家庭教師と友人A   作:灯火円

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第11話 それぞれの結果
11-1


 そうしてあっという間に期末試験を迎え、今日結果が出る。

 

「長尾君」

「はい」

 

 呼ばれて俺は先生から結果を受け取る。

 正直、自分の成績はそこまで気にしていない。

 ただ、これまでの家庭教師の積み重ねもあってか前回の結果とさほど変わりは無い。

 

「中野さん」

「っ、はい」

 

 隣の一花が呼ばれると俺は思わず背筋が伸びる。そして受け取り、一花が席に戻ってくる。

まだ本人も見てない様子。それから席に着き、ゆっくりと結果を開く。

 すると一花は俺の方をバッと向き、結果を俺に渡した。

その顔見ればもう結果はわかったようなもんだけど、俺はそれを受け取り確認する。

 

「よし!」

「長尾君、春休み気分はもう少し我慢してね」

 

 思ってたより声に出ていたようで担任に注意されてしまった。

 俺の言動に浅井や朝倉は笑い、他のクラスの連中もそれに釣られるように笑う。

 別にいいさ。今の俺は最高に気分が良いからな。

 

「すみませーん」

 

 と俺は気持ちのこもっていない謝罪をし、そっと一花に結果を返すと一花も笑っていた。

 

「笑うなよ」

「だって。あんなに喜ぶなんて」

「仕方ないだろう。嬉しかったんだから」

 

 照れ隠しに俺は視線を窓の方へと移した。けど、今の顔はきっとかなり緩んでいるだろう。

 

「っ……ありがとう」

 

 そうしてまずは一人、合格の判子が押された。

 放課後は俺と風太郎のバイト先である店で集合し、期末試験の結果発表&お疲れ様会をやる事になっている。

 店長からも許しは貰っている。ただ、ケーキ代諸々は俺らの給料から天引きらしい。

 でも、今回は喜んで出してやる。

 

 放課後、バイト先へと向かう前に俺はとある人物を探す。

 

「あ、いた。毛利さん」

「あれ? 長尾君。どうしたの?」

「バレンタインのお返し」

 

 俺はカバンから毛利さんに渡したのはバイト先のクッキーを数枚入れて詰め合わせた物。

 

「え? うわ、良いのに。て、それもきちんとしたお店のじゃん」

「何かの縁だからな。んじゃ、俺この後用事あるから」

「あ、うん。ありがとう」

 

 とりあえず、これで用事は済んだ。

 ちなみにクラスの女子にも同じ物を今朝あげた。

 一花にはさすがに教室では渡せなかった。一応バレンタイン欠席してたから俺が一花に渡したら色々聞かれそうだからな。

 昇降口に向かうと一花がいた。

 

「先、行ってなかったのか?」

「行くところ一緒だから。それでどこ行ってたの? すぐ教室出て行っちゃって」

「あぁ、ちょっと用事があってな」

「ふーん」

 

 俺の周りをくるくると回る一花。

 

「なんだよ」

「別に。それより行こう」

 

 前を歩き出し、俺の方へと振り返る一花のあとに続いて俺も昇降口をあとにする。

 

「しかし、予想以上の出来だ」

 

 向かっている間、俺は改めて一花の五科目の点数を見てそう言葉にした。

 合計240点、以前から考えたら大躍進だ。

 

「国語は相変わらずか」

「あー、四葉の現文の予想がドンピシャだったからそれが無かったらもっと危なかったかも」

「ほぅ、四葉がピンチを救ってくれたか。うんうん、あいつもやればできる子だ」

 

 これで四葉も少しは自信つけてくれればいいが、その前に赤点回避出来てるかどうか。

 一番危ないのが四葉だからな。

 

「だけど、紛れもなく一花の実力だ。頑張ってたもんな」

 

 家庭教師の日もそうだけど、休み時間に仕事の日も合間にわからない所は俺に連絡して聞いてきた。

 その努力を知っているからこそこれは間違いなく一花の努力の結果だと俺は自信を持って伝える。

 

「セージ君のおかげ。ありがとう。先生」

「っ」

 

 花火大会の日、演技の練習で付き合った言葉と同じ。

 だけど、中野一花のそのままの言葉に俺は思わず照れてしまった。

 そうして俺のバイト先へと到着するとすでに二乃以外の姉妹は揃っていた。

 

「その表情だと赤点回避出来たか」

 

 三人の表情は明るい。そして一番懸念していた四葉。

 

「長尾さんっ」

 

 俺の元に来ると今にも泣きそうな四葉がいた。

 けど、その顔はあの時とは違う。

 

