家庭教師と友人A   作:灯火円

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「五つ子ゲーム! 私はだーれだ?」

 

 車が出発してしばらく車内は五つ子ゲームという隠した手から伸びる指を当てるゲームが行われていた。

 親指は一花、人差し指が二乃、中指が三玖で薬指が四葉、そして小指が五月らしい。

 ぱっと見、特徴的な親指と小指では無さそうだからそれら二つは除外。残るは三択。

 中野姉妹は慣れているのかすぐに回答。風太郎はじーっと出題者の二乃の指を見ている。

 皆が二乃の指に集中している光景が面白く、俺はカメラを向けた。

 

「ちょっと、何撮ってるの!? あんたも触るの禁止! つーか触んな」

「思い出写真くらい良いだろう」

 

 そして風太郎、そこまでして正解したいのかよ。

 

「くっ、二乃だ!」

「長尾さんは?」

「あ? そうだなー。んじゃ三玖で」

「はーい、正解は三玖でした」

「何故裏返ってる」

 

 風太郎に向けて二乃は世界でも有名なハンドサインを向けていた。

 

「くそー! 次は俺な!」

「やけにハイテンションですね」

「お前たちの家と誠司の家を除けば外泊なんて小学生依頼だからな」

 

 俺の家は良いとして女子生徒の家に泊まるって今考えるとやっぱアレだよな。

いや、家庭教師として泊まり込みは今後も欠かせないとは思うが。

 

「もう誰も俺を止められないぜ!」

「……まぁ、もう一時間以上足止め食らってるんですけどね」

 

 四葉の言葉に俺は前を見ると車と雪で視界が悪い。

大雪の影響で道路は大渋滞。どう考えても今日中に宿泊施設にはたどり着けなさそうだ。

 

「明日には天候は回復するでしょうから、今日はもう一泊した方が良さそうですね」

「なら、俺が泊まれる所を調べます」

 

 俺はスマホで近くに泊まられそうな場所を探す。

 

「ありがとうございます。宿泊料金はこちらで持ちますので」

「良いんですか?」

 

 正直助かるがそこまで甘えて良いのだろうか。車に乗せてもらうだけでもあれなのに。

 

「お嬢様達の家庭教師ですから、それにお二人といるお嬢様達はとても楽しそうです」

 

 ミラーで後ろを見るとなんだかんだ楽しそうな五つ子達と風太郎がいた。その状況に俺も自然を笑みが出る。

 そしてなんとか泊まれる場所を見つけ、車はそこへと向かった。

 ただ、問題があった。

 

 

「こいつらと同じ部屋なんて絶対に嫌!」

「言っておくけど、俺だって必死に探したんだ」

 

 案内された部屋に到着して早々二乃は拒否を示す。

 

「団体のお客さんが急に入ったとかで一部屋しか空いてないって話しだし仕方ないよ」

 

 そんな二乃を宥める四葉だが、二乃はどうにか回避しようと江端さんの車へと戻ろうとするが、江端さんは午後から仕事があるらしく帰って行った。

 

「良い旅館だ。文句言ってないで楽しもうぜ!」

 

 そんな二乃とは対称的に風太郎はこれも醍醐味だと言ってこの状況すら楽しんでいる。

 

「はーい、女子集合」

 

 二乃がなにやら姉妹を集合させている。どうせ野郎二人についての作戦会議とかだろうな。

それなら俺は邪魔しないようにと風太郎と一緒に荷物の整理をする。

 ふと風太郎が何か握りしめている事に気付く。

 

「風太郎、それは?」

「ふふ、らいはからのお守りだ。これがあれば無敵だ」

 

 ミサンガと思われる物を風太郎は大事そうに握っている。

 なるほど。だから余計にテンション上がってるのか。

 

「やっぱ、旅館ならアレだよな」

「あ?」

 

 そう言ってリュックから出したのはトランプ。

 それを手にして風太郎は姉妹達の方へと向かって「やろうぜ」と誘う。

 そんな風太郎に姉妹達は揃って後ずさりする。

 おいおい、なんだよその反応。勉強会以上の反応だな。

 

「トランプ持ってきた。やろうぜ!」

「き、気が利くねー、懐かしいなぁ」

「何やります?」

「七並べっしょ」

 

 七並べ。そういや、あの時も七並べだったな。

 あれ以降、風太郎はトランプといえば七並べと言わんばかりに七並べを選ぶんだよな。

 

「ほら、セージ君も」

「あー、俺はいいや。てか、温泉入ってくる」

 

 俺は一花の誘いを断り、着替えを持ってそそくさと部屋を出る。

 調べた時に温泉がある事は把握済み。

 とにかく俺は一刻も早く体を流したい。

 そうして部屋を出て浴場へと向かうのだが。

 

「あっちの方、騒がしいな。例の団体客か?」

 

 俺達の部屋がある場所とは逆の方はなんだか賑やかだ。

 例の団体客の様子。

 こんな雪の中であちらさんも大変だったろうな。

 

「となると混みそうだな」

 

 その団体客が温泉に行く前に俺はさっさと入ろうと急いだ。

 

 

「あー、最高」

 

 無事に体を洗い流し、温泉に体を浸からせると思わず声が漏れた。

 早めの時間もあってか貸切状態、先に来て正解だったかもな。

 

「ふぁ」

 

 徹夜は慣れている方だが、看病と勉強では使う神経が違うようで疲労感が一気に来た。

 

