「これは酷い」
「あんなに勉強したのにこの結果かー」
「改めて私たちって」
「二乃、元気だして」
「あんたは自分の心配しなさいよ」
期末試験の結果が出て互いの結果をテーブルに広げた中野姉妹。
自分達の頭の悪さを痛感するのだった。
「丁度、家庭教師の日だし。今日は期末試験の反省がメインだろうね。て、噂をすれば」
すると中野家のチャイムが響く。それを聞いて五月がオートロックを外しに向かう。
「フータローにしこたま怒られそう」
「だねー。でも、長尾さんが止めてくれるよ」
「なんで嬉しそうなのよ」
怒られるというのに四葉の顔は嬉しそうな事に二乃が指摘するとまた四葉は嬉しそうに笑う。
「結果は残念だけど、またみんなと一緒に頑張れるのが楽しみなんだ」
その言葉に二乃は照れたのか何も言わず顔を紅くしていると五月の「あれ?」という声が聞こえ、姉妹の視線はそちらに向いた。
「お二人じゃありませんでした」
そして中野家に来たのは彼女達も知る江端だった。
「失礼いたします」
幼い頃から彼女達と付き合いがある江端ではあるが、家に来るのはこれが初めてで姉妹も江端の訪問には驚きつつまだ来ない二人を待っていた。
「フータロー君もセージ君も遅いね」
「江端さんはどうしていらしたのですか?」
何か父に頼まれ事で来たのだろうか?と五月は素朴な疑問を江端に投げる。
「本日は臨時家庭教師として参りました」
その言葉に姉妹の視線は江端に向けられる。
「そ、そうなんだ」
「江端さん、元は学校の先生だもんね」
少しだけ動揺を見せる四葉と江端が学校の先生だったことを思い出す一花。
「あいつらサボりか」
「体調でも崩したのかな。でも、フータローもセージも二人ともなんて」
「……お嬢様方にお伝えせねばなりません」
そう言うと江端は「ごほん」とひと呼吸置く。
「長尾誠司様と上杉風太郎様は家庭教師をお辞めになられました」
その言葉に姉妹は揃って「え」と漏らす。
「そこで、新しい家庭教師が見つかるまで私が務めさせていただきます」
「待って待って」
「何かの間違いだよね」
「もー、ズレた冗談やめてよ」
一花と三玖はそう言うが江端は「事実でございます」と告げ、期末試験で二人の契約は解除された事を姉妹に伝えた。
「……もう、来ないの?」
一花はようやく今の状況を理解すると三玖は「嘘……」と呆然と立ち尽くす。
「やっぱり、赤点の条件は生きてたんだ」
「どういうこと?」
二乃の言葉に三玖は説明を求める。
「試験の結果のせいよ。パパに言われたんだわ」
二乃は風太郎に今回は中間試験のような条件はないのかと聞いた際、彼はないと答えていた。
だが、二人が辞めた原因はそれしかないと二乃は考えるが江端は首を振る。
「それは違うと思われます。長尾様は先日の日曜までと長尾様自身から話があったと聞いております。試験の結果は関係ないかと」
「……日曜」
一花をはじめ、姉妹全員があの日のことを思い出す。
七人で勉強漬けとなり、そしてカレーを囲んで食べたあの日。
「そんな素振り」
二乃はそう言うが、自分が彼に向けた言葉を思い出す。
【部外者】
「っ」
自分が放った言葉の重さを二乃が噛みしめている中、姉妹の中には誠司の異変に心辺りがある者もいた。
「上杉様もご自分からお辞めになられたと伺っています」
「長尾さんも上杉さんも自分からって……」
「フータロー、セージ……どうして」
辞める理由までは江端も知らされてはいないようで四葉と三玖の疑問に目を伏せる。
「そんなの納得いきません。二人を呼んで直接話を聞きます」
ならば、本人に聞こうと五月は彼らへと連絡しようとするが、また江端は首を振る。
「申し訳ありませんが、それは叶いません。お二人のこの家への侵入を一切禁ずる。旦那様よりそう承っております」
「わかった。私が行く」
