「……」
「風太郎、良いじゃないか」
勉強する理由について五月に聞かれ、風太郎は沈黙を続けている。
五月は五月で風太郎を睨み続け、話すまで離れませんと目が物語っている。
「全部話せって訳じゃない。それに五月もそれ聞いて少しは勉強見てもらう気になるかもしれないだろ?」
「それは断定できません」
「五月は素直だな」
そこはウソでも同意すれば風太郎も話しをするかもしれないってのに。
「……小学校の修学旅行」
「!」
風太郎はそうしてあの時の事を語り始めた。
小学校の修学旅行、俺達の修学旅行先は京都。
その当時の風太郎は今とは打って変わってのガキ大将みたいな子供だった。
昔のあの写真の容姿を見ればやんちゃしていたのは想像出来るだろう。
その修学旅行の一日目は五人で一つの班として行動するようになっていた。
当時、俺は風太郎とは別の班だったが京都まで向かう新幹線の中、あいつの班がうるさかったのはよく覚えている。
そして、勇也さんのカメラを持ち出して当時想いを寄せていた同じ班の竹林をこっそり撮っていた事も。
ただ、その竹林には真田という幼なじみがいてそれも風太郎と一緒の班。
小学生でも何かを察したのか風太郎は京都に着くと腹が痛いからと先に四人だけ行かせて自分はしばらく京都駅に残っていた。
しかし、小学生ひとりが平日の昼間にいるとなると迷子が非行と思われてしまうのは必然。
さらにカメラを持っていて見ず知らずのおばさんに盗撮の疑いもかけられたとか。
てか、そのおばさん自意識過剰。子供が盗撮って。
警察も来てしまい、困っている所に現れたのはひとりの女の子。
「その後、緊急ニュースで日本上空に未確認飛行物体が現れ。そのどさくさに紛れて俺の修学旅行は終わったんだ」
「なんですかそれ!? そこから聞きたいのにすごい雑に終わりましたよ。地球はどうなったんですか!?」
「五月、気になるのはそこじゃないだろ」
途中で風太郎が話しを誤魔化した。風太郎は窓へと行き外を眺めたまま。
これ以上、話すつもりはないと見た。
思い出の子との話しだ。他人にあれそれ話したくはないだろう。
「五月、ここまでにしてやってくれ。とにかく、あいつのきっかけは何となくわかったろ?」
「いまいち伝わりませんでしたが、昔の彼と今の彼が大きく違う事はわかります。その子との出会いがあなたを変えたんですね」
その言葉にも風太郎は何の反応を見せず、そっと窓を開ける。
「私も、変われるでしょうか……もし、できるなら……」
新鮮な空気が部屋に入り、カーテンを揺らす。
「変われる手助けをしてほしい。あなたも……私たちに必要です」
揺れるカーテンの向こうで風太郎の体もビクッと揺れたのを俺は見た。
そしてゆっくりと五月へと振り返る。
五月は恥ずかしくなったのか手で顔を隠している。
「俺に教わってどうにかなるのか? 平均29.6点」
「お前、その言い方はないだろ」
事実だとしてももっと言い方ないのかよ。
「どうにかします! やれることはなんでもします! 見て下さい!」
そう言って五月はポケットから何かを出した。
「昔、持ってたお守りを引っ張り出してきました」
「神頼みかよ……それ、どこで買ったんだ?」
一瞬、呆れた様子の風太郎だったがそのお守りを見て表情が変わった。
「これですか? 買ったのか……貰ったのか。よく覚えてませんが確か……京都で五年前」
その瞬間、風太郎も五月も何かに気付いた様子。
俺としてはこのまま気付かないで終わるのかと思ってヤキモキしていたんだが。
「あ! 五月!」
二人が互いに口を開こうとした瞬間、扉が開き五月を呼ぶ声が響く。
そして扉からリボンが見える。
「なんだ。ここにいたんだ」
「セージ君の所か。余計な所探しちゃったね」
「五人揃ったから今度こそ行くよ」
「ぐぬぬ」
そして他の姉妹も全員揃っていて五人集合。
「ま、待ってください」
「五月、私は覚悟を決めたわ。あんた道連れよ!」
五月を連れて行く二乃を先頭に中野姉妹は予防接種へと向かっていった。
急に静まり返る病室。風太郎は思考している様子で手を組んで顔を伏せている。
「五年前、京都、お守り……これは、偶然?」
「疑問がある時はどうするんだっけ? 風太郎君」
「誠司」
「残念ながら俺は答えを持っていない」
ほぼあの五人の中の誰かだとは俺は思っているが、現状それが誰かなのかまでは俺にもわからん。
昔の五つ子はそれこそ瓜二つならぬ瓜五つ、
それぞれの特徴的なアイテムが全くないあの五人となると見分けられない。
見分ける判断は実際その本人から京都の話を聞くことだろう。
ただ、その機会があるかどうか。
とにかく、こうして風太郎もあの五年前の女の子が中野姉妹だという可能性にやった気付いた訳である。