「まさか、団体客がうちの学校だったなんてな」
急な団体客、それは俺らと同じように大雪で足止めを食らったうちの学校だった。
「長尾。なんだお前も結局来たのかよ」
「てか、中野さんも合流ってどういう事だ?」
クラスに合流した俺を浅井と朝倉が俺に絡んできた。
そういや、さっきの事を一花に謝ってなかったな。
今はちょっと無理そうだからあとで話すか。キャンプファイヤーの事も結局きちんと話せてないし。
それと五月の方もな。
結局あの状況の説明を一切していない。
そもそも俺もどういう状況だったのか把握してない。いや、俺が寝ぼけて一花の腕を掴んだのが原因だけど。
とりあえずうるさい二人と共に俺はバスへと乗り込んだ。
そしてようやく宿泊施設にたどり着き、軽いオリエンテーションの後カレー作りとなった。
「二乃、野菜切るの速っ」
「家事やってるだけのことはあるね」
「これくらい楽勝よ」
二乃は料理となるとやっぱ大活躍だな。
「これもう使った? 片付けておくね」
「は、はい」
「中野さん美人で気が利いて完璧超人かよ」
「俺の部屋も片付けて欲しい」
お前ら、騙されているぞ。
そいつは本来片付けられない人種だ。
「もう、薪割らなくていいから!」
「あははは、これ楽しいですね」
体力オバケの四葉。加減を覚えろ。
「そろそろ煮込めてきたかな」
「待って下さい。あと三秒で十五分です」
五月、レシピ通りってのは大事だが三秒は誤差だろ。
「三玖ちゃん! 何入れようとしてるの!?」
「お味噌、隠し味」
練習してきたんだよな?
三者三様ならぬ五者五様の中野姉妹を横目に俺は担当の米の様子を見に来たのだが。
「前田」
「長尾」
俺らの班の隣が前田の班だったとは気まずい。
「……中野さんとは順調なんだろうな?」
「……」
なんだかこのまま騙しているのも悪い気がしてきたな。
あの時は前田が何かしでかすかもと思って間に入ったが、そんな乱暴者でもなさそうだし。
「い……中野さんと付き合ってるってのは悪いけどウソだ」
「あぁ?!」
「落ち着けよ。そもそもあの時いたのは中野一花じゃなくて妹の三玖の方なんだ」
立ち上がって声を上げた前田を宥め、俺は話を続ける。
「あの日、中野一花はどうしても外せない用事があったんだ。それで代わりに三玖が。俺はその事情を知ってたからフォローのつもりで一緒にいたんだ」
「騙したのかコラ!」
「そもそもそっちがクラスの話し合いだって言ったからだろ。告白だって知ってたらあいつもあんな事はしない」
俺もそうだと知ってたら一緒に行ってなかった。
「それは……そうだな。わるかった」
前田はもう一度座り直し、頭を下げた。
やっぱり悪い奴ではなさそうだ。
「まぁ、俺もあの場に入って悪かったよ。告白の場面に入るなんて失礼だった。けど、三玖があんな事言ったのは姉を思っての発言だ。だから三玖のことは責めないでくれ」
三玖なりに一花の事を思った結果、あんなウソを吐いたからな。
「……中野一花には今やりたいことがあるんだ。それを今は優先したいって言ってて、三玖はそのために動いたんだ。ま、俺はそのアシストした形。あいつがやりたい事を優先したいなら俺はそれを尊重したい。てか、一応俺からは一言も付き合ってるなんて言ってないからな」
「……長尾」
あー、これじゃ俺にもまだチャンスはあるなとか騒ぎそうだな。
しかし、仕事優先なのは知っているが、一花が恋愛についてどういうスタンスなのか俺も知らないから前田がまた告白するってなら止められない。
「俺は馬鹿だコラ!」
「は?」
隣では自分の頬をパンッと叩く前田。
そんな前田の行動に周囲もざわつくが「何見てんだコラ!」の一言でその視線達は散り散りになる。
「俺は自分の事しか考えてなかった! 林間学校までに恋人作る事しか」
「いや、それは別に悪い事でも無いだろ」
実際それで動いて出来たカップルもいるみたいだし。
今だってちらほらと初々しい男女を見掛ける。ある意味とても学生らしい光景だ。
