家庭教師と友人A   作:灯火円

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 無事に五月を見つけコテージに戻った俺達。

 姉妹達に五月は素直に事情を説明して謝罪、風太郎はあのあと部屋で寝ているとの事。

 ただ、風太郎を運んだ三人が騒がしくした結果、一花の時とは違って部屋への立ち入り禁止が言い渡されたらしい。

 そして林間学校最後のキャンプファイヤーが始まった。

 伝説のダンスまではまた時間はある。

 けれど、すでに生徒達はソワソワしているのがわかる。

 俺はカメラを手にその賑わう様子を撮っていた。

 ふと、キャンプファイヤーの炎を友人達と眺めている二乃を見つけた。

 上機嫌だったのに今はその姿は無い。

 気になって声を掛けようとしたが、その前に二乃の友人達が彼女に声を掛けた。

 

「あれ? 二乃どうしたの?」

「男の子と踊るってテンション上がってたじゃん」

「……フられちゃったわ」

 

 どうやら風太郎はダンスを断ったらしい。

 そもそもあんな状態では無理だもんな。けど、あんなに楽しみにしてたのにな。

 さすがに少しだけ気の毒だ。

 だからといって俺が慰めの言葉を掛けるのも違う気がして俺は別な場所へと移動する。

 階段の所に三玖が座っていた。

 

「風太郎が心配か?」

「セージ」

 

 途中で見掛けた自販機に抹茶ソーダのホットがあったからそれを三玖に渡し、俺も横に座った。

 

「フータロー、最初からおかしかった」

「だな。久しぶりの行事参加でテンション上がってるだけかと思ってたんだが……」

 

 思えばあいつはずっとおかしかった。

 それは体調が悪い影響もあったのだと今になって気付く。

 

「私、自分のことで必死だったから気付かなかった。フータローを誘うことばっかり」

「それは俺も責任ある。風太郎に良い思い出作ってやりたいからって三玖に頼んだからな」

 

 これまで撮った写真を見返す。よく見たら風太郎の体調が徐々に悪くなってるのがわかる。

 

「……あのね。ずっと考えてた。独り占したいって気持ちについて」

 

 突然、なんだ?

 

「私は平等じゃないとって思ってた。ずっと今までそうだったから。でも、やめた」

 

 三玖は手にしていた抹茶ソーダを一気に飲むと俺に真っ直ぐな視線を向ける。

いつだったか戦国武将のゲームの時に見せたのと同じ、もしくはそれ以上に真剣な眼差し。

 

「平等じゃなくて公平に行く」

「……よくわからんが、わざわざ俺に言うのは何でだ?」

「セージは私の気持ちに気付いて風太郎を誘えって言ったんだよね? だからセージには言っておきたかった」

 

 なんだかんだ俺の意図を理解してたか。なんかお節介野郎で恥ずかしいな。

 そして三玖はひと呼吸の間を入れる。

 

「私はフータローが好き」

「……そうか。ま、頑張れよ」

 

 その告白に俺はこれ以上余計な事はしなくても良さそうだと最後に三玖にエールを送ってその場を後にした。

 

「おい長尾、上杉と仲良かったろ。あれだと朝まで寝ているだろうからあいつの荷物を持ってきてくれ」

「え、あー、わかりました」

 

 フラフラとしていたら風太郎を診ていた先生からの頼み事。

 俺は頼まれた通りに風太郎に荷物を取りにコテージへと向かう。その途中、四葉を見掛けた。

 いつもの天真爛漫な姿がない彼女に俺は思わず声を掛けていた。

 

「四葉」

「あ、長尾さん」

 

 いつもの四葉なら「もうすぐ伝説のダンスですよ? 誰か誘わなくて良いんですか?」と聞いてきただろう。なのに今はトレードマークのリボンは下を向いている。

 四葉がこうなったのは初めて見た気がする。

 

「私が連れ回したせいで上杉さんの楽しい思い出になるはずだったものを」

 

 なんとなく理由は察した。

 四葉は四葉で自分の行動が風太郎の体調を悪化させたと思っているんだろう。

 でも、四葉といる風太郎は林間学校を全力で楽しんでいたように俺は思える。

 