「また、ハンカチ買う羽目になるぞ? 笑え」

「へへ、そうですね」

 

 四葉はニッと口角を上げた表情と共に俺に結果を見せてきた。

 

「長尾さん、やりました」

「……あぁ」

 

 これで少しは自信持ってくれると良いんだけどな。

 

「んで? 五月も大丈夫そうか?」

 

 次に俺は五月の方へと向き結果を確認する。

 

「あ、はい。少し危ない科目があるのが今後の課題です」

「そうか」

 

 渡された五月の結果を見る。

 数学社会がギリギリだな。けど得意の理科はずば抜けてる。

 

「先生目指すなら頑張らないとな」

「うぅ、はい」

 

 赤点回避するだけなら難しくはない。でも、五月の場合は将来の事も考えると正直まだまだな所。

 

「一花も赤点無かったんだ」

 

 四葉が一花の結果を聞いてる横で俺は三玖の様子を伺う。

 風太郎に何か話をしている様子。ま、一番褒めて欲しい相手だろうし、俺の言葉はいらないだろう。

 

「一花、合計何点だったの?」

「えーっとね。240点」

「!」

 

 その一花の言葉が聞こえたのか三玖と風太郎は二人して一花を見た。

 

「ってことは」

「一花が一番じゃないですか!」

「え……あぁ! そうなんだ! まさかだね」

 

 一花は目を見開く。そして一瞬その表情が曇ったように思えた。

 

「……三玖、見せてくれ」

「あ、うん」

 

 俺は三玖の所へとそっと近寄って結果を見る。

 合計は238。本当にわずかな差。

 

【期末試験、赤点回避する。それで五人の中で一番の成績取って。そしたら】

 

 三玖が一番を目指していた理由。

 なんとなくだが、それは風太郎にきちんと一人の女性だと認識させるものだったはず。

 

「……惜しかったな」

「……うん」

 

 俺はそれ以上の言葉は思い浮かばず三玖に結果を返す。

 

「お仕事もあるのに凄いです。私はてっきり今回も三玖が一番かと」

「!」

 

 一花が三玖の様子を伺うような視線を送ると三玖の方へ。

 

「三玖……私、そんなつもりじゃなくて」

 

 一花のその言葉にもしかしたら一花も三玖がこの試験で一番を目指してた事を知っていたのではと俺は思った。

 

「一花、おめでとう。私もまだまだだね」

 

 そんな申し訳無さそうな一花に三玖は笑ってそう返した。

 

「三玖、ご」

「私たちだけでなく、お二人はどうだったんですか?」

 

 五月の声に一花の声が遮られる。

 

「あ、やめろ! 見るな!」

 

 風太郎はいつものように結果をその辺に置いていてそれを五月が拾おうとするが、いつものパターンだと気づき手を引き、今度は俺の方へ。

 

「長尾君はどうでした?」

「え? あー、可もなく不可もなし。前回のキープのままだ」

 

 一花と三玖が気になりつつも俺は五月の問いに答える。

 

「ということはオール90点ですか」

「ふ、誠司はやればできるやつなんだ」

「なんで風太郎が胸張るんだよ」

 

 お前は俺の保護者か。

 

「つまり、試験突破ということだね」

 

 そこに店長が来て約束通りお疲れ様会として好きなだけケーキを食べて良いと言ってくれた。

 風太郎は給料から天引きという話しに冗談だと祈っているみたいだったが、うちの店長はそんな冗談言う人間ではないんだよな。

 

「そうだ。二つ結びの子が君達より先にここに来てこれを置いてったけど」

 

 それは二乃の結果が記された用紙。

 姉妹がそれに注目していると店長が俺と風太郎にコソっと二乃からの伝言を聞かしてくれた。

 

「おめでとう。あんたらは用済みよ」

 

 つまり、二乃も赤点回避という事。

 しかし、この伝言の意味を考えると俺達とおさらばって事なんだろうけど。

 

「どうする? 風太郎」

「お疲れ様会改め祝賀会は全員参加だ」

「だよな」

 

 二乃がどういう意図かわからんが、嬉しい事は五人一緒が五つ子の決まりらしいからな。

 

「二人はこれからバイトだ。行くならどっちかね。はい、これ使って」

 

 店長がそう言って投げて寄越したのはとある鍵。

 俺がそれを受け取ったが、風太郎へと渡す。

 

「風太郎」

「誠司も乗れるだろ?」

「俺、取ってから一年経ってないから」

 

 一人なら問題ないけど、二人となるとな。

 俺より風太郎の方が免許取って長いし。

 

「俺も正確にはまだ」

「良いから行ってこい。それに俺はちょっと離れられん」

 

