家庭教師と友人A   作:灯火円

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第10話 休息とバレンタイン
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 冬休みが終わり、三学期がスタート。

 二年の最後の学期末試験はなんとしても赤点回避しようと姉妹達も気合いが入っていた。

 そして俺ら家庭教師二人も気合いを入れて今日も学校終わりに中野家へ。

 

「よーし、お前ら今日も授業を始めるぞ」

「やりましょう……ぜひやってください! そして確かめてください。試験突破に何が必要なのかを!」

「お、おう。乗り気なのは助かる」

「五月、気合い入りまくりだな」

 

 風太郎が押されるくらいに気合いの入っている五月。

 中野先生に啖呵切ったからな。絶対結果は出したいんだろうな。

 

「とにかく授業だ。目指せ30点越……」

「風太郎?!」

 

 風太郎の鼻から血が出て俺はすぐにティッシュを取り出す。

 

「どうしたのよ?」

「エッチな本でも見たんじゃない?」

「一花、残念だが鼻血とは関連性はないと言われてるからな」

「あー、そうなんだ。じゃ、フータロー君は何が原因かなー」

「……」

 

 いつものようにからかう一花、俺はいつもの感じで返したがスッと視線を逸らされた気がした。

 避けられてる気がするのは気のせいか?

 あれか? この間の撮影をまだ引きずってるとか?

 

「はぁ……こいつのせいだ。何故か最近ずっと市販のチョコを無理矢理食わせて来やがる」

 

 風太郎が言うこいつとは三玖の事であり、今日も様々なメーカーのチョコ商品を用意していた模様。

 

「言っておくがチョコも医学的には鼻血とは明確な関連性はないからな? てか、チョコなら俺も食べさせられている」

 

 チョコの理由は一ヶ月後のアレの為なのは予想出来るけどな。

 風太郎の好みを知る為に片っ端から食べさせてるって感じ。

 ただ、風太郎はある程度のラインならどれも上手いと言いそうだが。

 

「あ、丁度良かった。甘い物食べたかったの」

 

 そう言って二乃がチョコに手を伸そうとすると三玖はスッとその手から逃れる。

 

「二乃にはあげない」

「はぁ? 独り占めしないでよ」

「しないよ……まだ」

 

 つまり、する予定はあると。

 独り占めが何を指しているのかは三玖が一瞬風太郎へと向けた視線で察することができる。

 

「ってことで、全部食べて感想教えて」

 

 そう言って風太郎と俺に三玖はチョコを渡してきた。

 

「いや、三玖。俺は良いんじゃないか?」

「ううん。セージも。どれが好みか教えて」

「なんで?」

「意見は多い方がいい」

 

 風太郎にあげるんだから風太郎の好みだけ把握してりゃ良いと思うんだが。

 それとも三玖も風太郎の舌をあまり当てにしてないから俺に?

 とりあえず、意見欲しいって言うなら教えるけどさ。

 

「市販のなら俺は何でも良いけどな。あ、でもめちゃくちゃ甘いのはあれだな。ほら、キャラメルびっしり入った。そう、これとか歯にめっちゃ付く感じも苦手かも」

「ふーん」

「聞いておいてその反応はないだろ。三玖」

「あ、うん。参考にする」

 

 けど、風太郎の意見が一番だからな。

 俺の意見はあくまでも参考程度だろう。

 

 

 そうしてバレンタインまで甘い物には困ることはなく二月に入ったある日。

 この日は学校で勉強するとの事でいつもの図書室に集合。

 三玖は用事があるからと不参加。

 

「あ、一花から」

 

 これから勉強するぞというタイミングで二乃に一花から連絡が入った様子。

 一花はちょっと遅れるとか言ってたけど、またお節介している気がしている。

 

「呼ばれたからちょっと行ってくるわ」

「お前らなんで今日は揃いも揃って」

「まぁまぁ、この時期はな」

「は?」

 

 風太郎にはバレンタインとか関係ないもんな。

 俺もあまり関係ないと思って過ごしている側だが、それでも周囲の雰囲気に俺もどことなく落ち着かないところはある。

 

「んじゃ、気を取り直して四葉、五月、参考書を開け」

「あ」

 

 風太郎の言葉に四葉の動きが止まったかと思えばキョロキョロと視線を左右に揺らす。

 

「参考書、家に忘れてきたみたいです」

「お前な」

 

 勉強する予定があったにも関わらず忘れてきた四葉に風太郎は呆れた様子。

 

「すみません! 今すぐ取りに」

「あー、なら俺が行く。少しでも勉強してた方が良いだろ」

 

 取りに行こうと立ち上がる四葉を制止させて俺が代わりに立ち上がる。

 

「そうだな。四葉は別のものをその間やってもらおう」

 

 こういうこともあろうかと言わんばかりにカバンからプリントを出す風太郎。

 とりあえず、四葉にはそれをやってもらっている間に俺が取りに行くか。

 

「長尾さん! すみません!」

「良いって。んじゃ行ってくる」

「こんなんじゃ……」

「ん?」

 

 鍵を受け取って向かおうと四葉の後ろを通った時にそんな言葉が聞こえた。

 チラリと四葉を見ると拳を強く握りしめていた。

 

