家庭教師と友人A   作:灯火円

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「それじゃ、お先失礼します」

「あぁ、明日からの林間学校楽しんでね」

「まぁ、はい」

 

 バイト先の人にそう言われたが、ここに来る前のあの前田の件を思い出す。

 

「三玖から一花に説明しとけとは言ったが、やっぱ本人とも話しておかないとな」

 

 スマホを取り出し、一花に連絡を入れようと思ったのだが母親からの通知が来ていた。

 確か今日は出張でそのまま泊まりだって話してたよな。

 明日林間学校だからそれについてか?

 そう思いながら俺はその内容に目を通し、途中で閉店間際のスーパーへと駆け込んだ。

 

「はーい、どちらさ」

「よう、風太郎」

 

 俺は自分の家ではなく風太郎の家へと来ていた。

 

「誠司。なんだよ」

「出張サービスだ。お前、飯食ったのか?」

「何言って!」

「大声出すなよ。らいはちゃん、寝込んでるんだろ?」

「!」

 

 母親からの内容は風太郎の妹、らいはちゃんが熱を出して学校を早退したというものだった。

 何故俺の母親が知っているかというと風太郎の父親、勇也さんから聞いたという。

 俺と風太郎が小学校からの付き合いなのは俺の母親と風太郎の父親が同級生という縁もあったから。

 互いに家を留守にしてしまう事が多いからか持ちつ持たれつの関係でこれまで交流をしてきた。

 勇也さんは早くても帰ってくるのは明日の朝らしくそれで俺の母親に連絡し、そして俺へと回ってきたわけだ。

 

「誠司、大丈夫だから」

 

 そう言った風太郎だが、腹は正直な様子。

 

「どうせ、らいはちゃんの看病で自分は食う事忘れてたんだろ。看病する側が空腹でぶっ倒れる方がまずいだろうが」

「うっ……悪い」

「って、ことで台所借りるぞ。それとらいはちゃん、病院には?」

「もちろん行かせた。ただの風邪らしい」

「そうか」

 

 それを聞いて俺もとりあえずは安心して上杉家の台所へと向かう。

 スーパーで買ってきた食材を出す。

 あと、らいはちゃん用に買ったゼリーやらプリンやらは冷蔵庫に入れる。

 

「よし、作りますか」

 

 とは言っても簡単なもの。出汁と醤油で味付けした所に切った具材とうどんを入れたら終わり。

 一応、汁は多めに作って明日、うどんでも米でも入れてらいはちゃんも食べられるようにもしてある。

 

「風太郎、出来たぞ。とりあえず代わるからお前は飯と風呂を済ませて少し寝ろ」

「いや、風呂済ませたら」

「これから長丁場だろ。俺がいる間に寝ろ」

 

 こいつの事だ。どうせ一晩中らいはちゃんの隣で様子を見るつもりだろうからな。

 

「……悪い」

「そういう時はありがとうだ」

「あぁ、ありがとう」

 

 そして俺は風太郎の代わりにらいはちゃんの様子を見る事に。

 そのらいはちゃんが寝る布団の横に俺はある物を見つける。

 それはいくつもの付箋が貼られている林間学校のしおりだった。

 

「めっちゃ楽しみにしてるじゃん」

 

 俺は部屋の隅へと行き、スマホを出して電話を掛ける。

 

『誠司、二人どうだった?』

「あ、うん。大丈夫。風太郎も飯食わせた。らいはちゃんは寝てる。風邪だってさ」

 

 らいはちゃんが起きないように小声で話す相手は母親。

 

『よかった。上杉も帰れても朝だって言うし』

「わかった。あと俺、風太郎の家に残るから」

 

 風太郎には帰るみたいな事は言ったが、そんなつもりは端からなかった。

 

「それでさ。その」

『あんたの好きにしなさい』

「……ありがとう」

 

