家庭教師と友人A   作:灯火円

59 / 135
11-3

「えっと、久しぶりだね」

 

 あの二乃の告白を聞いて以来、一花とは会えずにいた。

 一花の仕事でいない事が多かったからすれ違いみたいな感じになってたのに。

 どうしてよりにもよってこのタイミングで。

 

「あぁ、そうだな」

 

 俺はどうにかいつも通りを心がけて返事をする。だが、いつも通りにしようとしていたのに俺は一花から目線をそらしてしまった。

 

「……なにか。あった?」

「っ」

 

 五月は騙せても一花には通用しない事を改めて思い知らされる。

 

「……少し、散歩しないか?」

「え、うん」

 

 俺は誤魔化すのを諦めて一花を誘うと一花は頷いた。

 目的地も決めてない中、ただ一花と二人歩くだけ。

 

「そういえばね。この間」

 

 その間、一花は俺に何かを聞くことはなく家での出来事だったり他愛のない話を振ってくれた。

 そのおかげもあってか俺は徐々にいつもの俺に戻る。

 

「……このまま、家に帰って大丈夫?」

 

 一花はそれすらも見抜いて絶妙なタイミングで俺に聞いてきた。

 

「あぁ」

 

 気付けば俺達は俺の家の前まで来ていたみたいだ。

 

「……茶でも飲んでくか?」

「え」

 

 俺の言葉に驚く一花。

 以前ならこんな発言しなかったと思う。

 けど、一花は俺の家の事情もわかっているし付き合わせたお詫びという気持ちで彼女を誘った。

 もちろん、家には母さんがいるから誘った。色々聞かれそうで面倒だけど。

 

「ふーん、お姉さんと離れるの寂しいんだ?」

「連れ回した詫びだ」

「素直じゃなーい」

 

 そうして俺は家に一花を招いた。

 

「ただいま。友達連れてきたから」

「おかえり。なに? 風太郎君でも……あらあら、一花ちゃん」

「えっと、お邪魔します」

 

 母さんに声を掛けるとすぐに一花の元へ。

 そして俺に向けてニヤニヤとした顔で視線を寄越す。

 この反応は覚悟していたから俺は気にせずリビングへと向かう。

 

「なによ。一花ちゃん連れてくるなら事前に言いなさいよ」

「風太郎の時は別にそんな事言わねえじゃん」

「女の子は別よ。あ、そうだ。もらい物で美味しいお菓子あるからちょっと待ってて」

 

 そう言って母さんは台所の方へと忙しなく行ってしまった。

 一方、一花も一花で落ち着きがない様子。けど、あちこち向けていた視線がある所で止まる。

 それは父さんと六花の遺影がある仏壇。

 

「良かったら、挨拶してってくれ」

 

 前回来た時はきっとそんなに気にも止めていなかっただろう。

 あの時は俺に妹がいた事すら知らなかったからな。

 俺は仏壇の方へと足を向けて一花に言うと一花は俺の隣に来て仏壇の写真を見る。

 笑顔の六花と優しく微笑む父さんの写真。俺はろうそくに火を付けて線香を一花に渡す。

 

「初めまして。中野一花です。セージ君のクラスメイトで家庭教師してもらっています」

 

 線香を上げて手を合わせると一花はそう二人に言う。

 

「セージ君は……」

 

 途中まで何か言おうとして一花は口を閉じた。

 

「なんだよ?」

「あ、いや」

「気になるから言えよ。変な事だったら無視するけど」

「ひどーい」

 

 けど、一花の様子からしてからかうような発言じゃないのは察する事が出来た。

 そして一花はもう一度父さんの写真を見てから口を開いた。

 

「お父さん似だなって……」

 

 あぁ、だから言い淀んだのか。

 これが五月の時みたいに子供の面倒見の良い父親の話をしていたら一花も気にしなかっただろう。

 

「そうらしい」

 

 俺も父さんの写真を見る。メガネを掛けていて俺は似ていないと思っていたけれど、父さんを知る人達にはそうじゃないらしい。

 今日はそれで驚かれたからな。

 一花はもう一度確認するように俺の方をジッと見る。俺は照れくさくなり視線を逸らすとニヤニヤとした母さんが立っていた。

 

「メガネ掛けたらもっと似るんじゃない? てか、昔はお父さん真似して掛けてたし」

「母さん!」

 

