家庭教師と友人A   作:灯火円

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 翌日、昨日に引き続きクラスメイトに囲まれる中野さんの隣で俺はいつも通り授業を受けつつ午前中の授業を終えた。

そして学食へと向かおうとこれまたいつものように教科書を片手に風太郎のクラスを覗くと珍しく風太郎が俺を待っていた様子。

先に授業が終わった方が席を確保するのが俺達の中でいつの間にか決まったルールなのだが、わざわざ待っている状況を見て何となくその理由は察していた。

 

「誠司、頼む。やっぱり少し力を貸してくれ」

「その様子だと昨日と今日と進展はなしか」

「頑張ってはみたんだ。だが避けられていて」

「わかったわかった。とりあえず、あと一回頑張れ。それでダメならきっかけだけでも作る。そのあとはお前次第だからな」

「恩にきる!」

 

 とりあえず、俺達は学食へと向かう。

 学食で中野さん、いや風太郎のクラスの中野さんにもう一度風太郎が声を掛けられるか様子を見てダメそうなら俺が声を掛けてあとは風太郎に任せる。

 そして早速、風太郎のクラスの中野さんを見つける。

 風太郎はその後を追う。

 

「不審者」

「うるせ。とにかくまた一緒の席に」

「おう、頑張れ」

 

 俺は少し離れた所からそれを見守る。だが、目の前の中野さんは昨日の二人がけの席ではなく大人数が座れる方へと向かう。

 

「お待たせしました」

 

 彼女はてっきりまた一人で食事するかと思っていたのだが、そうではなく四人がすでに座っている席に親しげに座ろうとしていた。

 

「友達と食べてる!」

 

 その状況に風太郎は驚き声をあげるともちろんあちらさんは風太郎に気付く訳で。

 

「すみません。席は埋まっていますよ」

 

 昨日のお返しとばかりの表情の中野さん。そんな彼女にぐぬぬと悔しそうにその場を退散する風太郎。

 仕方ない。約束通り俺が仲介するか。

 

「行っちゃうの?」

 

 と俺が行動する前に風太郎に声を掛けたのはその四人のうちの一人で俺と同じクラスの中野さんだった。

 さすが転校初日で俺にも気軽に話しかけてきた彼女だ。

風太郎にも同じようにフランクに話しかける。人付き合いが下手な風太郎としてはタジタジだ。

そんな状況を眺めていると風太郎を気遣って彼女が目的の中野さんを呼ぼうとする。

 

「待て。余計なお世話だ。自分の事は自分でなんとかする」

 

 風太郎はそう言って彼女の腕を掴んで引き止めた。

 そんな風太郎の行動に一瞬彼女は動きを止める。

 

「ガリ勉くんのくせに男らしい事言うじゃん!」

「う」

 

 その掴まれた腕から簡単に逃れると風太郎の背中をバチンと叩いた。

 

「風太郎。大丈夫か」

「軽く叩いた程度だよ。それよりセージ君の知り合い?」

 

 気付けば中野さんが俺の方に来ていた。

 

「友人だ。それより、中野さん」

「なに?」

「あ、いや、こっちではなくて」

 

 仕切り直しと俺は風太郎のクラスの中野さんに声を掛けるが返事をしたのは目の前の中野さん。

 名字が一緒だとこうなるか。

 

「えっと、五月さん」

 

 とりあえず、わかるように名前で彼女を呼ぶ。

 

「あ、長尾君」

 

 呼ばれてようやく目的の中野さんが俺に気付く。

 俺は風太郎を呼ぼうとしたが、いつの間にかあいつはいつもの席に行っていた。

 おい、俺に仲介してくれと頼んだお前が逃げるなよ。

 すると中野さん達と一緒にいた一人、リボンが目立つ子が席を立つと手には答案用紙。

 チラッと見えたが風太郎のだ。

 どうやら落ちたのを拾ってくれたようで風太郎の元へと届けようとしていた。

迷いなく風太郎の座る席の前へと座り、風太郎をジーッと見ている。

風太郎は落ち込んでいるのか対策を練っているのか考え込んで彼女の視線に気付かない。

 

「セージ君、五月ちゃんと知り合い?」

「ん? あぁ、昨日ちょっとな」

 

