家庭教師と友人A   作:灯火円

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第7話 さようならの期末試験
7-1


「各教科のテスト範囲、それと個々の不得意な所」

 

 期末試験まで一週間、もう時間が無い。

 一応、風太郎と俺で残りの時間みっちりとテスト対策すればギリ赤点回避できる計算ではある。

 その為に現在俺はテストの想定問題とそれぞれの不得意な点を重点にまとめた問題集を制作中。

 風太郎はパソコン持っていないからこの作業は俺が担当する事になっている。

 

「とりあえず、まずは一花の分はもう少しで」

 

 その瞬間、俺のパソコンはブルースクリーンとなる。

 

「は?! 待ってくれ」

 

 そこからウンともスンとも言わなくなり、やむを得ず強制終了。すぐに立ち上げるが画面は真っ暗なまま。

 

「やばい」

 

 時刻は夜、こんな時間に店は開いていない。いや、母さんのノートパソコンがある。

 母さんの部屋へと向かう途中でカレンダーに今日から来週まで長い矢印が書かれ『出張』の文字を見て思い出す。

 出張で持って行って今はないじゃん。

 ネカフェ、いや、この時間に未成年は入れてもらえない。

 だからといって明日朝早く行ってそこからまた問題集を作るには時間が取られすぎる。

 今は少しの時間でもあいつらの勉強にあてたい。

 

「……風太郎、すまない」

 

 俺はとりあえず風太郎にこの状況の説明と謝罪の電話を入れる。

 

 

『そうか。わかった』

「風太郎、本当に」

『誠司、今からお前の家に行く』

「は?」

『やはり頼れるのは自分のみだ』

 

 そう言って風太郎が電話を切ったかと思えば数十分後に風太郎は俺の家に来ていた。

 

「今から手分けしてやれば間に合う」

 

 テーブルに紙の束をドンッと置く風太郎。そんな風太郎の行動に俺はまさかと視線を向ける。

 

「かつて人は自らの手で火を起こした。なら、俺達も自らの手で生み出せば良い」

「……はぁ。だな」

 

 そうして俺達は何十枚と書き続け、朝にはどうにか問題集を書き上げるのだった。

 こういう時、風太郎の頑固さに救われる。

 

 

「風太郎……朝はこんなに眩しいんだな」

「あぁ、眩しすぎて目が焼かれるぜ」

 

 徹夜明けのテンションで俺達は肩を抱き合って朝陽を見る。

 

「とにかく、俺はとりあえず朝一でパソコンを買ってくる。お前は先に行って課題を終わらせ次第あいつらにこれをやらせてくれ」

「あぁ」

 

 今後を考えるとパソコン無いのはやっぱり効率的にも俺達の体力的にも厳しい。痛い出費だが、どっちにしろいずれは買い換える運命だったんだ。

 風太郎を見送り、俺は量販店へと向かった。

 

 俺があまりにも険しい顔と急いでいる様子を見たからか店員さんはさっと俺が要求するスペックの最適な商品を教えてくれてすぐに購入。

 そのまま中野家と俺は急いできたわけだが。

 

「長尾さん! とにかくすぐに来て下さい!」

 

 呼び鈴を鳴らすと四葉から珍しく荒々しい声に俺は急いで最上階へと向かう。

 

「おい、どうし」

「あんたなんかただの雇われ家庭教師! 部外者よ!」

 

 家に入ると二乃が部屋に戻ろうとしていた様子。そしてそれを引き止める風太郎。

最近はあまり見なくなったが、ある意味いつもの光景だ。

 

「あー、二乃。せっかく最近お前の点数も少しずつ上がってきたわけだしさ」

 

 俺は二乃を落ち着かせようと間に入る。

 そんな俺を二乃は鋭い視線で睨み付ける。その視線、最初の時を思い出すな。

 

「一番の部外者はあんたよ! そもそもパパに頼まれたわけでも無いのに図々しく家庭教師なんて始めて」

「おい、二乃。誠司は俺が」

「風太郎」

 

 ここでこれ以上二乃の機嫌を悪くさせてしまえばそれこそ勉強どころじゃない。

俺は風太郎を制止させる。

 とりあえずここは反論せずに二乃の主張を聞いてそれからだ。

 そう思っていると二乃の前に紙の束が出される。それは俺と風太郎が作った問題集。

 

「これ、フータローとセージが私たちの為に作ってくれた」

 

 それを差し出したのは三玖。

 

「受け取って」

「……問題集作ったくらいでなんだっていうのよ。そんなの……いらないわ」

 

 差し出された問題集を二乃は払い、その勢いで紙が床へと散らばる。

 この状況に他の姉妹や俺達もまずいと考え二人に落ち着くように促す。

 

「二乃、拾って」

 

 しかし三玖はこれまで俺が見た事のない目をしていた。感情を読みにくい三玖だが、怒っているのがわかる。

 

「こんな紙切れに騙されてんじゃないわよ。今日だって遅刻したじゃない。それにこいつなんて買い物なんてして来てるじゃない」

 

 二乃の視線は俺が手にしているパソコンに向けられている。

 

「いい加減なのよ! それで教えてるつもりなら大間違いだわ!」

 

 二乃は唯一手にしていたプリントを破り捨てた。その行動に三玖が一歩動き出す。

 

「三玖! 俺達はいいから」

 

 さすがに風太郎もヤバイと思ったらしく三玖の前に出て止めに入る。だが、そんな三玖と風太郎、そして俺の横を横切った人物がいた。

 そして部屋にパチンという音が響く。

 

「二乃、謝ってください」

「っ」

 

 そしてまたパチンという音が響く。

 

