家庭教師と友人A   作:灯火円

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第2話 友人Aから家庭教師へ
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 一週間の始まりとなる月曜。

 休みを挟むと話題は盛り沢山なのか朝から教室は賑やかだ。

 

「おーす、長尾」

「よう、浅井」

 

 教室に入ると扉近くの席の浅井が挨拶してきてそれに返事をして俺は自分の席へと行く。

 隣の席はまだ来ていない様子で身構えていた俺は少し力が抜けた。

 身構える理由としては俺が彼女の家に行った事と俺の家で一緒に夕飯を食べた件が大きく要因している。

 これまで何度もからかうような言動をしてきた彼女だ。

あえて誤解するような言い回しで俺に話しを振ってくる可能性がある。

それを周りの奴らに聞かれたら彼女だけ囲んでいた状況が俺にまで飛び火する。

それだけは避けたい。俺はそんな目立つことは極力避けたい。

 だから、俺はその時のための対処方法を何通りか考えて今日登校してきた訳だ。

 しかし、まだ彼女は登校してきていない様子。

 

「てか、まさか彼女、いや全員がアレだとはな」

 

 スマホを手に取り風太郎から届いたメールを開く。

 一昨日、風太郎が秘策を持って彼女達の家に訪問した。

 その秘策とはテストを受けさせ、合格ラインに達した者は風太郎も関わらないという家庭教師を拒否する彼女達の考えを逆手に取った作戦。

家庭教師の条件は彼女達を卒業させる事、問題ありの人物だけ家庭教師すれば良いと風太郎も考えた訳だ。

 しかし、結果は誰一人その合格ラインに達していなかった。 

 

「五人全員か……ま、自分の勉強にさらに五人の家庭教師は厳しいもんな」

 

 さすがの風太郎も五人全員を一人で見るのは無理だと思ったらしく俺に手伝って欲しいと応援を要請してきた。

 とりあえず、この事については直接風太郎と話す事にしたけど。

 

「風太郎がギリギリに登校なんて珍しい」

 

 数十分前に来た風太郎からのメールには『すまん。学校着くのがギリギリだ』という内容だった。

 

「あ、中野さん。おはよう」

「おっはー」

「!」

 

 その声に俺は緩んでいた気持ちにまた緊張感が走る。

 声を掛けてくるクラスメイトに笑顔で挨拶しながら自分の席へ来る。

そして席に着くと俺の方を向く。

 

「セージ君、おっはー」

「あぁ、おはよ」

 

 とりあえず、俺も挨拶を交わすが俺は警戒しながら彼女の言動に注視する。

 

「あのさ。セージ君」

 

 来るか。

 俺はスマホから視線を彼女へと移す。

 

「……どうした?」

 

 きっと悪戯な笑みを向けているのだろうと思っていたのだけど、彼女の顔は真剣なものだった。

 

「あ、えっと、そう! なんとかの戦いで毛利?が破った武将って誰?」

「は?」

 

 真剣な顔するから何を言うのかと思えば。

 

「なんとかの戦いじゃわからんが、それって風太郎のテストの問一のやつだろ」

 

 俺も風太郎のテストを解いたからわかったが、虫食い状態で出すとかどこぞのクイズ番組か高校生クイズかよ。

 

「そう! さっきフータロー君に会って急に問題出されたの」

「んで? 答えられなかったと。復習しないのかよ」

「すると思う?」

「してたら家庭教師なんて頼まないか」

 

 なんか拍子抜けした。

警戒しすぎたか。てか、彼女に対して変な認識を持ってしまった自分に反省。

 

「答えは陶晴賢」

「ふーん」

「聞いてきてその反応はないだろ」

「あ、ごめんごめん。ありがとう」

 

 少しは勉強する意欲が出たかと思ったけどそうでもなさそうだ。

 だったらなんでこんな質問するんだよ。

 その後、彼女は俺が家に行った事も彼女が俺の家で飯を食った事を話すことはなかった。

 彼女としても俺と変な噂が立つのは嫌なのかもな。

 そうして昼休みを迎え、とりあえず俺は風太郎と合流する事に。

 

「俺はあいつらに嫌われている」

「……無理矢理勉強させる相手を好きにはならんな」

 

 家庭教師の件の相談のはずだが風太郎は自分への好感度について言ってきた。

 

「つまり、一人ずつ信頼関係を築くところからスタートだ。これは俺のもっとも苦手な分野だ」

「だろうな。それが原因で好感度がマイナスになったからな」

 

 五月さんの一件が無ければここまで大変ではなかったはず。

 

「んで、俺にそこを補う為に手伝ってほしいと」

「さすが! 話が早いな!」

「言っておくが、あまり期待するなよ」

 

 風太郎ほどひどくはないが、だからといって俺も上手くやれる自信はあまり持ち合わせていない。

 実際、この間の件で俺は少なくとも好意的な相手ではないはず。

 

