「散々だった」
昨日、あれから浅井や朝倉に弄られつつ状況を説明し、五月と四葉にも話した。
さらにゴリラこと生活指導にもバレて大目玉。
「五月と話さないとな」
四葉はまぁ特に気にしてない様子だったが、五月は俺にまた距離を置くようにしてあの時行ってしまった。
弁解した直後にアレじゃ信用されないよな。
「とりあえず、やることやったら五月と話そう」
スキー場での写真を撮るために俺はコース途中で自分の学校の生徒達を探す。
「ゴーグル付けられるとまったくわからん」
目ってその人の印象を一番に表すからな。それがわからんと判別出来ん。
それでもわかる生徒達は出来るだけ撮ったが。
「あれ? 長尾さん!」
「ん? 四葉か」
華麗に滑ってきて俺の前で止まったかと思ったら四葉だった。
「上杉さん! 三玖! 長尾さんがいましたよ!」
上の方に四葉が視線を向け、俺もそちらを見ると辿々しく滑る風太郎と三玖がいた。
「他の姉妹達は?」
「一花は体調崩してて五月が看病してくれてます」
「そう、か」
昨日、薄着で水まで被ったもんな。
あとで様子見に行くか。
「二乃はもう滑ってるみたいで。あ、上杉さんやっときた」
「お前が早いんだよ」
「セージ」
「よ、三玖、風太郎」
とりあえず、三人を写真に収める。
けど、様子からしてまだ昨日のを引きずってそうだな。三玖は。
「誠司も一緒に教わるか?」
「悪いな。俺は仕事がある。まだ遊べない」
そう言ってカメラを見せると風太郎は納得した。
「てか、風太郎。お前、顔紅くないか?」
頬が紅く俺は少し気になって風太郎の体調を聞いてみる。
「あ? 滑ってたからな。暑くなってきた」
「あー、そうか。けどあんまり無理するなよ」
「わかってる」
「長尾さん! みんなの写真撮ってるならあそこにうちの生徒達いますよ!」
そう言って四葉は下の方を指さすとスキーではなく端っこで雪だるまを作る集団がいた。
「よくわかるな。けど、助かった。ちょっと行ってくる」
そうして俺は滑ってその集団をカメラに収める。それから何度かゲレンデを往復し写真もだいぶ撮れた。
「んじゃ、一旦カメラ置きに行くついでに一花の様子でも」
「ええええっ! 上杉君!?」
上から聞こえた声に上の方を見ると風太郎が勢いよく降りていった。
そして雪の山にダイブ。体を起こしたから大丈夫そうだけど。
「あ、な……セージ君」
風太郎と同じ方向から降りてきたのはフード被ってゴーグルしている人物。
「あ? 一花か?」
「あ、うん」
てか、なんでいるんだよ。
「体調崩したって」
「あ、少し良くなったから」
「……少し良くなったからって」
昨日の俺の話聞いたはずなのになんでこんな事出来るんだよ。
軽率な行動に俺は少しイラついた。
「昨日の話、聞いたよな?」
「えっと」
「勘弁してくれよ……あの時も言ったがお前だったら話しても良いって思ったんだ。なんつーか……信頼してたから。それなのに」
俺にとって些細な風邪でも六花の事を思い出すって事を一花は昨日知ったはずなのに。
いや、これも俺の身勝手な押しつけかもしれない。
このままじゃダメだ。
俺は一度深呼吸をして苛立ちと共に吐き出す。
「悪い。俺、カメラ置いてくるから」
「あ、長尾君!」
冷静になるために俺はコテージへと戻る事に。
「はぁ、最悪」
「一応、朝より良くなってるけど。中野さん、またアレだったら教えて」
「はーい」
「ん?」
自己嫌悪に落ちながらコテージに戻ってくるとある部屋から引率の保険医の先生が出てきた。
てか、今、中野さんって。
「先生」
「あら? 体調でも悪い?」
わざわざ保険医に声を掛けるとしたら普通はそう思うよな。
「あ、そうじゃなくて。中野さんって五つ子の中野さんですか?」
「そうよ。中野一花さん。あ、君も昨日一緒にいたんだっけ? 心配して見に来たの?」
「え、まぁ」
「大丈夫。朝からずっと寝てたのもあって今は良くなってる。少しなら会っても大丈夫だから。せっかくの林間学校だもんね。青春しなきゃ」
何故か去り際に背中を叩かれた。
とりあえず、俺はその中野一花がいる部屋の扉を叩いた。
「どうぞー」
