「こちらでよろしいですか?」
「はい」
「お日持ちは今日までですので」
「わかりました」
「ありがとうございました」
ご希望のケーキを手にしたお客さんを見送る。
「長尾君、もう上がりの時間だよ」
「あ、はい。それじゃお先です」
今日は祝日、勤労感謝の日。
けど、このお店の場合はそんな日が絶賛稼ぎ時で今日も朝からケーキを買うお客さんやカフェを利用するお客さんで忙しかった。
ちなみに今日は家庭教師の方は休み。
「さて、合流するか」
俺はスマホを出してある人物に連絡する。
そして高級店が並ぶ通りの一角で待ち合わせとなった。
「あ、セージきた」
「やっほー、バイトお疲れさま」
「おぅ」
俺を待っていたのは三玖と一花だった。
「しかし、俺が交ざっていいのか? 二人だけの方が」
連絡が来たのは今朝。
一花から出掛けないかという誘いがきた。
バイトがあると伝えたが、その後でも時間があるならと言われ特に断る理由もない為に承諾したが姉妹だけの方が気楽だろう。
「えっと、ほら! 三玖がフータロー君にプレゼントしたいって。だからセージ君の意見を参考にしたらって」
「一花が」
「あー! そういえばあのお店に二乃が欲しがってた服あるって聞いたよ! さ、三玖もセージ君も行こう」
「え、あ、おう」
若干置いてけぼり感はあるが、女子二人に男一人だとそうなるか。
「その前にセージ」
「ん?」
目的の店に向かう前に三玖は俺の顔をのぞき込む。
「私たちを見て何か言うことない?」
「ちょっと三玖!」
「えっと……待たせて悪かった?」
「……はぁ」
「え? 違う?」
ため息という事は求められていたものとは違うって事だよな。
二人見て言う事。さすがに勉強どうだ?ってのは違うのは俺もわかる。
「あー、ほら、三玖も余計な事しないでいいから」
「一花もよく私にする事をしているだけ」
「それは……とにかく行こう」
一花は三玖の腕を掴み行ってしまった。
なんかわからんが、とりあえず俺は三玖と一花の目的の店へと着いていく事に。
「しかし、やっぱ来るところがお嬢様だな」
入ったお店は俺が普段服を買っている店とは違った値段に驚きつつ二人の少しあとを歩きながら店内を見て回る。
「てか、風太郎誘えば良かったろ。デートも兼ねてプレゼントも出来て一石二鳥だ」
「……」
俺の言葉に三玖のテンションが下がるのを感じる。
いつも低い方だがさらにその下のテンションで俺はどうやら聞いてはいけない事を聞いた予感。
「セージ君」
俺の横っ腹を一花が突いてきた。
どうやら俺の予感は的中してしまったようだ。
「……朝、誘った。でもフータロー、休日だから断るって」
あぁ、すでに誘って断れたパターンは想定外。
いや、林間学校で三玖の覚悟は聞いたんだが、まさかここまで積極的になってるとは思ってなかった。
てか、あいつどうせ休日は勉強だとかで断ったんだろうな。
そうなるとこのお出かけも三玖を気遣って一花が誘ったって訳か?
お姉さんも世話焼きだな。
「あー、あれだ。サプライズプレゼントで驚かそうな。えーっと風太郎なら」
とりあえず、落ちた気持ちを上げてもらう為にも俺も積極的に風太郎が着そうな服を探し始めたのだが、見覚えのあるリボンがちらついた。
それは試着室の所。
「どうみてもあのリボンは四葉だよな」
あの目立つリボンに一花達も四葉に気付いた様子。
「なんだ、四葉も来てたんだ」
「ご飯食べに行くとか言ってなかった?」
「あ、あらあら。一花と三玖、それに長尾さんじゃありませんか」
顔だけ出している四葉の表情は少々焦っている感じがある。もしかして試着途中のタイミングだったか?
