家庭教師と友人A   作:灯火円

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第5話 林間学校
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 中間試験を終えると次に待っているのは林間学校。

それもあってか最近はその話題があちこちで聞こえる。

 

「ねぇ、長尾君って自由参加のやつとか誰かと行動するの?」

 

 一花と話していた女子の一人が俺にそう聞いてきた。

 林間学校の中で確か自由参加のものがいくつかあったな。

 浅井達とかいるが、思い浮かんだのはコミュニケーション能力が乏しい腐れ縁。

 

「いるけど」

「なーんだ」

 

 なんだそれ。まるで俺がぼっちの方が良いみたいな反応だな。

 

「あ、チャイム鳴った。次ってたしか」

 

 そうして一花を囲んでいた連中は自分の席へと戻っていくと隣の一花の視線が俺の方に向いていた。

 

「なに?」

「誰と行動するのかなーって」

「風太郎。あいつ、クラスで誰か一緒に行動するやついるか怪しい」

 

 あいつがクラスの連中と話している姿なんてこれまでほとんど見掛けない。

 いや、五月達が来てからそうでもないか? でも、結局は中野姉妹としか交流ないんじゃ。

ある意味うらやま案件なんだろうが、あいつは家庭教師であるという認識しかないもんな。

 

「過保護だね」

「せっかくなら、良い思い出にしてやりたいだろうが」

 

 勉強ばっかでいつしか行事事なんてあまり見向きしなくなったけど、本来あいつはイベント事にはテンション上がるやつだからな。

 そして放課後、その風太郎から林間学校の話題が出ていた。

 

 

「風太郎が肝試しの驚かせる担当ね。しかし、色々と小道具あるな」

 

 いつものように図書室に来ると図書室にも関わらず騒がしい一角があった。

すぐに注意されたが、注意されていたのは風太郎と四葉。

 騒がしくしていた原因は風太郎が金髪のウィッグにピエロのような不気味な笑顔の仮面をしていたのを見て四葉が騒いでいた為だ。

 

「あ、長尾さんはこれとかどうです?」

 

 黒いサングラスを掛けられマイクを持たされる。

 

「髪切った?」

「切ってない」

 

 マイクを三玖に向けてそう聞くと三玖は普通に答えた。

 

「何やらせるんだよ。てか、そろそろこのネタわからん世代がいるだろ」

 

 マイクを置き、サングラスを外す。

 そもそもこれは肝試しに使うものじゃないだろう。

 

「なら、次はこれです」

 

 そう言って四葉は次に血糊がついて割れているメガネを俺に掛けさせ、髪も不気味さを出そうと色々と弄り始めた。

 もう好きにしてくれと俺は四葉の好きにさせる事に。

 

「しかし、風太郎だけはちょっと大変すぎないか?」

「長尾さんもそう思いますよね! やっぱり抗議しに」

「四葉、髪引っ張るな」

「あ、すみません」

「やめろ。そもそも林間学校自体がどうでもいいしな」

 

 俺はチラリと風太郎の横に置いてある林間学校のしおりへと目を向ける。

 

「むぅ……では林間学校が楽しみになる話をしましょう」

「ほぅ?」

 

 俺はどんな話しかと視線を四葉へと向ける。

すると四葉はようやく俺の髪から手を離すとコホンと咳払いをしてから口を開いた。

 

「クラスの友達に聞いたんですが、この学校の林間学校には伝説があるのを知っていますか?」

 

 伝説ね。

 とある木の下で女の子から告白されて出来たカップルを永遠に幸せになるとか?

 告白の時に鐘がなったらそのカップルは永遠に幸せになるとか?

 そんなどこぞのゲームと同じような伝説じゃあるまいし。

 

「最終日に行われるキャンプファイヤーのダンス。そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは生涯を添い遂げる縁で結ばれるというのです」

「うわぁ」

「非現実的だな。くだらないな」

「うん」

「冷めてる! 現代っ子!!」

 

 盛り上がっているのは四葉だけで俺や風太郎、三玖までも同じ反応。

 マジでうちにもそういうのあったのかよ。

 てか、俺の隣に座る三玖の反応は意外だな。

 風太郎の事好きな感じだからてっきり食いつくのかと。

 

「なんで好きな人と付き合うんだろ?」

 

 と思いきや三玖からのその問いが飛び出した。

恋愛経験というのに乏しい俺達にそれを聞くのか。

 

「うーん……なんでだろう……その人のことが好きで好きでたまらないからだよ」

 

 その問いにひとつの答えを投げたのは一花だった。

 なにやら三玖に耳打ちしたかと思えば三玖は頬を紅くしている。

 

