家庭教師と友人A   作:灯火円

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第9話 冬休み
9-1


「明けましておめでとうございます」

 

 年が明け、俺は昨日から父さんの実家へと泊まっていた。

 毎年大晦日は母さんと一緒にそうしている。

 

「誠司も今年で三年生か。進路はどうするんだ?」

「うーん、いくつか大学は絞ってはいるかな」

 

 元旦のテレビを見ていると祖父ちゃんに聞かれて俺はそう答えた。

 自分の偏差値で入れそうな所は少しずつ調べてはいる。

 

「大学か。カメラの方は良いのか? 好きだろ?」

 

 泊まりのカバンと一緒に持ってきたカメラに祖父ちゃんは視線を移す。

 

「好きだけど」

「プロの人の手伝いをしてるんだろ?」

「手伝いだけだよ」

「お父さん、あんまり誠司を困らせないの。好きな事と仕事は別でしょう」

 

 そこに祖母ちゃんが母さんと共に雑煮を持って現れた。

 

「すぐに決めなくても良いし、大学行っている間に変わるかもしれないし。誠司のやりたいようにしなさい」

 

 雑煮を母さんから受け取るとそう母さんは言ってくれた。

 

「けど、大学卒業したら就職はしなさいよ」

「へいへい」

 

 そうして昼過ぎまでダラダラし、俺と母さんは父さんの実家をあとにする。

 その帰りに初詣に来た訳だが。

 

「上杉。あけおめ」

「おー、お前らも来てたのか」

 

 神社で上杉家と遭遇、母さんと勇也さんはそのまま酒飲みへと行ってしまった。

 

「誠司くん、明けましておめでとうございます」

「らいはちゃん、明けましておめでとうございます。はい、お年玉」

「今年も良いんですか?」

「良いの。良いの。バイトしてるし……風太郎、その手はなんだ?」

 

 高校生になってバイトを始めた年かららいはちゃんにもお年玉をあげるようにしている。

 そしてその兄は俺に両手を差し出している。

 

「お年玉」

「やるかアホ」

 

 その手を払う。なぜ同い年のお前にやらねばならんのだ。

 

「あ、誠司くんはおみくじやった? 私はね。大吉だったよ」

「おー、幸先いいな。俺も……ん?」

 

 初詣で賑わう神社、その中で仲良く振り袖を着た五人がいた。

 そして五人の視線はこっちに向く。

 

「なんでいつもあんた達がいんのよ!」

 

 二乃は相変わらずだが、新年早々文句言われる筋合いはなんだが。

 

「上杉さん、らいはちゃんに長尾さんも! よかったらうちに寄っていきませんか?」

 

 四葉の提案に風太郎は断ろうとするが、らいはちゃんが行きたがったが為に俺達は中野家へと向かう話になった。

 

「あ、その前にせっかくだ。らいはちゃんも」

 

 俺は持っていたカメラを構える。

 

「長尾さんが撮ってくれるんですか!」

「なんで、あいつに」

「良いから二乃」

「せっかくですしね」

「それに、セージ君結構良い写真撮るんだよ」

「誠司くん、ありがとう! お兄ちゃんも」

「俺は」

「はいはい。混んでるから早くしろ」

 

 わちゃわちゃしつつも中野姉妹と上杉兄妹が並ぶ。

 こう並ぶとやっぱモデルとして良いんだよな。中野姉妹。

 

「それじゃ、撮るぞ。はい、チーズ」

 

 定番のかけ声で俺はシャッターを切る。

 

「こんな感じだ」

「良い感じです!」

「セージ、ありがとう」

「一名、顔が恐いけどね。少しは笑いなさいよ」

「楽しくもないのに笑えるか」

「お兄ちゃん!」

 

 撮った写真を褒められて俺は少し照れくさく感じ、適当に視線をそらすと五月が何か言いたそうに俺を見ていた。

 

「五月?」

「長尾君も入りましょうよ」

「え、あー、俺は」

「すみませーん! 写真撮ってもらっていいですか?」

 

 五月の言葉に断ろうとしたが、一花は近くにいた家族連れに声を掛けていた。

 行動が早いんだよ。

 