「……」

 

 少し気にはなったが、俺は中野家へと向かった。

 

 

「中野先生がわざわざ四葉だけを言及してたのとやっぱ関係あるのか?」

 

 中野家までの道すがら、俺は中野先生の言葉を思い出す。

 あの時、姉妹全員ではなく四葉の名前だけをあげた。

 

「何かあったって事なんだろうけど」

 

 それを俺が聞いて良いものなのか。

 そもそも踏み込んだところで話してくれるかどうか。

 そんなことを考えていると中野家のアパートが見えてきた。

 

「はぁ……なんで……になっちゃったんだろ」

「あ? 一花?」

 

 中野家のアパートの階段を上ると家の前で膝をついて顔を伏せている一花がいた。

 何か言ってたが上手く聞き取れなかった。

 

「セージ君?! な、なんで!」

 

 振り返った一花は俺に驚いたのか思いっきり手を窓の格子に当てていた。

 

「やば」

「俺は四葉が参考書忘れたっていうから代わりに」

 

 部屋覗いてたみたいだけど。もしかして、声掛けたらまずかったのか?

 

「あー! この前捨てちゃったかも」

「は?」

 

 おいおい、いくら汚部屋製造人間でも捨てるなよ。

 いや、むしろ部屋を綺麗にするという行為としては正解?

 でも、使う物まで捨てるのは違うか。 

 

「今から買いに行くからついてきて」

「え、あ、おい」

 

 俺は背中を押され一花と書店へと行くことに。

 

「四葉も抜けてるなぁ」

「その前に捨てるなよ」

「えっと、それはなんというか」

 

 書店に向かう間に俺は中野家に訪れた理由を改めて説明する。

 いつもと変わらない会話なのだけど、違和感がある。

 

「……なんで後ろ歩くんだよ」

「え? 」

 

 違和感の正体は一花が俺の少し後ろを歩いていること。

 

「セージ君が歩くの早いからじゃない?」

「いや、いつもと」

「あ、ほら、着いたよ」

 

 気づけば書店の前に来ていた。そして一花はささっと店内に入って行くと「それじゃ、あっち探すね」と言って一花は参考書を探しに行った。

 何となくだけど、やっぱ避けられてるような。

 とりあえず、俺も探すか。

 

「参考書とかだとこっちか……あ」

 

 俺はふと足を止める。書店の店員さんのおすすめコーナーの一角。

 どうやらカメラ好きがいるようでいくつか写真集や写真の撮り方という本が並んでいた。

 俺が好きそうな物をひとつ手に取る。それは星の写真集。

 

「そういや、まだ北条さんに星の撮り方聞いてなかったな」

 

 せっかくだしと俺はそれを手に取る。そしてその隣に大々的に展開しているバレンタインコーナーが目に入る。

 

「やっぱ今日三玖は」

 

 三玖が不参加の理由をなんとなく察し、俺は再び参考書のコーナーへと向かう。

 そして使っている参考書を見つける。

 

「セージ君、あった?」

「あぁ……てか、あれか? もしかして家で三玖がチョコ作ってるのか?」

 

 ふと一花がいきなりこんな行動を取った理由に気づき、コソッと一花にその事を聞いてみる。

 

「へ? あ、うん。そう! さすがセージ君だね」

「ま、バレンタイン近いしな。なるほど。風太郎の好みを知る段階は終わってあとはチョコ作りか」

「うん、今日は先生がついてくれてる」

「先生……あー、なるほど」

 

 一花に呼び出されたと言っていた二乃を思い出す。

 しかし、あの二人って軽い衝突結構してるけど大丈夫か?

 でも、俺が心配した所でそこに介入できるわけもないからな。

 

「さてと、んじゃ買ってくるわ」

「え、私が買うよ」

「いや、だけど結構な値段だぞ」

 

 参考書を買おうとする俺を引き止める一花だけど、今の状況を考えるとこれ一冊でも結構辛い出費だろう。

 

「だいじょーぶ。お姉さん稼いでますから……セージ君が手にしてるのは?」

「あー、ちょっとな」

「まさかエッ」

「年頃がこんな所で言うな。これだよ」

 

 俺は一花に先ほど手に取った写真集を見せる。

 

「なるほど。やっぱり写真好きなんだね」

「まー、そうだな」

「よし、なら一緒に買ってあげるよ」

「いやいや、これは自分で買うって」

 

 さすがに自分の物を一花に買わせる訳にはいかないと思っていると一花は俺の手からそれを奪う。

 

「遠慮しないで。もしかしたら今度こそ落第になっちゃうかもしれないからね」

「ん? 今度こそって」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

 一花は前の学校で落第寸前だったという。

 確か黒薔薇女子って結構な名門だよな。

 

「なるほどな」

「てな訳で、私が」

「なにが、てな訳でだ。落第しなきゃ良いだけだろうが」

「え」

 

 今度は俺が一花の手からそれを奪う。

 そもそも、なんで落第になるかもしれないから俺の分まで買うって話になるんだか。

 それに俺は落第させるつもりなんてないっての。

 

