「さて、久しぶりの家庭教師だ」
俺も無事退院し、今日からまた家庭教師再開。
俺の入院と風太郎の病み上がりという事でしばらく家庭教師は休んでいたが、見る事ができなかった分はこの休日で挽回しよう。
「おーい、来たぞ」
オートロックを解除してもらい、中野家に入ってリビングへと向かう途中での廊下での出来事だった。
「……は?」
バスタオル一枚、髪をタオルでまとめた中野姉妹の誰かがいた。
俺はきちんとチャイムを鳴らして許可が出たからここに来たんだぞ?
いや、以前二乃と風太郎の事もあったがまさかまた似たような場面が起こると思わんだろう。
「変態!」
罵声と共に俺へと何か投げつけられた。
それが俺の顔にヒット。その隙にその人物は行ってしまい、結局中野姉妹の誰かはわからず。
これじゃ、謝罪も出来ん。
とりあえず投げつけられた物を拾う。投げつけられたのは手提げ袋、その中身も散らばったようでそれらも拾うのだが。
「これは」
「お、誠司の方が早かったか」
そこに少し遅れて風太郎も来たのだが、散らばっている紙に風太郎も気付いてそれを拾う。
「おい」
風太郎の表情はみるみる変わる。
そりゃそうだ。なにせ、拾ったのは五教科分の0点の答案用紙なのだから。
そうして風太郎は中野姉妹に集合の号令を出す。ただし、五人には全員髪をまとめて同じ髪型にしてもらう事に。
リビングに五人が集まる。
「誠司、どうだ?」
「うーん、ちなみに風太郎の答えは?」
「一花、二乃。四葉、三玖、五月!」
左から順に風太郎はその人物の名前を読み上げる。
「髪を見ればわかるでしょ! 二乃、三玖、五月、四葉、一花よ!」
正解を二乃が教えてくれるがそんなのはもう良いと風太郎はテーブルにあの答案用紙を広げた。
「全教科0点……奇跡だ。ご丁寧に名前は破られてる」
「これを持っていた人物、バスタオル姿でわからなかったがその人物が犯人って事だ」
「誠司ならわかると思ったんだがな」
「風太郎ほどひどくはないが、俺もあくまで、個々の特徴で判断してるからな。髪型とか身に着けてるものとか」
さっきの姿はそれも全部隠されている。
林間学校の時とほぼ条件が一緒だ。
「顔さえ見分けられるようになれば今回のこともスキーの時みたいな一件も起きないだろうからチャレンジしてみたが、誠司も犯人の特定は無理か」
その見極めの練習も兼ねて同じ髪型にしてもらった訳だが、正直髪型を変えただけのこれなら俺でも誰が誰だかわかるぞ。
ただ、先ほどの人物が誰かはわからない。
「あの五月はマスクさえなければ私たちもわかったんだけど」
「なんでお前らは顔だけで判別つくんだ?」
二乃の言葉に風太郎は率直な疑問を投げる。
俺も秘訣があるなら知りたい所だ。
「は?」
「なんでって」
二乃と三玖はお互いの顔を見るとこれまた互いに相手を指さす。
「こんな薄い顔、三玖しかいないわ」
「こんなうるさい顔、二乃しかいない」
その互いの発言にまた言い合いが始まる二人。
本当、この二人はこういうのよくあるよな。
そんな二人を俺と風太郎は眺めていると四葉が「良い事おしえてあげます」と姉妹の見分け方についてレクチャーしてくれる模様。
「お母さんが言ってました。【愛】さえあれば自然とわかるって」
それはレクチャーされてもどうにも出来んぞ四葉。
「もう、戻しても良いかな」
「あぁ、いいぞ。どっちにしろ顔だけじゃ今の俺達には無理そうだからな」
そう一花に返すと一花は短い髪をまとめていたのを解く。
その解けた短い髪を見て俺はふと思うところがあった。
そこで俺は状況を整理する為に腰を落ち着かせて考える事にした。
「セージ君?」
「悪い。ちょと考え事だ」
「ありゃりゃ、フータロー君もセージ君もなんで今日はそんなに真剣になってるんだろ」
バスタオル一枚、おそらく風呂から出てきたばかりだろう。髪もタオルでまとめてたよな。
そしてこの答案用紙を俺に投げつけて俺の視界が遮られている間に逃走。
その後、風太郎が合流し答案用紙に気付き中野姉妹を呼び出し全員が集合までに掛かった時間はそう長くは無かった。
その短時間で俺達の前に出られるとしたら。
「もうわからん! 誠司、最終手段だ」
「え?」
俺が思考している間に風太郎は何か良い案が出た様子。
「これはそのテストの問題を集めた問題集。これが解けなかった奴が犯人だ」
まぁ、同じ問題だもんな。おそらく犯人はこの0点と同じく問題は解けないだろう。