「けど、五月と一花からすでにお前は信頼を得ている」

「そうかー?」

 

 五月さんはまぁ、風太郎のお詫びとして勉強見た経緯がある。

中野さんは席が隣だからな。

 

「俺のバイト代からお前の分出す。だから」

「バイト代はお前の懐に納めろ。それに勉強の場につかせるってやつはまだ果たせてないからな。とりあえず五月さんはしばらく俺が見よう」

 

 現状、五月さんとあの二乃ってぱっつん前髪が風太郎にとって手強そうだからな。

 五月さんならまだ俺もどうにか間に入れる。

 

「誠司……」

「けど、一応依頼主の親父さんには許可もらっておけ。家庭教師以外の男が家に出入りする可能性あるわけだし契約違反で風太郎が減額ってなるなら手伝わない」

 

 あくまでも家庭教師として雇われたのは風太郎。

 部外者の俺が勝手に加わる訳にはいかないから依頼主の許可降りてからだ。

 

「わかった」

「んじゃ、学食行くぞ」

 

 話しは済んだところで俺達は学食へと向かう。

 

「あ、誠司。三玖を見掛けたら教えてくれ」

「ん? 良いけど何で?」

「ちょっと聞きたい事があってな。誠司、コレを見てくれ」

 

 そう言って風太郎から渡されたのは先日風太郎が中野姉妹に出したテストの回答率をまとめたもの。

 

「俺は今朝、あの五人に問一の問題を出した」

 

 あー、彼女が言ってたやつか。

 

「そしたら全員答える事が出来なかった」

「それが……ん?」

 

 俺はチラリと問一の回答率を見ると唯一ひとりだけ正解している人物がいた。

 

「おかしいんだよ」

「家庭教師を拒否するならそこで自分は出来ますアピールをした方が得策だとは思うが」

 

 答える気がなかった可能性は否めないが、その理由は本人しか持っていない。

その答えを知りたい為、風太郎は三玖さんを探している訳か。

 

「しかし、この回答……」

 

 俺は再度見てある事に気付く。

 全員どの教科も赤点ではある。けど、赤点の中でもそれぞれ得意な教科はありそうだ。

 五人それぞれの傾向が見える。

 てか、正解した問題被ってないのか。

 五つ子だから被るのかと思ったがそうでもないのか。

 けど、これはこれで五人それぞれに苦手と得意がバラバラだからさらに教えるのは大変そうだ。

 

「と、言ってるそばから。おら、行け」

「うお」

 

 学食でサンドイッチと飲み物を持っている三玖さんを見掛け、俺は風太郎の背中を押す。

 

「よう。三玖。サンドイッチに……なんだその飲み物」

「抹茶ソーダ」

「そういや、なんかあったな」

 

 たまに大手メーカーがとんでもない味を出す事はあるが、あれはリピーター目的ではなく話題性で一回でも手にする事を目的としているから大体それっきりの商品になる。

 だが、何故かこいつは常に見掛ける。果たして誰が飲むのだろうと時たま疑問に思っていた商品。

 まさか、手に取る人物がいたとは。

 

「いじわるするフータローには飲ませてあげない。セージは飲む?」

「……いじわる」

「いや、俺は間に合ってる」

 

 なんかいつの間にかこの子の好感度も下がってるし。

 しかし、この間の件で俺の印象アレなのに変わらず接するんだな。

 

「それより、風太郎。本題」

「あ、あぁ。三玖、一つ聞いていいか? 今朝の問題の件なんだが」

「上杉さん! 長尾さん! お昼一緒に食べませんか?」

「うおっ」

 

 いきなり俺達に声を掛けてきたのは中野姉妹の良心、四葉さん。

 彼女もまた俺に何の警戒もなく声を掛けてきた。中野姉妹はみんなこうなのか?

 

「やっほ。お二人さん」

「一花……そういえば、お前」

 

 そして中野さん。すると中野さんを見た風太郎は何かを思い出した様子で彼女に何か耳打ちする。

 なんだよ。風太郎も仲良くできるじゃん。

 

「あー、聞いてない」

「そうか。と、それで三玖」

 

 話しが済んだのか改めて風太郎が三玖さんに例の件を聞こうとするのだが。

 

「これ見て下さい! 英語の宿題!」

「さっきの話し」

「全部間違えてました! あははは!」

 

 笑って言う事じゃないぞ。四葉くん。

 てか、話しが進まん。

 

「ごめんねー。邪魔しちゃって」

 

 そんな状況を見かねた中野さんが四葉さんを引き取る。

 なんだかんだ彼女はその場の空気が読めるんだよな。

 

「一花も見てもらおうよ」

「うーん、パスかな。私たち、ほら、バカだし。ね?」

 

