家庭教師と友人A   作:灯火円

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 あの後、一花との電話はすぐに終わったが俺は結局あんま眠れなかった。

 

「うあー」

「うわ、大きな欠伸だね」

「ん」

 

 いつかの日みたく一花はいつものコーヒーチェーン店の飲み物を片手に立っていた。

 

「おはよ。セージ君」

「あぁ。悪かったな。昨日は急に電話なんて」

「ん、あー、別にいいよ。ちょっと驚いたけどね。まさか君からあんな時間にラブコール」

 

 いつものように俺をからかう感じで接してくれる。

 多分、俺が昨日変だったのは気付いているはずだがあえて触れずにいてくれるのは少し助かる。

 

「そもそも、お前が先に連絡寄越したんだろ。文章打つの面倒だからああしたんだ」

 

 白々しいウソだなと自分でも思いつつそう言い返す。正直、俺も昨日の行動は予想外で戸惑っているくらいだ。

 

「はは、そうだったね。ところで五月ちゃんって今どこに」

「あー、それは」

「誠司!」

 

 噂をすればその滞在先の息子が到着。そして少し後ろには五月がいるけど、隠れているのはあれか? 

 一緒に登校してるの見られたくないからか?

 

「風太郎、おはよう。どうした?」

「お前、四葉が陸上部の助っ人で練習に出てるって知ってたか?」

「ん? 試験期間中はないって」

「それが大会前だからって練習に出てるらしい」

「……はい?」

 

 試験期間前は基本部活動も休みになるはず。

 てか、それじゃあいつの勉強時間がごっそり無くなるぞ。

 

「くそ、四葉と話してくる」

「なら、俺も」

「いや、誠司は三玖と一花に集中してくれ。他は俺がどうにかする。父親を買って出たんだからな」

「父親? フータロー君が」

「あー、色々あってな」

 

 事情説明するのが面倒なのとまた俺の中で変なスイッチが入るのを恐れてあえて詳しくは説明しなかった。

 とりあえず言われたまま俺は三玖と一花の勉強に集中することにした。

 結局俺はこれしか無いから。

 

 

 一日、一日と確実に時間は経過していった。

 風太郎は頑張ってはいるが二乃と五月の喧嘩も四葉の陸上部の問題もどうにか出来ていない様子。

 諦めないのが取り柄ともいえる風太郎だが、今回ばかりは折れそうだ。

 

「悪い。少しの間、二人でやっててくれ」

「うん、ここは良いから」

「フータローをよろしく」

 

 二人には俺がどこに行くのか見破られているようで俺はとりあえず風太郎に連絡を取る。

 

「風太郎、今どこだ?」

『あー、誠司か。今は……あれだ。この間の夜に来た池の畔だ』

「風太郎?」

 

 どこかその声に覇気がない。

 すると風太郎はポツリと話し始めた。

 

『何が父親になろうだ。結局、俺は勘違いしてただけだ。ちょっと信用されて頼られて調子に乗って……勉強しかできないやつなのに』

「お前!」

『あいつらに、俺は不要だ』

「ちょ、風太郎?! くそ勝手に切りやがって」

 

 とにかく俺は風太郎の言っていた場所へと急ぐ。

 何が勘違いだ。

 お前は確かに信用されて頼られただろうが!

 

【勉強しかできないやつなのに】

 

 なら、俺はなんだよ。

 お前より勉強出来ない俺はなんだよ!

 俺より勉強出来るお前が不要なら俺はもっとそうじゃねぇかよ!

 

「あいつ、言ってた場所にいないじゃねぇか」

 

 言った場所に着いたが風太郎の姿が見えない。

 

「なんかびしょ濡れの学生いたけど、大丈夫かな?」

「池に落ちたのかしら?」

「なんかボソボソとホテルやら連れ戻すとか危ない発言してたけど」

 

 すれ違いの通行人からそんな会話が聞こえた。

 

「すみません! その学生どっちにいました?」

 

 俺はその人達にその人物がどの辺りで見掛けたか聞き出してまた走り出す。

 

「あ」

 

 だが、その途中でとある人物に目がとまった。

 そして自然と足も止まる。

 顔が隠れるくらいの大きな白い帽子に白いコート。そして長い髪が印象的。それはどこかあの子を思い出す。

 そして顔はハッキリと見えないがその人物がこっちを向いた気がした。

 

「君は……京都で会ったあの子……なのか?」

「え」

 

 しばしの沈黙。

 そりゃそうだ。いきなりそんな事言われたら戸惑う。

 そもそも目の前の人物がその人だとしてもだ。あの五つ子の誰かという訳だし、今の状況であの頃を思い出すような格好している意図がわからん。

 

「あ、すみません。やっぱ人違いでした」

 

 俺はもう一度風太郎を探そうとその人に頭を下げてまた走り出そうとした。

 

「……そうだよ。五年ぶりだね。長尾誠司君」

「!」

 

 俺の名前を呼ばれ、また足が止まる。

 他人のそら似ではない。

 つまり、五つ子の誰か。

 俺はもう一度彼女に向き合う。

 相変わらず帽子で顔がよく見えない。

 自分が五つ子の誰なのか知られたくないという事なのか? 

