「どうする? 誠司」
「どうするも何も仕方ないだろ。とにかく、他の姉妹達の勉強だ。リビングで勉強すれば二乃も少しは気になるかもしれないだろ」
姉妹大好きな二乃だ。
自分のいない所で姉妹達が何をしているか気になるはず。
勉強するかしないかは別として勉強の場に二乃もいる状況は大事だ。
「あ、帰ってきた。上杉さん、長尾さん。おかえりなさーい」
「おー、風呂広くて最高だわ。ありがとうな」
俺はいつも通りを心がけ四葉に答えるのだが。
「あぁ……おあとー」
わかりやすく動揺しすぎだよ。
「とりあえず、俺は五月と話してくる。風太郎はあっちを頼むぞ」
「お、おう」
そうして俺は自室にいる五月の方へと向かう。階段上がりながら風太郎の様子を伺うのだが。
二乃を誘うが予想通り二乃は参加する意志はなく撃沈していた。
それでもリビングにいるから勉強の会話は耳に入るはず。どうにかそれで参加する気持ちになってくれたらいいが。
「三玖がわからないところがあるって」
「一花……っ」
「あぁ! 答えてやるぞ! お前らがわからないところがあったら何でも聞いてくれ!」
「上杉さん!『討論』って英語でなんて言うんですか!?」
「言い質問だ。Debate。これは確実に今回の試験に出るぞ『でばて』と覚えるんだ」
なんだかんだ。他の姉妹達は勉強に意欲的なのが助かるな。
「さて」
俺は五月の部屋のドアをノックする。
「五月、長尾だ」
しかし、返事はなくドアも開けられる事はなかった。
「勉強中に悪い。だけど、少し顔を会わせて話しがしたい。ひと段落ついたら話せないか?」
一向に返事はなく、さすがの俺も女性の部屋に押し入り事はしたくない。それに勉強しているなら尚更だ。
「また、声掛けるから」
そう言って俺は一時撤退し風太郎達の元へと階段を降りるのだが、やけに盛り上がりを見せている。
「よーし……第一位……お兄ちゃん思いだ」
「それあんたの妹ちゃん!!」
「てか、お前ら何してるんだ?」
風太郎がなにやら発表した内容に二乃がツッコミを入れている。
勉強はどうしたんだよ。
「なになに? 上杉風太郎の女の子の好きなとこベスト3」
風太郎の持っているボードを見るとそう書かれていた。
大方、姉妹に尋ねられたんだろうが風太郎もだいぶ乗り気だったみたいだな。
「遊んでたんじゃないぞ。これを知りたければノートのページ埋めるのを条件に出したんだ」
「なるほど。しかし、いつも元気、料理上手。そしてお兄ちゃん思い。どう見てもらいはちゃんですね。ありがとうございます」
「そもそも俺の恋愛のスタイルは」
「わ、すごっ。三玖もう課題終わらせてるよ」
一花の言葉に俺と風太郎がそちらに視線を向けると本当に課題を全部終わらせていた。
「フータロー君、頑張った人は褒めてあげないと。ね? 三玖」
「え、うん」
褒めたら伸びるとはよく言うからなと思っていると一花は風太郎の手を掴む。
「ほーら。はい、頑張りました。よしよし」
風太郎の手は三玖の頭の上へ。頭を撫でる形になる。
三玖は顔を伏せる。長い髪で顔は隠れてるがおそらく照れてるんだろうな。
「どう? ドキドキしない?」
「別に」
一花の問いに即答する風太郎。そんな風太郎に頬を膨らませる。
思ってたのと違う反応だったかもしれないけどさ。いや、正直俺も風太郎どうなんだそれはとは思うが。
「一花、無駄だ。こいつには」
「四葉チェック」
「わー!」
すると四葉は風太郎へと猛突進する。風太郎はその姿に本能的に逃げ回るが、運動を捨てた男とバスケ部に正式入部を頼まれる人材では無意味ですぐに風太郎は捕まり、四葉は風太郎の胸へと耳をあてる。
「上杉さんドキドキしてます!」
「あれだけ走ればな!」
うん、風太郎の言葉にも一理あるがお前その状況は世の男性からしたらうらやま案件だからな。
それはそうとして勉強再開させるか。
「お前ら、そろそろ」
「騒がしいですよ」
「!」
上からの声に俺は顔を上げると五月がいた。
「勉強会とはもう少し静かなものだと思ってましたが」
「ごめんねー」
とにかく、五月と話すチャンスだ。
俺は降りてくる五月の元へと向かい声を掛ける。
「五月、騒がしいようなら俺が部屋で」
「大丈夫です」
さっきと同じ言葉が返ってきたが今度は大丈夫。
「風太郎の言葉なら気にするな。あいつが勢いで言っただけで」
「そうだ。あれは、俺がだな」
風太郎もその時の事を謝ろうと俺に続く。このまま謝ってもう一度。
「人の時間を奪ってまで私は教わりたくありません」
「あのな」
俺の言葉すら聞こうとはせず五月は三玖の方へ。
「三玖、ヘッドホン貸してもらっていいですか?」
「え、いいけど」
「一人で集中したいので」
「お前、誠司が」
「足手纏いにはなりたくありませんから」
そう言って部屋へとまた戻ってしまった五月。俺も風太郎も追いかけようとするが。
「フータロー君、セージ君」
一花が俺達を呼び止める。
「見て、月が綺麗だよ。ちょっと休憩しよ」
そう言って外へと出る一花。
『一回、落ち着こう?』
そんな風に言っている気がして俺も彼女に続いてベランダに出る。
三玖と四葉に休憩するように告げて風太郎も出てくる。
「確かに空が広く感じるな」
風太郎の言う通り、普段見る夜空とは少し広く感じる。
「最上階も捨てたもんじゃないでしょ」
「遮るものがないから星がよく見えるな」
前にここで依頼主である中野家の親父さんと電話した時は緊張していて空を見上げる余裕はなかったが、中々の景色だ。
天体写真はあまり撮った事ないから今度北条さんに聞いてみるか。
「そういえば、オーディション受かったよ」
その突然の報告に俺は夜空から一花に視線を向けると彼女と視線が重なる。
「そうか。おめでとう」
俺は素直に祝福の言葉を向ける一方で風太郎は複雑そうに「そうか」と答える。
「撮影は試験後だから安心して」
「それならいいか」
これで試験中に撮影となったら赤点回避どころじゃないからな。
風太郎が心配する気持ちもわかる。
「五月ちゃんと喧嘩でもしちゃった?」
俺らの様子を見て察した一花の問いに風太郎はいつものことだと答える。
「フータロー君と五月ちゃんは顔を会わせる度喧嘩してる」
俺は口を挟むことはせず、一花の言葉を聞きながらもう一度空を眺める。
「二人は似たもの同士だから」
その言葉に俺は少し昔の事を思い出した。
【誠司、俺のせいで勉強できないだろ? 俺はいいから】
あぁ、そうだ。そんな事もあったよな。
その時、俺はどうしたんだっけ?