「てか、撮影じゃないのか?」

 

 俺は四葉に弄られた髪を整えながら後ろにいる一花の方を振り返る。

 帰り際、俺にそう伝えてきた一花だったからてっきりもう行ったのかと思っていた。

 

「……」

「一花?」

 

 俺の顔をジーッと見ている。

 あ、そういやこの格好だもんな。

 

「え、あー、まだ時間あるから様子見にね。そういうセージ君もバイトって言ってたけどこれがバイト?」

「んな訳ないだろ。俺もバイトまでまだ時間あるから様子見にきたんだよ」

 

 俺はメガネを外して仮装グッズの山に戻す。

まだバイトまで結構時間あるからな。

 

「そっか。あ、私はそろそろ行かないと。今は何よりお仕事優先! 寂しい思いさせてごめんね」

 

 わざわざ俺に向かって言うなよ。

 けど、仕事優先っていう一花の笑顔は以前以上に自然で本当に役者を目指しているのがわかる。

 

「一花のやりたいことだろう。それに寂しくなんてないっての」

「もう、素直じゃないなー……ん?」

 

 スマホを取り出し何かを確認すると一花は少々困った顔をした。

 

「どうした? 仕事でトラブルか?」

「あ、違う違う。クラスの子達に呼び出されちゃったんだ。なんか林間学校でまだ決めてない事あったみたい」

「は? 俺にはそんな連絡きてないぞ」

 

 一応、クラスの連中とは連絡先は交換しているがそれらしい通知は来ていない。

 

「セージ君に伝え忘れてるとか」

「それは地味にショックだぞ。とりあえず俺も行くか……て、一花、時間大丈夫か?」

「うーん、厳しいかな」

 

 事情を説明するにもまさか映画の撮影で参加出来ませんは言えないよな。

 

「だから、三玖いつものお願い」

「ん?」

「わかった。フータロー、ウィッグ借りるね」

 

 そう言って三玖はショートカットのウィッグを手に取った。

 

「セージ君もフォローお願い」

「……は?」

 

 そうして流されるまま俺はトイレに行った三玖を待つと出てきたのは一花だった。

いや、ピアスないしさっきのウィッグ被った三玖なんだろうけど。

 

「こういうこと、日常茶飯事にしてるのか?」

「どうしてもの時だけ」

「四葉だけじゃなく、三玖も女優の資質ありとは」

「?」

 

 中野姉妹恐るべし。

 そんな事を思っていると教室へ着いた。

 けれど、クラスメイトの姿はない。

 

「悪い。先に入っててくれ」

 

 念のために浅井達にも確認入れてみるかと俺は浅井と朝倉に連絡を入れると速攻で返信がきた。

 

「そんなの知らん? どういう事だよ」

 

 クラスで決めてない事なのにクラス全員集めてないのかよ。

 とりあえず、誰が来ているのか確認を。

 

「俺とキャンプファイヤーで一緒に踊って下さい」

「は?」

 

 一花になった三玖に続いて教室に入ろうとしたが、その言葉に俺は足を止めて身を潜めた。

 そして後ろの扉の窓から誰かを確認する。

 

「前田」

 

 髪をオールバックにしているのが特徴的なやつ。

目つきがちょっといかついからかクラスメイトの中でもあいつを苦手にしている生徒がいるのは知っている。

 

「私と? なんで?」

「それは……好き……だからです」

 

 なんかこれ見たな。けど、今回はウソも演技もないやつだろうな。

 周囲には誰もいない。

 おそらく一花に連絡入れた連中がグルとなって二人きりにさせようとしたんだろう。俺というイレギュラーは申し訳ないが。

 流石にこれは前田には悪いと俺は図書室に戻ろうと引き返す。

 

「ありがとう。返事はまた今度」

「今、答えが聞きたい!」

「え」

「まだ悩んでるから」

「ということは可能性があるんですね!」

「いやぁ」

 

 おいおい、大丈夫か?

 廊下まで聞こえてくる前田の声。ちょっと危ないんじゃないか?