 中野さんの声に俺は視線を中野さんの方へと向ける。

 

「勉強を少し見て貰ったんです。あ、長尾君良かったら一緒にお昼どうぞ」

 

 俺のクラスの中野さんの質問に答えていると五月さんに誘われた。

 

「いや、俺は」

 

 風太郎と一緒に食べようと思ったが、そういえばあの子が風太郎の前に座ってるな。

視線を風太郎の方へと戻すと風太郎もようやく彼女に気付いたのかなにやら会話している。

今日はその隣の席も埋まっているか。

 

「ちょっと、勝手に決めないでよ。五月。大体何なのよ。そいつ」

「二乃、人を指でさすのは失礼」

 

 そいつというのはどう見ても俺の事だろう。

そんな敵意のような言葉と視線を向けたのはぱっつん前髪のロングヘアの子。

そしてそんな彼女の行動に注意したのがヘッドホンを首に掛けたこれまたロングヘア。

 

「昨日、少し勉強を見てくれた長尾君」

「んで、私と同じクラスで隣の席」

「えっと、長尾誠司です」

 

 とりあえず、風太郎のクラスの中野さんと俺のクラスの中野さんから紹介してもらったが敵意のある視線は変わらず。

 彼女とは目を合わせられんと思いつつ、ふと四人の顔が似ている事に気付く。

髪型やアクセサリーで違いがあるが、もし髪型とか同じにされたらわからん。

 さっきのリボンの子はまだきちんと確認はしていないが、もしかしたらともう一度リボンの子を見ようと思ったがいつの間にか居ない。

というか風太郎もいないし。

けど、一緒に居たという事を考えると。

 

「あのさ。もしかして五つ子?」

「うん。正解」

 

 俺の問いの答え合わせをしてくれたのは俺のクラスの中野さん。

 えっと、確か彼女が一花、んで俺に警戒心マックスなのが二乃、風太郎のクラスの中野さんが五月。

 

「えっと君は三か四が名前に入ってたりする?」

 

 俺はヘッドホンの彼女に聞くと彼女は三本の指を見せた。

 

「三玖」

「そして今、居ないのが四葉です」

「なるほど。ありがとう五月さん。君も名前教えてくれてありがとう」

「なんでこんな奴に名前教えてるのよ」

 

 相変わらず敵意むき出しの彼女。一体なんだっていうんだ。

 俺は何もしてないぞ。

 とりあえず、ここから離れた方がいいな。

 

「んじゃ、俺はあっち行くわ」

「えー、ここで食べればいいじゃん。お喋りしたいし」

「お喋りなら教室で出来るだろう。中野さんとは隣の席だし。んじゃ、悪かった。邪魔して」

 

 そうして俺はそそくさと空いている席に座ってラーメンを啜る。

 

「あ、仲介するの忘れてた」

 

 五月さんに声掛けた意味をすっかり忘れていた。

けど、あの状況で話せる空気ではなかったからな。

とりあえず、放課後また風太郎と一緒に声掛けるか。

今日はバイトもないし。

 

「てか、風太郎。お前こそなんで居ないんだよ」

 

 俺はさっさとラーメンを食べ終える。いつもなら風太郎に付き合って教科書を開くが今日は教科書を開く事はなく残りの時間は昼寝にあてた。

 

 

 昼休みがもう少しで終わる頃、俺が教室に戻ろうと廊下を歩いていると風太郎はまだあの四葉という子と話していた。

 あの人付き合い下手な風太郎にしては珍しい。

そう思いながら俺は自分の教室に戻ると相変わらず俺の席までの道は塞がれていた。

まだまだ転入生は注目度が高いようで。

昨日、今日と休み時間の度にこれだと俺なら嫌になるが彼女は笑顔でその中心にいた。

 

「おーい、道開けてくれ」

「あ、長尾。悪い」

「ごめんねー」

「長尾が戻ってきたって事はもうそんな時間か」

 

 さすがにいつまでも俺が遠慮するのも嫌だから囲んでいる奴らに声を掛けるとそいつらも席に戻り始めた。

 俺が昼休みはほとんど学食で過ごす事を知っているからか俺が戻ってきた=昼休みが終わるという認識のようだ。

 

