「俺は祝福の言葉を考えていたんだ」
「それはいつかの時に聞かせてくれ。それより、教科書に載っているようなものはいらんからな」
放課後、風太郎に図書室へと呼び出された。
静かな所で報告したいのかと思っていたら、風太郎が受け取ったのはラブレターではなく三玖さんが単に今朝のあの問一の答えを風太郎に伝えたかっただけの為に呼び出したらしい。
そして、俺はバイトに向かうまでの時間、風太郎と共に戦国武将の本をピックアップしている最中。
どうやら三玖さんは歴女、それも戦国武将が好きだった模様。
だからあの問一にも答えることができた訳だ。
だが、どうして風太郎が戦国武将の本を集めているかというと。
「お前、基本は教科書とか参考書の問題しか勉強しないもんな。テストでは点数取れる勉強の仕方じゃそりゃ、狭く深く知識持っている人間には敵わない」
三玖さんが戦国武将の熱弁に相槌を打って上手く彼女を勉強させる方向に風太郎は誘導したのだが。
「三玖に鼻水なんて入っていないと言われて飲み物を渡されて反応に困ってたら、こんなもんだと言われ勉強を拒否された」
「話しの流れから察するに戦国武将と何か関係あるって事だな」
そのリベンジにと風太郎は図書室にある戦国武将の本をかき集めているという訳だ。
「全部読むのか」
「当然だ」
「お前、こうって決めると一直線だもんな。と、俺はここまでだ」
いくつかそれらしい本を机に置いて俺は帰り支度を始める。
「悪かったな」
「良い時間潰しになった。んじゃ、頑張れよ」
とりあえず、俺が手伝えることはこのくらいだろ。
俺は図書室をあとにしようとしたが、ある机で勉強している人物を見つけた。
「五月さん」
「あ、長尾君」
「勉強?」
彼女の机には問題集が広げられている。
「あ、はい。家だと集中出来ないのでここで少しやっていこうかと」
そういえば、彼女は風太郎から教わるのが嫌なだけで別に勉強そのものは嫌がっている素振りはなかったもんな。
俺は広げられている物に軽く目を通す。
「この辺はここの公式使う応用問題だな。難しいようなら……ちょっと待っててくれ」
俺は少しその場を離れ図書室にある参考書をいくつか引っ張り出して五月さんの元に戻る。
「ここからここは基礎問題固めたやつだから、こっちからやってそれからもう一度そっちを解いてみるといい」
「え、あ、はい。やってみます」
時間を確認する。バイトまでにはもう少し余裕があるから彼女が一問解くまで待っていよう。
五月さんはしばらく頭を悩ませつつも問題を自力でひとつ解く。
「うん、正解。そのままこっちの問題やっていくといい」
「わかりました」
「それじゃ、頑張れ」
「あ、長尾君。ありがとうございます」
「いえいえ」
今度こそ俺はバイトへと向かう。
「こちらは今日中にお召し上がりください。ありがとうございました」
商品をお客様に渡して見送る。
時間的にこれがラストの客だろう。
「長尾君、今日はもうクローズ作業始めちゃって良いよ」
それは店長も同じ考えのようでまだ少し閉店まで時間はあるが、片付けるようにと言われ閉店作業を始める。
俺のバイト先はカフェも併設しているケーキ屋。
平日、それも夕方だとそこまで客入りはない。
だが、休日はカフェの方は満席になったりショーケースに並んでいるケーキ達を求めるお客さん達で賑わうくらいには人気な店だ。
そうして作業を終えてバイトをあがる。
「お先、失礼します」
店長や他の人達に挨拶して店をあとにする。
「風太郎からだ」
内容は色々調べたが鼻水の関する戦国武将についていくら調べてもわからんという内容だった。
しかし、戦国武将か。そういや、中学の時に戦国武将を選んで敵をバタバタ倒す爽快感のあるゲームやってたな。
シリーズも続いてるはず。今、何作目なんだ?