「四葉は何のために風太郎を連れ回したんだ?」

「それは、楽しい思い出にしたくて」

 

 肝試しの時も四葉はそう俺達に言ってくれたよな。

 

「じゃ、風太郎は楽しくないって言ったか?」

「いえ、でも、あんな状態になったらきっと」

「おりゃ!」

「いっ! 長尾さん! リボン引っ張らないで下さい」

 

 俺は勢いよく四葉のリボンを引っ張り、顔を上げさせる。

 

「……勉強で大事な事を教えてやる」

「長尾さん、さすがにこんな所まで来て勉強はちょっと」

「わからない事はすぐに誰かに聞く」

「!」

「風太郎に聞いてみろ。これは俺からの宿題だ」

「……わかりました!」

 

 敬礼をし、いつもの天真爛漫な顔で今すぐに向かおうとする四葉。

 てか、立ち入り禁止忘れてないか?

 

「たく、四葉! 風太郎の荷物持ってくるように頼まれたんだ。代わりに頼む!」

「はい!」

 

 そう言ってコテージへと向かっていく四葉を見送る。

 

「あ、でもあいつ寝てるよな」

「セージ君にしてはうっかりだね」

「ん? 一花」

 

 振り返るとそこには一花がいた。一応ブランケットを肩に掛けてはいるが正直、まだ心配だ。

 俺は一花の方へと行き、ブランケットをしっかり羽織らせる。

 

「先生から許可下りてるから」

 

 俺の言いたい事を先読みして俺にそう一花は伝えてきた。

 

「それでもだ。あまり長居はすんなよ」

「そのつもり。ちょっと気になって」

 

 それはおそらく他の姉妹達の事だろう。

 

「少しは自分の事も考えろよ」

「私……結構、自分勝手だよ」

「そういや、花火の時はだいぶ自分勝手だったもんな」

「それはセージ君も共犯でしょ? 私の女優としての大きな一歩を後押ししたんだから」

 

 いつもの調子の一花だ。どうやら本当に治った様子。

 

「なら、インタビューか何かあったら私が女優になれたのは友人A氏のおかげですと答えてくれな」

「そこはスカウトしてくれた事務所の社長でしょ」

 

 俺と一花の冗談混じりのやり取り。

 なんだかとても久しぶりな感じがした。一花とのすれ違いはほんの数日だけだっていうのにな。

 

「長尾君!」

「そこの二人。こっち向いて」

 

 俺と一花は無意識にその声の方を向くとフラッシュと共にシャッター音が聞こえた。

 

「急になんだよ。って、そのカメラ」

 

 俺達に声を掛けてきたのは記録係の二人だった。

 そしてその手にはカメラがあった。

 

「やっぱり長尾君に任せっぱなしはダメだなって思ってね。せめて最後くらいはって」

 

 すると女子は手に持っていたカメラを見せた。あの扱い難いフィルムカメラではなく、デジカメだ。

 

「誰か持っていないか聞いて回ってさ。貸してくれる人いたから」

「だから、あとは私たちに任せて。それに長尾君、撮ってばっかりで自分が写ってるのないでしょ」

「いや、俺は別に撮られたいとか」

「なら、男前に撮ってもらおう」

 

 そう言って俺の背中を押して一花はカメラの前に立たそうとする。

 

「俺は良いっての。撮るならこっちにしてくれ。野郎より断然良いだろう」

「私だって嫌だよ。顔色良くないし」

 

 そんな言い合いをしているとまたもシャッター音。

 

「誰にも見せないよ。あとで二人に渡すね。じゃ、私たち行くね。ほら、吉川行こう」

「あ、あぁ」

 

 そう言って記録係の二人はキャンプファイヤーの中心へと向かっていった。そんな二人が並んで歩く姿を俺はカメラに収めた。

 そこから視線をずらすとオールバックの髪が目に入った。

 

「あれは」

 

 キャンプファイヤーを囲んでいる集団の中に前田の姿を見つける。

 そしてその隣にはあの肝試しの時に一緒にいた松井。

 俺は最後の仕事として二人にカメラを向け写真を一枚。

 

「カメラマン、お疲れさまでした」

「どうも」

 

