家庭教師と友人A   作:灯火円

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 五月と二乃を連れ宿舎に戻ってきた俺はとりあえず風太郎に連絡入れようと電話を入れるが出る気配がない。

 

「誠司」

「うお、なんだよ。居たのかよ。今、電話掛けてたんだ」

 

 俺の隣に現れたのはその電話の相手。

 

「ん? あー、携帯は部屋だ」

「お前、携帯の意味ある?」

「それよりもだ。面倒な事になった」

「はい?」

 

 そうして風太郎のいう面倒な事とは先ほど二乃達を探しに行った際に風太郎は俺達より先に二乃を見つけてたらしい。

 だが、問題は風太郎があの金髪のウィッグを付けたまま二乃に会ってしまった。

 二乃は風太郎を風太郎だと気付く事なく、風太郎が持つ例の写真の少年だと思ったらしい。

 いや、それはそれで何一つ間違いではない。

 問題は。

 

「なんで自分だって言わなかったんだよ」

「言ったら弱み握られると思ったんだ!」

「それで逆に面倒な事になってるじゃねえか」

「うっ」

 

 そこでさようならで終われば良かったのだが、二乃が風太郎もとい金太郎をキャンプファイヤーのダンスに誘ったのだ。

 断る事も出来ず、二乃は俺達と合流してしまった為姿を隠したという。

 

「今からでも遅くない。事情を説明しろ。ま、一発は覚悟しておいた方がいいな」

「だよな」

「フータロー」

「三玖?」

 

 三玖の様子を見ると真剣な眼差し。まさかこのタイミングでキャンプファイヤー誘うんじゃ。

 

「あ、三玖。丁度良かった。二乃知らない?」

「……知らない」

「え?」 

 

 三玖はプイッと顔を背けて行ってしまった。

 

「もしかして俺って思ったより好感度低い?」

 

 今のは完全にタイミングの問題ではある。

 

「今更気がついたんですか?」

「うお、五月?!」

 

 柱の陰からそっと顔を出す五月に俺は思わず驚く。

 

「忠告します。今より下げたくなければこれ以上不審な真似はしないことです」

 

 そんな忠告をして五月はどこかへと行ってしまった。

 

「心当たりないんだが……」

「五月や二乃に対しては前科持ちだぞ。お前」

 

 あと、ついさっき三玖にも。これに関しては女心という俺にも難しい問題が絡んでいるから言わないでおくが。

 

「とにかく、早急に手を打つ必要がありそうだ」

「あー、なら丁度いい役割があるぞ」

「ん?」

 

 俺は明日のキャンプファイヤーの為にこのあと、その木材を運ぶ事になっている事を思い出す。

 そしてその係には四葉と一花がいる。

 そもそもこの二人の好感度は元から高い気もするが、姉妹に優しくすれば他の姉妹の好感度も上がるかもしれないからな。

 

「上杉さんが手伝ってくれて助かります」

「よし、俺に任せろ!」

 

 とりあえず四葉と合流し、小屋から目的の場所まで木の丸太を運ぶのだが。

 

「ふん!」

 

 風太郎ひとりでは丸太はまったく上がらず。その状況に俺は思わずため息が漏れた。

 

「四葉、悪いが風太郎を手伝ってやってくれ」

「了解です!」

 

 とりあえず、俺も本来の係はこれだから働かないとな。

 

「よっと」

「誠司は何故持ち上がる?」

「一応、バイトとかで雑用で荷物運んだりしてるからな」

 

 北条さんの手伝いで機材、バイト先ではケーキに必要な食材の運搬とかそれなりに力仕事をやってきている。

 

「じゃ、先行くぞ」

 

 そうして俺は何回か往復、その間に風太郎は一花と運ぶ姿も見掛け、目的通り二人の好感度は上げられたと信じよう。

 

「あと一本だ」

「じゃ、俺が行く」

 

 残り一本という事で俺は小屋へと向かう。

 

「重っ」

 

 小屋には最後の一本だと思われる丸太を持とうとする一花がいた。

 風太郎の姿が見えない。あいつバテたか?

