家庭教師と友人A   作:灯火円

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第8話 クリスマスイブ
8-1


 期末試験の結果が出ておそらく俺達の件はすでに中野姉妹に伝わったであろう。

 しかし、まさか中野家の出入り禁止とは相当怒りを買ったんだろうな。

 娘と同じガキに家庭の事情をとやかく言われたらそうなっても仕方ないけど。

 

「セージ君」

「よう、一花」

 

 登校してきた一花は隣に座る俺をジッと見ていた。

 演じているのかその目が何を宿しているのか俺にはわからなかった。

 

「……悪かったな。勝手して」

 

 俺は先に謝罪をした。

 勝手に家庭教師になって勝手に辞めた。

 それも全部事後承諾。

 何を言われても受け止める覚悟をもって、下げた頭を上げると彼女は笑っていた。

 

「一花?」

「忘れてないよね?」

「ん?」

「プレゼント交換」

「え、あ」

 

 そういや、そんな約束してたな。

 期末試験のあれこれですっかり忘れてた。

 まさか今交換しろとか。

 まだ何も用意していない俺はしどろもどろになってしまう。

 

「あ、その様子だとまだプレゼント用意してないかな? 大丈夫、まだ時間はあるから。でも、ちゃんと選んでね」

「あ、あぁ」 

 

 そう言うと一花はクラスの女子の元に行ってしまった。

 家庭教師の件に一切触れてこなかったのが逆に不気味だ。

 

「しかし……どうするかな」

 

 期末試験の問題よりも難問が待っていた。

 

 

 期末試験が終わればあっという間に終業式。

 その間に中野姉妹からは家庭教師の件に触れる者は誰もいなかった。

 そもそも一花以外は違うクラス。だから、勉強会がないとなると接触はほとんどない。

 その一花すらその件には触れず、他はある意味いつも通り。

 ただ、仕事が忙しいからなのか放課後になるとすぐに帰るようになった。

 そもそも今までは俺達の家庭教師があるから残ってただけだろうからな。

 

「それじゃ、セージ君。またね」

「あぁ」

 

 終業式が終わるといつものように一花はすぐに教室を出て行った。

 いつも通り過ぎて俺もまたいつものように返したけど。

 俺はカバンにしまっていたプレゼントに視線を落とす。

 

「てか、結局プレゼント交換どうなったんだ?」

 

 俺としては今日辺りにやると思って忍ばせていたんだが。

 実は一花の冗談だったとか?

 いや、いくらなんでも金絡んでるしこんな冗談はやらないはず。

 

「あ、長尾君。よかったー。まだ帰ってなくて」

「ん?」

 

 俺が思考を巡らせていると後ろのドアからのぞき込むようにして俺の名前を呼ぶ人がいた。

 それは林間学校の記録係をしていた彼女。

 とりあえず俺はカバンを手にし、彼女の方へと向かう。

 

「えっと、毛利さん」

「やっほ」

「俺に用?」

「あ、そうそう。遅くなってごめんね。これ」

 

 そう言って彼女は俺に封筒を渡してきた。

 それから教室を見回す彼女。

 

「中野さんは帰っちゃった?」

「あー、すぐ帰ったな」

 

 すると毛利さんはわかりやすく肩を落とした。

 

「少し話してみたかったのにな」

「いくらでも機会あるだろ」

「だね。それじゃ、中野さんの分もあるから渡しておいて。あと改めてになるけど、長尾君の写真どれも良かったよ。さすがカメラ持ってるだけあるね。助かっちゃった。ありがとう」

「別にただみんな撮っただけだって」

 

 構図なんてめちゃくちゃだし。

 きっと北条さんに見せたら色々と言われるだろう。

 

「その撮るだけっての私たちが出来なかった訳だからやっぱりすごいよ」

「まぁ、喜んでもらえたならよかった」

「吉川もね。ありがとうって。あっちは部活だから来られないんだ」

 

 吉川、記録係のもう一人。

 確か、卓球部とかだった記憶。

 

「用件はこれだけなんだ。ごめんね。引き止めて。長尾君、良いお年を」

「あぁ、毛利さんも」

 

 そう言って彼女は俺に手を振って待っていた友人達の方へと行ってしまった。

 

「なになに? 長尾君、何を貰ったのかな?」

「あれって毛利だよな。えー、お前ら仲良かったっけ?」

 

 俺の両脇から絡んできたのは浅井と朝倉。

 俺はすぐに貰った封筒をカバンへと入れる。

 

「前にちょっと手助けした時の礼を言われただけ」

「へー」

 

 浅井は何か俺を疑う視線を俺に送る。

 

「毛利も結構人気あるんだぞ。林間学校の時もキャンプファイヤーに誘おうとしてたやつら結構いたみたいでさ」

「あー、そう」

 

 朝倉は朝倉でその毛利さんの情報を色々話始めたけど、俺は聞き流しつつ適当なところでバイトだからと言って離脱した。

 

 すっかり世間はクリスマスムード。

 もちろんケーキ屋である俺のバイト先もクリスマスが稼ぎ時ということもあって店内はクリスマスモード。

 そんな浮かれた店内に険しい顔をした男がいた。

 

「えっと、いらっしゃい、ませ」

「……風太郎、睨み付けんな」

「睨んでねえよ」

 

 目の前には俺をじっと睨んで顔を引きつらせて接客する風太郎がいた。

 家庭教師のバイトが無くなり、俺のバイト先を紹介する事に。

 店長もこれから繁忙期を迎えるから大歓迎と「この時期に一気にあの糞パン屋に差をつける為にも戦力は必要」と悪い顔をしていた。

 うちの店長、なんか向かいのパン屋さんに敵対心強いんだよな。

 

「とりあえず、声だけでも出せれば良いよ。長尾君、しっかりフォローしてあげなよ」

「はーい」

 

 俺が連れてきたからな。俺が責任持って見るのは当然。

 

「ところで、風太郎の方は中野姉妹からなんかあったか?」

「いや、五月とはそもそも教室でほとんど話さないからな」

 

 だとしても三玖辺りは何か風太郎に迫りそうな気もしたが、こちらも特になしか。

 結局こんなもんなのかもな。

 とりあえず俺はバイトの制服に着替える為、裏へと入る。

 

「そういや、さっきのやつ」

 

 更衣室に来て荷物を置く際に渡された物を思い出し、封筒を取り出して封筒の中身を確認する。

 そこにはあのキャンプファイヤーの時に撮った俺と一花の写真が数枚。

 まだ少し前の事なのに懐かしいと思ってしまう。

 そう思うのは彼女との距離感に変化があったからだろうか。

 

「誠司、すまん。聞きたい事がある」

「あ、あぁ。すぐ行く」

 

 俺はカバンにしまい、制服のネクタイを締めて更衣室をあとにした。

 そうして俺の冬休みが始まった。

 

 

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