 頭が上がらないなと思いながら俺は電話を切り、あのしおりを手にして目を通す。

 そしてキャンプファイヤーという文字に俺はすっかり忘れていた事を思い出す。

 

「けど、このままなら」 

「誠司、やっぱりお前はもう」

 

 風呂から上がった風太郎が俺に申し訳無さそうに何かを言ってきそうだったからその前に風太郎を布団へと追いやった。

 

「アラームしておく。鳴ったら起こすから」

「いや、誠司」

 

 それでも風太郎は俺を帰そうという意志がある様子。それならそれで俺も考えはある。

 

「ここで無理に俺を追い出してもご近所さんに上杉さん家の前に変質者がいると通報されて俺は」

「わかったわかった。好きにしろ」

 

 そうして観念して仮眠に入る風太郎。

 気を張っていたのかすぐに寝息が聞こえ俺はらいはちゃんの元へと戻る。

 らいはちゃんはまだ熱があるようで頬が紅く汗もかいていた。

 俺はタオルで顔や首だけでもその汗を拭う。

 

【だいじょーぶだよ。おとーさんもいるからだいじょーぶ】

 

「大丈夫……大丈夫」

 

 俺はおまじないのように何度も繰り返していた。

 そうして気付けば太陽が上がっていた。

 

 

「誠司! お前、起こさなかったな!」

「ん? あー、悪いな。俺のスマホの充電なくなってたみたいだ」

 

 時刻は七時過ぎ、すでに林間学校へと向かうバスは出てしまっただろう。

 

「あ、学校には連絡しといたから」

「連絡って、お前だけでも行けば」

 

 すると玄関がガチャと開く音がするとバタバタとした足音を共に「らいは生きているか!?」という声をあげて入って来たの勇也さんだった。

 

「親父、まだ寝てるんだ。静かにしろ」

「おはようございます」

「風太郎、誠司も。看病してくれてたのか。って、お前ら林間学校のバス出てんじゃ」

「そうだ。俺は別に良かったんだ。なのに誠司は。余計なお節介して」

「あ?」

 

 余計なお節介ってなんだよ。

 俺は思わず風太郎へと詰め寄ろうとしたがその前に風太郎の頭をポンと叩く勇也さんがいた。

 勇也さんはあのしおりを手に取り風太郎の方へとそれを差し出す。

 

「風太郎。早く帰れなくて悪かったな。けど、今の言葉は誠司に失礼だろ」

「っ」

「それと誠司もだ。一生に一度のイベントだ。今から行っても遅くないんじゃないか?」

 

 確かに今からなら少し遅れるが現地で合流できる。

 交通費は最悪俺が出せばいい。

 いざという時の貯金だ。

 

「けど」

 

 それでも風太郎はもう良いんだと言いそうで俺は風太郎にリュックを持たせる。

 

「あー! お腹空いた!」

 

 元気な声に俺達はその声の方に顔を向けると布団から起き上がりガッツポーズをしているらいはちゃんがいた。

 

「らいは……熱は?」

「治った!」

 

 良いお返事だなと思っているとらいはちゃんは俺と風太郎の姿に目を丸くする。

 

「なんでお兄ちゃん達まだいるの? ほら早く行った。私はもう大丈夫だから林間学校行ってきて。看病ありがと」

 

 その笑顔に俺も自然と笑顔になる。

 

「だから、バスは」

「今ちょっとルート調べるから待ってろ」

 

 俺はスマホを出して林間学校先までのルートを調べる。

 俺だって諦めてないからな。

 

「調べる必要はありませんよ」

「てか、誠司。あんたわざと電源切ってたでしょ」

「五月!? なんで」

「母さん!?」

 

 予想外の人物達がいて俺と風太郎も驚いた。

 

「それはこちらのセリフです」

 

 すると五月は風太郎が手にしていたリュックを掴むと「行きますよ」と風太郎を引っ張って上杉家をあとにする。

 

「誠司、忘れ物」

 

 一方俺は母さんからリュックとカメラを渡された。

 

