家庭教師と友人A   作:灯火円

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 期末試験のテスト週間が明日から突入する訳でここが正念場だと俺も風太郎も気合いを入れてたのだが。

 

「いつもよりもメンバー少ないってのはどういう事だよ」

 

 風太郎の言葉に苦笑いを浮かべたのは唯一、図書室に集まった三玖と一花。

 いつもならここに四葉と五月も入るはずだが、四葉は陸上部の助っ人。五月は二乃と一緒に映画。

 

「ま、まぁ明日からが本番だからさ。まだノーカン、まだ何事もないって」

「ノーカンって。早く始められる分だけ勉強できるってのに」

 

 一花なりに励ましてくれたんだろうが、正直へこむぞ。

 

「誠司の言うとおりだ……なのに」

「元気だしてフータロー、セージ。明日は大丈夫だよ」

「だといいが、仕方ない。今日は各自、自習で」

「……そっか」

 

 風太郎の言葉にどこか残念そうな三玖だが、自習でもわからない所は教えられるからそんな落ち込まなくて良いと思うんだよな。

 

「わぁ! こんな所に二人分の映画のチケットが! しかも私の出てるやつ! 三玖とフータロー君、二人で観に行ってきなよ!」

「なんだよ。急に」

 

 こいつ、またお節介を。けど、今は三玖の恋愛事情よりも勉強なんだが。

 

「一花」

 

 すると三玖は一花を呼び出して二人で何かを話している様子。

 とりあえず、二人の話し合い終わるまで風太郎と今度のテスト対策でも話すか。

 

「一花が出てる映画……観たやつだな」

「は? 風太郎が? らいはちゃんとか?」

 

 けど、映画のタイトルからしてホラーもの。風太郎がそんなのをらいはちゃんと観るとは思えない。

 

「いや、その……四葉と」

 

 そう俺に小声で教えてくれた風太郎。

 

「あー、あの時か」

 

 おそらく俺が三玖と一花と一緒に出掛けた休日の時だろう。

 

「とりあえず、一花に返してくる」

 

 そう言って一花にチケットを返しに行く風太郎。一花はすでに映画を観ている事に驚きを見せる。

 そりゃ、そうだろうな。

 まだ出会ってそんなに経っていなくても風太郎が映画を見るような人物ではないのはわかる。

 

「あぁ、だから三玖と誠司で行け。もちろん試験終わったらな」

「は?」

「え?」

 

 俺と三玖は何でそうなるの?という目で風太郎を見る。

 

「……なら、一花と誠司が行けばいい。一花が貰ってきたチケットだし」

 

 結局、一花のチケットは一花の所へと戻ってきたな。

 

「えっと、ちょっと無理。さすがに自分が出ている映画を誰かと見るのは……その」

 

 一花は俺の方を見て珍しく恥ずかしがっている。

 

「あー、そうだ。私これから用事があって」

「一花も離脱か。仕事か?」

 

 一花が途中で抜け出す事は今日に限った話ではない。

 これまでも仕事で参加できなかったり途中で抜ける事は何度もあって俺は仕事だと思ったのだが。

 

「いや、そうじゃないんだけど」

 

 仕事なら仕方ないと思ったがそうじゃないらしい。

 

「あれか? お前も勉強から逃げるつもりか?」

「フータロー君、目が怖いよ。違うって事務所の社長の娘さんの面倒見る約束なんだ」

 

 社長の娘さん、あの髭のおっさんか。

 へー、娘さんいたのか。

 

「そんな娘が本当にいるんなら俺の前に連れてきてみやがれ!」

「お前、どんだけ疑ってるんだよ」

 

 

 

 そうして俺達は中野家に来たわけで。

 目の前にはお絵かきしている女の子がいるわけで。

 

「本当にいたな」

「うっ」

「風太郎、一花に謝れよ」

「……すまん」

「もう、ひどいよね」

 

 とりあえず、子供の面倒見つつ勉強は出来るだろう。

 

「三玖、一花、二人は勉強だ」

「そうだな」

 

 子供がお絵かきして静かな間に一花と三玖には勉強をさせようとするが。

 

「おい、お前」

「ん?」

 

 社長さんの娘ちゃんが風太郎をじーっと見ていた。

 

「お前、アタシの遊び相手になれ」

「風太郎、ご指名だ」

「……わかった」

 

 さすがの風太郎も妹がいるだけあって子供を蔑ろにする心は無いようで近くにあった人形を手にして社長の娘ちゃんの菊ちゃんへと近寄る。

 

「菊ちゃん遊ぼう」

「子供扱いすんな! 人形遊びなんて時代遅れなんだよ。今のトレンドはおままごとだから」

 

 菊ちゃんは風太郎の持っていた人形をはたき落とし、おままごとをリクエストする。

そして配役発表。

 