 視線の先の彼女がどうにも気になって二乃を迎えに行ける精神じゃない。

 そんな俺を見て風太郎は特に理由は聞いてこなかったが「わかった」と言って鍵を握る。

 出て行く前に風太郎は姉妹の方へと向き直る。

 

「お前らよくやった。特に三玖、お前はいち早く安全圏に入り教える立場に立ってくれた。助かったぜ」

「……うん」

 

 その風太郎の言葉に三玖は顔を赤らめる。

 これで少しは気持ちが上に向けば良いが。

 

「それじゃ、俺は二乃を連れてくる」

「頼む」

 

 二乃は風太郎に任せて俺は。

 

「ここの席使って」

 

 店長に案内されて先に姉妹はテーブルへと着く。

 そんな中、ひとり足取りが重い一花の隣に行き俺はポンと頭に手を置く。

 

「セージ君」

「どうしたって優劣はつく。それにこれは一花が頑張った結果だ。胸を張っていい」

「っ」

 

 仕事と学校、誰よりも勉強する時間が取れない中で一番の結果を出した。

 それは間違いなく一花の努力の結果。俺はその努力を見てきた。

 それなのにそれを後悔するなんてあまりにも辛すぎる。

 

「俺は、一花が一番取れて嬉しいと思ってる」

 

 一花自身が喜べないならせめて一花が一番で喜んだ奴がいる事だけは知って欲しい。

 

「……ありがとう」

「んじゃ、俺はバイトだから行くな」

「うん」

 

 正直、様子が気になるが気持ちを切り替えて俺はバイトの制服へと着替える。

 

「とりあえず、上杉君が来るまで長尾君は僕と一緒にキッチン良いかな?」

「了解です」

 

 俺はキッチンに入るが、時より姉妹の様子を伺う。

 いつも通りの賑やかさだが、気掛かりなのは一花と三玖。

 一応、三玖は気にしていない様子だけど。

 

「そういえば、あのショートカットの子。この間の撮影の子だよね?」

「え? あー、はい」

 

 俺が飾りのフルーツを切り分けていると店長がそう聞いてきた。

 さすがに店長も気付くか。

 

「SNSとかやってるのかい?」

「え? どうだろう」

 

 俺たちの世代でやっていない方が珍しくはある。

 その珍しい部類に入るのが俺の腐れ縁なんだけど。

 だから、一花もやってそうではあるけど。

 

「やってるならバッチリ宣伝してもらわないと」

 

 商売根性が相変わらずな店長。

 

「言うてまだ駆け出しみたいなもんですよ?」

 

 最近は家計の為に仕事選ばず色々やってるから少しは知られ始めて来たのかもだけど、周りで一花が女優業やってるのを知らないようだし。

 

「甘いね。長尾君。売れた時に昔から通っているお店と彼女のファンが聖地巡礼に来る可能性もあるだろ。種は今から蒔いておくべきなんだ」

 

 一花のファンね。

 ひとつデカい役でも貰ったら一気に騒がれそうな感じは俺もしている。

 

「ん? 上杉君戻ってきたみだいだね」

 

 バイクの音で店長は風太郎が戻ってきた事に気付き、俺に変わって風太郎をキッチンに入るようにとの事で俺はホールへと出る。

 

「風太郎、連れてきたか」

「おぅ」

 

 風太郎の後ろには二乃もいたが、なんかやけに静か。

 連れてきた事に文句言ってきそうとか思ってたんだけど。

 

「ねぇ、さっきの」

「風太郎、店長がキッチン入ってくれって」

 

 二乃が口を開いたタイミングで俺も言葉を発してしまった。

 すると二乃から鋭い視線が俺に向けられる。

 なんだよ。結局いつも通りかよ。

 

「あー、悪い。なんか風太郎に話しあるなら」

「……良いわよ。後にしてあげる」

「そうか?」

「二乃、こっち」

「今行くわ」

 

 四葉の声に二乃は姉妹達が集まっているテーブルへと向かう。

 とりあえず俺も続いて姉妹達のテーブルへと向かう。

 

「メニューはこちらになります。今月のおすすめはこちらに」

「へー、ちゃんと接客するのね」

 

 三玖の隣に座った二乃に俺はメニューを渡し、いつものように接客をすると珍しいものを見たような目で二乃は俺を見る。

 

「一応、バイト中なので。あと、値段は気にしなくて良いぞ。赤点回避のご褒美だからな」

 

 今の中野姉妹にとってケーキなんて贅沢品だろうからな。

 気にせず好きな物を頼んでいいと告げると姉妹達は目を輝かせる。

 そして五人のオーダーを聞いて俺は裏へと戻る。

 