 さて、こうなる状況は予定外。

 やる事が無くなってどうするかと考えたが、俺の答えはひとつしかない。

 

「風太郎の様子見てくるか」

「立ち入り禁止って聞いたけど?」

「こういう時に知恵を働かせるんだよ」

 

 そう言って俺は風太郎の部屋へと向かうのだが、一花も様子が気になっているのか俺についてきた。

 

 

「先生、ちょっと良いですか?」

 

 風太郎が寝ている部屋の扉をノックし声を掛ける。

 しばらく間があったが先生が風太郎の部屋から顔を覗かせた。

 

「長尾、どうした?」

「キャンプファイヤー、そろそろ終盤だから先生を呼んでこいと。あ、俺その間、見てるように頼まれました」

「そうか。そっちはどうしたんだ?」

「あ、私も寝込んでた時に飲んだ薬まだあったんで渡しに」

 

 正直、一花については何も理由を考えてなかったがこいつはサラッとそれらしい理由を言いやがった。

 

「そうか。なら、それ置いたら戻りなさい。ぶり返したら大変だ」

「はーい」

 

 そうして教師が行ったのを確認する。

 

「知恵というか悪知恵」

「良いんだよ。けど、一花は先生が言ったとおりすぐ戻れ」

「はいはい。少し様子見たら戻るよ」

 

 そうして俺達は部屋に入るのだが、俺が電気を点ける前に真っ暗な部屋の電気が勝手に点いた。

明るくなった部屋、そして電気のスイッチの所には一花を除いた四姉妹がスイッチに手を伸していた。

 互いに暗い部屋にいる事に気付いていなかったのか驚きの声があがる。

 

「お前ら静かにしろ」

 

 ここは病人のいる部屋だってのに。

 それでも中野姉妹が風太郎を心配して来てくれた状況に俺はあまり強くは言わなかった。

 

「てか、二乃は意外だな」

「セージに同意」

「わ、私はよく効くお守りを貸そうと思っただけ」

 

 どっちにしろ風太郎の為に来たのは変わりないのでは?と思いつつ、言ったら面倒だからそれ以上は何も言わないでおこう。

 

「上杉君」

 

 そんな中、五月が風太郎の枕元まで近づく。

 

「みんなあなたに元気になって欲しいと思ってます。上杉君がどんな人なのか。私にはまたよくわかりませんが……目が覚めたら、良ければ……教えてください」

「そういうのは本人が起きてる時に言ってやれ」

「わ、わかってます。それと長尾君の事も教えてください」

 

 そう言って今度は俺の方へと五月はやってきた。

 なんとなくだが、一花が俺の方をチラリと見た気がした。

 

「ま、俺の気分次第かな」

「あんた、そこは頷くところでしょうが」

「そういう二乃はどうなんだよ。聞けば答えてくれるのか?」

「嫌」

 

 だろうな。期待してなかったけどな。

 

「ほー、けど俺は知ってるぞ」

「な、なにがよ」

 

 狼狽える二乃に俺はニヤリと笑ってみせる。

 

「中野家には寝込んだときには手を繋ぐおまじないがある事を」

「な?! なんであんたが」

 

 二乃の反応に一花は苦笑いを浮かべている。

 

「そうです! あのおまじないをすれば上杉さんもすぐ治ります! これだけの人数ならよりパワーは百倍です! 二乃!」

「……わかったわよ。らしくないこと言われて気持ち悪かったし」

「フータローには私たちがついてる」

 

 一番に四葉が風太郎の指を握る。そして二乃は渋々、さらに三玖と風太郎の指をそれぞれ握る。

 さすがにこの人数じゃあれだもんな。

 そんな事やり取りをしている間にも外は一層賑やかなになってきたのはフィナーレが近いのかもしれません。

 

「ほら、一花と五月もおまじないしてやれよ」

「うん、するよ。でも」

「長尾君、あなたもです」

「は?」

 

 すると一花が俺の手を取り、五月が俺の背中を押して寝ている風太郎の元に連れて行こうとする。

 

 結びの伝説。

 キャンプファイヤーの結びの瞬間。

 結んだ二人は生涯を添い遂げる縁で結ばれる。

 

 

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