「それじゃ、衣装変えて公園の方で撮影になりますので」
「わかりました」
「長尾、移動だ」
「はい」
翌日、俺は朝早くから動いていた。
機材を持ってまだ時間的に人通りの少ない公園に着く。
すると俺の前にコンビニのおにぎりとペットボトルのお茶が現れた。
「モデルさんの準備が終わるまで休んでろ。悪いな。急に」
「良いですよ。予定無かったですし」
おにぎりとペットボトルを受け取るとそれまで忘れていた食欲が音となって反応した。
昨日、中野さんを見送ってすぐ俺のスマホに連絡が入った。
その相手が隣でカメラのレンズを変えている北条さん。
「今年入って来た新人より長尾の方がずっと使えるから助かる」
「今年入ったばかりの人と三年やっている人を比べちゃダメですよ」
北条さんの手伝いは今年で三年目になる。
最初に会ったのは確か中学二年の時。
「勇也に紹介された時はまだ中坊だったもんな。たく、あいつも自分で見てやれば良いのに」
「俺なんかいたら余計な出費出すだけですから」
きっとコンビニのおにぎりとお茶だけでもあの人には痛い出費のはずだから。
「俺なら良いってのか?」
「そういう訳じゃないですって」
勇也さんっていうのは風太郎の親父さんの事だ。
勇也さんはカメラマンをしていて小学校の頃、俺がカメラに興味を示すと俺にカメラを触らせてくれたりしていた。
そして、中学二年の時に北条さんを紹介してくれて現場の手伝いをするようになった。
高校に入ってからは俺が学業優先した事もあってその時間も減ったけれど、こうして今も声を掛けてもらう事がある。
「まだ掛かりそうだし、お前も好きに撮ってろよ。持ってきてるだろ?」
そう言って北条さんの視線は俺の荷物へと向けられていた。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
俺は自分の荷物からカメラを取り出す。
高校祝いだって北条さんが俺にくれた物。普通なら学生が簡単に手に取れるような物じゃないのは俺でもわかったから断ろうとしたけれど。
【これまでのバイト代だ。それに子供は素直に受け取っておくもんだ】
結局、俺はその言葉に甘えてこのカメラをもらった。
そして俺は良さそうな場所を見つけ、カメラを構える。
基本的に俺が撮るのは風景。人を撮る事はあまりしない。頼まれればもちろん撮るが、自分から積極的に撮りたいと思う事があまりない。
「そういえば、あっちは上手くいってるかな」
昨日、北条さんに返事をした直後に風太郎からメールが来た。
『良いアイディアが思いついた。明日、またあいつらの家に行ってくる』
「あんな事あったのによくまた行けるよな。ま、昨日の今日であのぱっつん前髪も変な事はしないと思うけど」
顔と容姿の良いあの五つ子を思い出す。
色々と難がありそうだが、モデルとしてはかなり良いんだろうな。
たとえば、あのベンチに飲み物片手に座ってもらうだけでも良い写真になりそう。
俺はいない人物を想像しながらカメラを構える。
「準備出来ました」
モデルさんの準備が終わったようで俺は構えたカメラを下ろし、また北条さんの手伝いへと向かう。
風太郎side
昨夜、夕飯を食べた五月を送る際に彼女の言葉である事を思いつき、俺は再び中野家を訪れた。
誠司が居てくれたらもっと良かったが、今日はあいつも予定があるから致し方ない。
「本当にまた来たんですね」
家に来て早々に五月から信じられないという視線を向けられた。
そして居間に行くと今日はきちんと全員揃っていた。
だが、何だか昨日と雰囲気が違う。
相変わらず俺によそよそしい二乃だが、なんだかそれとはまた違うような。
俺が好印象を抱いた四葉もなんだか申し訳無さそうに俺を見ていた。
そういや、昨日何があったのかきちんと聞いてなかったな。
それがこの空気と関係しているなら、まずは昨日の事について聞いてみるか。
「あー、すまんが俺はいつの間にか昨日タクシーに乗せられてたんだが、何があった? 二乃が何かをしたってのは誠司から聞いたんだが」
その話題に一番反応したのは二乃。
そして他の姉妹達も彼女に視線を向ける。
「わかってるわよ!」
すると二乃はソファーから立ち上がると俺の方にずんずんと近づいてくる。
まさかまた追い出そうって事じゃないだろうな?
それも今度は力尽くか?
「おい、暴力は」
「ごめんなさい」
「は?」
身構えた俺だったが、目の前には頭を下げる二乃がいた。
「昨日、睡眠薬を飲ませたのよ。あんたに。それはちょっとやり過ぎたわ。だから……悪かった」
「睡眠薬……あー、なるほどな」
それで俺は眠らされてタクシーで家に送られたと。
しかし、睡眠薬か。
「セージ君がだいぶこってり二乃を叱ってくれてね」
「あー、そりゃそうだろうな。てか、よりにもよって誠司の前でやっちまったのか」
「……それってどういう事?」
独り言として言ったつもりが聞こえてたようで一花が俺に聞いてきた。
聞かせるつもりのなかった俺としてはやってしまった。
「悪いが本人がいない所で話すつもりはない」
「……それもそうだね」
あっさりと引き下がってくれて俺も安心した。
正直、口が滑ってしまったのは俺のミスだ。
もし、一花が誠司に聞きに言った場合、誠司からのお怒りは甘んじて受けるしか無い。
「とにかく! お前達が俺に関わりたくないのはよくわかった。そこでだ!」
気持ちを切り替えて俺は昨日白紙のままのテストをもう一度こいつらに突き出す。
「合格ラインを越えた奴には金輪際近づかないと約束しよう。勝手に卒業していってくれ」
そもそも五人全員を相手にするのが間違いだった。
条件は卒業させる事。卒業できるやつの面倒は見ずに赤点候補の奴のみに教えてやればいいんだ。
「……なんでアタシがそんなめんどーなことしなきゃ」
「わかりました。受けましょう」
受けることすら面倒だという二乃の横で動いたのは五月だった。
「五月、あんた本気?」
「合格すればいいんです。これであなたの顔を見なくて済みます」
二乃の言葉に五月は眼鏡を取り出し掛けると俺にそう言い切った。
その五月の一声に他の姉妹も受ける姿勢を見せ俺の作戦通りとなった。
だが、誤算があった。
「すげえ100点だ!」
誠司、すまんがお前にもう少し手伝ってもらうかもしれん。
「全員合わせてな!!」
こんなことがあるのか。
「お前ら……まさか」
「逃げろ!」
その一声で五人全員が自室へと逃げようと掛けだした。
結局、五人全員が赤点候補じゃねえか!!
主人公も色々あったりします。