「しかし、五つ子だってのに見事にバラバラだな」

 

 オーダーを改めて見直して俺は思わず笑ってしまう。

 そして五人分のケーキと飲み物を持って再びテーブルへと戻る。

 

「ご注文の品は以上でよろしいですか?」

「よろしいです!」

「なんか、普段のセージとは別人」

「一応、長尾君はバイト中ですから」

「制服は様になってるわね」

 

 散々な事を言ってくれるな。

 しかし、こういう時一番にからかってきそうな人物からの言葉がない。

 チラリと一花を見ると視線が合ったがすぐに持ってきた飲み物へと視線が移る。

 

「とりあえず乾杯しよ。セージ君とフータロー君がいないのはあれだけど」

「俺達の事は気にするな。そもそもこれは中野姉妹の祝賀会だからな。んじゃ、ごゆっくり」

 

 空元気ってやつかな。とりあえず、今は様子見しておくか。

 俺はテーブルを離れ、バイトへと勤しむ。

 平日の夜ってのもあってあまりお客さんはいない。

 それでもホワイトデーという事もあってかテイクアウトの方は普段よりも男性客が多い。

 

「そういや、まだ渡せてなかったな」

 

 多分、バイトが終わる前に帰るよな。

 俺は中野姉妹の皿を下げると共に手には毛利さんにも渡したクッキーの詰め合わせを持ってテーブルへと向かった。

 

「空いたお皿お下げしますね」

「あ、長尾さん! ケーキ美味しかったです!」

「そりゃ良かった」

 

 四葉から皿を受け取ると三玖も俺に空いた皿を渡してくれた。

 

「甘すぎないやつもあってよかった」

「三玖は甘いのあまりだったか」

「私もすっかりこのお店気に入ってしまいました」

「店長も喜ぶよ。ところで、二乃と一花は?」

 

 二人の姿が見えなくて聞くと二乃は店長にお礼を言いに行って、一花は姉妹の反応からするとお花を摘みに行ったようだ。

 

「んじゃ、とりあえず三人の分」

 

 俺は三人に手にしていたクッキーの詰め合わせを渡す。

 

「ホワイトデーな」

「セージ、私はあげてない」

 

 三玖は俺の方を向くと首を横に振った。

 

「散々チョコ食べさせてもらった礼だよ」

 

 バレンタインには確かに三玖からはもらっていないが、それまで散々貰ったからな。

 

「な、長尾さん。私も」

 

 戸惑う四葉に俺はそっとポケットに入れていたハンカチを見せる。

 

「てな訳。拒否されたらそれはゴミ箱行きになる」

「うー、やっぱり長尾さんは強引です」

「はは」

 

 きちんとバレンタインをくれた五月はなんだか驚いた様子。

 

「そんなに意外か?」

「あ、いえ、私としては感謝のお礼であげたつもりでしたので。お返しがあるとは考えていなくて」

「俺、割と律儀な性格なんでな。ここのクッキーも美味しいから食べてくれ」

 

 食に関しては正直な五月はジッとクッキーを見つめた後、俺を見て嬉しそうな笑顔を向ける。

 

「ありがとうございます」

「いえいえ」

 

 さて、三人には渡せた。あとは二人。

 二乃からも何も貰ってはいないが四人渡すなら五人も同じだからと用意はしていた。

 とりあえず俺はホールから厨房へと向かう。

 

「あ」

「お、丁度良かった」

 

 お手洗いから出てきた一花と丁度出くわした。

 けど、表情はぎこちない。なんかまだ調子戻ってなさそうだな。

 

「えっと、どうしたの?」

 

 その証拠に俺と目線合わさない。

 これで少しは元気取り戻してくれたら良いけど。

 俺は手にしていたクッキーを一花に差し出す。

 

「一花に渡そうと思ってな。ホワイトデー」

「あ」

「一花から貰ったものに対して釣り合い取れてないのは悪いが」

 

 写真集とクッキーだとどうしてもな。

 色々と見て回ったが、思いつくのがまたピアスという俺のセンスの無さを実感しただけ。

 

「そ、そんな事ないよ! 嬉しい」

「そうか」

 

 受け取るとピアスの時と同じように大事にそれを抱え込んで表情を緩ませる一花に俺はちょっと安心する。

 

「あ、長尾君。丁度よかった。今届いたこれ厨房に運んでおいて」

 

 店長が指さしたのはケーキに使う材料達。

 

「わかりました」

「あ、私も手伝うよ」

「いや、一花は客だろ」

「良いから。この量なら二人でやった方が一度で終わるでしょ?」

 

