「予約のケーキがこちらになります」
クリスマスイブ、オープンと同時にケーキを求める人達でずっと店内は賑わっていた。
俺はずっとショーケースの前に張り付き、次から次へと来る人達にケーキを受け渡していた。
去年も経験したが、まさに目まぐるしい忙しさ。と言っても裏の職人さん達の方がもっとだ。
日が昇らないうちからケーキを作り始め、今もずっとひっきりなしで作っている。それに比べたらまだ俺の仕事は楽だとすら思ってしまう。
「あ、雪」
「今年はホワイトクリスマスだね」
店内にいた誰かの声にふと外を見ると結構大粒の雪が降り始めていた。
「誠司、交代だ」
「あ、もうそんな時間か」
いつの間にかもう次の時間の風太郎が来ていた。
俺はオープンから昼まで、風太郎はここから夜までのシフト。
「とりあえず、予約分のリスト。この時間、まだ来ていないのが」
俺は風太郎に引き継ぎをし、まだまだこれからも作業続ける職人さん達に一言お先ですと伝えて店を出る。
「うし、次は」
このまま家に帰ってクリスマス気分とは行かず、俺はこのあと北条さんの所に行くスケジュールになっている。
電車の時刻を確認しつつ、通知が来てないことを確認する。
「結局、連絡ないけど。いや、あっちも忙しいのかもしれないし」
例のプレゼント交換。
クリスマスって話だから連絡来るのを待っていたが、連絡はなく。
俺から連絡しようと文字を打っては消し、打っては消しを繰り返し結局送れず。
「家に……いや、俺出入り禁止だしな」
一応、直前に連絡来るかもと思ってカバンに物は持ってきたが無意味に終わりそうだな。
「いや、まだ明日あるか」
日本じゃイブが盛り上がるが、クリスマスは本来12月25日。
「とりあえず、今日は俺も会えないしな」
北条さんと合流したら、イブに盛り上がる街並みと夜のイルミネーションを撮る話になっているから会う時間はないだろう。
母さんにも前から遅くなるとは話しているが、丁度今日の撮影場所にチキンが美味しいという店があるらしい。そしていつの間にか予約取っていた母さんから帰りに取りに行けという命令が出ている。
「マフラー忘れたのが痛い」
雪の予報は確認していたが、思っていた以上に寒い。
てか、マフラーを普通に忘れた俺がアホなんだけど。
首周りが寒くコートで無理やり首周りを防寒する。
「長尾、こっちだ」
目的の駅に着くとすでに北条さんが待っていた。
俺は北条さんと合流し、とりあえず近くのコーヒーチェーン店に入った。
「それにしても急にイブの日の街並みなんて。大変ですね」
北条さんから連絡が来たのは一週間前。
『イブ、暇なら俺の撮影に来ないか?』
夕方からは暇だったし、一花からの連絡もなく俺は北条さんの誘いを受けた。
「元々は事前に撮ってたもので特集組む予定だったんだと。けど、24日と25日限定でイルミネーション変わるって話でな。どうしてもその写真は欲しいらしい。お前が暇ならと思ってな。お前、街並み撮るの好きだろ?」
北条さんは俺がどういった写真を撮るのが好きなのかよく知っている。
人物よりも風景、特に日常を切り取ったようなのが好きだ。
「しかし、高校生だってのに彼女いないってお前」
「そんな青春送れてる学生なんてほんの一握りだと思いますけど?」
実際、俺の周りのやつらはバイトかもしくは推している人のライブやイベントとかそれぞれの青春を送っている。
「ま、好きな事をやるのも青春だな。そろそろ行くか」
「はい」
体が温まった所で俺と北条さんはまた寒空の下へと出る。
クリスマスイブ、イルミネーション、そしてこの雪だ。
まさに理想の日に自然と人々は街に繰り出してしまうらしく賑わいを見せている。
イルミネーションの時間までは俺も好き勝手に写真を撮らせてもらいながら北条さんに撮った写真を見せつつアドバイスをもらう。
「お前、やっぱこういうのは上手いよな。人撮るのは下手だけど」
「別に人撮りたいって思わないんで」
「はいはい。と、そろそろだな」
点灯すれば一気に人だかりになるのを予想して俺達は良い場所を確保へと向かう。そして予定時刻通りに限定イルミネーションが灯る。
そこから一気に北条さんは仕事の顔になる。
まずはイルミネーション単体で近くからいくつか撮っていく。
俺はその横で見つつ、俺も何枚かカメラに収める。
「あとは、賑わっているところを撮ればいいだろ。少し場所を後ろにするぞ」
「はい」
イルミネーションから少し距離を取り、今度は賑わう人々も被写体に含まれる。
「もうちょい、こうな」
北条さんは何かイメージを膨らませている様子。
この仕事、もちろん写真を撮る技術も大事だが、想像力というのも重要である事を俺は北条さんと付き合うようになってから知った。
言葉も動きもない一枚の写真。そこに何かを描いていく為に頭の中で想像しなければいけない。
人を被写体にする時もこれが必要な場面がある。
写る被写体が何を伝えようとしているのか。
「……北条さん、俺なにかコンビニで飲み物買ってきますよ。何が良いです?」
「あ、悪いな。ならコーヒーで頼む」
「はい」
俺は北条さんの邪魔をしない為にも少しその場を離れ、コンビニへと向かった。
そして少し離れたコンビニへと行き、頼まれたコーヒーと俺は温かいお茶を手に取り会計をすませて北条さんの元へ。
「うわっ」
その途中、積もった雪に足を取られバランスを崩す。なんとかこけずに耐えたが、持っていた俺のお茶は手から離れた。
「あっぶね」
俺は雪に落ちたそれを拾うとしたが、その前に長く綺麗な手が拾ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
その人に俺を言おうと顔を上げるとそこには。
「こんばんは。セージ君」
ずっと雲で覆われていたはずなのに、雲の僅かな隙間から月が見えた。
まるで彼女を照らすように現れたかのように。
その彼女は中野一花。