家庭教師と友人A   作:灯火円

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基本、主人公視点で書きますがたまに別視点も入ったりします。


7-3 一花side

 五月ちゃんと二乃が飛び出して結局帰ってこなかった。

 何度も説得したけどお互い意地の張り合いで今回は難しそう。

 私も朝から二人を探してあげたかったけど仕事が入っていて三玖にお願いした。

 あと、セージ君にも一応事情は説明しておいたけど彼も今日は用事があるようですぐには動けない様子。

 

「大丈夫かな」

 

 五月ちゃん達の事もそうだけど、セージ君も帰り際様子がおかしかった気がする。

 

「ダメ。今はお仕事に集中」

「中野一花さん、お願いします」

「はーい」

 

 仕事は仕事。私情に流されて演技出来ないなんて女優として三流すぎる。

 そうして私は今やるべき事に集中する。

 

「そっか。二乃はホテルね」

「うん、けど五月はわからなかった。四葉は今も探してる」

 

 夜に帰ってくると三玖から二乃がホテルに泊まっている報告を受け、とりあえず二乃の安否が確認出来てホッとする。

 でも、五月ちゃんがどこにいるのかわからないのは心配。

 あの子、怖がりだし。

 

「けど、今は勉強もしっかりやっておかなきゃ。フータロー達がせっかく頑張って作ってくれた」

「……そうだね」

 

 三玖はあの分厚い問題集を取りかかり始める。私も自分の問題集を一枚手に取る。

 綺麗だけど、どこか荒々しい文字。隣で真面目にノートに書いている文字と同じ。

 

「よし。って、あら」

 

 あの子から連絡だ。

 問題集を始める前に私はそれに目を通す。

 

「一花?」

「あ、うん。やっぱり少し休憩してから私は始める」

「仕事から帰ってきたばかり。無理しないで」

「うん、ちょっと部屋で休んだら始める」

 

 そう言って私は自分の部屋へと戻り、もう一度さっきの文面を見る。

 

【様子がおかしかったから、一花ちょっと様子伺って】

 

 その一文にすぐに私は彼へとメッセージを送る。

 電話も考えたけど、彼の場合出ない可能性もあるから。

 既読がつく。

 けど、返信はすぐには来なかった。

 このまま返信がないかもと考えていると通話を知らせる音が鳴る。それは彼から。

 

「セージ君?」

 

 すると向こう側で彼が笑う声が聞こえた。でも、それは私がいつも聞くような彼の笑い声ではなくて。どこか痛々しくて今にも崩れてしまうようなそんな笑い声。

 

「えっと」

『あー、今いいか? 勉強してたなら切るけど』

 

 ダメだ。ここで切らせちゃダメ。

 私は大丈夫だと答える。

 

『そうか……えっと、五月は大丈夫だ。とりあえず居場所は俺と風太郎で確認した』

 

 その言葉に私も安心するけど、向こう側のセージ君が気になっていた。

 結局、彼に負担を掛けてしまっている。

 もとは私たち姉妹の問題なのに結局彼の力を借りている。

 その事に触れると彼はむしろ自分の方が押しつけたと返す。

 

『いやー、でも、やっぱ部外者の俺じゃ家に帰すまでは難しいわ。悪いな。やっぱここは姉妹である』

 

 いつもと変わらない。けどそうじゃないと感じる。

 無理をしているような。ふとあの旅館での事を思い出して思わず私は聞いてしまった。

 

「……なにか、あった?」

 

 その瞬間。彼が息を飲むのが伝わった。

 

『なにがって。そりゃ五月を説得できなくて申し訳ないなって』

 

 それでも彼はいつも通りに私に接する。

 きっとこれ以上聞いたら余計に彼を困らせてしまうのがわかった。

 だから私もいつも通りにお姉さんキャラで彼に接する。

 

「……そっか。そうだよね。君も落ち込むことあるよね。いやいや、お姉さん気遣いできてなかったね。ごめんごめん」

『……一花』

 

 すると少しの沈黙の後に聞こえたのは私の名前を呼ぶ彼の声。

 いつもならその声に私は胸が暖かくなるのに、今は不安が襲う。 

 

「ん?」

『今日は月が綺麗だぞ』

 

 それを彼はどんな意味で言ったのかわからない。

 でも、何だかとてつもなくセージ君に会いたくなった。

 

 

 

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