「仕事と学業を両立してるってのに他の姉妹に遅れることなく一花はやれてる」

「セージ君?」

 

 仕事で俺達の家庭教師の日に参加出来ない事は度々ある中でも一花はその時間をどこかで補っていた事はこの間の撮影現場でわかった。

 

「だから、落第なんて絶対回避できる。一花ならな。だから一緒に頑張ろうな」

「……うん、やるだけやってみるよ」

「よし。だから、これは一花がこれを買う必要は」

「なら、バレンタイン!」

「……は?」

 

 バレンタイン。唐突に言われたその言葉に俺の思考が追いつかないでいると俺の手から再び写真集は奪われた。

 

「バレンタインのチョコ代わり。それなら良いでしょ?」

「あ、おい」

「ホワイトデー楽しみにしてるね」

 

 そう言って一花はレジに方へと行ってしまった。

 

「……はぁ」

 

 ま、一方的にもらう訳じゃないなら別に良いか。

 多分これもクリスマスのプレゼント交換と同じで感謝のってやつだろうしな。

 とりあえず、一花が戻ってくるまで俺はまた適当に本を眺める事にした。

 そこでふと赤本のコーナーへと立ち寄る。

 

「今の偏差値だとこの辺だよな」

 

 今の俺の適正する大学のを手に取る。パラパラと中身を確認し元の場所へと戻す。

 ふと戻す際に俺の目に止まったのは医学部のある有名大学。

 かつて俺が目指そうと思っていた所。

 

「このお店にお医者さんはいませんか!」

「え、なんだ?」

 

 突然そんな声が聞こえ急患でもいるのかと思っていると一花が戻ってきた。

 

「なんか疲れてないか?」

「え? あー、ちょっとね。って、セージ君はやっぱり医学部目指すの?」

 

 俺が赤本を目にしているのを見て一花はそう聞いてきた。

 

「ん? いや、別に医学部ってわけじゃない。それよりありがとうな」

 

 俺はそのコーナーから離れ、一花から買ってもらった本を受け取る。

 その際に一花の手が腫れてる事に気付く。

 

「手、どうした?」

「これは、さっきのアパートで。でも、そんなに痛くないから心配しなくても」

「あー、そういやぶつけてたな。林間学校の閉じ込められた時もだけど、たまにドジするよな。一花は」

「っ」

「けど、あれだ。酷いようならきちんと診てもらえ」

 

 女優ってのもあるが、やっぱ怪我とか病気は早く診てもらった方が良いからな。

 

「林間学校の時はセージ君の事とか色々あったのも原因でもあるんだけど」

「あー、それは悪かったって。てか、買う物も買ったし帰るか」

「あ、逃げた。ま、お互い様ってことにしておこうかな」

「へいへい」

 

 そうして俺と一花は書店をあとにする。

 行きとは違って隣を歩く一花。

 いつも通りの距離に俺はホッとする。

 

「よかった」

「何が?」

「あ」

 

 声に出ていたのか一花は俺の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

 

「あー、その、一花に何かしたかなーって思ってたからさ。けど、いつも通りだから。ほら、なんか俺の事避けてたろ?」

「え、あー、それは」

「一応聞くが嫌ってるとか」

「ない! それは絶対にないから!」

 

 一花は力強く否定した。

 そのあまりにも必死さに俺は思わず吹き出した。

 

「な、なに」

「悪い。でも、一花の気持ちわかったわ」

「へ?!」

「林間学校の時、俺に嫌われてるかもって思ってたって言ってたろ。本人はそんな意図なくても目線逸らされたり、隣歩かなかったりしてたからさ。少しへこんでた」

 

 多分、他の人なら特に気にはしないのかもしれない。

 けれど、九月から今日までただのクラスメイトとしては随分と深く関わりすぎてしまっている。

 それもあって少し俺も一花に嫌われてるかもとか考えたりもした訳だ。

 

「あ、その、それは」

「わかってる。あれだろ? この間の撮影のがまだ残ってるって感じだろ?」

 

 恥ずかしいから見ないでくれって言ってたしな。

 あの後、大丈夫とは言ったがあとになって恥ずかしくなったってところだろ。

 

「えっと、まぁ……うん。でも、嫌ってるなんて事は絶対ないから!」

「わかったって。じゃなきゃ、バレンタインなんて渡さないだろ? ま、かなり個性的なバレンタインだけどな」

「やっぱり……チョコの方がよかった?」

 

 一花はどこか心配そうに聞いてきた。

 そもそも最初に言い出したのは一花だってのに。

 

「うーん、チョコにこだわらなくても良いとは思うが。てか、最近は三玖のアレでチョコに飽きてるところはある」

「はは、許してあげて。多分、三玖が気を使ったから」

 

 気を使う?

 それって俺に?

 風太郎には渡して俺に渡さないのは角が立つとか思ったのか?

 

「俺にチョコ渡すつもり? なら言っておいてくれ。渡すなら本命だけにしろって」

「へ? あー、うん。そう。うん、わかった」

「?」

 

 なんか一花の反応的に俺は的外れな事を言ったような気がしたのは俺の気のせいか?

 

 

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