 とにかく一人じゃとても無理だろうから俺はかけ寄って一花の隣で丸太を持つ。

 

「軽っ……セージ君」

「風太郎はどうした?」

「え? あー、疲れて休憩してる。元々彼、係じゃないし」

「ま、よくやった方だな。さて、ラスト一本だ」

「……これで明日のキャンプファイヤーできるね」

「そうだ。キャンプファイヤー」

 

 色々と重なり過ぎて肝心な一花とのキャンプファイヤーの件について話せてなかった事を思い出す。

 

「三玖から聞いてるよな?」

「……うん。踊るみたいだね。私たち。どうする? 練習でもしとく?」

 

 一花にとってはもしかしたら何でも無い事かもしれない。

 それでも俺の頭の中で四葉から聞いた伝説がちらつく。

 何より俺はそのキャンプファイヤーに出られない事が決まったしな。

 

「いや、やめよう」

 

 もう、その必要はなくなった事を俺は一花に伝える。

 

「前田には全部話した。あの時、あいつの前に居たのが三玖だって事と俺達がそんな約束してない事も。話せばわかってくれる奴だったよ。良かったな。これで」

 

 俺はいつものように「お姉さんと踊れなくて残念だったね」くらいの返しが来ると思ってたんだ。だから、俺もそれに「はいはい」といつものように流すつもりでいた。

 けれど、そんな一花はいなく隣にいる一花は涙を溜め、そしてその涙が瞳からこぼれていた。

 

「いち、か」

「あれ……なんでだろ……違うの。ごめん……一旦置いていいかな」

「あ、あぁ」

 

 丸太を一旦壁に立てかけるが、俺の頭は混乱していた。

 一花はいつも余裕そうで俺をからかって。多少しんどい事でも作り笑いで乗り切ろうとするやつだ。

 けど、その作り笑いすらせず泣いている。

 

「よーし、全部運んだわね」

「!」

 

 人の声に俺と一花は思わず物陰に隠れた。

 多分、今は見られたくないだろう。とりあえず去るまで待って落ち着いたら俺達も。

 

「はは、前にもこんな事あったね」

「……」

 

 俺は上着を脱ぎ、一花に被せる。万が一こちらに来ても顔が見えないように頭から被せた。

 

「無理して笑うな。今は誰も見てない」

「!」

「て、俺がそうさせたんだよな」

 

 何が原因かわからんが、俺の発言が引き金だったのは間違いない。

 その原因を考えないと。

 俺が頭をフル回転させようとしていた時だった。

 ガシャンという音が聞こえ、最後にはガチャと鍵をしめるような音。

 

「待て……まさか」

 

 俺は急いで扉の方へと行き、扉を開けようとするが開かない。ならば叩いてまだ居ること知らせようとしたが、外から反応はない。

 

「仕方ない。壊すか」

「待って! あれ、防犯センサーじゃないかな。壊したら警備員が飛んでくる系の」

 

 一花の指さす扉の上辺りにそれっぽい物が確かにあった。

 

「なら、それで助けてもらおう」

「そんなことになったら林間学校が台無しだよ」

「うっ」

 

 記録係を頼まれてるからな。ここで変に騒ぎ起こしたらあれか。

 

「てか、スマホあるじゃん」

「私は充電してて部屋だ」

 

 とりあえず、俺は風太郎と保険として浅井達に連絡した。

 しかし、このままじゃ風邪引くよな。

 チラリと一花を見る。

 上着を貸したけど、一花は薄着だし。そういや、飯盒炊飯でマッチ使ったのがあったな。

俺はそれと丁度小屋が木材保管庫という事もあって木の切れ端はそれなりにあったからそれを拝借して火を起こした。

 

「ほら、もうちょいこっち来い」

「え、あ、うん」

 

 いつもならふざけて距離詰めるくらいなのに。なんでこういう時は離れてるんだよ。

そうして火に当たりながら、俺は先ほど彼女が涙を流した理由を考える。

 ふと、上に視線を向けると小さな窓から月の明かりが入り込んでいる。

 

「……わかんないや」

 

 俺の方もわからんのだが、今は一花の言葉を待つ。

 

「嫌われたかと思ってたのに。相変わらず優しいし。そんな事されたら……せっかく決めたのに。学校、辞めようって」

「は?」

 

 あまりにも唐突すぎるその言葉に俺は一花を見るが一花は視線を火に向けたまま。

 学校辞める? 

 てか、その前に俺がお前を嫌ってる?

 なんだそれ。

 

「休学って形だけど。ほら、おかげさまで映画の撮影してるんだけど、新しい仕事の話しも少しずつ貰えるようになってきたの」

 

 事情を説明してくれているが、正直俺の頭にはなにひとつ入ってこない。

 ただ頭に残ってるのは一花が学校を辞めるって事と俺が一花を嫌ってるとかいう訳わからん言葉だけ。

 この間までは他のやつには付き合ってるとか言われてたのに本人は真逆。

 極端すぎるだろ。

 

「私は知っての通り、学業は絶望的だからさ。それに……セージ君と顔会わせない方がいいと思って」

「それ! なんだよ。俺に嫌われたとか!」

「だって! 避けてたでしょ! 一昨日からずっと!」

 