 

「お? 中野さん、雰囲気変わりました?」

 

 やばい。バレたら三玖が危ないかもしれない。それにこの事で一花も何言われるかわからん。

俺はもう一度教室へと足早に向かう。

 

「髪、いや、中野さん、たしか五つ」

「一花、妹達が呼んでるぞ」

「セージ」

 

 どうにか俺は話しに割り込む事が出来たが前田の視線が痛い。

 

「長尾、てめぇ。何勝手に登場してんだコラ? てか、名前で気安く呼ぶんじゃねぇよコラ」

 

 焦っていたとはいえ名前で呼んだのは俺の失態だ。

 教室じゃ出来るだけ名前を呼ばないようにしてたからな。名字で呼んだら不満そうな顔見せるし。

 

「邪魔したのは悪かった。けど、返事を待ってくれって言ってんだ。待ってやれよ。とにか妹達が呼んでるんだ。いくぞ」

「あ」

「待てコラ! お前がなんで出しゃばるんだ!」

「出しゃばってねえだろうが! 俺はただこいつを呼びに」

「お、落ち着いて」

 

 まともにこっちの話しを聞かない前田に俺も苛立って口調が荒くなる。

 

「やっぱりあれなのか?! 長尾と中野さんは付き合ってるのか?!」

「あぁ?」

 

 なんでそういう話しになるんだよ。

 てか、やっぱりってなんだよ。そんな噂流れてんのか?

 

「あのな! 俺と」

「そうだよ。私」

 

 俺の片腕が急に引っ張られたと思いきや次は柔らかい感触。

 

「この人と踊る約束してるから」

「は?」

「あ」

 

 何言ってんの三玖さんと三玖を見ると三玖もしまったという顔をしている。

完全に勢いで言いやがったな。

 

「おい、断るにしてもこんな理由。そもそも断って良いのかよ」

「ほら、一花、仕事優先って言ってたから」

 

 前田が放心しているうちに俺は三玖に声を潜めて言う。

確かにそうは言ってたけどさ。けど、これはまた余計な状況を生み出したんじゃないか?

 

「てことは、本当に」

「ラ……ラブラブだよね! 仲良く一緒に帰ろう」

「おいおい」

 

 そう言って三玖は俺の腕を抱え込んだまま教室をあとにしようとするが。

 

「恋人同士なら手を繋いで帰れるだろ」

「あのな」

 

 むしろこの状況の方が恋人同士らしいだろうがよ。

 前田の感性がまったくわからん!!

 

「ごめん。一花」

「あ?」

 

 三玖から一花へ小さな声で謝罪の声が聞こえたかと思えば今度は俺の手が強く握られた。

 

「そういう事だから……ごめんね。後日ちゃんと」

「くそー!! 林間学校までに彼女作りたかったのに結局このまま独り身か!」

 

 あー、行事前後でカップルが出来がちとは聞くが、前田もそういう奴らと一緒なのかよ。

 

「あの……私が今聞く事じゃないと思うんだけど」

 

 さっさとこの場から離れた方が良いってのに三玖は前田に何か聞きたい様子。

俺としては早く離れたいんだが、三玖が自分から聞きたい事みたいだし待つか。

 

「なんで好きな人に告白しようと思ったの?」

「中野さんがそれを言うか……そーだな。とどのつまり。相手を独り占めしたい。これに尽きる」

「!」

 

 三玖ってもしかして風太郎への感情を自覚してない?

 いや、自覚してるけど告白までとは考えていないって感じか? 

 だから告白してきた前田に聞いてみた。

 

「たく、中野さんを困らせるんじゃねーぞ」

 

 もっとしつこく絡まれるかと思ったけど、案外あっさりだな。

正直ぶん殴られるかと途中で頭過ぎったが、顔とは正反対にこいつは乱暴者じゃないのかもな。

 

「てか、現状困ってるのは俺」

「セ、セージ、ほら行くよ」

「おい」

 

 俺は三玖に引っ張られるようにしてまた図書室へと戻っていく。

 

「はぁ」

「ごめん。セージ」

「正直、もっと上手い断り方をして欲しかったよ。けど、仕方ない」

 

 キャンプファイヤーか。

 四葉のあの伝説聞いたから変に意識してしまう。

 

「本当にごめん」

 

 いつまでも申し訳無さそうにする三玖に俺はある提案を持ちかける。

 

「悪いって思うなら、三玖も誰か誘ってキャンプファイヤー踊れよ」

「へ」

「風太郎とかさ」

「っ」

 

 その瞬間、三玖の顔が一気に紅く染まる。

 

「それなら許す」

 

 ニヤッと自分でも悪い表情をしているのを理解しつつ三玖を見ると目を泳がせ首を振る。

 

「べつに、わたしはフータローを」

 

 一応まだ隠してるって事か? それともマジで自分の気持ちに気付いていない?

 ま、どっちでも良いけどさ

 

「深く考えなくていいって。風太郎の思い出作りに協力すると思ってさ」

「フータローの」

「あぁ、大人になってこんな事あったよなーって思い出を持っていて欲しいんだ」

 

 あの時の女の子と出会った時のように。大切な思い出がまた風太郎に出来ればいい。

 

「……セージってフータローのお父さん?」

「三玖も同じ事言うのかよ」

 

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