「お前、あたしのパパ役。あたし、あたし役」

「あ、じゃあ私、ママ役やる」

「三玖さん? 君は勉強だろ?」

「セージの顔、笑ってるけど笑ってない」

 

 そりゃそうだろ。

 今は少しでも勉強する時間が惜しいってのに。

 

「うちにはママはいない。ママは浮気相手と家を出て行った」

「マジか」

「そこ、リアルなんだ」

 

 まさかの設定に俺も三玖も反応に困る。

 

「あのおっさんのシリアスな過去なんて知りたくなかったぞ……とにかく、俺が完璧なままごとをしてやる。誠司は引き続き二人の勉強を見てやってくれ」

「あいよ」

 

 とりあえず菊ちゃんは風太郎に任せて、俺は一花と三玖の勉強を見る事に。三玖からしたら風太郎に見て欲しいだろうが、許せ。

 そうして風太郎は菊ちゃんとおままごとをする事になったのだが。

 

「お勉強の方はどうなんだ? パパが教えてあげてもいいぞ」

「ままごとでも勉強かよ」

 

 二人の勉強を見つつ、風太郎の方を気にしてみていたがままごとでも風太郎は風太郎の様子。

 

「はは、フータロー君がパパになるとあんな感じなんだね。三玖的にはどうなの?」

「へ?! どうって」

 

 一花の言葉にあからさまに動揺する三玖。

 三玖は風太郎をちらちら見つつ顔赤らめ落ち着かない様子。

 その間にも風太郎と菊ちゃんのおままごとは続いている。

 

「勉強……やっても意味がない。どうせすぐ忘れる」

「いけないぞ。菊。失敗を恐れてはいけない。諦めず続ける事で報われる日がきっとくる。成功は失敗の先にあるんだ」

 

 ままごとの方は風太郎が良いことを言ってて勉強だけじゃない所も風太郎は見せていた。

 けど、ままごとでそういう話しはどうなんだ?

 それとも今の子はこういうリアル路線?

 六花に付き合わされてやってた時は仕事から帰ってきた旦那に料理振る舞う奥さんとか学校から帰ってきた子供とお母さんの図とか定番のやり取りしかなかったぞ。

 

「綺麗ごとを」

「このガキ」

 

 笑っているがその目は笑っていない風太郎。

 らいはちゃんがいるからこの手の事大丈夫かと思ったが、らいはちゃんとは真逆のタイプっぽいもんな。

 

「まぁまぁ」

「いいこと言ってたと思う」

 

 一花と三玖が風太郎を落ち尽かせに入る。

 その間にもままごとは続行されていて菊ちゃんはパパのお仕事の場に来たという設定に。

 

「二人はここの事務員さん」

「え、私たちもやるの?」

「事務員さん?」

「そう、二人ともパパに惚れてる」

「!」

 

 ままごとでも風太郎に惚れているという菊ちゃんの言葉に三玖の体が大きく揺れた。

 

「そしてお前は事務員さんAに惚れているけど、事務員さんはパパに惚れている事も知っていて悩んでいる若手マネージャー」

「なんだそれ」

「事務員さんAって私?!」

 

 菊ちゃんは一花を事務員さんAと指さし、俺はその事務員さんAに惚れているというマネージャーらしい。

 ままごとの領域外れてない? 

 てか、なにそのどこぞのドラマのどろどろした昼ドラ的な設定。

 

「……社長、いつになったらご飯連れてってくれるの? 今夜行こう今夜」

 

 意外にも最初に乗り気になったのは三玖。

 こういう時は一花な気もしたが。てか、もう勉強どころじゃないな。

 こうなったらとことん菊ちゃんに付き合うか。

 

「えっと、三玖?」

 

 まだ戸惑っている一花。とりあえず、女優さんの本気を見させてもらいますか。

 

「一花さん、良いんですか? その、一花さんも社長の事」

 

 俺は一花の隣に行き、そっと小声で話すふりをしつつ菊ちゃん達にも聞こえる声量で話す。

 あくまでもこれはままごと。演技である。

 

「え、セージ君?!」

「おら、女優なんだろ? 見せつけろ」

 

 今度はしっかりとした小声で一花に言うと「あー、君もノリノリなんだ。なら」と一花は息を軽く吐く。

 すると雰囲気が変わったのを感じた。

 

「ありがとう。セージ君」

「!」

「あ、菊ちゃん来てたんだね。そうだ。パパと菊ちゃんと私でご飯どう?」

 

 一花は菊ちゃんに目を合わせてニッコリと笑う。

 すっかり女優モードで俺もその切り替わりに素直に感心する。

 

「そういえば、菊ちゃんママ欲しくない?」

「わ、私がママになる」

「三玖になれるかなー」

 

 一花は三玖を焚き付けてるのがわかる。

 てか、ままごとだよな?