少しだるそうな声が聞こえたが、許可が下りたので部屋に入る。
「セージ君?!」
俺の姿を見て起き上がろうとするのを制止させる。
「病人が起き上がるな」
「よくなったから……ううん、そうだね」
俺の言葉に素直に布団へと戻る。
間違いなく中野一花だ。
「朝からずっと寝てたのか?」
俺はベッドの隣に椅子を持ってきてそこに座る。
「まぁね。そんな酷くないんだけど、昨日のセージ君の話を思い出したら大人しくしないとなぁって」
あぁ、やっぱり一花は俺が思ってたとおり信頼できるやつだった。
それがわかって俺は安心したと同時に疑問が浮かぶ。
俺が早とちりしたとしてもその後、一花じゃないと否定せずに頷いた人物。
どうしてわざわざそんなウソを。
「なにか、あった?」
「え」
「そういう顔してる。病人の前でする顔じゃないよ」
「あ、悪い」
まったくその通り。
てか、本当よくわかるな。
「お姉さんに話してみなよ」
「あほ、病人が考えることは早く治す事だけだ」
そう言って俺は一花の額に手を伸す。
「!」
「熱は無いな?」
「……薬飲んだからね。病院は山降りなきゃいけないから。酷くなるようならって感じ」
「……」
「だいじょーぶ。セージ君も熱ないって今さっき言ったでしょ」
俺を気遣って笑ってそう答えてくれる一花に俺はまた六花を思い出す。
「六花は……いつしかそれが口癖になってた。だいじょーぶ。だいじょーぶだからって」
一番辛かったはずなのに。笑顔で。
てか、また俺は余計な事を。
これじゃ、病人の方が気を使うだろ。
「そっか……なら、おまじないかけて?」
「おまじない?」
「そ、中野家のおまじない」
そう言って一花は左手を布団から出した。
「手、握って」
「それが、中野家のおまじないか?」
「うん、小さい頃寝込むとね。お母さんが握ってくれたの」
「……」
俺はズボンで手を拭いてからその左手を握る。とはまでいかず指を軽く握る程度にとどめた。
「照れてる」
「慣れてないんだから許せ」
「しかたないなー」
細いその指からは一花の体温を感じる。
一花ももし俺の体温を感じ取っていたなら相当恥ずかしい。
何せめちゃくちゃ今の俺は暑くて仕方ないから。
「ん?」
そんな緊張感の中、俺のスマホが震える。
繋いでない方の手で取り出すと風太郎から。
一花は良いよと言ってくれたのでそのまま電話に出る。
「五月が見当たらない?」
聞くと五月の姿を今日誰も見ていないという。
そして俺にも五月を見ていないかと確認する為の電話だったらしい。
電話越しでは『遭難』という言葉が聞こえてくる。
俺も見ていないという事で姉妹達も焦っている様子。
「五月ちゃん、もしかして」
俺の会話を聞いて一花は何か心当たりがある様子。
「たぶん、見極めようとしてるんだと思う」
「は?」
見極めるって何を?と考えるがおそらく風太郎か俺、もしくは二人共。
『いや、でも、あの時……ごほ』
「……お前やっぱり体調おかしいだろ」
電話の向こうの咳で俺はようやく風太郎の異変に気付く。息が荒く咳もしてる。
さっきはスキーしてたからと言ってたけど、これは違う。
「セージ君」
握ってる俺の指を一花はそっと離す。
「五月ちゃんをお願い」
そう言う一花の顔はお姉さんの顔だった。
「……大人しく寝てろよ」
「うん、いってらっしゃい」
最後に俺は昔、六花によくしていたように一花の頭を撫でて俺は部屋をあとにする。
「風太郎、お前はもうコテージに戻ってこい」
『まて、もうすこしで、わかり』
「俺の事、知ってるよな?」
家族ぐるみの付き合いだ。風太郎も俺がそういうのに敏感なのもよくわかってる。
『……悪かった』
「それで、今その場に中野姉妹は誰いる?」
『え、あー、五月以外揃ってる』
それなら答えはもう出てるな。
「風太郎、一花と代わってくれ」
もちろん、本物の一花ではない事は俺もわかってる。
『えっと、セージ君』
「一花、風太郎の体調が悪い。他の姉妹に風太郎をコテージまで介護するように言ってくれ」
『え、うえ……フータロー君が』
「それで一花は俺と五月を探すぞ。昨日の事で多分俺が不信感を抱かせた。お前からの言葉も必要だ」