「ちょっと覗いてみるか」
帰り道、ふとゲームソフトを扱っている店に俺は寄り道する。
「えっと、お、あった」
昔、やっていたゲームの最新作を手にする。俺がやっていた頃は真田幸村がパッケージ飾っていたけど、今は違う武将がパッケージを飾っていた。かなり美化された武将達だけど。
「やりたいが、ゲーム機本体持ってないからな」
最新作をプレイするにはゲーム機も最新でなくてはいけない。
残念ながら俺はそれを所持していない為に諦めるしかない。
「セージ」
「ん? あ」
自分の名前が聞こえたら無意識に反応してしまうもので顔を上げたらそこには三玖さんがいた。
まさかこんな所で会うとは思わなかった。
すると彼女の視線は俺が手にしているソフトに向けられた。
「戦国……」
「あー、戦国武将を操作して敵を倒すゲームだ。これだと織田信長とか明智光秀とか」
「!」
明らかに彼女の表情が変わる。
それは学食で好きな男子がいるかと聞かれた時に見せたものと同じもの。
「セージはやったことあるの?」
「あぁ、昔の作品だけどな。その操作する武将が関わった戦がステージになっていて史実通りもあれば本来負けるはずだった戦に勝ったifのストーリーなんかも用意されてる」
「……織田信長なら本能寺の変とか稲葉山城の戦いとかある?」
「それはやってみないとわからん」
本能寺は有名どころだから抑えてはいるだろうけどな。
「なら、教えて」
「は?」
突然の申し出に俺は思わず手にしているソフトを落としそうになった。
「いや、無理だ。俺、このソフトに対応したゲーム機本体を俺は持っていないからプレイして君に教える事は」
「買えばいい」
「あのな、学生がそんな突発的に買うには値段があれなんだよ」
金持ちの金銭感覚の違いを痛感する。
すると三玖さんは俺が手にしていたソフトを取り、レジへと向かうとそのソフトをカードで購入していた。
「このゲーム機ならうちにある。やり方教えて」
「……今から?」
「早く」
しばらくは中野家には寄りつかないというか寄りつけないと思っていたんだけどな。
「操作方法教えたら帰るからな」
「それでいい」
こうして俺は数日ぶりに中野家に踏み入れる。
「ただいま」
「お邪魔します」
「三玖、おかえりなさい。あれ? 長尾さん」
「こんばんは」
「長尾君、放課後はありがとうございました。しかし、まさかまた上杉君と……いない」
リビングには四葉さんと五月さんの二人だけ。
俺を見て五月さんは風太郎もいるのではと警戒していたがいないとわかるとその警戒を解いた。
俺の方はあのぱっつん前髪と出くわすのではと身構えていたけれど、どうやら彼女はここにはいないみたいだ。
あとは中野さんだけど、まーた自室で寝てるのか?
「セージ」
「わかったよ」
早く来いと促すように俺を呼ぶ三玖さんのあとを追って三玖さんの部屋へと向かう。
そんな俺にどういう事だ?と言わんばかりの視線を二人が向ける。
「少し教えて欲しい事があるって言われて来ただけだ。それが済んだらすぐ帰る」
とりあえず内容は触れずに説明を二人にして俺は三玖さんの部屋へ足を踏み入れる。
こうして改めて見ると和の雰囲気ある部屋。これも戦国武将の影響なんだろうな。
「はい」
三玖さんからコントローラーを渡される。
最新ゲーム機だから俺も操作わからんのだけど、とりあえずチュートリアルあるだろうからそれやればある程度掴めるだろ。
そうして俺はゲームをスタートさせた。
「そういや、織田信長ってゲームとかになるとこういう描写の多いよな。髭に威圧感ある目、まさに強そうな見た目。あれか? 魔王ってのが影響されてるのか?」
髭に濃い顔の描写が多い、けど教科書に載っているのは素朴な感じで対称的だと昔から思っていた。
「第六天魔王。武田信玄が信長をそう呼んだって話がある」
「へー」
そうやって時より三玖さんから戦国武将の逸話などを聞かされながら俺はチュートリアルをクリアした。