「ん?」
すると俺のスマホが震える。メールだ。メールを送ってくる奴なんて一人。
四葉と一花達はなんかまだ話しが続きそうだから俺はそのメールを開いて確認するのだが。
「はぁ?!」
「ちょ、セージ君?」
「どうしたの? 大声出して」
俺の声に一花と三玖はそれまで四葉と話しに夢中だったが俺へと視線を移した。
「あ、いやー、ほら、もうそろそろマフラーも必要かなって思ってさ。けど値段見て驚いたんだ」
「えー、どれ?」
一花は俺の方に来てそれがどれなのか確かめようとする。
「でも、あっちにもマフラーあったろ。そっちも見てみるかな。あー、三玖のプレゼント探しにも丁度良いんじゃないか?」
とりあえず俺はこの場から一花と三玖を引き離さなければいけない。
「マフラー、良いかも」
「よし、なら行くか。四葉はまたな」
「あ、はい」
そうして俺は二人を連れてその場を離れるのだが最後にチラリと試着室を見る。
先ほど届いたメールには試着室には風太郎がいるという事を知らせるもの。
そしてどうにか逃げ出すチャンスを作って欲しいという内容だった。
試着室に四葉がいる。そこには風太郎。
風太郎は三玖との誘いを断っている。元から四葉との予定が入ってたのかもしれないが、三玖のさっきの反応からするにそれを知らない。
試着室の二人とか絶対見せられん。
するとメールがまた一通。
『すまん! 恩に着る!』
まったくだこの野郎。
そうしてその後、無事に風太郎達が店から出た報告を受け、俺はようやく肩の荷が下りた。
一花達は二乃が欲しがっていた服と自分の服を持って会計に。
「セージ君はいいの?」
「バイトしていても躊躇う値段だったからな」
そもそも咄嗟についたウソみたいなもんだしな。
あ、でもさっき見たマフラーは品質やっぱ良さそうだったよな。
「てか、三玖は結局風太郎のは買えずか」
三玖の手には自分の物しかなかった。
「やっぱり、本人の意見聞いてからにする。次こそ一緒に」
本当、変わったよな。
そんな意気込んでる三玖を一花は後ろから抱きしめる。
「そうだよ。三玖、まだまだチャンスはあるよ。これからなんてったって一大イベントがあるんだから」
「その前に期末試験な」
おそらく一花が言っているのはクリスマスの事だろう。
確かに一年でもっとも世間が浮かれる日のひとつだろう。
だが、それを楽しく迎える為にも乗り越えなきゃならないものがある。しかし、中間試験の時もそうだが試験の事は頭から抜けるようになってるのか?
「セージ君、そこは空気読もうよ」
「こういう所、フータローとそっくり」
なんか不名誉な言葉だな。
「現実逃避して追試になったらそれこそクリスマスも何もないだろうが」
「そうだけど……あ、ごめん。私、さっきのお店で買い忘れてたのあったんだ」
「なら、戻るか」
俺は来た道を戻ろうとするが一花は首を横に振って俺を制止させた。
「あー、次出る新作の予約だからちょっと時間かかるから二人は帰ってて。それじゃ」
「あ」
そう言って一花は一人でさっきの店に戻ってしまった。
「予約? そんな事も出来るのか?」
「うん、カタログとか展示会とかでお店に並ぶ前のを一足先に見て予約出来るの」
三玖の説明に俺は知らない世界があるんだなと改めて実感する。
「まだ時間あるから付き合っても良かったんだが」
けど、なら三玖を送り届けて帰るか。
「……セージ」
「ん?」
足を止めたかと思えば三玖は俺へと振り返る。
「一花を待ってて。私も寄る所あるから」
「なら、付き合うぞ」
一花の時はさっさと行ってしまって言えなかったが、今度はしっかり言えた。
「下着見に行くけど?」
「すまん。どうぞ、いってらっしゃいませ」
うん、それはちょっと厳しいな。
三玖も堂々と下着とか言うんじゃ無いよ。
いや、まぁ俺がデリカシーなかったのが悪いが。すると三玖は俺の背中を軽く叩く。
「なに?」
「一花をよろしくね」
「はいはい、わかったよ」
そうして三玖を見送り、俺はさっきの店の前で一花を待つことにした。
店の前で待ちながら、風太郎からまたメールが来てたからそれに目を通す。
