家庭教師と友人A   作:灯火円

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「誠司、体力は必要だな」

「久しぶりに飯一緒になったかと思えば風太郎、疲れてお前らしくない発言が出てるぞ」

 

 いつもの焼き肉定食の焼き肉抜きを頼んだ風太郎だが、あまりにもグッタリしているようだから俺の肉うどんの肉を分けてやる。

 

「んで、キンタローの件は?」

「最悪な形でバレた。そして二乃はもうあのホテルにいない」

 

 だから、キャリーケース引っ張ってたわけか。

 

「四葉の方は?」

 

 その問いにも険しい顔で首を振る。

 

「はぁ……今日は風太郎が一花達見てくれ。四葉と少し話す」

「誠司」

「ま、俺がどうにかできるかも怪しいがな」

「あの、長尾君」

 

 肉抜きうどんを食べようとした時、声を掛けてきたのは五月だった。

 

「昨日は」

「あー、気にすんなよ。でも、これでスッキリしただろ?」

「それは」

「何の話だ?」

 

 話についていけない風太郎は俺と五月を交互に見るもんだから俺はその疑問に答える。

 

「俺が勉強する理由が知りたいって五月がな。ほら、六花絡んでるから暗くなるかなって俺が言うの躊躇ってさ。それで話したら案の定気にしちゃったわけ」

「なるほどな」

「とにかく、謝るの無しな。はい、これでこの話は終わり。五月、今日も勉強見て欲しいなら」

 

 もうこの話は終わりにしようと俺は勉強の話へと移す。

 

「あ、今日は昨日長尾君が出してくれた問題を解こうと思いますので一人でやってみます」

「そうか? わからなくなったら聞いてくれ。もしくは家で風太郎に」

「あー! その話は!」

 

 五月は俺の言葉を遮る。

 そういや、風太郎の家にいるのは姉妹にも言ってなかったか。

 そりゃ、男子生徒の家に寝泊まりしてると聞かれちゃマズいよな。

 

 

 そうして放課後、俺は陸上部の元へと向かったのだが。

 

「今朝も変な乱入者が来たと思ったらまた?」

「長尾さん、大丈夫ですか?」

 

 たく、なんで校庭じゃなくて外走ってんだよ。

 校庭で練習してるかと思ったら外に行ってるから時間が掛かった。

 

「はぁはぁ……部長さんですか?」

 

 息を整え、改めて部長と思わしき人物に向き合う。

 

「うん。何? こっちは二連覇掛かった大事な大会があるの。余計な事で時間取られたくないんだけど」

 

 こっちとしては丁寧に対応しようと思ってたんだが、余計な事と言われて俺はもうそんな気遣いはやめた。

 

「二連覇ね。助っ人入れて取る二連覇に何が意味あんだよ。あれだろ? 結局は自分の経歴に箔がつくから四葉を利用してるだけだろ」

「……利用って。中野さんは了承して入ってくれたの。ね? 中野さん」

「あ、えっと、はい。私がそうしたいと思ったので」

 

 そう四葉は笑って俺に言う。

 笑ってるけど、笑顔じゃない。

 

「一花の方がまだ上手いな」

「はい?」

 

 とりあえず、この笑顔をさせている要因をどうにかするか。

 

「百歩譲って駅伝参加は良い。だが、こいつの大切な時間を奪うな」

「奪ってないけど? 私たちに必要な時間」

「奪ってるだろうが、こいつの勉強する時間を」

「あー、試験勉強ね。あんなの赤点取らなきゃいいだけ」

 

 こいつ、自分だけの事しかやっぱ考えてねえな。

 

「じゃあ、お前。責任取ってくれるか?」

「責任?」

「四葉が赤点を取ったら責任取れよ。少なくとも陸上部の練習で勉強時間は奪われたんだからな。陸上部にペナルティーは必要だろ? そうだな。四葉が本来勉強する時間分の活動は休止してこちらの意見も聞かずに強行した部長には」

 

 段々と目の前にいるやつの顔色が悪くなっていく。

 他の部員も責任やら休止という言葉で動揺し始めている。このままいけば。

 

「な、長尾さん! 私は大丈夫ですから! 勉強もやってます! 出来ますから!」

 

 俺と部長の間に入ってきたかと思えば四葉は俺をそのまま追い返そうと押していく。

 

「あのな!」

「だから、陸上部の人達に責任とか言わないで下さい。私のせいでそんな」

「……四葉?」

「もう、嫌なんです。私のせいで」

 

 その言葉を放つ声は震えていて俺は自分の言動で四葉を困らせた事に気付く。

 

「悪かったな」

「……長尾さん」

 

 これ以上、突っかかれば逆に四葉が困ってしまうかもしれない。

 俺はそこで身を引くことにした。

 

 俺は何も出来ない。

 そう、部外者のやつには何も。

 

 

「結局、頼るしか無いみたいだ」

 

 スマホを取り出し、メッセージを送る。

 

「一度戻って荷物取りに戻らないと……あれって」

 

 俺は学校へと戻ろうと来た道を引き返そうとした時だった。

見覚えのある車に俺は思わず駆けだした。

 

「赤信号。よし!」

 

 車が停まった所で一気に車へと近づく。

 運転席を見ればやっぱりあの人だ。

 

「すみません! 少し良いですか?」

 

 すると運転席側の窓が開く。

 

「これは長尾様」

「江端さん、お願いがあります」

 

 

 その日の夜、一花から通話がきた。

 

『あ、出た』

「なんだよ。出ちゃ悪いか?」

『いやいや、さっき通話中になってたから。メッセージでも良かったんだけど、直接の方が良いと思ってもう一度連絡したの』

「あー、ちょっと連絡がきて出れなかっただけだ。それで?」

 

 俺は空気の入れ換えに窓をあけ、ついでに外に出て空を眺める。

 今日も月がよく見える。

 

『うん。聞き出せたよ。フータロー君にも聞かせた』

「そうか」

『私とフータロー君は明日陸上部の所に行く。三玖には二乃の方をお願いしてる』

「あぁ、悪いな。やっぱり一花達に頼る形になった」

 

 俺は結局、一花や三玖にどうにか四葉達の本音を引き出して欲しいとお願いした。

部外者の俺の前じゃきっと言わないだろうから。

 

『姉妹の事は私たちが解決するのは当然だよ』

「だな」

 

 そう、部外者がしゃしゃり出るもんじゃないんだ。

 

『セージ君はどうする? 私たちと一緒に』

「悪い。朝から予定が入って行けそうに無い」

『あ、そうなんだ』

 

 月に雲が被ってしまい見えなくなってしまった。

 寒くなってきたから俺は窓を閉めて部屋へと戻る。

 

「お兄さんがいなくて寂しい?」

『それ、私の真似?』

「普段やられてる気持ちを味わってもらおうかなと」

『もう』

 

 そんなやり取りに俺は少し笑う。

 そういや最近考え事ばっかりで笑ってなかったかもな。

 

「ま、それが終わり次第合流する。もう試験まで時間ないから追い込むぞ」

『うん、よろしくお願いします。先生』

「んじゃ、切るぞ」

『あ、うん。おやすみ。セージ君』

「おやすみ」

 

 そうして通話を切って俺はカレンダーを見る。

 

「残り二日か」

 

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