「だから、俺は」

「もう頼んじゃいましたー。シャッター切るだけで良いの?」

 

 頼んでおいてやっぱり良いですってのは失礼だもんな。

 俺は諦めてカメラを家族連れのお父さんに渡し、軽くカメラの説明をして戻る。

 

「そんな隅っこいかない」

「そうですよ」

「お、おい」

 

 一花と五月に引っ張られ俺は二人の間に入れられた。

 

「それじゃ、撮ります」

 

 そして写真を撮られた訳だが。

 

「あんたももうちょっと笑いなさいよ」

「風太郎よりはマシだろ」

 

 俺は撮られるのには慣れてないんだよ。

 

 そうして中野家へとお邪魔する事になったんだが。

 

「キスしました」

「ロマンチックだわ」

「録画しておいてよかったね」

 

 帰ってきて振り袖から私服へと着替えたかと思えば早々にこたつに入り、録画しておいたドラマに釘付けの五月と二乃と付き合いで一緒に見ている四葉。

 

「なんの為に呼ばれたんだ。帰るぞ」

「確かに居座る理由もないしな」

 

 風太郎の意見に同意して俺も帰ろうと振り返ると一花と三玖がいた。

 

「まぁまぁ、お正月くらいゆっくり過ごそうよ」

「おせち作ったけど食べる?」

「!」

 

 その三玖の言葉に風太郎の表情が曇る。

 なんかどす黒いオーラ放っているおせち見たらそういう反応にもなるか。

 そんな風太郎と同じようにどこか表情に戸惑いを見せているらいはちゃんがいた。

 

「らいはちゃん、どうした?」

「えっと、私勘違いしてたみたい。中野さんのお宅はお金持ちって聞いてたから」

 

 俺が聞くとらいはちゃんは少し遠慮がちにそう言った。

 いや、間違っていないのだけど、小学生に説明するには色々複雑というかこうなった原因に自分の兄が関わっているとなると中野姉妹も正直に話す訳にもいかず。とりあえず適当にそこは誤魔化した。

 そして現在、必要な物から揃えているという。しかし、どう考えても生活厳しいだろうな。

 

「お前ら、本当に大丈夫か?」

 

 あの風太郎もさすがに心配なのかそう声を掛けながら床に腰を下ろす。

 

「なんでそこに座るのよ」

「?」

 

 そんな風太郎を止める二乃。そして炬燵の布団をめくる。

 

「寒いでしょ。炬燵入んなさい」

「……じゃ、らいはが」

 

 さすが妹大好き。

 てか、二乃のその行動は意外だな。

 以前までは俺達が家に出入りするだけでも嫌がっていたのに。

 これもあの期末試験の一件が良くも悪くも変化を与えたってわけか。

 けど、ニ乃だけでなくそこから他の姉妹の動きが怪しくなってくる。

 

「ほらほら、遠慮しない。そうだ。マッサージしてあげようか? お疲れでしょ」

 

 風太郎を炬燵に入れようとしたかと思えば一花はマッサージをすると言い出す。

 

「一花だけずるい」

 

 そうなると三玖ももちろん反応するわけで。

 

「早い者勝ちだよ」

「じゃあ腕取った!」

 

 さらに三玖だけでなく四葉も参加。そしてまさかの二乃と五月までも加わって風太郎は五つ子にマッサージというか拘束をされていた。

 

「誠司くん、これってもしかして。お兄ちゃんのモテ期?」

「さぁ?」

 

 これはモテ期と言っていいのか?

 

「次はセージ君だからね」

「は?」

 

 一花はそう言って俺へと詰め寄ってくる。

 

「ちょ、なに? お前らなんかおかしいぞ」

 

 風太郎だけじゃなく俺にまで。

 さすがの俺も後ずさりする。

 

「な、なんでもないですよ」

「日頃の感謝なだけだよ」

 

 四葉と三玖は明らかに何か誤魔化している。

 

「いつもお疲れ様」

 

 二乃、お前からそんな言葉が出るのは絶対おかしい。

 

「私のですが、よければ食べて下さい」

 

 誰よりも食べるのが好きな五月がそんな事するのはおかしい。

 てか、ひとつしかねえじゃん。

 

「風太郎、やる」

「あ?」

 

 俺は風太郎に五月がくれたスイーツを渡す。

 

「お正月らしく福笑いはどうですか? 五つ子バージョンを作りました」

 

 それぞれのパーツが五個ずつ。難易度高くない?