『四葉に色々世話になったから何か贈りたいんだが、何か良いの無いか?』
なるほど。
つまり、風太郎は四葉に何か贈る為に一緒にいた訳か。
正直、四葉が欲しいものはわからん。
しかし、風太郎に買えるのか? 四葉もさっきの店にいたって事を考えると金銭感覚はやっぱり俺達と違うみたいだし。
けど、あの四葉なら何でも喜びそうだけどな。
とりあえず、俺じゃ力になれんと風太郎にメールを送った。
「世話になったか……そういや、俺もだな」
「ありがとうございました」
すると店員に見送られて一花が出てきた。
なんかまた荷物増えてるが結局他にも色々買ったのか。
「よう。なんだ、全然早かったな」
「へ……セージ君」
俺が待っているとは思っていなかったのか驚きの表情の一花に俺はしてやったぜと笑ってみせた。
「三玖は寄る所あるんだと。時間もまだあるからお前を待ってた」
「三玖ぅ……あの子は」
「あ、もしかして俺いたらマズかったか?」
三玖みたく男が居づらい所とか寄る予定だったかもしれない。
そういうの考えてなかったな。
「あ、違うから。そっか、おねーさんの為に待ってくれてたんだね。えらいえらい」
出たよ。お姉さんキャラ。ま、実際お姉さんではあるが。
「はいはい、んで? まだ時間大丈夫か?」
「え? あ、うん」
「うし、ちょっと休憩するか」
そう言って俺はコーヒーチェーン店へと視線を移す。
「一花、よくあそこの飲んでるだろ」
「うん、そうだけど」
店内に入ると思ってたよりも客数は少ない。ピーク時から少し落ち着いたタイミングで入れたみたいだ。
一花には先に席を確保してもらい、俺は一花に聞いた注文通りのものを店員に伝えた。
「席、ありがとうな」
一花が座っている対面に俺は座り、一花に飲み物を渡した。
「ううん、セージ君もありがとう。あ、お金」
「こんくらいは奢れる。フータローほどケチ臭い訳じゃ無い」
一応、家庭教師の破格なバイト代、北条さんからも手伝いでもバイト代としてもらってるし、あっちのバイトを合わせるとそこそこは稼いでる。
「それに今日は感謝する日、だしな」
あのまま帰らず、ここに寄ったのはこれまで色々一花には気を使ってもらって助けられた事もあって、少しでも何か返せればと思っての事。
「そんな事ないよ。どちらかというと私が感謝する方じゃ無いかな」
「家庭教師はきちんと報酬は貰ってる。勉強面はそうかもしれないけど、姉妹との事に関しては一花にはこれまで何度も助けられてきた。正直、こんなんじゃ全然だけど」
「そっか……だから、私の誘いにもオッケーしてくれたんだ。うん、そうだよね」
「あのな、別にそれが理由で承諾した訳じゃ無いぞ。てか、俺も暇なら普通に付き合う」
なんか一花のさっきの言い方だとまるで俺が仕方なく誘いを承諾したみたいな言い方。
それにちょっとイラっとして俺は否定した。
「そっか……うん、わかった」
一花はそう頷くと上機嫌に今週出たばかりだという新作を飲み始めた。
そんな一花を見つつ俺もコーヒーに口をつけながらある事に気付く。
「今日、髪型違うな? 編み込みか」
そう言うと一花は目を見開いて驚いたのか口にしていたのを慌てて飲み込んだ。
「このタイミングは予想外」
「え」
「そういうの、会った時に言うもんだよ」
「あー、悪い」
「ま、気付いて言ってくれただけでも良しとしましょう。で? どう?」
すると一花はより見えるようにと俺にその編み込みの部分を見せてくる。
「似合ってる。ちょっと可愛さが追加された感じだ」
「っ……君って気付くの遅いのにそういう事はしっかり言えるんだね」
「貶されてるのか褒められてるのかわからん。てか、照れてんのか?」
俺から顔を背ける一花を俺はからかうと頬を膨らませてまた視線を合わせてくる。
「普段のお返しだ」
そう笑って返すと「性格わるーい」と非難に聞こえないようなテンションで一花は返してきた。
ふと編み込みしている髪を眺めていたらその延長線にある耳のピアスが目に入った。
あれならピアスをプレゼントってのもありか?
