試験から数日後、ついに運命の日を迎え俺と風太郎、中野姉妹は図書室に集合していた。
珍しく二乃がいるのは一刻も早く結果を知りたいからなんだろうけどな。
「よぉ、集まってもらって悪いな」
「どうしたの? 改まっちゃって」
「水くさいですよ」
一花や四葉の言うとおり、確かに風太郎らしからぬ発言。
それだけ緊張しているんだろう。
「中間試験の報告、間違えたところまた教えてね」
「あぁ」
三玖の言葉に風太郎はそう答えたが、どうなるかは結果次第。
「ともかくまずは、答案用紙を見せてくれ」
「はーい、私は」
「見せたくありません」
一花が結果を報告しようとするがそれを五月が遮り、さらには見せないと言う。
「テストの点数なんて他人に教えるものではありません。個人情報です。断固拒否します」
それは単に風太郎に見せたくないというだけの理由じゃないように俺は思えた。
「ありがとうな。だが、覚悟はしてる」
風太郎のこの反応。
もしかしたら五月は聞いたのかも知れない。この中間試験の結果次第で俺達が家庭教師を辞めるという事を。
「風太郎の言うとおり。それにどっちにしろ知られるだろ」
俺の素性を調べたと思われる親父さんだ。ましてや娘の事のテスト結果なんて朝飯前のはず。
五月も観念した様子で机に五人分の答案用紙が並べられた。
「ジャーン。他の四科目はダメでしたが国語は山勘が当たって30点を超えてました。こんな点数初めてです」
四葉は国語のみ回避。
「社会は68点、そのほかはギリギリ赤点。悔しい」
さすが歴史が好きなだけあって社会は悪くない三玖。
「私は数学だけ。今の私じゃこんなもんかな」
一花は俺が最初に数学を取り組み始めさせたから結果にはなったか。
「国数理社が赤点よ。言っとくけど手は抜いてないから」
俺達が教えてないとはいえ英語は赤点じゃないか。二乃は英語が得意なのか?
「合格ラインを越えたのは一科目。理科のみでした。国語はもう少しだったのですが」
五月に教えてた時、理科と国語はいけそうだったが理科だけだったか。
五人とも一科目だけ赤点回避か。
短期間とはいえ、結構な学習時間設けたつもりだったけどな。
少々俺も自信を無くす。だが、確かに結果がこれほど出ないとなると辞めさせられて当然かもな。
「誠司」
「だな」
風太郎も納得した様子で俺を見る。
「はい、先生達から生徒達へ最後のアドバイスといこうか。風太郎からどうぞ」
「え」
「最後?」
「フータロー君? セージ君?」
事情を知らない三人はさすがに俺の言葉に何かを悟ったらしい。
だが、その前に風太郎がひとりひとりへと今度のアドバイスを告げていく。
「三玖、今回の難易度で68点は大したもんだ偏りはあるがな。今度は姉妹に教えられる箇所は自信をもって教えてやってくれ」
「まって、フータロー」
「四葉、イージーミスが目立つぞ。もったいない。焦らず慎重にな」
「あ、はい。あの」
「一花、お前はひとつの問題に拘らなさすぎだ。最後まで諦めんなよ」
「ねぇ」
「二乃、結局最後まで言うことを聞かなかったな。きっと俺達は他のバイトで今までのように来られなくなる。俺達がいなくても油断するなよ」
「ふん」
「フータロー! セージ!」
それまで姉妹の反応を無視していた風太郎と口を挟まず静観していた俺に三玖が声を荒げた。
「最後ってなに? 他のバイトってどういうこと? 来られないって……なんでそんなこと言うの?」
俺はあまりにも辛そうな三玖の表情に顔をそらした。
こんな表情見たかったわけじゃないのにな。
「私」
「三玖、今は聞きましょう」
三玖を制止させたのは風太郎の最後のアドバイスの相手の五月。
「五月、お前は本当に不器用だな!」
「な」
「一問に時間かけすぎて最後まで解けてねぇじゃねぇか」
「反省点ではあります」
「自分で理解しているならいい。次から気をつけろよ。よし、次は誠司だ」
「って、ほとんど風太郎が言ってくれたからな」
するとそのタイミングで五月にある人から電話が掛かってきた。
「……父です」
五月は俺か風太郎にその電話を渡そうとする。直接話しを聞かされたのは風太郎だからここは風太郎だな。
そして風太郎が電話に出る。
「上杉です……つきませんよ。ただ……誠司だけ続けさせてくれませんか?」
「はあ?! 風太郎お前な!」
風太郎と親父さんのやり取りを横で聞いていたが、予想外の発言に俺は思わず風太郎からスマホを奪おうと風太郎に詰め寄る。
「こいつは俺よりも優秀です。そもそも誠司は俺より家庭教師についたのは遅かった訳ですから俺と一緒の条件は割に合いません」
「あのな!」
いい加減俺も頭にきた。殴ってでも電話代わってもらうぞ風太郎!