 

「やっぱ、お前らおかし」

「二人にね。渡したいものが」

「ん?」

 

 三玖がそう言いかけたが、他の姉妹達がそれを止めいつの間にか隣の部屋へと行ってしまった。

 

「誠司、どう思う?」

「とりあえず、何かあるのは確かだ。しかし、こっちから問い詰めてもな」

「お兄ちゃん、誠司くん。せっかくだから福笑いやろうよ」

 

 考えても答えはわからない。

 五つ子が戻ってくるまでらいはちゃんと遊ぶか。

 そうして福笑いを始めた俺達なのだが。

 

「目は特徴ある。口はまったくわからん」

「誠司、俺には目も同じに見える」

 

 福笑いとは本来、目隠しをして顔を作るという遊びなのだが五人分の顔のパーツにいつしか俺達はどれが誰の物かを当てるゲームへと変わっていた。

 

「これ、五月さんかな?」

「うーん、一花な気もするが」

「いや、三玖じゃないか?」

 

 そもそもそんなじっくり人の顔見ないしな。

 

「ごめん。待たせちゃって。フータロー君、セージ君」

 

 すると五つ子が戻ってきた。

 

「誠司、ここは実物を見て確認だ」

「うわ、風太郎押すなよ」

 

 俺は風太郎に押され、丁度一番前にいた一花の前に。

 俺の視線は思わず唇へと向いた。

 やっぱ人に見られる仕事してるからか普段から潤い?ていうかケアしてんだろうな。

 

「え、な」

「あ」

 

 ふと、俺はこの状況を理解する。

 俺と一花の視線が交わる。それも今までで一番近い距離で。

 

「っ! 悪い!」

 

 俺はバッと顔を離す。

 至近距離で女性の顔を見るとか失礼すぎた。

 慌てて一花と距離を取り、そしてこんな事になった原因の元へ。

 

「てか、風太郎も確認しやがれ!」

「うあ」

「へ」

 

 お前も恥ずかしい思いをしやがれと三玖へのアシストを込めて風太郎の背中を蹴り、三玖の方へと追いやった。

 

「え、え?」

「ふ、良いだろう。三玖、動くな」

「フ、フータロー?!」

 

 てか、お前は恥ずかしいとか思わないのかよ。

 迷いもなく三玖の唇を凝視する風太郎。

 三玖はパニックを越えたのか固まっている。

 

「やはり! これが三玖だ!」

「えー、本当に?」

 

 唇を確認すると風太郎はまた福笑いへと集中する。

 チラリと三玖を見ると力が抜けたのか床にへたり込んでいた。

 

「わー、遊んでくれてるんですね」

 

 福笑いに気付いた四葉が風太郎達の元へと駆け寄る。

 

「四葉、これはどうだ?」

「えー、どれどれ」

 

 四葉は正解かどうか確認するのだが。

 

「あ、上杉さん。クリーム付いてますよ」

「!」

 

 風太郎の口元から少しずれた所に先ほど五月からもらったスイーツのクリームが付いてたようで四葉はそれを自分の口で舐め取った。

 まさかの光景に姉妹はもちろん俺も驚く。

 そんな反応の俺達を見て四葉も自分がした行動に気付く。

 

「あ、今のほっぺにチューが家庭教師のお礼ということで」

「??」

 

 風太郎も頬を抑え珍しく動揺している。

 てか、家庭教師のお礼ってなんだ?