 俺の答えなんて聞くつもりないのかすでに物を手に取っていた。

 仕方ない。お言葉に甘えるとしよう。

 

「悪いな」

「いいえ」

 

 そうして俺達は厨房の方へと向かう。

 

「あのさ」

「ん?」

 

 隣を歩く一花がふと足を止めて俺に声を掛ける。俺も思わず足を止める。

 

「さっき、私が一番で嬉しいって……本当?」

 

 俺にようやく向けられた視線だったが、そこには不安が籠もっていたように思えた。

 

「あぁ」

 

 俺は迷う事無くそう伝えた。

 一番取った事に後ろめたいと思う一花に少しでもという気持ちもあるが、素直に俺は五人の中で一花が一番だった事を嬉しいと思った。

 あれだけ頑張ってそれが結果に出た事は俺も嬉しいから。

 

「だから自信持って良いんだ」

「……自信」

 

 猫背になって申し訳無さそうにするより俺は胸を張っていつものように前を見ていて欲しい。

 

「あのね。セージ君」

「ん?」

 

 さっきまでとは違う。力強いその視線に俺は思わず息をのむ。

 

「私」

「あんたを好きって言ったのよ」

 

 ふと厨房からそんな言葉が聞こえてきて俺と一花は二人して目を見開く。

 

「今の声って」

「二乃、だよな?」

 

 そしてそっと俺達は厨房を覗くとそこには二乃と風太郎の姿。

 

「え? 何?」

 

 風太郎は俺と同様に混乱している様子。

 

「返事なんて求めてないわ。ほんとムカツク。対象外なら無理にでも意識させてやるわ」

 

 すると二乃はずんずんと風太郎へと詰め寄る。

 

「あんたみたいな男でも好きになる女子が地球上に一人くらいはいるって言ったわよね」

 

 いや、確かに一人はいるんだよな。

 俺はこの場にいない三玖を思い浮かべる。

 

「それが私よ。残念だったわね」

 

 とりあえず俺と一花は静かにその場を離れる。

 

「二乃って風太郎が好きなのか?」

 

 厨房から離れた場所で持っていた荷物を一度置いて状況を整理しようとするが、やっぱり俺も混乱している。俺は一花に聞くが一花も俺と同じような反応。

 

「えっと、私も初耳。そんな素振りなかったし」

「だよな」

 

 いや、けどキンタローを好きになった訳で。でも結局風太郎だとバレて。

 うん? そうなるとキンタローが風太郎だと知っても好きだったって事か?

 

「やっぱり、私……一番なんて取るんじゃ。そのせいで三玖が」

 

 さっき見せた力強い瞳は消え、小さく震えたその声は俺にも届いた。

 

「……三玖が今回の試験で一番を狙ってた理由を知ってたんだな」

 

 だから一番取っても戸惑ってた。それも一花の言葉から察するに三玖は風太郎に告白しようと考えたみたいだ。

 

「……ごめん」

「謝ることなんて無いだろうが」

「でも、私が! 三玖の告白を」

 

 一花は顔を手で覆うと顔を伏せてしまった。その姿に林間学校を思い出す。

 誰もいないけれど、俺はそっと一花の顔が誰からも見られないように一花を自分の胸へと引き寄せる。

 

「!」

「何も悪くない。一花は頑張っただけだ。それを否定しないでくれ」

「でもっ」

「なら、俺が勉強を教えた事は余計な事だったか?」

「っ」

 

 一花は横に頭を振った。

 

「三玖なら大丈夫だよ。自信を持ち始めてるし自分から動き始めてる。今回はあくまでもきっかけだ。きっと次に向けて三玖は頑張ろうとしているはずだ」

 

 実際、三玖はもう切り替えている様子だったしな。

 

「三玖が変わってきたのは一花もよく見てきただろ?」

「……うん」

「だから、きっと大丈夫。大丈夫だから……自分を責めるな」

「一花、大丈夫?」

「!」

 

 いつまでも戻らない一花を心配して四葉が様子を見に来た。

 

「あれなら、適当に四葉に言っておくぞ」

「ううん。大丈夫。嘘つくのは得意だから」

「嘘って」

 

 そんな嘘つかせたくないのにな。

 一花は一度深呼吸すると表情がガラッと変わった。

 

「ごめーん。ちょっとセージ君にナンパされてた」

「おい」

「ありがとね」

 

 四葉の元へと向かう際に一花はそう俺に言ったけど、礼を言われるような事はやれていない。

今だって結局一花は無理しているわけだから。

 

「はぁ」

 

 静かなバックヤードに俺のため息が響いた。

 

 

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