「今日も今日とてお疲れさん」

 

 俺は隣の中野さんにそう声を掛けながら席に座る。

 

「……」

「なに?」

 

 なんかずっと俺を見ている。

 

「優しいね。セージ君は」

「俺からしたら律儀にみんなの質問に答える中野さんの方が優しいけど。俺なら逃げてる」

 

 動物園とかの動物ってそう考えるとすごいよな。

質問攻めは無いにしろ囲まれている状況とかストレスで俺は発狂する。

 

「……」

「今度はなに?」

 

 またも無言で見つめる彼女に他に何か俺に言いたい事があるのかと聞く。

 

「うーん、ま、お姉さんなのでここはしばらく様子見しとく」

「ん? あ、あぁ。けど、逃げたくなったら屋上辺りに逃げときな」

 

 様子見ってのは囲まれている状況の事だよな。

 一応、逃げ場所の情報を提供して午後の授業へと意識を集中させた。

 

 

「結局、放課後までどうにか出来なかったか」

「俺も努力はした」

「てか、昼休み居なくなるなよ」

「それはすまなかった。けど、あの0点のやつにつけ回されてな」

 

 0点のやつという意味はわからんが、おそらくあのリボンの子。確か四葉と言ってたな。

 

「だが、今は俺達がつけ回している側にいるのは何故だ?」

 

 放課後、風太郎と共に俺は五月さんのあとをつけている。

今は様子を伺うようにして観光地によくある顔ハメのパネルに風太郎は顔をはめてタイミングを見ている。

俺はその隣で隠れるように中野姉妹を眺めている。

 

「帰り道ならひとりになると思ったんだが」

 

 五月さんはひとりではなく、他の姉妹の子達と一緒だ。

つまりこのまま帰宅する訳でおそらくひとりになるタイミングはほぼ無いだろう。

 

「風太郎、多分このままだと」

「楽しい?」

「あ」

「お」

 

 俺が風太郎に姉妹の事について教えようとした時、俺達の存在に気付き近寄ってきたのはヘッドホンの彼女。

 

「割とね。こういうのが趣味なんだ」

 

 なかなか特殊な趣味だな。風太郎。

 

「女子高生を眺める趣味……予備軍」

「あ、そっちじゃなくてね」

「とりあえず、無言で通報しようとしないでくれ」

「昼休みの……」

 

 スマホを取り出した彼女に一応風太郎のフォローしようとパネルの裏から出る。

 

「そうそう。それと友達の五月ちゃんにも言うなよ」

「……わかった」

 

 意外と素直に俺達の言葉に彼女は従ってくれた。

 

「けれど、あの子は友達じゃない」

 

 そう言って彼女はまた姉妹の元へと戻っていった。

 そういえば、他二人はいないんだな。

 俺の見える範囲には五月さんとぱっつん前髪とさっきの子の三人しかいない。

 ま、姉妹だからってずっと一緒って訳でもないか。

 

「仲良く見えるんだけどな。やっぱり人付き合いってめんどくせーわ」

「俺からしたら風太郎はもう少し頑張れだよ」

 

 そうして俺達は引き続きあとを追うのだけど、次第に高層マンションのある通りに出る。

 

「そういえば、お金持ちって話しだっけ」

 

 高層マンションの敷地内へと入っていく姉妹を見て俺達も追う。

 

「なに? 君達ストーカー?」

 

 侵入禁止の看板に片足を置いて俺達を待ち受けるようにしていたのがあのぱっつん前髪。

昼休み同様に向ける視線には敵意があった。

その彼女の傍らには先ほど言わないでくれとお願いした三玖さん。

 

「お前」

「五月には言っていない」

 

 風太郎の視線に彼女はそう返す。

確かに風太郎は五月さんと言ってたから約束は破ってないが、より厄介な人物に告げ口されたのでは?