『五月ちゃんは別に』
「良いから。今からそっち向かう。リフト乗り場で待ってろ」
『え、ちょ』
俺はあっちの返事も聞かずに電話を切って約束のリフト乗り場へと向かった。
「セージ君」
リフト乗り場の前には先ほど会ったようにフードを被り、ゴーグルは付けていないがマスクをした姿でいた。
「悪い。待たせたな。とりあえず、上に行くぞ」
そのままリフトに乗ってオレ達は上へと向かう。
「風太郎は大人しく行ったか?」
「うん、一人で行けるって言ったけど四葉や三玖が引っ張ってた。二乃も流石に病人の前じゃ厳しい事言わなかったし」
「そうか……さて、かくれんぼは終わりにしよう。五月」
「!」
俺は彼女の被っているフードに手を伸しフードを下ろすと長い髪が現れた。
「大事になって五月も言い出せなかったか?」
「……いつから」
悪い事をした自覚があるからかしばらく顔を伏せていた五月はようやく口を開いた。
「悪いが、俺は完全に偶然だ。一花の様子を見に行ったからな」
それが無かったら正直気づけたかどうか厳しい。
「長尾君が一花をお見舞いする可能性があったのをすっかり忘れていました」
「普通はわざわざ様子見に行かないだろ。ただ、一花が体調崩したのは俺が原因だし、風邪とかそういうのに俺は敏感になっちまうから」
ただのクラスメイトだったらきっと俺も様子を見に行く事はしなかった。
けど、クラスメイトであり家庭教師、さらにその体調の原因は自分。
むしろ何も気にせずにいる方が無理だ。
「……さっき、私を一花だと思って言った言葉はそれと」
「あー、あれは悪かった。その、一花はこの話知ってたからというか昨日ちょっと話してな。それを知っているはずなのに何でだよって俺が勝手に自分の考えを押しつけた結果の言葉だ」
「……一花を信頼しているのですね」
「勝手にな。わかってるつもりでいたんだ。けど、俺は何もわかっていなかった」
雪がちらつき始め、風も出てきた。
五月の長い髪が揺れる。彼女は未だに顔を伏せたまま。
「そう。わかるはずないんだ。だって出会ったのが九月だ。知らなくて当然」
そう。まだ半年すら経っていない。
知らない事が多くて当たり前だ。
「でも、知っている事もある。俺も、風太郎も」
俺はスマホを五月へと渡す。
「風太郎は自力で見つけたらしい」
「!」
『誠司、そこにいる一花が五月だ。俺を上杉君と呼んでいた。一花は名前で呼ぶだろ?』
俺が五月と合流する少し前にこのメールが届いた。
思い返せばあの時、勢いよく降りていった風太郎を上杉君と呼んでいた。
咄嗟の事だったから普段の呼び方が出てしまったんだろう。
「五教科の中だと理科が一番得意。あと、怖いのが苦手。これくらいしか知らないけどな」
「すみま……せんでした。わたし、確かめたくて」
膝の上にある五月の手がギュッと強く握られた。
「俺に関しては昨日のが原因だろうな。なんつーか、全面的にあれは俺が原因であんな状況になったから言い訳は出来ない。けど、不誠実な事はしていない。それだけは言っておく」
「……一花は自分のせいだから長尾君は悪くないからと……だから」
五月side
「いやー、悪いね。こんな時に体調崩すなんてついてないなー」
一花が体調を崩したと聞いて看病にと訪れると一花の顔は紅く、握っている手の温度も高く。
けれど、いつもの調子でそこまで重くはなそうだった。
一花が体調崩した原因、小屋でスプリンクラーの水を被った事。
その場に長尾君もいて一花と二人きりだった状況に私は急に彼も一人の男性なのだと気付いた。
ううん、あの旅館の時から。
「昨日の件、あれは私のせい。セージ君は悪くないよ」
「……私はまだ一花ほど長尾君を信じられていません。結局、私は何も知らなさすぎるから。長尾君も上杉君の事も」
「そっか。五月ちゃんはまだ追っているんだね」
すると一花の手がギュッと強く握られた。
「大丈夫。セージ君もフータロー君もお父さんとは違うよ」
私はそれを確かめたかっただけだった。
けれど、それで皆に迷惑をかけて、上杉君も体調が悪いのに。
私はもっと彼らを知りたい。