感謝のプレゼントがコーヒーチェーン店の新作はあまりにもどうなんだと思っていたから丁度良いプレゼントじゃないか?とひらめく。
「なぁ、いつも同じピアスだけど。それが好きなのか?」
ピアスにも色々タイプがあるからな。リサーチとして一花に聞いてみる。
「あぁ、これ? お母さんの形見なんだ。片方だけなのはもうひとつは二乃が持ってるの」
右耳に触れてそういう一花に俺はすぐにピアスの案は無くなったと察した。
「あー、前に二乃がピアス開けたいってのは」
「うん、お母さんのをつけたいからだと思う。結局まだ開けないみたいだけど」
注射嫌がってるくらいだもんな。けど、形見ならそれも我慢出来そうだが。
しかし、こうなるとやっぱピアスは無しかもな。
「そっか……んじゃ、それ以外はつける気ないよな」
「え? まぁ、撮影とかで役柄的にあれなら外したり他のつけるけど……どうしたの?」
風太郎、確かに相手の欲しいものを探るって難しいな。
てか、もう素直に本人に聞くのが早いか。
「いや、一花には世話になったからプレゼントでもと思ってな。ピアスなら良いかなと思ったけど」
「……感謝のプレゼント?」
「まぁな」
なんか改めてそう言われると恥ずかしいんだが。
「……それならいらないよ」
「あ……そう」
ハッキリ言われるとさすがに少しへこむな。
「別に私はそういうの欲しくてしたわけじゃないし」
「わかってるよ。俺だってそういうので贈り物されても気が引けるつーか。いや、感謝の気持ちは嬉しいが」
何か見返りが欲しくて親切にする訳じゃないし。
「……下心はあったかもしれないけど」
「あ?」
一花は今日買った物の方へと視線をそらす。
下心? やっぱりプレゼント欲しかったのか?
「ううん。でもやっぱりそういうのじゃなくて……そうだな……うん」
「ん?」
一花は少し考えた後に何かを思いついた様子で俺に笑顔を向けてくる。
「クリスマス、プレゼント交換しよっか」
「……は?」
突然の提案に俺は手にしていたコーヒーカップを置く。
「それならお互い気兼ねなく贈れるでしょ?」
「まぁ……ん? そうなのか?」
むしろクリスマスに交換し合う方があれなような。
「だから、その時にセージ君が私に贈りたい物を贈ってよ」
「参考書」
「そういうのは無し」
むーっとふくれっ面な一花。
さっきまでのお姉さんキャラはどこいったんだか。
「冗談だよ。そうだな……そっちの方がいいか」
「なら決まりってことでいい?」
「あぁ、けど、あんま俺のには期待するなよ」
「勉強に関する物じゃなかったら合格点だよ」
「随分期待されていないようで安心したよ」
そうして何故だかクリスマスに一花とプレゼント交換が決まった。
「そろそろ出るか」
「うん」
店が混み始めたのとそろそろ良い時間になってきたから俺達は店をあとにして帰り道を行く。
「クリスマス、楽しみ」
「その前に期末試験な。楽しく過ごせるかはそれ次第だ」
「もう、すぐ勉強の話しになる」
「家庭教師だからな」
それに正直、このまま成果出せないのは本当にマズいからな。俺自身も焦ってる。
「……セージ君?」
「いや、今日は休日だからな。勉強の話しはやめるよ」
「そうそう」
そうして俺の休日はバイトと中野姉妹との買い物で終わった。