 だったらなんで現れた。

 

「なんでこんな時にこんな格好してる? そんな状況じゃないってわかってるだろ!」

「……それは」

 

 五月と二乃の喧嘩に四葉の陸上部の件、期末試験勉強中。

 とにかく色々解決しなきゃならない今の状況で現れた意図はなんだ?

 ふと俺は風太郎の電話を思い出す。もしかしてあんな事を言ったのは目の前の彼女に何か言われたからなのか?

 

「風太郎に会ったのか?」

「……うん」

「何を言った?!」

「え? ちょっと」

 

 俺は彼女に迫るが彼女は俺と距離を取ろうとする。

 

「あいつは君と出会って、君の言葉で変わったんだ。それだけ君の言葉はあいつに響くんだよ!」

「私は、ただ」

 

 たった一日の出会い。その出会いで風太郎は変わった。

 

【な! 誠司は医者になるために勉強してるんだろ? 頭良いんだろ? なら、俺に教えてくれ! 俺も誰かに必要とされる人間になりたいんだ!】

 

 あの日、二人揃って先生にこっぴどく怒られた後、風太郎は俺にそう言ってきた。

 それまでのあいつはガキ大将で勉強なんてくだらねぇと言うくらいだった。なのにたった一人の女の子の出会いでガラッと変わった。

 いや、風太郎だけじゃない。

 

「俺だって、君が……言ってくれたから!」

 

【すごーい。キラキラしてる! わたし、これすき!! すごいね!! きみ!】

【すごい。もう、なりたいものあるんだ。きっと君ならなれるよ!】

 

 頭の中であの時の彼女の言葉が蘇る。

 けど、ふと俺は現実を思い出す。

 俺も彼女の言葉にそれまでも頑張ってきたけど、もっと頑張ろうと思った。

 でも、俺は途中で頑張る事をやめてしまった。

 

「すまない」

「え」

「……君にどうこう言える立場じゃないな」

 

 風太郎はずっと頑張ってきた。でも、俺は違う。

 そうだよ。頑張ってる風太郎が必要とされてないなんてあるわけ無い。

 

「ね、ねぇ」

「幻滅しただろ?」

 

 こんな風になってて。何もかも中途半端で。

 君は、俺を見てさぞガッカリしただろ。

 

「ごめんな」

 

 その後、俺は黙ってその場をあとにした。

 あの子は何か言った気がしたけど、俺の頭はぐちゃぐちゃで結局風太郎を見つける事も出来ず、一花や三玖の所にも戻らず二人には勉強見てやれなくて悪かったと連絡を入れて俺は家に帰った。

 

 その夜、風太郎から電話があった。

 予想通り、彼女に会ったという報告だった。

 

『あいつは零奈と名乗った』

「零奈……ね」

 

 わざわざ違う名前。

 自分が誰なのか明かさないのは何なんだ?

 

『俺に、俺はもう必要とされる人になれてるって』

「!」

 

 彼女はむしろ風太郎を励ます為に現れた?

 だとしたら、俺は彼女に失礼な言葉を言ってしまった。

 

『でも、俺自身はそう思えなかった。俺はあの日から何も変わってない』

 

 彼女の言葉で自信無くしたという訳じゃ無いか。

 むしろこの数日の二乃達と四葉の件で思い知らされたって方が正しいか。

 

「はあぁ……変わってない? そもそもあの下から数えた方が早かったお前が今や学内一位。それだけでも十分変わりすぎだっての」

『……勉強だけだろ』

「いーや、金髪から黒髪に」

『容姿の話は!』

「以前のお前なら姉妹喧嘩なんて勝手にやってろと思ったはずだ」

『!』

 

 いつからか人付き合いがクソ下手になって、誰かと関わろうなんて思わなかっただろう。

 

「いくら試験勉強させる為とはいえ、卒業させればいいだけだろ。今回は赤点で解雇って条件もない訳だし」

『それは』

「なら、どうしてここまで必死になる?」

 

 風太郎、お前はどうしてそんなに必死になって仲直りをさせようとしている?

 

『……』

「風太郎、お前はきちんと変わった。俺と違って良い意味でな」

『誠司?』

 

 おっと、余計な事を言ったな。

 なんか最近の俺はダメダメだ。

 

「そもそも人なんて変わるもんだ。だから、彼女、零奈にまた会った時は胸張って」

『さようならだってさ』

「は?」

『俺に会いに来たのは別れを言う為だったらしい』

 

 励ましに風太郎と会ったのかと思えば別れを告げた?

 彼女の行動の意味がまったくわからない。

 けど、ずっと心の中にいた子に別れを告げられたらそりゃへこむか。

 

「……そうか」

 

 それ以上俺は風太郎に掛ける言葉が見つからず、また明日と言って電話を切った。

 

 

「結局、彼女にとって俺は何でもなかったって事か」

 

 彼女は俺に対して何か言ってくる素振りはなかった。

 いや、そもそも彼女は俺と会う予定じゃなかっただろう。

 偶然会っただけ。昼間の彼女を思い返せば彼女は俺の事を忘れてたんじゃ無いか?

 俺が京都の話を出してようやく思い出したって感じだった。

 

「そりゃそうか」

 

 実際、俺が彼女と過ごしたのはほんの僅かな時間だ。

 

「幻滅しただろ?なんて。そもそも印象に何も残ってなかった」

 

 勝手に自惚れてたのは俺の方だよ。

 風太郎。

 

 




主人公もまた京都で出会っていました。
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