「楽しんできなさい」

「……あぁ」

 

 そうして五月と風太郎を追いかける。

 

「てか、五月……バスは?」

「見送らせていただきました」

 

 どこへ向かうのかわらないまま俺と風太郎は五月のあとを歩く。

その間に俺は何故ここにいるのか聞いた訳だが、そりゃ見送ったのはわかる。

その理由を知りたいんだが。

 

「なんでうちに来たんだ」

「あなたの家を知っているのは私だけですから。その前に長尾君の家に寄ろうとした途中でお母さんに出会いまして長尾君もそこにいると聞いたので」

「俺の家にも行ったのか? いや、俺の家を知っているのは……待てよ。まさか」

 

 俺の家を知っているのは一人、そして案内したとなるとその人物も一緒という訳だが。

 

「セージ君、フータロー君。おそよー」

「フータロー、セージ」

「こっちこっち!」

「ったく、何してんのよ」

 

 広い通りに一台の車が停まっている。そしてその前には中野姉妹と以前一花を迎えに来た江端さんが丁寧に頭を下げていた。

 

「肝試しの実行委員ですが、暗い場所に一人で待機するなんて事は私には出来ません。オバケ怖いですからあなたがやってください」

 

 なるほど。なんだかんだ五月は心配してくれてたんだな。

そして姉妹揃ってバスを見送ってこうして迎えに来てくれたと。

 さすがにこの展開は俺も予想外だった。

 でも、せっかく五つ子がここまでしてくれたんだ。

 

「だとよ。肝試しの実行委員さんよ」

「……仕方ない。行くとするか」

 

 やれやれなんて態度を見せているがその頬が緩む一瞬を俺は見逃さなかった。

 

「それに、あなたに付き合って長尾君まで行けないのはあんまりですから」

「それは……悪いと思ってる」

「まぁまぁ五月。俺は自分でそうしたからさ。俺の自業自得。とにかく、ありがとうな」

 

 そういや、褒める時は頭撫でるんだっけ?

 とりあえず五月のお怒りを沈める為にも五月の頭を撫でておく。

 

「っ、早く行きましょう。只でさえ遅れてますから」

「あ、そうだな」

 

 さっと避けられた。

 やっぱ安易に触れちゃダメなんじゃないか。

 俺はそのアドバイスをした一花を見ると私はご機嫌斜めですと言わんばかりの顔で一花が俺を見て近寄ってきた。

 

「なんで電源切ってたの?」

 

 電源を入れた際に母親の他に一花からもいくつか通知が入っていたのは確認していた。

おそらくキャンプファイヤーの事だろうな。

 一晩中、らいはちゃんと風太郎の事考えてたのと俺はもう林間学校行かないつもりでいたから一花と連絡取るの忘れてた。

 一晩中。

 ん? そういえば、俺風呂入ってない。一応制汗シートで拭きはしたけど。

 もしかして五月が避けたのってそれが原因か?

 自分の匂いって気づきにくいからな。

 

「あー、色々とな。連絡入れてくれてたのに悪かった。あ、俺は助手席に座るわ」

 

 俺は自然に一花から離れるように助手席のドアを開ける。

 

「え、なんで。一緒に」

「野郎二人もそっちじゃ窮屈だろ」

 

 さすが高級車、後部座席は広いがさすがに男二人と他四人はな。

 それにそれだけ近い訳だし不快な気持ちにはさせたくない。

 

「江端さん、よろしくお願いします」

「いえいえ、あまりお気になさらず」

 

 あれこれ言われる前に俺は助手席へと乗り込み江端さんに挨拶すると柔らかい笑顔であっちから見たらガキみたいな俺にも丁寧に接してくれた。

 江端さんには申し訳ないが、大切にしている年頃のお嬢さん達に臭い野郎が近くにいるよりかは良いだろう。

 そうして後部座席に風太郎と五つ子が乗り込むと車は林間学校に向け走り出した。

 

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