 ヌルッと俺達の会話に入って来た母さんはお菓子をテーブルに置く。

 

「あれ? 頭が良くなると思って掛けてたって」

 

 そういや、一花には昔の写真見られてたっけ。

 

「そうそう。父さんみたいに頭良くなるってお父さんの掛けようとしてね。だから伊達眼鏡あげたのよね」

 

 そう。

 当時の俺の中で頭が良い人=父さんという認識で父さんがメガネを掛けていたから俺もと真似し始めたのだ。

 掛けたいと言った俺に父さんはどこかで伊達眼鏡を買って俺に渡してくれた。

 

「へー」

 

 一花の顔がにやけている。

 これでまたからかわれる材料を与えてしまった。

 そうして俺達はテーブルに座り、母さんが持ってきたお菓子と飲み物を口にしつつ雑談する。

 

「いやー、一花ちゃんまた来てくれて嬉しい。誠司関係なく来てくれて良いからね」

「え、あ、ありがとうございます」

「あ、でもおばさん相手でも困るか」

「そんな事ないですよ。それに年上の人とのお話も私好きです。色々とためになりますから」

 

 それは女優として色々と活かせるものがあるという事なのか。

そもそも女優業やってたら自然と年上との付き合いが多くなるから多分その辺も慣れてるのかもな。

 

「ま、あれだったら一花のお母さんの話をしてやったら?」

「へ?」

「あれ? あんたがなんで知ってるの?」

 

 一花はどういう事?と言いたげな表情で俺を見る一方で母さんは俺がこの事を知っている事の方に首を傾げていた。

 この反応。やっぱり知ってたな。

 

「下田っていう人と会って話を聞いた。一花のお母さん、教師やってて俺の母さんはその生徒だったらしい」

「そうなんですか!?」

 

 一花がこんなに驚いているのは珍しい。

 目を見開いて視線を俺から母さんへと向けて前のめりで聞いていた。

 

「まぁね」

「てか、一花と最初に会った時に気付いてただろ?」

 

 俺の言葉に母さんは笑う。つまり肯定。

 

「よく、気付きましたね」

「一応、先生のお葬式の時に姿ちらっと見掛けてはいたからね。でも、その頃と髪型は違ってて勘違いかなとも思ったんだけど、決定打はそのピアスかな」

 

 母さんは一花の耳を指さす。そこにお母さんの形見のピアスが今日もあった。

 

「私の先生だった頃にはもう付けてたからね」

「そうなんですね」

 

 一花はどこか愛しそうにピアスに触れて笑っていた。

 

「けど、世間は狭いよね。まさか先生の子供とうちの息子が同じ学校なんて」

「うちの学校に来たのは全部中野姉妹の頭が」

「本当! そうですよね!」

 

 俺の言葉に被せてきた一花。

 そしてテーブルの下で俺の足を蹴ってきた。

 これ以上話すなという事らしい。

 

「あ、そろそろ夕飯の準備しないと」

「すみません。急にお邪魔して」

 

 一花も時計を見て時刻は夕方、外も夕暮れの景色へと変わっていた。

 

「良いのよ。女の子と話せるの嬉しいから。あ、ついでに夕飯食べていって」

「でも」

「今日は炊き込みご飯にしようと思ってたから。あ、一花ちゃん苦手な食べ物とかある?」

「え、あー、しいたけがちょっと」

「了解。んじゃ、ちょっと作ってくるから一花ちゃんはごゆっくり。適当にテレビ見てて」

 

 そう言って母さんは空いたコップと共に台所へと行ってしまった。

 

「えっと、良いのかな?」

「むしろ、断れる空気だと思うか?」

「だよね。んじゃ、せめてお手伝い」

 

 一花は台所へと向かおうとするが俺はそれを止める。

 

「良いって。ごゆっくりって言ってたんだから。とりあえず、テレビ見ながら待ってろ」

 

 俺はリモコンでテレビの電源をつけると夕方のニュースの時間。丁度芸能ニュースを取り上げていた。

 とりあえず、テレビの前のソファーへと移動すると一花も少し離れた俺の隣に座る。

 