【風太郎のせいで勉強できない? なら、今度の試験で証明してやるよ】
なんだ。俺は解決策をもう知ってたじゃ無いか。
答えはすでに持っていた。だが問題がひとつある。
それはそれを証明する場が俺達の進退に関わる場でもある事。つまり一手遅い。だとすると残る可能性に託すしかないか。
その可能性である風太郎をチラリと見る。
「でもね。今日はいつも違う気がした。二人には仲良く喧嘩して欲しいな」
風太郎越しに見えた一花は星を眺めそう告げる。それは星に願い事をいう大層な事ではなく、本当に些細な願い。
「……矛盾してる」
「そう? あの子も意地になってるんだと思う。フータロー君は違う?」
意地になったからこその衝突。思えば最初の喧嘩も互いの意地がぶつかった結果だった。
「昔から不器用な子だったから。素直になれないだけじゃないかな。きっと今も一人で苦しんでる」
素直になれないから頼れない。そしてそれが余計に自分を苦しませている。
それでも耐えて彼女は今、一人で頑張ろうとしている。
「私にやれることはやってみるけど、フータロー君にしかできないことがあるから。お願いね」
多分、今日の一連の行動もやれることだからなんだろうな。
そんな一花の行動に俺達は助けられている。
「なんだ。ほぼ同時に生まれた五つ子には関係ないと思ってたんだが。ちゃんと長女してんな」
風太郎はそう言って一花の頭を撫でた。
その行動に俺は少し驚いた。風太郎、お前はやれば出来る子だと俺は知っていたよ。
「なに? この手」
「お前がやった方がいいて言ったんだろう!」
「あー、そうだったね。うん、えらいえらい。よくできました」
「お姉さん、風太郎もやれば出来る子なんですよ」
「誠司まで! そういう誠司だってやらないだろう!」
「そりゃ、そんな機会ないからな」
そもそも安易に女性に触れるってそもそもあれだし。
「たく、寒くなってきたから戻る」
そう言って風太郎は先に部屋へと戻っていった。
俺も戻ろうかと一歩踏み出そうとしたが、隣にいる一花によってその足は止まる。
「それで? セージ君の方は解決策思い浮かんだ感じかな?」
「……なんでわかるんだよ」
俺はここまでなにひとつ話していない。ま、すでに俺と五月の間にも何かしらあった事には気付いてはいるだろうけど、だからといって俺の中で答えが見つかっている事にも気付いているなんて思っていなかった。
「そういう顔してたよ? 何か思いついたって」
なんだかんだ人の変化に気付くのは女優目指しているからか?
役を理解するには人間観察が大事とかなんかドキュメンタリーでとある役者が語ってた記憶。
「一応はな。とは言っても、その策はすぐには講じる事ができない。今の五月を支えるのは風太郎の役目になる」
「そっか」
「けど、あれだ。思い出す事が出来たのは一花のおかげだ」
似たもの同士。その言葉で俺は思い出す事が出来た。
風太郎に向けられた言葉だけどそれは俺にもヒントをくれた。
「……褒める時はどうするんだっけ?」
「お前」
素直に礼を言ったらまたあのからかう調子で一花は俺に一歩近づいて見てくる。
「ほらほら、褒める機会が来たよ?」
「あのな」
本当にさっきまで良いお姉さんやってたのにこれだよ。
「なーんて」
「ありがとうな。色々と気を回してくれて。助かった」
ご注文通りに俺は一花の頭を撫でて褒める。
誰かの頭を撫でるなんていつぶりだ?
六花がいた頃はよく撫でてたけど、しかしこんな気恥ずかしいものだったか?
「はい、おわり。風太郎も言っていたけど、寒くなってきたから戻るぞ」
とは言いつつも俺は恥ずかしさから若干火照る感覚だが、それを彼女に知られる前に部屋へと戻る事にした。
「あれっ……寒い……かなぁ?」
そんな声が聞こえた気がしたが俺は振り向く事は出来ないのは多分今は彼女に顔を見られたくないから。