「風太郎に付き合ってやりたいが、厳しいかもな」

 

 今の風太郎のテンションはおかしい。

 久しぶりの外泊だし気合い入れてたみたいだからそれもあるんだろうな。

 だが、これは夕食を食べたらそのまま寝そうだ。

 一花とキャンプファイヤーの事も話さないといけないんだが。

 

「ダメだ。頭回ってない」

 

 とりあえず、このまま寝てしまってはダメだと温泉から上がり部屋へと戻ることにした。

 そして戻ると丁度夕食の準備が終わっていた。

 

「すげぇ! タッパーに入れて持ち帰りたい」

「やめてください……」

「こんなに食べちゃっていいのかなー。明日のカレーが見劣りしそうだよ」

 

 風呂から戻ると丁度仲居さんが夕食を持ってきてくれていた。

 そして並べられる海山川の食材を使った豪勢な夕食。

 四葉の言うとおり、これ食べたら明日の飯盒炊飯のカレーが見劣りする。

 

「三玖、あんたの班のカレー楽しみにしてるわ」

「うるさい。この前練習したから」

 

 二乃と三玖ってちょいちょいこういう雰囲気になるよな。

 

「そういえばスケジュール見てなかった」

 

 仕事で忙しかった一花は林間学校のスケジュールとかあまり確認していなかった様子。

そんな一花に風太郎は残りのスケジュールを全部教えた。

 

「フータロー君、暗記してるの?」

「そりゃ、あれだけ付箋貼ってたらな」

 

 だとしてもスケジュール全部覚えてるとか本当に楽しみにしてたのがわかる。

 

「あとキャンプファイヤーの伝説の詳細がわかったんですけど」

「伝説?」

 

 あれ以上に詳細あるのかよと思っていると一花は首を傾げて四葉の方を見る。

 もしかして知らない? いや、俺も四葉に聞いて知ったくらいだし。

 

「関係ないわよ。そんな話したってしょうがないでしょ。どうせこの子達にキャンプファイヤーの相手なんていないでしょ」

「あはは」

 

 三玖から事情を聞いたであろう一花は俺の方を向く。

 馬鹿。ここで俺を見たら二乃に勘づかれるだろうが。

 俺はそっとその視線からそらし、刺身を口にする。

 姉妹大好きな二乃に知られるのが一番面倒なのはわかりきってるからな。

 

「……温泉あるってセージ君言ってたよね。効能とか載ってないかな」

 

 一花はチェックインの際に渡された旅館の案内図を広げる。

その間も姉妹はキャンプファイヤーの話しで盛り上がっている。

 

「えっ……混浴」

 

 その一花が発した言葉でわちゃわちゃの空気は固まる。

 

「はぁ!? こいつらと部屋のみならずお風呂も同じって事?」

「言語道断です!!」

 

 二乃と五月の拒否反応がすごい。

 てか、混浴じゃなくて。

 

「あのな」

「二乃……一緒に入るのが嫌だなんて心外だぜ。俺とお前はすでに経験済みだろ?」

「二乃、それどういう……」

「風太郎、黙れ」

 

 お前、いくらテンション上がってるからってその発言はやめろ。

俺はちらりと三玖を見ると何か言いたそうにしたが口をつぐんでいた。

この様子だとキャンプファイヤーも誘えてなさそうだな。無理強いはしないけどさ。

 

「あ、混浴じゃなくて温浴でした」

 

 一花には今後は漢字の勉強を集中的にやらせよう。

 うん、女優だし台本で漢字読めないのは危ないからな。

 

 

「誠司は良いのか?」

「俺は先に入って来たからな。風太郎もゆっくりしてこい」

「わかった」

 

 豪勢な夕食後、中野姉妹と風太郎は温泉へと向かい俺は部屋に一人残った。

 仲居さんが寝床の準備をしてくれたが、六人分が精一杯と申し訳無さそうに謝られたがこちらは飛び込みで来たのでお気になさらずと言って答えた。

 布団は六人だが枕と掛け布団が七つと不思議な配置。

 とりあえず、俺と風太郎が隣同士で寝るか。

 

「うぁ」

 

 俺の眠気と体力も限界のようで俺は適当な布団に入って横になる。

 

「風太郎……わるい」

 

 お前を待っている体力は俺には残されていなく、今頃温泉へと浸かっている腐れ縁に謝罪して目を閉じた。

 

 

【おにいちゃん、りっかはだいじょーぶだから】

【父さんが見てるから誠司達は行ってこい】

【お兄ちゃん、お医者さんになるの? お兄ちゃんならなれるよ! 楽しみにしてるね!】

【すまない。俺のせいだ。俺が六花を】

 

 息が詰まる。

 誰か助けてくれ。誰か!

 

「っ」

「あ」

「……いち、か」

 

 誰かの手を掴み、目を開けると一花の顔がすぐそこにあった。

 

「もう朝ですよ。朝食は食堂で」

 

 部屋の扉と共に聞こえたのは五月の声、しかしすぐに扉は閉められた。

 

「あ、五月」

 

 なんか反応的に変な勘違いされたかもしれないと俺はまだ少々起きていない体を起こし五月の方へと向かった。

 廊下に出ると五月の姿が見え呼び止める。

 

「五月! さっきのは」

「中野! 長尾! お前らここで何やってるんだ」

「え?」

「あ」

 

 突然俺と五月が呼ばれ振り返るとうちの教師陣がそこにいた。

 

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