 

「あ、そうなると長尾さんにも」

「いや、とりあえず俺はいい。てか、なんだ? 家庭教師のお礼って」

「それは、今の私たちでは十分な報酬を差し上げられない状況でして。せめてもと」

 

 五月の説明で俺はようやく不可解な姉妹達の行動の理由を理解した。

 つまり、これまで中野姉妹の親父さんもとい中野先生が給料を払っていたが、今は五つ子が俺達を雇っているわけだ。

 しかし、現状家庭教師の報酬を払えないからその代わり何かでって事か。

 俺としては別に良いんだけどな。

 

「なんだよ。そういうことは早く言え。俺がやりたくてやってるんだ。給料の事なら気にすんな」

「そうそう。俺も風太郎と一緒だから」

「出世払いで結構だ」

 

 ん?

 少し前に聞いた言葉だな。

 

「その代わり! ちゃんと書いとけよ! 一人一日五千円! 一円たりともまけねえからな!」

「……風太郎だもんな。うん、そうだよな」

 

 男気見せるわけないか。

 いや、風太郎にとっては大事な事だからな。

 

「あー、俺は良いからな? ま、友達との勉強会の延長線だと思ってくれ」

「誠司、こういう事はしっかりしとかないとダメだぞ」

「風太郎、お前は黙ってろ」

 

 そんなやり取りのあと、もう少しだけ福笑いを堪能し俺達は中野家をあとにする事に。

 

「んじゃ、俺達は帰るぞ。課題しっかりやれよ」

「お邪魔しました。楽しかったです」

「あのやっぱり」

「あ?」

 

 上着を羽織り、マフラーを巻いていると五月がコソッと俺に声を掛けてきた。

 

「家庭教師の……その」

「良いって。俺は金の為に元々やってた訳じゃないし」

 

 風太郎に頼まれて始めた時も給料もらうつもりなかったし、今は俺が楽しいからやってるだけだしな。

 

「ですが」

「あんましつこいと家庭教師辞めるぞ」

「それは!」

 

 五月は慌てたのか俺の上着の裾を掴んだ。

 

「冗談だよ。とにかくそういう訳だから、気にするなよ」

 

 それでも五月は申し訳無さそうな表情のまま。

 

「そうだな。なら、今度たこ焼き奢ってくれ」

 

 五人でひとつ買うなら一人、二百円もいかないだろう。

 

「それは報酬では」

「セージ君がそう言ってるならそうしようよ。五月ちゃん」

 

 引こうとしない五月に言い聞かせたのは一花だった。

 相変わらず、助け船を出してくれる。

 

「タダより恐い物はないとはいうけど、タダじゃないし。それに逆にセージ君困らせちゃうよ? それは五月ちゃんも望んでいないよね」

「……わかりました」

 

 さすが姉妹、扱いをよく理解している。

 

「とにかく、あんま俺の事に関しては気にすんなよ。けど、ありがとうな」

 

 俺は五月の頭を撫でると「らいはちゃんに挨拶してきます」と言って先に外へと出たらいはちゃんを追っていった。

 

「うーん、セージ君って最近女の子の扱い方慣れてきた?」

「女の子というか中野姉妹限定だけどな」

「え」

「そりゃ、学校の放課後やそれ以外でも会ってるんだから、距離感近くなるだろ。あ、馴れ馴れしすぎたか?」

 

 中野姉妹との距離感が近くなっているのは俺も自覚している。だからなのか褒める感覚で撫でるのにも以前ほど抵抗はなくなっている。

 

「え、あー、時と場合、かな」

「難易度高いな」

「まぁまぁ、それよりさ」

 

 すると一花は俺の首元へと手を伸す。

 

「使ってくれてるんだ」

 

 俺のマフラーに触れて緩くなっていたのをしっかり巻き直す一花。

 

「そりゃ、この時期には大活躍だからな。てか、そっちもだろ」

「あ、気付いた?」

「隠してねえから気付くって」

 

 母親の形見のピアスをしている方とは逆の耳には淡いイエローの花の形をしたピアスがついていた。

 

「無理につけなくてもいいぞ」

「別に無理してないよ。片方はまだ譲れないけどね」

「まだって。それじゃ、いつかは両耳でつけてくれるのか?」

 

 ま、そんな日は来ないだろうけど。

 

「誠司、まだか?」

「おう、今行く」

 

 玄関から風太郎が顔を覗かせる。

 

「んじゃ、またな」

 

 そうして俺は中野家をあとにする。

 

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