「でも、お前はしっかり中野さんの事を考えてる。お前が中野さんと付き合ってると言われて当然だな」
「当然じゃないからな。そもそもなんだその噂は」
「中野さんと仲良く話してるだろ」
「隣の席だからな。てか、あいつは他の人ともそんな感じだろ」
教室での一花は分け隔てなく話している。
俺は隣の席だから余計にその印象が強いだけだろ。
「とにかくだ。中野さんは諦める。俺みたいな器じゃ中野さんと釣り合わん」
こいつ、意外と真面目だな。
「上杉さん! 肝試しの道具運んじゃいますね」
「四葉……お前確かキャンプファイヤーの係だろ」
向かい側で風太郎と四葉の会話が聞こえる。
それを聞いて俺はある事を思いつく。
「あー、前田がそれで良いなら良いけどさ。でも、チャンスはまだあるだろ?」
「あ?」
「肝試し。吊り橋効果ってのもあるからな。一花はダメでもさ。他の女子誘ってみろよ」
腐れ縁が気合い入れて準備しているからな。自由参加だが、参加者が多い方が風太郎もやり甲斐あるだろう。
「さて、俺の班のはもう良さそうだ。頑張れよ。前田」
俺は火の始末をしてその場をあとにし自分の班のカレーを完成させた。
大きさがバラバラな野菜達だったが既製品のルーを使えば早々におかしな事にはならず美味しく頂けた。
「肝試しね」
カレーを食べ終わった頃には陽も沈み始め、自由参加となる肝試しまでもう少し。
肝試しは基本ペア参加。俺は最初から参加するつもりもなく、せっかくだから何か写真でもと考えて歩いていた。
すると五月を見掛けた。そういえば旅館の件まだ話してなかった。
「五月!」
「っ」
「今朝の事だけど」
「私、二乃と約束あるので!」
「え」
そうして五月は足早に俺から離れていった。
追いかける事も出来たが二乃と会う約束なら逆に俺が追いかける状況はかなり悪手だ。
「はぁ、どうする……」
またも五月と話せない状況になるなんて。
てか、避けられてるのってやっぱりあの現場を見たからか?
「これ、きちんと撮れてるのかな?」
「てか、今時現像しないとわからないってどういう事だ」
頭を悩ませている俺の前になにやらカメラを弄っている男女ペア。
「どうした?」
カメラを持っているのを見て思わず俺は声を掛けていた。
「あ、俺達記録係担当で先生からカメラ渡されたんだけど」
「カメラ貸すって言うからデジカメだと思ったらこんなのだし」
「ちょっと見せてもらっていいか?」
「あ、あぁ」
カメラを受け取って見るとフィルムカメラ。
最近は生産数も少ないから貴重になっている物。
おそらく先生の私物だろうけど、現代の子に手ぶれ補正もついていないやつを渡すのは少々ハードル高いな。
ボタンひとつで撮れるタイプならまた別だけど、これはちょっと。
「長尾君だよな? わかるの? てか、カメラ持ってる」
「少しな。けど、このカメラだと俺も使える自信ない」
「そっかぁ」
女子の方は明らかに落ち込んでいる。
別に君が悪い訳じゃないだろう。けど、気合い入ってたのかもな。どっかの誰かさんと同じで。
「……記録係って写真撮れば良いのか?」
「え、あぁ。みんなが作業している所とかをいくつか撮れば良いって。俺は簡単そうだから立候補したんだけど」
「なら、俺のカメラである程度撮っておく。んで、データ渡す」
俺のカメラを貸す選択もあったが、さすがにあまりカメラに触れた事のない人に自分の目が届かない範囲で貸すのは怖い。
「良いの?!」
「元々撮る為に持ってきたからな」
「悪いな。それじゃ、頼んで良いか。あ、でもキャンプファイヤー参加出来なくなるか」
目玉となるキャンプファイヤーは必ず撮らないとダメだもんな。
一花と踊るってなってたが前田には俺達の事話したし、参加する理由もなくなったしな。
そもそも一花が困るだろうし。
「大丈夫だから気にすんな」
「長尾君、ありがとう!」
「今度、何かお礼するね」
「なら、今度ジュースでも奢ってくれ」
そうして俺は記録係を任された訳で俺は肝試し会場に来ていた。