 

「じゃあ、パパのどこが好きか言え」

「!」

 

 まぁ、大事だよな。

 ママになる人がパパの事をどう好きなのか知っておくのは。

 

「そうだなー」

「あ、頭が良い! 頼りになる。背が高い。かっこいい」

 

 一花が考えている間に三玖は好きな所をあげていく。

 その好きな所をあげられた本人はあくびをしているが。

 

「パパ、そんなに背が高い方じゃないんだけど」

 

 そういや、菊ちゃんのパパはあの社長だったな。

 

「それに、あたしは……ママなんていらない」

「え? どうして?」

「だって、寂しくないから。ママのせいでパパはとっても大変だった。パパがいれば寂しくない」

 

 一花の問いに菊ちゃんはそう答えた。

 けど、そう答える小さい体はどこか我慢しているように見えた。

 

「なるほど」

 

 俺はそっと菊ちゃんの方へと歩み寄って屈む。

 

「菊ちゃんがパパ大好きなのはわかった。でも、ワガママ言って良いんだ」

「セージ君?」

 

 俺は菊ちゃんの両手を握る。その小さな手はずっと拳を握っていたから。

 

「そうだぞ」

「な、なにする! やめろ!」

 

 風太郎は菊ちゃんの頭を乱暴に撫でる。

 

「お前みたいな年の女の子が母親いなくなって寂しくない訳がない」

 

 俺は中学の時に父親を亡くしたが、それでもめちゃくちゃ寂しかった。

 だからきっと菊ちゃんはもっと感じているはずなんだ。

 風太郎も幼い頃に母親亡くしてるからよりその気持ちは理解出来るんだろう。

 言い方はともかく、こいつは人の心にきちんと寄り添えるやつだから。

 

「フータロー」

 

 すると三玖が風太郎の横に行き、風太郎の裾を掴んだと思いきや。

 

「私と付き合おうよ」

 

 突然の告白に俺はもちろん一花も驚く。

 

「おい、俺達はこの場にいて良いのか?」

「いや、そうだけど、このタイミングで告白されたらどうしようもなくない?」

 

 思わず俺は一花の隣に行きこの状況にどうすればと相談するが、一花も三玖のこの行動には予想外だった様子。

 とりあえず、俺達は菊ちゃんをこちらに呼び寄せて風太郎の答えを待つことに。

 

「付き合おうって何言ってんだ」

「あ、えっと」

 

 風太郎。その気持ちはわかるが、その言葉の選択はダメだろ。

 

「違うだろ。結婚しよう」

「けっこんって……ええ?!」

 

 付き合うをすっ飛ばして結婚という言葉に三玖はもちろん驚いてこれまでに見た事のないほど顔を真っ赤にしている。

 

「……あのバカ」

「えっと、これって」

 

 俺も一花も風太郎が何故結婚という言葉を出したのか何となく予想出来ていた。

 風太郎は菊ちゃんの肩に腕を回す。

 

「菊! これでママが出来たぞ。良かったな。といってもままごとの中だけど」

「……え」 

 

 風太郎の言葉に三玖も少し冷静さを取り戻した様子。

 

「本当、風太郎の言葉の選択がダメすぎる」

「あはは、だねー」

 

 すると菊ちゃんはジーッと俺と一花を見ると風太郎の腕から抜け出してこっちにきた。

 

「失恋した女性を慰めておとすチャンス。こういう時は抱きしめるのがいい男」

「な!?」

「あー、まだ続いてるのね」

 

 てか、マジでその知識はどこから? 

 社長さん、あなたの娘さんちょっと将来大丈夫です?

 しかし、抱きしめろって。さすがにそれはどうなんだ?

 そっと一花を見る。

 ここでいつものお姉さんキャラなら俺もやりやすかったんだが。

 

「えっと、その」

 

 一花も一花で突然の要求に困っている様子。

 ここは上手く誤魔化すか。

 

「ただいまー。可愛い女の子だ!」

「あんた達までなんでうちにいるのよ」

「何してたんですか?」

 

 そこに用事で勉強会に参加出来なかった三人が帰ってきた。

 お前らナイスタイミングだ!

 

「あー! ままごと! そうだ。菊ちゃん、あのお姉さん達にも何か役あげなよ」

 

 俺はさっきの流れを断ち切らせる為に菊ちゃんに四葉達の配役をお願いする。

 

「あ、楽しそう。誰の役が余ってますか?」

 

 その後、四葉は犬、二乃と五月はおばあちゃん役を拝命しわちゃわちゃとまたままごとが始まった。

 俺は一花の方を見ると三玖と何か話している様子。

 とりあえず、乗り切れたな。いや、肝心な勉強は出来てないが。

 

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