そうして俺が風太郎の胸ぐらを掴んだ時だった。
「え?」
「あ?」
俺よりも先に風太郎からスマホを奪う人物がいた。それは二乃だった。
「パパ? 二乃だけど。ひとつ聞いていい? なんでこんな条件を出したの?」
「は?」
俺はてっきり追い打ちをかけるのかと思ったが、二乃は冷静に今回何故条件を出したのか親父さんに聞いていた。
「私たちのためってことね。ありがとう。パパ……でも、相応しいかなんて数字だけじゃわからないわ」
なんだ? どうなってるんだ?
二乃はまるで点数なんて関係ないみたいなことを言っている。
正直俺はずっと二乃の言動に頭が追いついていなくて混乱している。
「あっそ。じゃあ教えてあげる。私たち五人で五科目全ての赤点を回避したわ」
「!?」
「どういう事だ?」
風太郎、俺に聞いても俺がわかるわけないだろ。
「嘘じゃないわ」
そう言うや否や二乃は通話を切った。
「二乃……今のは」
風太郎の疑問は俺もまったく同じ。
赤点五科目全て回避なんて誰一人していない。
「私は英語、一花は数学、四葉は国語、三玖は社会、五月は理科。五人で五科目クリア。嘘はついてないわ」
「確かにそうだけど。結局は騙したって事だろ」
「そうよ。だから多分二度と通用しない。次は実現させなさい」
俺の言葉に二乃も認める。だが二乃から次に出てきた言葉は俺達にまたチャンスをくれるという言葉。
つまりは二乃も俺達の家庭教師を認めたって事か?
「セージ君」
「ん? ぐああああ」
俺の脇腹を一花は思いっきりつねってきやがった。
「なんだよ!」
「べっつに。ちょっと八つ当たり」
「はぁ?」
「じゃあ、このまま復習しちゃいましょー」
「え、普通に嫌だけど」
「逃げないの」
どういう事か聞こうとしたが、四葉の言葉に逃げようとする二乃を一花は逃げないように抱きつきに行ってしまった。
いや、多分家庭教師の事だろうな。黙ってた事は確かに悪かったとは思う。
なんだかんだ一花には色々気を回してもらっていたしな。
そういや確かご褒美パフェって話しだったな。けど、風太郎は今すぐに復習したいだろうな。
「そうだな。試験が返却された後の勉強が一番大切だ」
「だよな」
腐れ縁の言動はわかりやすい。
「だが、直後じゃなくてもいいな」
「ん?」
「ご褒美……だっけ? パフェとか言ってたろ」
「風太郎の口からパフェ」
その瞬間、姉妹達も声をあげて笑った。
もしかしたら変わろうとしているのは五つ子だけに限ったことじゃないかもしれない。
俺は長年見てきた腐れ縁に二度目の変化の兆しを感じつつ、駅前のファミレスへと向かうのだった。
「そういえばお二人は何点だったんですか?」
「うわっやめろっ見るな!」
店へと向かうまで雑談として四葉が俺達の点数を聞いてきた。
風太郎はすっかりテンプレとなっている台詞を言い点数を見せる。
そこには同じ点数が並んでいた。
相変わらず満点だったようで。てか、お前そのくだりいい加減にやめたら?