けど、正直このテストと同じ回答をするとは思えない。
そんな風太郎の案に一部の姉妹から抗議の声はあがるが、風太郎はそんなの知ったこっちゃないとスタートさせた。
だが、風太郎の狙いはそれだけじゃなさそうだ。
あの0点の答案用紙をずっと眺めている。
「おい、風太郎。いくら何でもこれで犯人は」
「誠司、俺達はこれまで散々こいつらの勉強、テストを見てきた」
「ん? そうだな」
すると風太郎は俺にだけわかるように回答の文字を指さす。
「……なるほど」
つまり、最初から問題の回答率は見ていない。
風太郎が欲しいのは彼女達が書く文字、つまり筆跡だ。
五つ子でも筆跡まで一緒ではない。
それぞれ癖があるのは俺も散々見て知っている。
「はーい、一番のり」
そうこうしていると一番に手を上げたのは一花だった。
「誠司」
「へいへい」
「あれ? セージ君が見るの?」
一花は俺の方がよく勉強見てるからな。
てか、そもそも俺は答えにたどり着いていたんだが。
「はい、犯人確保」
「え?」
答案用紙を受け取ると同時に俺はその手を掴んだ。
「風呂上がりだったのに誰かが特別に遅かったという事もなく姉妹全員が揃った。あの短時間で髪を乾かせたのは一花だろ?」
「髪が短いなら四葉だって」
それ言われたらそうだが、俺は答案用紙に目を向ける。
「あと、一花のbの書き方。筆記体だ。筆記体は五人の中で一人だけ。他は筆跡変えたみたいだけどツメが甘い」
「あ」
「俺達はお前達の文字を嫌と言うほど見てきたんだ」
「や、やられた」
観念したのか一花は膝をついた。
そんな一花に俺も屈んで視線を合わす。
「ま、悪かったな。その、見られたくない姿見て」
「……おねーさんの体どうだった?」
ニヤニヤと俺の反応を楽しむ一花に俺は答案用紙で頭を軽く叩く。
本当にこいつは。
「誠司、大変だ」
「あ?」
俺は風太郎に視線を向けるとその手には他四人が回答したものを手にして震える風太郎。
「複数犯だった。こいつら全員、一人ずつ0点の犯人だったんだ!」
どうやら五人の筆跡は0点の回答用紙の文字と一致。
つまりあの五枚の答案用紙はそれぞれ0点を取った答案用紙だったという訳だ。
「何してんのよ。一花。こいつらが来る前に隠す約束だったでしょ」
「ごめーん」
二乃の言葉に謝る一花。
どうやら計画的犯罪だったようだ。
「俺らが休んだ途端これか」
風太郎が怒るのを通り越して肩を落とし落ち込んでいる。
「あのな、隠したところでそれならそれでまた同じ問題やらせるだけだっての。テストはお前らがどこわからないか知る為のもんなんだから」
しかし、0点か。
マジで家庭教師の自信無くすぞ。
「はぁ」
思わずため息が漏れる。
勉強方法の見直し。いや、もうすぐ期末試験が迫ってる。やり方変えた方が混乱するか?
中間試験は家庭教師になって日が浅かったからという理由もあったが、さすがに成果が出ないと正直貰っている金額に申し訳ないと感じる。
「この中で昔、俺に会ったことがあるよって人」
俺が今後の事を考えていると突然風太郎がそんな質問を出してきた。
今回やけに顔の判断にこだわってたのは五年前の女の子がこの中にいる可能性を考えたものかもしれない。
「何よ。急に」
「どういうこと?」
一部からは質問の意図が理解できない反応。
だが、それ以外の反応はなく風太郎の質問に答える者は現れなかった。
「そりゃそうだ。そんなに都合良く近くにいるわけがねぇ」
「いや、風太郎」
「それに、お前らみたいなのがあの子のはずねーわ」
「どういうことですか」
風太郎、お前の中の女の子がどういう成長を遂げたが知らんが色々失礼だぞ。
「風太郎、あのな」
「誠司、良いんだ。今は余計な事を考えてる時間はない。答案用紙隠した罰も含めてみっちり復習だ」
すっかり風太郎は勉強の鬼と化していた。
こうなったら止められないからな。
風太郎がそう言うならこれ以上の深追いはしないが。
俺はチラリと五人を見る。
間違いなくこの五人の中にあの子はいる。
風太郎の写真と五つ子の写真はどう見たって同一人物。だが、何故名乗り出ない?
いや、今の状況で名乗りづらいか。もしかしたら、あとでこっそり名乗り出てくるかもしれないし、俺もしばらくは静観といこう。
けど、本音は俺もすぐに知りたい。
あの時、俺に向けた真っ直ぐな瞳を向けた子が誰なのか。