「あ、悪いけど俺は帰るからな。とりあえずチキンは皆で食べろ」
「ちょっと! 今は一緒にケーキとチキン食べる流れでしょうが!」
俺は彼女達と別方向へと歩きだそうとしたが、二乃に掴まれる。
「そもそも、俺は今日用事済ませたらチキン持って帰る予定だったわけ。家にはチキンを待つ母親が待ってる」
「……なら、呼ぶ?」
「は?」
すると一花はスマホを取り出すとどこかへと連絡を入れていた。
「はい、そうなんです。だから良かったら。家狭いんですけど」
「おい、まさか」
「え、でも……はい。はい。すみません。あ、そう伝えておきます。失礼します」
そうして一花は通話を切るとニッコリと俺に笑顔を向ける。
「お母さん、らいはちゃんにお誘い受けててフータロー君の家行くって。だからそっちは好きにしなさいって。ただし、健全な」
「なんで母さんの連絡先を知ってる!」
もはや、母さんの状況は俺としてはどうでもよかった。
「さっき家、訪ねたら交換しようって。知ってた方が都合良いからって」
「あんの」
俺はうなだれていると俺のスマホに通知が入る。開くと母さんから。
『健闘を祈る』
「なにがだよ……はぁ、とりあえずお前ら中入れ。風邪引くだろ」
俺はもう諦めて風太郎と一緒に中野家でクリスマスイブを過ごす事にした。
「長尾君」
「ん?」
「少し、良いですか? すぐに終わりますから」
五月は真剣な目で俺を見ていた。
「……わかった」
他の姉妹と風太郎が新居へと入ったのを確認し、俺と五月はもう一度川沿いに来ていた。
「ごめんなさい」
少しの沈黙のあと、聞こえたのは謝罪だった。
「私は、長尾君が踏み込んで欲しくない事に触れてしまいました。それであなたに嫌な想いをさせてしまった」
「あのさ。その件に関しては良いって言っただろ?」
おそらく妹の件と俺が勉強する理由についての件だろうが、その両方共一度終わってるはずなんだがな。
なのに改めて謝罪って。
ふとある考えが浮かぶ。
「……もしかして、それで俺が家庭教師辞めた理由とでも?」
「!」
図星かよ。
まぁ、あの期末試験期間、父親の件や零奈の件とかもあって心理状態はあまりよくはなかったのは自覚しているがこんな勘違いされてるとはな。
正直、五月が俺に聞いてきた事に関してはそこまで気にする事じゃないんだよな。
「俺が辞めようと思ったのは風太郎と同じ理由。お前らの結果を出せなかったのとまぁ、部外者ってのを自覚したってあれだ。あ、でも部外者の件は二乃が悪いって訳じゃ無いからな。完全に俺の思考がネガティブになってただけ」
「でも、そのネガティブの原因を」
「作ってないから。五月のせいじゃない。ま、謝って気が済むならその謝罪を受け取っておく」
「長尾君」
「はい、それじゃ、五月も家は入れ。風邪引かれた方がむしろ怒るぞ」
俺が風邪に対して何かしらのトラウマがあるのは五月も林間学校の件で察しているからか俺の言葉に素直に家へと入っていった。
その後、チキンを食べてケーキは七等分という難問に風太郎は数学の知識を活用して分けようとするが。
「うっさいわね。ほら」
二乃がスマホの何かのアプリで七等分にする。
「……機械に頼って自分の頭で考えないとは」
「うだうだ言って時間かけるより良いと思うがな」
そうして七等分のケーキを頂いて俺達は中野家をあとにする。
「さっむ」
「お前、マフラーしてないのか?」
「家出る時、忘れた。カメラとかの方の忘れ物ないかそっちに気を取られてた」
母さんを迎えに風太郎と一緒に上杉家へと向かうけど、すっかり冷え込んでいる夜道はさすがに冷える。
「ん?」
スマホが震え確かめると一花からだ。
『忘れ物。届けに行くから』
そう書かれてあって次に近くのコンビニで待っててと来た。
「風太郎、先行っててくれ。すぐ追いつくから」
「ん? おう」
俺は来た道を戻り、そのコンビニへと向かう。
てか、忘れ物ってなんだ?
全部持ってきたつもりだったけど。
「あ、きたきた」
「悪いな。俺、何忘れてた?」
「あー、セージ君の忘れ物じゃないよ」
「え?」
そう言うと一花は持っていた紙袋を俺に渡した。
「クリスマスプレゼントを届けに来たよ」
「……あ、プレゼント交換」
一瞬思考が止まったが、一花の言葉と渡されたそれで俺は思い出す。
「そうそう。あ、セージ君はいいよ。ほら、今日は急だったし」
「あ、待て。俺も持ってるから」
俺は急いでカバンから小さな包みを出す。
「どうして」
まさか持っていると思っていなかったらしく珍しく驚いた一花の表情が見えた。
「いや、連絡なかったけど一応クリスマスのプレゼント交換って話だったからさ……約束だったろ」
何かからかわれそうだなと思って身構えるが、一花の表情が緩むのを見て俺の表情も思わず緩むがそれを隠すように口元に手をあてた。
「ねぇ、今開けて良い?」
「え、今かよ」
「プレゼント交換ってそういう物じゃ無い? その場で開いてわーって」
「なら、俺も開けるぞ?」
一花はどうぞどうぞと余裕の表情。
そして俺達はせーので互いのプレゼントを確認する事に。
コンビニの駐車場の隅の一角で何やってんだがと思いつつも互いに「せーの」の言葉でプレゼントを開ける。
「ピアス」
一花が受け取った小さな包みから出てきたのは花の形をし、淡いイエローの石がはめ込まれたピアス。
「マフラー、これって」
そして俺の方は落ち着いた紺色のマフラー。それもこのプレゼント交換を提案された日に立ち寄った店で俺が良いなと思った物。
「一花、お前まさかあの時に」
ふと、あの日店へと戻って出てきた一花の手に増えていた物を思い出す。
もしかしてあの時にもう買ってた?
俺は確認するように一花を見るとまるでイタズラがバレたような表情を浮かべていた。
「あはは、うん。君への感謝のプレゼントと思って買ってたんだけどね。君も同じ事考えててプレゼント私にしようとしてくれてるって知って。それならこうしてお互い交換するって形の方が気持ちいいかなって」
一花もあの時、俺と同じ考えだったわけか。
「えっと、ありがとうな」
「どういたしまして。それより君はピアスにしたんだね」
一花はもう一度、ピアスへと視線を落とす。
「色々と考えたんだが、ふと見てた店でなんか一花ぽいって思ってな。花とか安直で悪いな。あー、無理につけることないから」
形見のピアスという絶対的特別な物には敵わないだろうからな。
「俺の自己満で悪いな」
正直、使えない物をプレゼントに渡してどうすんだよって俺も思う。本当に完全に俺の自己満。
「ううん。嬉しい」
それでも一花はまるで子供が宝物を握りしめるように大事にそれを握っていた。
そんな風にされるとなんか照れくさいぞ。
「あー、しかし、一花のはナイスだな。丁度今日はマフラー忘れて出て来たから」
俺はマフラーを巻く、さっきまで寒かったのに今は熱いくらい。
熱くて思わず髪をかき上げる。
「ふふ。それじゃ、これからもよろしくね」
「あ、あぁ」
こうして思わぬ形で俺はクリスマスイブを過ごしたのだった。