 そう笑って言う彼女だけど、その表情は見ていて痛かった。

 もしかしたらこれまで散々彼女達は言われてきたのかもしれない。

 バカだとか教えても意味がないとか。

 そういうのが積み重なって勉強が嫌いになったならそれは彼女達のせいではない。周りの環境が彼女達をダメにしたんだ。

 教える側が何よりも大切にするべきはやる気を削がない事だと俺は思っている。

 

「そのバカって言うの自分から言うの禁止な」

「え?」

 

 せめて自分達の口からバカって言うのはやめさせる。

 でなきゃ、その言葉に引きずられてしまうから。

 

「四葉さんや三玖さんも。あと、他二人にも言っておけ」

「ちょっと、セージ君どうしたの? もう真面目すぎ。もっと青春エンジョイしようよ。ほら、恋とか」

「あ」

 

 その単語は地雷だ。

 俺はチラリと風太郎の様子を伺う。

 なにやら不穏な空気が見える。

 

「アレは学業から最もかけ離れた愚かな行為だ。したい奴はすればいい。だが、そいつの人生のピークは学生となるだろう」

「この拗らせ方、手遅れだわ」

「それについては中野さんに同意だ」

 

 中学の時なんて彼氏もしくは彼女と同じ高校に行くために受験勉強している奴らを目にすると「恋愛する為に高校行くのか。何のための高校だ」と端から見たらモテないやつの強がりにしか聞こえないんだよな。

 

「あはは……恋愛したくても相手がいないんですけどね。三玖はどう? 好きな男子とか出来た?」

「えっ」

 

 その四葉さんの問いにそれまで動じる事がなかった彼女の表情が乱れるのを俺は初めて見た。

 そして「いない」と言ってその場から立ち去った。

 

「これは」

「急にどうしたんだ?」

 

 恋を目の敵にしている風太郎は気付かないか。

 

「あの表情、姉妹の私にはわかります。三玖は恋をしています」

 

 姉妹じゃなくても出会ってまだ一週間も経っていない俺でもわかると思うぞ。

 その四葉さんの言葉に風太郎はなにやら焦った様子。

 風太郎が三玖さんに好意を寄せてるとは思えないから、今後家庭教師をする際の障害になる事を考えて焦っているんだろうけど。

 そんな風太郎とは対象的に姉妹の恋の気配に四葉さんと中野さんは盛り上がっていた。

 なんだかんだ学食から教室へ戻るまで中野さんと一緒にいる事になった。

 俺らが教室に戻るとまた中野さんはすぐにクラスメイトに囲まれ、俺は俺でさっさと席に戻って中野さんを遠巻きで時より見ていた。

 初日に比べたらだいぶ囲んでいる人数は減っている。それでも彼女は今日も囲んでいる連中の話を聞いていた。

 

「フータロー君はあんな感じだったけど、セージ君はどうなの?」

 

 そして彼女がようやく連中から抜け出して席に戻ってくると俺にそんな質問をしてきた。

 それは学食での恋愛話しの続きだろう。

 

「恋愛なんて勉強の邪魔だとか」

「そんな風には思ってない。てか、そんな風に俺見えてるわけ?」

「だって、昼休みとか常に教科書持ってるし。何よりあのフータロー君と仲良くやってるってし」

 

 風太郎、どうやらお前といると俺ももれなく恋愛を目の敵にしている淋しい野郎になるらしい。

 

「風太郎と一緒に飯食べるようになって俺も手持ち無沙汰になったから教科書持って行くようになっただけだし、風太郎とは小学校の仲だから。それにあいつ昔から勉強が恋人ですって訳じゃなかったし」

「え、そうなの?」

 

 俺の脳裏に金髪の悪ガキの姿が浮かぶ。

 あれがまさか今の姿になるとは誰も思わないだろうな。

 実際、小学校一緒で中学違った奴らとか風太郎見て驚くもんな。

 

「ん?」

 

 ポケットの中にあるスマホが震える。

出して通知を見るとメール。それも風太郎から。

 

『ラブレターが入っていた』

「はぁ?」

「どうしたの?」

「あ、いや」

 

 恋愛とはかけ離れたところにいると思っていた風太郎に春が来た模様。

 それもこの昼休みの時間に来て欲しいとの事。そして相手は。

 

「みっ!?」

 

 声に出しそうになったが、残りの文字は飲み込んだ。

 と言っても残りの文字は一文字しかないのだが。

 

「大丈夫?」

「あ、あぁ。ちょっと足をぶつけただけだ」

 

 隣の中野さんが心配そうに見てきて俺は適当な嘘をついた。

 彼女に聞かれたら面倒な事になりそうだったからだ。

 いや、どっちみちバレるか? 

 何せ相手は彼女の妹、三玖さんなのだから。

 とりあえず、風太郎にはあとで報告をしてもらうようにメールを送った。

 さすがに告白の現場を覗く趣味は俺にはないからな。

 

「これからはひとりで学食か」

 

 教科書持って行かなくてよくなりそうだ。

 

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