 俺と一花の声が響き渡る。それ以上言い合いが続くことはなく俺は一花の言葉を反復する。

 

「避けてたってどういう」

 

 俺はこれまでの事を振り返る。

 一花から来たメッセージは結局返していない。昨日の朝のあれは俺が風呂入ってないからで。

その後は色々タイミングが悪くて。でも、話そうとは思ってたんだ。

 いや、違う。俺は。

 ようやく自分の行動が一花にどんな印象を与えていたのか俺は理解した。

 そして彼女を見るとまた涙を溜めていた。

 

「一花……ごめん。違うんだ。携帯はらいはちゃんの看病とかで余裕なくて。あと昨日避けてたのは俺、あの時風呂に入ってなくて。それで嫌な気分にさせたら悪いなって」

「え」

 

 俺はひとつひとつ言葉にして状況を説明していく。

けど、説明していけばいくほどそう捉えられておかしくないと俺は気付く。

 

「避けてたつもりはまったくないんだ。てか、本当はもっと早く一花と話さなきゃならなかったのに。俺、お前に甘えてたんだ」

「私に……甘えてた?」

 

 そう、俺は一花に甘えてたんだ。

 

「わかってくれてるって思って。一花なら大丈夫だって。勝手に俺が思って。けど、それは結局俺が都合良いように考えてただけだった」

 

 いつもみたく、笑って仕方ないなと言ってくれるもんだと思ってた。

 そう、あの涙の瞬間まで。

 けど、一花だって不安になるんだ。

 

「だから、あんな笑顔だったんだな」

「え?」

「肝試し。三玖と撮ったのにお前作り笑いしてたから。なんかあったのかって思って。全部俺のせいだったんだな」

 

 あの時の違和感は気のせいじゃなかった。

 なんで妹達と一緒なのにこんな笑顔するんだよって思ってた。

 違う。俺がさせてたんだ。

 風太郎の事言えるかよ。

 俺自身も好感度下げまくってたじゃねえかよ。

 

「一花……ごめんっ」

 

 俺は誠心誠意を込めて一花の頭を下げた。

 怒ってくれていい、最低だと罵ってくれてもいい。

 それだけ傷つけた。

 

「……嫌ってないの?」

「当たり前だろうが」

 

 そりゃ、人をからかってくる所とかいい加減にしろとか思う時もある。

 でも、いつしかそれが俺達にとっては当たり前の事で嫌だとは思う事はなくなっていた。

 

「……そっか」

 

 隣で膝に顔を埋めながらもその表情が柔らかくなったのを見て俺は少し安心した。

 

「だから、俺が理由で学校辞めるならやめろ。もちろん、役者の為なら仕方ない。それなら俺も応援する」

 

 俺の身勝手が原因で勘違いさせた。

そんな理由で辞めさせてたまるか。けど、仕事優先なら俺は止める権利はない。

 

「……いつも、セージ君は私のやりたい事を優先してくれるね。ありがとう」

「お礼はいい。傷つけたのは間違いないんだから。むしろまだマイナスなくらいだ」

「そんな事ないと思うけど。私が勝手に勘違いしただけだし」

「一花がそうでも俺の気持ちの問題だ。てか、この際だ。他に何か気になる事あるなら話せ。これ以上、一花の間に変な誤解は生じたくない」

 

 何でも来いと俺は胸を張ってドシッと構える。

 すると一花は少しの沈黙のあと躊躇いつつも口を開いた。

 

「それなら……魘されてた理由って何?」

「!」

 

 よりにもよってそれか。

 

「あ、話したくないなら良いよ。ただ、あんなセージ君初めて見たから」

「……俺に妹が居たってのは話したよな」

 

 多分、一花の言葉に甘えて話さなくても良かったのかもしれない。

けど、俺の口は何故だか開いていた。

 

「病気で亡くなったんだけどさ。その病気が発覚したのは六花が熱を出して病院に行った時。最初は咳だけだからって家で様子見してたんだ。それも運悪くその日は俺が丁度所属してたサッカークラブの合宿でさ。母さんも一緒に行く事になって六花の看病は父さんがする事になったんだ」

 

 その時、俺は六花が心配で母さんに合宿行かないと言ったけど六花が咳しながら笑って「だいじょーぶだから」と俺に言って父さんも「父さんが見てるから」そう言って俺を送り出してくれた。

 

「病院に行くほどじゃないだろって父さんは六花を寝かせて看病をしてたんだ。けど、熱が上がってきて。さすがに病院に診てもらったらそのまま検査入院。それで六花の病気が発覚した」

「……」

 