「それで長尾さんは?」
「あー、そうだな。その前にこれが一学期の期末の結果だ」
「大体70点。フータローほどじゃないけどセージもすごい」
「三玖、満点野郎と比べるのはさすがに」
「てか、なんで一学期の期末なのよ。あ、今回やばかったわけ?」
ニヤニヤして言う二乃の言葉と対称的に五月の体が跳ねたのを俺は見逃さなかった。
「んじゃ、これが今回だ」
姉妹揃ってその点数を凝視する。
「90点越えです!」
「セージ君すごい!」
「あんたもなに? 自慢?」
そんな姉妹達の反応はとりあえず置いておいて俺は五月の方へと向かう。
「一花、三玖、四葉。三人教えてこの点数だ。証明したぞ」
「っ」
「そもそもだ。教えるって事はこっちも勉強になるって事なんだよ。どっかの誰かさんは他人の時間奪うとか言いやがったがな」
俺はギロっと風太郎へと視線を向けると風太郎は手を合わせて頭を下げる。
「だから、俺にとってもプラスってわけ。それに……割と楽しかったんだ。その楽しみを奪わないでくれ」
「長尾君っ……ごめんな……さい」
「あー! 泣くなよ。謝る事じゃないって。俺の事を思っての事なんだからさ」
俺はとりあえずカバンに入っているティッシュを五月に渡す。
それを受け取り、五月はゆっくりと呼吸すると頭を下げた。
「……はい。長尾君、これからも、よろしくお願いします」
「……あぁ」
これで俺と五月とのわだかまりも解消され俺も安心したから腹が減った。
パフェよりも腹に溜まるものを食いたい。
そんな事を考えていると風太郎が俺の隣に来てコソッと耳打ちしてきた。
「そもそも、誠司はこれまで手を抜いてただけだろ」
「手を抜くって実際一学期はあれが俺の実力だ」
どうもこの腐れ縁は俺を過大評価しすぎなんだよな。
さっきも優秀だから俺だけ家庭教師続けろとか言ってやがったし。
「お前な! やる気になれば俺を越えるだろ!」
「えー! 満点の上杉さんを越えるんですか?!」
声を荒げた事で風太郎の言葉は四葉や姉妹達にも聞かれた様子。
どういう事だと好奇心の目が俺に向けられるが、俺はそんな事はないと否定しようとする前に風太郎は何か誇らしげに姉妹達の前に立つ。
「そもそも今の俺を導いたのは誠司だからな。言うなれば俺の先生だ!」
余計な事をまたこの腐れ縁は言ってくれやがった。
「昔の話しだ! 小学校六年の時にこいつが急に勉強したいって言ったから俺がちょっと見てやっただけだ」
「先生には変わりないだろ」
「そうだが、今の俺は風太郎を越える事はないの。そもそも全教科満点ってどういう頭してんだよ」
「それはセージ君に同意」
「うん、フータローの頭を一度斬って覗きたい」
「その勉強だけで他の色々なものが残念ですけどね」
「そうよね。人の裸見るし」
「なんで満点取ったらこんな風に言われなきゃならんのだ」
「ま、そこまでになって俺は鼻が高いのは確かだよ」
落ち込む風太郎に言い過ぎたなと悪い悪いと背中を叩き励ます。
ふと、こういう場面では風太郎の良い所を発する人物がいるはずなのだがと俺はその人物に目を向けると立ち尽くしていた。
「四葉? どうした?」
気分でも悪いのかと俺は四葉に声をかけるとハッとした様子。
「上杉さんの爪の垢を煎じて飲めば四葉も」
「それ、比喩だからな。やめとけよ」
「そうなんですか!?」
いつもの調子の四葉に俺の気にしすぎだったなと俺は爪の垢は飲ませられないがパフェは食べさせに止まっていた足をファミレスへと向かわせるのだった。
今更ですが、家庭教師するくらいには主人公も頭は良い。