「でも、まさかうちのお母さんとセージ君のお母さんが教師と生徒だったなんて驚きだよ」

「俺も数時間前まで一花と同じ感想持ってた。ちなみにうちの父さんはその学校に教育実習生としていたらしい」

「なにそれ、ドラマかマンガの話?」

「だよな」

 

 こんな話あるんだって思うよな。

 

「……だから、ちょっと様子変だったの?」

 

 一花はコソッと俺に確認するように聞いてきた。

 目の前の流れてる芸能人の会話なんてまったく耳に入ってこない。

 まさか改めて聞かれると思わず俺は少し沈黙してしまうと一花の表情が歪む。

 

「ごめ」

「あ、いや、一花の言うとおりだ」

 

 俺は一花の謝罪を言わせないようにとすぐに言葉を紡ぐ。

 

「なんつーか、その、父さんの事を考えると俺、ちょっとダメになるんだ。最近は落ち着いてたんだけど」

 

 父さんが亡くなった直後なんてそりゃ酷かった。

 高校入って落ち着いたと思ってたんだけど、やっぱりまだダメみたいだ。

 

「悪いな。いつも気を使わせて。どうも俺がダメになるタイミングに一花は出くわしがちでさ」

「私は……何もしてないよ」

 

 膝に置かれている一花の手がギュッと拳を作ったのが見えた。

 

「何もしないって事をしてくれたろ? それに救われたんだよ」

「っ……本当?」

「あぁ」

 

 いつだって一花の気遣いで俺は助けられてきた。

 本人は何もしなかったて言うけど、それすらも彼女の気遣いだってわかってるから。

 

「ありがとうな」

 

 俺は視線をそのままテレビに向けたまま感謝の言葉を口にした。たぶんきちんと顔を見て言うべきなんだろうけど、今は一花の顔は見ない方が良さそうだ。

 

「……よか、った」

 

 この長女はお節介焼く割にはその言動が正しくなかったのではないかと思ってしまうところがあるらしい。

 少なくとも俺の場合は間違いなく一花に救われた。

 そうして俺はしばらく芸能ニュースをただ眺めていた。

 

 

「すみません。夕飯だけじゃなくお裾分けまで」

 

 夕飯を食べ終わり、一花が帰るとなると母さんはいくつかのタッパーやらお菓子やら入った紙袋を一花に持たせる。

 実際に持つのは俺だけど。

 

「いいの。一花ちゃん達、今は姉妹だけで暮らしてるんでしょ? それも家賃とかも一花ちゃんが頑張って出してるなんて。誠司もなんで早く言わないの?」

「いや、他人の事情をベラベラ喋るわけにもいかないだろ」

 

 中野姉妹の事情を聞いた結果がこの紙袋の中の物だ。

 

「しかし、マルオのやつも」

「?」

 

 そういや、母さんは中野先生とも顔見知りぽかったんだよな。

 六花が入院した時とかため口で話してたし。

 

「とにかく持っていって。誠司、しっかり送り届けなさい」

「わかってるっての」

 

 以前と違って迎えの車は来ないので俺が家まで送る事に。

 

「送らなくても」

「ダメ。一花ちゃんめちゃくちゃ美人だから絶対変なやつに付きまとわれる」

 

 確かに、今後女優業続けてたら夜道とかもっと気をつけなきゃいけないかもな。

 

「ほら、行くぞ」

「あ、お邪魔しました」

「またね。一花ちゃん。いつでも来てね」

 

 そうして俺達は太陽がすっかり沈み街頭の灯る道を歩く。

 

「なんかごめんね」

「いや、俺の方こそ散歩付き合わせるだけのつもりだったのに」

 

 軽い散歩から夕飯まで付き合わせてしまった。

 一花も忙しいかもしれないのに。

 

「ううん。私は楽しかったから。お母さんの話も聞けちゃったし」

 

 一花の表情はいつも以上に浮かれているというか嬉しそうなのはやっぱり母親の話が聞けたからなのだろうか。

 俺の場合は馴れ初めまで聞かされたから嬉しいというより気恥ずかしい気持ちの方がデカかったけど、亡くなった親の事を聞けるのはやっぱ嬉しいだろうな。

 そんな一花の様子に俺は胸をなでおろした。

 一花が二乃の告白の件、まだ引きずっているのはわかったから。

 俺も一花に負けず劣らず彼女の変化に気付きやすくなっているみたいだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。