 隣の一花を見ると黙って俺の話に耳を傾けてくれている。

 だけど、その表情はイタズラして怒られた子供のよう。

 たぶん、聞くんじゃなかったと思ってるんだろうな。

 けど、まだ話しには先がある。

 ごめんな。こんな話しを聞かせて。

 そう思いながら俺はひと呼吸置いてまた口を開く。

 

「父さんはすごい自分を責めててさ。もっと早く病院に診てもらったらって。自分の判断ミスだって。六花や俺の前では言わなかったけど、ずっとそう思ってたんだと思う。それでも六花が病気に打ち勝つ為にって父さんも頑張ってた」

 

 俺が寝ている時間、たまたまトイレで目が覚めた時に俺はリビングで自分を責める父さんの声を聞いてしまった。

 きっとそれは俺が聞いちゃいけないものだと俺は知らないふりをした。

 

「六花も頑張ったけどダメでさ。そしたらきっと張り詰めてたものが切れちゃったんだろうな。六花が亡くなって一年後だ。深夜遅くに母さんの叫び声が聞こえて目が覚めてリビングに行ったら……睡眠薬を大量に摂取して六花の元へ行ってしまった父さんがいた」

「!」

 

 それまで火を見つめていた一花の視線が俺に向けられた。

 

「二乃が風太郎を眠らせたあの時、過剰に反応したのはこのせい」

 

 俺にとって睡眠薬は永遠の眠りにつかせる薬の印象しかない。

 だからあんな風に使った二乃に我慢できなかった。

 

「旅館で魘されてたのは六花の事や父さんの事が夢に出てきたんだ。多分、らいはちゃんの看病してたのが夢に影響したんだろうな。それで息苦しさを感じて。誰かに助けを求めて手を伸したら一花を掴んでたってわけ」

「……ごめん。聞いていい……話しじゃ」

「一花は話さなくても良いって言ってくれただろ。それでも俺は話した。なんだろうな。俺もわからんけど、一花なら良いって思ったんだ」

 

 予想通りの反応。顔を伏せている一花を見るとその地面は濡れていた。

 

「ありがとうな」

 

 そんな一花の頭に手を伸し撫でる。

 泣いてくれる彼女に俺は礼を言う。

 彼女に話せて良かったと思う自分がいた。

 

「よし、せっかく火もあるから踊るか」

「へ」

 

 この空気を少しでも変えようと頭に置いた手を今度は一花の腕へと伸ばし掴んで引き上げる。

 涙目で驚いているレアな顔の一花に俺は笑って見せる。

 

「前田に本当の事話したってのもあるけど、実は俺、キャンプファイヤーの時間は写真撮る事になってさ。どっちにしろ誰とも踊れないんだ」

「そう、だったの」

「けど、一花はこれから誘われるかもだからな。予行練習だ」

 

 そう言って俺は一花に手を差し伸べる。

 

「……誘われても踊る気はないけど、セージ君がそう言うなら付き合ってあげる」

 

 一花も俺の悪のりに付き合って手を重ねる。

 丁度、倉庫にある小さな窓から月明かりが入り込み幻想的なダンスフロアが出来ていた。

 

「ま、あの伝説聞いたら踊るのは躊躇うよな」

「伝説?」

 

 あ、そういや一花は知らないのか。

 

「キャンプファイヤーで踊った二人は生涯結ばれるんだと」

「え」

「下がりすぎだ!」

 

 急に一花が後ろに大きく下がった。その先には立てかけた丸太。

丸太にぶつかった一花、その衝撃で丸太は一花の方へと倒れていく。

俺は握っている手を引き、一花を引き寄せる。万が一を考えて覆い被さるように。

 

「怪我、ないか?」

「……うん」

 

 それを聞いて俺は力を緩める。てか、咄嗟とはいえこの行動はマズかったか。

 すると突然警報が鳴り響く。

 

『衝撃を感知しました。30秒以内にアンロックしてください。解除されない場合』

「おい、警備員来るんじゃ。て、つめて」

「スプリンクラー」

 

 室内なのに雨が降ってきたと思ったらスプリンクラーが作動したようだ。

 もう色々な事が起こりすぎて俺の頭が回りきれず、何を最優先にするべきかすぐに判断が出来ずにいるとその間に扉が開いた。

 

「すまん! 長尾!」

「俺達、ゲームで盛り上がってて」

 

 SOSを送った浅井や朝倉が来てくれたようだ。

 けど、俺はすぐにこの状況はヤバイのでは?と抱きしめている一花と距離を置くのだが。

 

「ごめんなさい! 四葉が中を確認しないまま鍵をしめたせいで!」

「……これは」

 

 浅井や朝倉の他に四葉と五月がいた。

 




主人公の家族周りはこんな感じ。
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