 

「五月は帰ったよ。 用があるならアタシらが聞くけど?」

「お前たちじゃ話しにならない。どいてくれ」

「風太郎さぁ」

 

 だからなんでそんな言い回しするかなと俺はため息を吐く。

案の定、彼女はさらに風太郎に詰め寄る。

 

「しつこい。君、モテないっしょ。早く帰れよ」

「……帰るも何も。ここ、僕たちの家ですけど?」

 

 おい、さらっと嘘つくなよ。

そして『たち』って俺も巻き込むな。

 

「え、マジ? ゴメン」

「焼き肉定食、焼き肉抜き。ダイエット中?」

 

 どうやら風太郎の昼の注文を聞いていた三玖さん。

俺達がここのマンションならダイエットしてなきゃそんな頼み方しないよな。

 

「あ、お前らやっぱここの住人じゃねーだろ。警備員さーん!」

 

 風太郎はダッシュでその場を逃げる。すると丁度マンションから子供達が出てきてオートロックであろう正面玄関が開き風太郎はマンションへと入っていく。

 

「あいつ!」

「大丈夫。捕虜がいる」

「え?」

 

 ヘッドホンの彼女の視線は俺に向けられている。

てか、この状況って俺もストーカー野郎って事?

 

「いや、俺は元々コソコソするつもりなんてなくてだな」

「あれ? セージ君」

「あ、お昼の人!」

 

 そこに俺のクラスの中野さんと昼休みまともに挨拶出来なかったリボンの子がいた。

 

「どうしたの? もしかして、家ここ?」

「いや、違う。ちょっと友人の付き合いで五月さんに用があって。声掛けるタイミングを伺ってたんだが」

 

 とりあえず、同じクラスで隣の席のよしみで彼女に事情を説明して取り合ってもらおう。

 

「ストーカーしてたのよ」

「だから、話しかけるタイミング伺ってただけだっての」

 

 ぱっつん前髪よ。こっちの言い分を少しは聞いてくれよ。

 

「えっと、とりあえず五月に用があるみたいならウチにあがってお話聞きましょうか」

 

 リボンの子、四葉さんだっけ?

 有り難い。とりあえず一旦腰を落ち着かせて事情を説明する場は確かに必要だ。

 

「男を上がらせるのどうなの?」

「ぐ」

 

 それは確かにその通り。転校してきたばかりで男子生徒を家にあげたら親御さん何事か?となる。

 いや、でも風太郎に家庭教師依頼した訳だから気にする事もないのか?

 あ、けど、俺はやっぱり部外者だもんな。

 

「大丈夫でしょ」

「中野さん」

 

 助け船がもう一隻。

 

「いざとなったらこっちは五人だし」

「うっ」

 

 そうだよな。出会ったばかりで彼女と信頼関係なんて築けるはずないわな。

 

「冗談だよ。じょーだん。あ、それとも本当に……」

「んな訳あるか! 俺は本当に五月さんと話すだけだって」

 

 わざとらしく自分の体を抱きしめ自分の体を隠す素振りの彼女に俺は必死に弁明する。

てか、風太郎はマンション入っていったが、このまま五月さんの家に向かったのか?

 

「とりあえず、家に来て下さい。えっと」

「あぁ、君にはまだ名乗ってなかったな。長尾誠司だ」

「長尾さんですね。私は四葉です」

 

 笑顔で俺に名乗ってくれた彼女はこの姉妹の中で付き合いやすそうだな。

なんというか天真爛漫な感じだ。

 

「エレベーター、きた」

 

 三玖さんの言葉にとりあえず、俺は中野姉妹と共に彼女達の家へと向かう為、エレベーターに乗り込んだ。

エレベーターはぐんぐんと上がっていく。

 確か、こういうマンションって上に行くほど値段高いんじゃないっけ?

 そしてエレベーターは最上階の30階で止まった。

 扉が開き彼女達がエレベーターを降りる。

俺も続いて降りるとすぐそこに五月さんと風太郎がいた。

 

「あれ? 優等生くん! 五月ちゃんと二人で何してるの?」

「いたー! こいつがストーカーよ!」

「ストーカーって長尾さんだけじゃなくて上杉さんもだったんですか?」

「二乃、早とちりしすぎ」

「なんでここにこいつらがいるんだ? 同級生の五人がシェアハウスか」

 

 そういえば、風太郎はまだ気付いてなかったな。

 てか、風太郎にしては頭が回っていないな。

 そして風太郎に彼女達の関係が五月さんによって伝えられる。

 

「違いますよ。私たち、五つ子の姉妹です」

 

 

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