「五月っ」

 

 最初の音は五月が二乃を叩いた音だった。

 まさかの人物に俺達が動けないでいると二乃はやり返すように五月の頬を叩いていた。

 その展開に俺や風太郎は何も言えずにいた。

 

「この問題集は上杉君と長尾君が私たちの為に作ってくれた物です。決して粗末に扱っていい物ではありません」

 

 叩かれた事で怯むことも無く五月は自分より一段高い階段にいる二乃を見上げる。

 

「彼らに謝罪を」

「あんた……いつの間に。いや、あんたはそうよね。そこの乱入者とは仲良くやってたもんね」

 

 俺の方を睨み付ける二乃。

 どう考えても乱入者ってのは俺の事だろうな。

 親父さんから家庭教師依頼された訳じゃないってのは事実だが。

 

「口車に乗せられた訳ね。そんな紙切れに熱くなっちゃって」

「ただの紙切れじゃない。よく見て」

 

 そこに三玖も五月に加勢する形。

 この構図はよろしくない。

 姉妹大好きの二乃だ。これじゃ自分だけが悪者みたいだと思ってしまう。

 とにかくこの状況を変えなければと俺もようやく動き出す。

 

「いや、そうだな。甘かった。もっとお前らにあった教え方があるよな。それに二乃の言うとおり俺は家庭教師を直接依頼された訳じゃ」

「長尾君は黙っててください」

 

 五月の言葉に俺は思わず黙ってしまった。

 

「昨日、長尾君がパソコンで頑張って問題集を作ってたそうです。でも、そのパソコンが壊れて。でも、二人で作ったそうです。全部手書きで」

「っ……だから、何よ」

「私たちも真剣に取り組むべきです。二人に負けないように」

「……私だって」

「二乃、二人は中途半端な気持ちでやってないよ。セージ君が手に持っているのも私たちの家庭教師に今後必要だから急いで買ってきたんでしょ?」

 

 これまで一歩引いていた一花も俺達をフォローへと回るが、正直余計に彼女を追い詰めてしまっている。

 どうにかこの構図を回避しようともう一度俺は口を開く。

 

「いや、これは。俺の趣味にも必要だからさ」

「いい加減。受け入れて」

 

 そんな俺の言葉を遮るようにして三玖は二乃にそう言い放つ。

 

「わかったわ……あんたたちは私よりこいつを選ぶって訳ね」

 

 やばい!

 勉強のことはこの際どうでもいい。

 姉妹の間に亀裂が入ることが一番避けなければいけない。

 

「二乃! こいつらは二乃の事も思って」

「うっさい! いいわ。こんな家出てってやる!」

 

 俺の言葉など聞く気なんてないと二乃は声を張り上げる。

 さすがにここまでの状況になると五月も二乃を引き止めようと動く。

 

「そんなの誰も得しません」

「前から考えてたことよ。この家は私を腐らせる」

「こんなのお母さんが悲しみます。やめましょう!」

「未練がましく母親の代わりを演じるのはやめなさいよ」

「!」

 

 二乃の言葉に五月の動きが止まる。その異変にいち早く察して動いたのは一花と四葉。

 

「二乃、早まらないで」

「そうそう話し合おうよ」

 

 二乃と五月の間に入ってどうにか二乃を落ち着かせようとしてくれている。

俺と風太郎はそのスピードに追いつけず彼女達のやり取りを見ているしかなかった。

 

「話し合いですって? 先に手を出してきたのはあっちよ」

 

 だが、もう二乃も止めるブレーキは壊れている様子。

 

「あんなドメスティックバイオレンス肉まんオバケとは一緒にいられないわ!!!」

「ド、ドメ……肉」

 

 子供みたいな悪口だが、五月には効いたようでそこからさらに二人の言い合いが過激する。

 

「ど、どうすれば」

「なんでこうなる……いや、原因は俺達か」

 

 こうなったら勉強どころじゃない。

 とにかくもう一度、二人に冷静になってもらわなきゃ。

 勉強してもらう為もあるがこのまま姉妹喧嘩はダメだろ。

 

【一番の部外者はあんたよ!】

 

「っ」

 

 二人を止めようとしたが二乃のさっきの言葉が蘇る。

 部外者が入ったからこうなってる。

 その部外者がどうにか出来るのか?

 

「俺は……風太郎、今日は帰る」

「誠司?」

「いない方が良いこともあるだろうし」

 

 間に入ってもさっきみたくまたこじれてしまったら困る。

 むしろ、いない方が良い場合もあるし姉妹の事は家族の方がわかっているだろう。

 

「……なら、俺も帰ろう。三玖達は引き続き問題集に取りかかってくれ」

 

 風太郎は残っても良いはずだが、この状況じゃ家庭教師どころじゃないか。

 

「フータロー、セージ。ごめん」

「こんな風になるはずじゃなかったのに。面目ありません」

「謝るのはおかしいだろ」

 

 俺達が帰ろうと玄関へと向かうと三玖と四葉が申し訳無さそうに追いかけてきた。

 風太郎の言うとおり、三玖と四葉が謝るのは違う。

 特に三玖は一番頑張ってくれてたようにも思える。

 

「セージ君」

 

 最後に一花もまた申し訳無さそうにしていた。

 

「一花、悪いけど今回もお前に頼る形になるかもしれない」

 

 勉強以外の事は本当ダメだな。俺は。

 その勉強さえもまともに見てやれない状況にしてるし。

 

「それは別に」

「ごめんな」

 

 そうしてこの日、俺達はまともに勉強をみてやることも出来ずに中野家をあとにした。

 

 

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