「私も」
二人がこちらに来れないのならばと三玖と一花が彼らに会いに行こうとするが江端が二人の前に立つ。
「臨時とは言え家庭教師の任を受けております。最低限の教育を受けて頂かなければここを通すわけにはいきません」
「っ」
小さい頃から自分達を見てくれた江端にさすがの姉妹達も強行する事はせず、出された答案用紙と向き合う事に。
「これ終わったら行っても良いのよね」
「ええ、ご自由になさってください」
二乃は江端に再度確認し問題へと向き合う。
「あいつらどういうつもりよ」
「私はまだ信じられないよ」
「四葉、それを確認する為にも頑張ろう。誰か終わった?」
「私はもうすぐです」
「私も」
一花の問いに答えたのは期末試験でも姉妹の中で点数が良かった五月と三玖。
「この問題、比較的簡単だよ。江端さんが手心加えてくれてるんだよ」
以前の一花ならそれすらもわからなかっただろう。
「そうね。でも、前の私たちなら危うかった……自分でも不思議なほど問題が解ける。悔しいけど、全部あいつらのおかげだわ」
それは二乃だけでなく、姉妹全員が思っている事だった。
それでもあと一問という所で姉妹の手が止まる。
一刻も早く二人から事情を聞きたい彼女達。すると五月から思いもよらない提案がなされる。
「カンニングペーパー、見ませんか?」
「!」
「それって期末の?」
風太郎がチートアイテムだと姉妹に渡していた例のカンペ。
もちろん期末試験で彼女達誰一人使うことはなかったが、姉妹達は筆入れに入れたまま。
「い、いいのかな」
「有事です。なりふり構ってられません」
四葉の戸惑いに五月はそう言うが、真面目気質の五月の体は拒否反応なのか汗が流れている。
「五月が上杉さんみたい」
「あんた、変わったわね」
そして江端が少し目を離したタイミングで五人はカンペを取り出す。
言い出しっぺである五月がまず開くが、その内容に困惑する。
「これ……どういうことでしょう」
「じゃあ、私の使おう」
そして一花が開くとそこには。
『安易に答えを得ようとは愚か者め』
それは風太郎からのメッセージ。
「なーんだ」
「初めからカンニングさせるつもりなかったじゃない」
「でも……フータローらしい」
しかし、これで策は完全に無くなった姉妹達。だが、一花はそのメッセージに妙な数字がある事に気付く。
「②って」
「私のかしら」
『カンニングする生徒になんて教えられるか→③』
そこで四葉は気付く。
「これ、上杉さんの最後の手紙だよ」
その言葉に三玖も紙を開く。
『これからは自分の手で掴み取れ』
そして四葉もまた風太郎のメッセージを確認する。
『やっと地獄の激務から解放されてせいせいするぜ』
そのメッセージに四葉の表情は歪む。
「やっぱり、辞めたかったんだ」
「私たちが相手だもん。当然と言えば当然だよね」
これが風太郎の本心だったのだと姉妹達は肩を落とす。
最後に五月のが残っているが五月は本当の風太郎のメッセージを口にした。
「だが、そこそこ楽しい地獄だった。じゃあな」
楽しい。その言葉は風太郎だけが感じていたものではない。
「私……まだ上杉さんと長尾さんに教えてもらいたいよ」
「私だって……フータローなしじゃ……もう」
四葉の言葉に三玖も同意する。
「そう言ってもここにはこられないの。どうしようもないわ」
「……」
姉妹達の気持ちを聞いていた一花はある決意をする。
「みんなに……私から提案があるんだけど」
そうして彼女達にある話を持ちかける。
「え」
「それ、本気?」
「うん、ずっと考えてたんだ」
そして五人は立ち上がる。
「おや、どうなされました?」
「江端さんもお願い。協力して」
「!」
江端は幼い頃の彼女達を思い出す。
そして今、自分の前に決意を込めた表情の彼女達を見て微笑む。
「大きくなられましたな」