「よし、操作方法はわかった。ほら、教えるから交代だ」
三玖さんにコントローラーを渡す。一応難易度は一番低いイージーだから初心者でもどうにかなるだろ。
「基本的に周囲の敵を倒せば良い。途中で名のある武将とか出てきたらそいつら優先に倒せ、あと相手の拠点を占領すればこっちの拠点になる。この面だと最終的にその戦の大将となるやつ倒せばクリアだ」
「わかった」
そうして三玖さんの隣で俺はクリアを見守る。
難易度も優しいこともあって大きな苦戦もなくそのステージのボスとなる大将が現れた。
「そこだ! 一気にいけ!」
「うん」
そして最後に大技で相手を討ち取り、ステージクリア。
「やったな! 三玖! あ、悪い。呼び捨て」
俺はつい勢いで彼女を呼び捨てしていた。
普段は意識的にさん付けで呼んでいるからちょっと油断するとこれだ。
「別に呼び捨てでも気にしない。フータローとか勝手に呼び捨て」
「あいつはな。ま、それなら俺も呼び捨てでいいか? 正直そっちの方が俺も楽だ」
「なら、私も四葉って呼び捨てでいいですよ!」
「あ、私も五月で」
「うわ、お前ら」
どうやら聞き耳でも立てていたらしい二人が三玖の部屋になだれ込んできた。
「てっきり勉強しているかと思ったらゲームですか? 長尾さん」
「あー、それは」
チラリと三玖を見ると顔を伏せていた。
風太郎にわざわざ屋上で答えを言ったところを見ると姉妹にも秘密なのかもな。
「わかってないな。四葉」
「はい?」
「これも勉強の一環だ。ゲームの方が少しは取り組みやすいと考えて丁度居合わせた三玖で試していた所だ」
「!」
このゲームだと色々と間違った知識受け付けられそうだが、それは黙っておこう。
今はそういう事にしておいた方が良いだろうし。
それから四葉や五月も交えて少しゲームをして良い頃合いで俺は帰る事にした。
だが、そのタイミングで顔を合わせづらい人物と鉢合わせた。
「なんでアンタが」
「今、出て行くところだ」
また色々言われる前に退散しようと足早に玄関へと俺は向かう。
「謝ったわよ」
「あ?」
玄関に向かう俺に向けたであろう言葉に俺は振り返る。
「だから、あいつにこの間の事、謝ったから」
それだけ言うと彼女は自室へと戻っていった。わざわざ俺に報告しなくても良いのになと思いつつ、なんだかんだで悪い事をしっかり反省できる人間である事を知れただけで良しとしよう。
「セージ」
「ん?」
中野家をあとにしエレベーターを待ってると三玖が駆け寄ってきた。
「ありがとう」
「いいよ。俺も楽しかったし」
「……私も、楽しかった」
表情が読めない三玖だけど、楽しんでくれたって事はわかる。
そうしているとエレベーターが到着した。
「あ、風太郎の事だけどさ。覚悟しておいた方が良いぞ」
「え?」
「あいつはすごいやつだから」
そう言って俺はエレベーターに乗り込み一階のボタンを押した。
多分、数日後には三玖もわかるだろう。
上杉風太郎という男がどんなやつか。
「あれ? セージ君」
「お」
エレベーターを降りるとそこには中野さんがいた。
自室で寝てるのかと思ったけど、どうやら外出していたようだ。
「こんな時間に出歩いて大丈夫なのか?」
時刻はもう十時を過ぎている。もう少ししたら補導される時間だ。
「バイトだったからね」
「バイトしてるのか?」
予想外の答えに俺は驚いた。
これまで散々中野家の金持ちぶりを見てきた訳だからまさかバイトなんてしているとは思う訳が無い。
「そこまで箱入り娘じゃないよ。それよりなに? またフータロー君と勉強教えに?」
「いや、今日は俺ひとり。三玖に教えにきたって感じ」
「……三玖?」
少々驚いた様子。そりゃそうか。四葉や五月ならともかく三玖はこれまで俺と接点らしい接点はなかった訳だし。
「て、俺も急いで帰らないと。それじゃ、中野さん。また明日」
このままでは俺が補導されてしまう。
俺は急いで自宅へと帰るのだった。