てくれたんだ。そのチャンスを逃すなと俺は風太郎を見る。
「あ、嘘嘘! よく来てくれたな」
「……話したい事とはなんでしょう?」
「昨日は悪かった。焦って感情的になっちまった。俺に家庭教師をさせてくれ」
そうして風太郎は相手から姿が見えないにも関わらず湯船から半身だけ出して頭を下げた。
「何かあったんですか?」
「……誠司」
こうなったら五月には黙っておくことは難しいだろう。
俺は頷き事情を説明する事に。
「五人の誰かが赤点取ったら俺達は家庭教師を辞めさせられる。俺は別にいいが、風太郎の事情は五月も知って」
「そういうことでしたか」
その瞬間、風呂場のドアが開いた。
「五月、何開けてんだよ!」
風太郎は叫びつつ半身出ていた体を湯船に。
一応、扉に背を向けている状態で前は見えないが俺も咄嗟に手で隠す。
「前に私の裸見たんだからおあいこでしょ?」
ん?
五月の裸を以前見た?
俺にはそんな記憶はない。風太郎が?
いや、それ以前にこの声。
俺は違和感ある声にドアの方を向くとそこには。
「赤点取ればクビね。いいこと聞いちゃった」
一番聞かれてはまずい二乃がそこにいた。